悪役王子とラスボス少女(ただしバッドエンドではモブ死します)

高八木レイナ

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29 サポート役として

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 リーチェとエノーラが建物から離れた直後、神殿が倒壊し始めた。
 卵の殻が割れるように聖殿を砕きながら、邪竜の黒い巨体が現れる。そして数歩進んだ後、砂埃を巻き上げて夜空へと舞い上がった。
 突風がリーチェ達に襲いかかる。

(ど、どうして……!? 邪竜はどこへ行くの!? ここに契約者のエノーラがいるのに!)

 邪竜はエノーラの存在に気付かない様子だ。そのまま夜の海の上をすべるように飛んで、王都のある方角へ向かって行こうとしていた。

「まっ、待ちなさいっ!!」

 リーチェは叫んだが、邪竜は彼女達に見向きもしない。
 地面に尻餅をついて放心しているエノーラの肩をリーチェはつかんだ。

「エノーラ! 邪竜に言うことを聞かせて! そのペンダントで邪竜と話せるから!」

「えっ、そんな……、でっ、できないわよ……! やったこともないのに!!」

「……ッ」

 リーチェはグッと唇を噛む。
 邪竜がもしエノーラを契約者だと認めなければ、このまま暴走し町を破壊しつくしてしまうだろう。
 リーチェはまずは自身の気持ちを落ち着かせるために深呼吸してから、エノーラを励ますために笑みを浮かべた。

「あのね……エノーラ、よく聞いて。できれば代わってあげたいけど、それは私にはできないの。最初にペンダントに血を流した人にしか、邪竜は契約できない」

 エノーラは目を剥いた。
 リーチェは決然とした表情で続ける。

「恐ろしいでしょう? 気持ちは分かるわ。邪竜なんかとは契約したくないよね? でも、この事態を収拾できるのはエノーラしかいないの。このまま放っておけば、邪竜は好き勝手に暴れて街を破壊してしまう。多くの人が犠牲になってしまうの。もし、あなたが邪竜を説き伏せることができたら……助かる命があるの」
 
 エノーラはあまりの重荷に、ガタガタと身を震わせていた。

「わ、わたしは……っ」

「邪竜に戻るよう命じてみて」

 エノーラはリーチェに言われるがまま、ペンダントを握りしめる。
きつく目を閉じて、祈るように邪竜と対話しようとした。しかし、いくら待っても何も起こらない。その間にも、邪竜はどんどん神殿から遠のいて行く。

「……何も返事がない! 応えてくれない! 私には、できないわよッ! だって天才じゃないもの! あなたと違って!!」

 エノーラはそう叫び、泣きわめきながら拳を地面に叩きつける。いつもは綺麗に手入れされていた爪も、今は土と血で汚れてしまっている。
 リーチェはエノーラの手に、そっと触れた。

「エノーラ、あなたならできるわ」

「リーチェ……?」

「──私もララも、全てを犠牲にしてまで彼を愛することはできなかった。でも、あなたは違う。家族や生まれ故郷を捨てても、彼が罪人だと知ってもなお、彼と共に生きて行こうと決意したあなたなら……誰より想いの強いあなたなら、必ず、できるわ。私はそう信じているの。きっと、エノーラ以外に誰もこの役目は、なしえない」

 リーチェの言葉に、エノーラの瞳が大きく見開かれる。その端から涙がこぼれ落ちた。
 その時、遠くの空で爆破音と小さく光が瞬くのが見えた。
 リーチェが立ち上がりそちらを凝視すると、夜空の果てで邪竜と戦うワイバーン達の群れを目視することができた。

「まさか……ハーベル様達が!?」

 よく見れば、ワイバーンの背中には黒く小さな人影が乗っている。
 ということは、ロジェスチーヌ伯爵がハーベルに連絡したのだろう。そうでなければ、これほど早く助けに来られるはずがない。
 しかし、やってきたのは騎士団だけではないことにリーチェは気付いた。槍や弓以外で戦っている者がいる。それは、爆破魔法や火炎魔法のたぐいに見えた。

「もしかして、魔法士団の皆が……?」

 魔法弾を打てるのは魔法士しかいない。
 かつての仲間達が、リーチェやエノーラが窮地に助けに来てくれたのだ。

「みんな……」

 エノーラは夜空を見上げて呆然とつぶやいた。そして、覚悟を決めた表情で涙をぬぐい、リーチェに向かって言う。

「……やってみるわ」

「……ッ! ええ!」

 リーチェは破顔して、うなずいた。
 エノーラが腹をくくった以上、リーチェがここでできることはない。エノーラが邪竜を制御できれば一番良いが、万が一の時はハーベル達が邪竜を討たねばならないだろう。そのために、リーチェはハーベル達に加勢したかった。

(でも、ここからじゃ距離がありすぎる……!)

 遠距離から魔法攻撃を仕掛けることは不可能ではないが、敵の周囲のいたるところに味方が散らばっているので、もっと近づかないと援護ができそうにない。
 どうしたものかと悩んでいた時、ワイバーンの群れの一頭がリーチェ達の方に近付いてきた。
 地面に降り立ったワイバーンの背に乗っていたのは、会いたかった人だ。

「ハーベル様ッ!」

 リーチェはそう叫んだ。ハーベルは彼女を抱き寄せる。

「……遅くなってすまない」

 安堵のあまり、リーチェは膝から崩れ落ちそうになった。気丈に振る舞っていたが、やはり、かなり無理をしていたのだろう。
 リーチェは目の端ににじんだ涙を指でぬぐう。

「いいえ。迎えにきてくださって、ありがとうございます」

 リーチェがそう言うと、ハーベルは優しく笑う。とても自然な笑顔で。

「きみの力を借りたい。一緒に来てくれるか?」

 その親愛のこもった問いかけに、リーチェは笑みを深めて仰々しく一礼した。

「もちろん。騎士団のサポート役として、存分に力を振るわせて頂きます!」

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