20 / 31
20 共同研究
しおりを挟む「ララ? ララってば」
そうリーチェが声をかけると、ララは弾かれたように顔を上げた。
「あっ、ご、ごめんね!」
食堂で、二人で食事を取っている最中のことだ。
「大丈夫? 近頃、ぼんやりしているけど……」
リーチェがそう気遣うと、ララは誤魔化すように笑った。
「えっ? そ、そうかな? ちょっと、生徒会の業務が立て込んでるからかな」
ララは一年生の時から生徒会の会計職についている。騎士団や魔法士団がない代わりに普通科には生徒会があるのだ。
「そうなんだ。大変だね」
「ま、まぁね。それより、リーチェは最近どう? 何か変わったことない?」
リーチェはプリンをスプーンですくいながら言う。
「う~ん、特には……あ、校外活動をしようと思っていて今、申請中なの。許可が降りたら、しばらく学園に通えなくなりそう」
「え? それって、どういうこと?」
勢いよく身を乗り出してきたララに驚きつつ、リーチェは答える。
「ほら、研究発表のネタ探しというか……ハーベル様と合同研究することになったの」
リーチェはそう言葉を濁した。
「……二人で出かけるの?」
探るように問いかけてくるララに、内心首を傾げつつリーチェはうなずく。
「まぁ、そうなるかな。あ、誤解しないでね! ハーベル様に護衛がつくはずだから、二人きりで行くわけじゃないのよっ!? そもそも許可がおりるかも分からないし」
「……それって、私も参加しちゃダメ?」
「え? 私達の研究に参加したいってこと?」
「う、うん。ごめんね。私が行ったら、お邪魔虫みたいになっちゃうけど……」
ララの突然のお願いに、リーチェは困惑した。
いつものララだったら、リーチェがハーベルと二人でどこかへ出かけるなら率先して『二人で行ってきなよ』と応援していただろうに。
(ララはそんなに切羽詰まっているのかな? 珍しく研究テーマが決まってないとか?)
リーチェは思案しつつ言う。
「……生徒会の方は良いの? 忙しいって言っていたけれど」
「だ、大丈夫! そろそろ終わりも見えていたから」
「う~ん……魔物が出る場所だし野宿もするかもしれないから、普通科の生徒にはきついかもよ? それでも良いなら私は構わないけど……」
「だっ、大丈夫!」
明らかに間があったが、ララは拳を作ってそう言った。
「それなら良いけど……じゃあ、ハーベル様にも聞いてみるね」
リーチェはララの行動に違和感を覚えつつも、そう言った。
◇◆◇
結局、騎士団からはダンが参加し、総勢四名でのチーム研究となった。
騎士団のツートップが不在になって良いのかリーチェは心配したが、ダンいわく『そんなに軟弱な団員じゃないから大丈夫』とのこと。
「俺も仲間に混ぜてくれ」
そう大型犬のような笑顔で言われたら、リーチェも苦笑しつつ了承せざるを得なかった。騎士団副長の彼が参加してくれるのは心強い。
「で、どこへ行くつもりなんだ?」
向かいに座るダンにそう問われ、私は馬車の中で地図を広げて見せた。リーチェの隣にはハーベルが、ダンの隣にはララが座っている。
「こちらです」
目指すは、ロジェスチーヌ伯爵領の南部にあるロタの町だ。そこから西へ行くと目的地の採石場がある。
「本当は南にあるザムザの村の方がより採掘場に近くて良かったんですが、そちらは魔物に荒らされて廃村になってしまったので……」
魔鉱石が採れるようになってから魔物が現れるようになり、人が住めなくなってしまったのだ。
覗き込むハーベルの顔が存外に近くにあることに気付き、リーチェは慌てて身を引く。
(ハーベル様は地図に視線を落としているだけなのに……自分だけ意識しているみたいで恥ずかしいわ……)
リーチェが一人赤くなった頬を押さえていると、ダンが全て見ていたらしく、ニヤニヤしていた。
「いやぁ、俺達本当にお邪魔虫ですまないぁ~」
そうダンは隣のララに目配せする。
ハーベルだけが不思議そうにしていたので、リーチェは慌てて両手を振った。
「何でもありません!」
「どうだ、ヒューストン令嬢。こうなったら俺達も付き合ってみるというのは?」
そう軽口を叩くダンに、ララは「……ご冗談を」と、絶対零度の半眼であしらっていた。
(わぁ、あんなララの冷たい眼差し初めて……!)
場の空気を変えるために、リーチェは慌ててハーベルに話を振ることにした。
「そっ、それにしてもハーベル様。研究発表のためとはいえ、お忍び旅行によく許可が下りましたね」
ハーベルは肩をすくめる。
「本当は護衛をつけず行きたかったんだがな……」
さすがに王子に警護なしという訳にはいかなかったらしく、馭者兼お守り役でゴウ・ダーが護衛でついてきていた。
それでもゴウだけで済んだのは、ハーベルが騎士団長としての実力があり、かつ副長のダンも追従するからだろう。
「まぁ、それは仕方ないが……、せめて新婚旅行は二人で……」
ハーベルの声がだんだん小さくなって聞こえなくなってしまい、リーチェが「え?」と聞き返したが、少し顔を赤らめたハーベルに誤魔化されてしまった。
ロタの街に宿を取り、その日は休むことになった。明日から本格的な調査だ。
「えっ、残っている部屋が二つしかない?」
街一番の宿屋で、ダンがそう店主に向かって声をあげた。
宿の主人は肩をすくめる。
「ああ、普段は空いているんだが、今は商人達でほぼ満室なんだ。さっきキャンセルが出て、ようやく部屋が二部屋空いたところなんだよ」
何軒か町の宿屋を見て回ったが、どこもいっぱいの状況だった。
部屋が運良く空いていたのもあるが、この宿屋が一番綺麗で豪奢な造りをしているので、できればここに泊まりたい。しかし泊まれる部屋は二部屋だ。
「仕方ない。男女で部屋を分けよう」
そう提案するハーベルに、ダンは真顔で首を振る。
「いや、お前とリーチェは婚約者だろう。お前達で一部屋、俺とヒューストン令嬢で一部屋。そしてゴウは馬小屋だ」
「アホか」「でっ、できません!」「なんでアンタなんかと!?」「馬小屋は勘弁してください~」
ダンは皆から責められた。結局ハーベル、ダン、ゴウの男性陣の部屋と、リーチェとララの女性陣の部屋で分かれることになったのだ。
11
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~
放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」
最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!?
ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる