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「単刀直入に言う。俺はお前との婚約を破棄する。
理由はわかるだろう?
俺は可愛い女がなにもしなくても寄ってくるのに対し、お前は誰も相手しないブス。
つまりだな。俺のような男にお前はふさわしくない。
わかったら、早く出て行け!」
「え、えぇ……」
なにを言っているのでしょう、この男は。
私との婚約を破棄する……ですって?
私としてはとてもありがたいですが、あなたはそうやすやすと婚約破棄だなんて言葉を使っていいのかしら?
私、あなたの両親からの頼みがあったから、あなたみたいな不細工と婚約をしただけなのに。
それが、なんで私が婚約を破棄される側なんでしょう……。
それはそれとして、この人の周りに可愛い女性なんて集まっていたかしら?
私から見れば、なんとか整っていない顔面を厚化粧で誤魔化している人しかいなかったような……。
後、私ってブスだったかしら。
たしかにこの人と婚約をしてから、美の意識というものが欠けていたように思うけど……。
まぁ、相手から婚約を破棄してきたのだから、わざわざ追い縋る必要もない。
私は気ままなフリーになることにしましょう。
今日は貴族が集まる月に一度のパーティー。
たしか、このパーティーは貴族同士の親交を深めるために催されるものだったはず……。
今では婚活パーティーに近いものだけれど。
「……げっ」
なんであの男がいるのかしら。
こんなパーティーに出席しなくても、あなたの周りには女性が集まってくるんでしょう?
私は父さまと母さまに行くように言われてやってきたというのに……不愉快だわ。
ただでさえ、こういった場所は苦手なのに。
「……あ、そうだわ。少し意趣返しでもして、気分を晴らそうかしら」
というのも、私はあの人からもらった婚約指輪をまだ律儀に持っていたのだ。
別に未練があるわけじゃなくて、単純に売り場所が見つからないだけ。
でも、この婚約指輪を売るために時間を浪費するのもバカらしくなってきたから、これを使ってやり返してやろうというわけです。
「お久しぶりです、ゲルミア様」
「ああ? なんだ、フィリアか。俺になんのようだ?
今さら、婚約破棄をなかったことにはしないぞ」
「いえ、そのことではなく……この婚約指輪をお返ししようかと思いまして」
「ハッ。お前がつけていた物などいらん。売るなり捨てるなりしてくれ」
「……そうですか。なら――」
――えいっ!
私は全力をもって、婚約指輪を地面に叩きつけた。
すると、あろうことか指輪についていた宝石は簡単に砕け散ってしまう。
「……ゲルミア様、これは?」
「い、いや……なにかの間違いだ」
「か弱い女性が叩きつけただけで砕ける指輪をお渡ししていただなんて……」
私はまったく悲しくないけど、泣き真似をしてみる。
すると、周りにワラワラと人が集まってきて――ゲルミアを非難し始める。
私はさらに追い打ちをかけるように、膝から崩れ落ちて、嗚咽を漏らした。
……あら、私ったら演技上手!
これはもう泣いてるようにしか見えない。
それは、私のすぐそばまで来てくれた一人の男が証明している。
「大丈夫ですか、フィリア様?」
「え、えぇ……。大丈夫、です……」
「ゲルミア卿、あなた最低ですね。守るべき女性を泣かせるなんて、それでも男ですか!」
うわぁ……この人めちゃくちゃ純粋。
なんかこの人に悪いことをしてしまった気分。
でも、それは私が思っているだけで、周りの男たちもゲルミアを非難し始めた。
そう、私そっちのけで……。あれ? 私、ここの中心人物のはずなんだけど……。
「……まぁ、いっか。想定してたものとは違うけど……」
私は泣き真似をやめて、この場から離れる。
すると、
「どこに行かれるのですか、フィリア様」
一番初めに私を気遣ってくれた男が話しかけてきた。
「……あなたは?」
「僕はマルスです。それで、どこへ行くのですか?」
「別に。あなたには関係ないでしょう?」
「えー。せっかくフィリア様の演技に便乗したのに……」
「あら、それがわかっててゲルミアを非難するだなんて、あなた悪い人ね」
「フィリア様の足元には及びませんよ」
「ふふっ。あなたとは上手くいきそうね」
「僕もです」
こうして、私の婚活はあっけなく終わった。
まさか、このような場所で運命の相手に出会えるだなんて思ってもみませんでした。
……あ、そうそう。
これは後で聞いたのですが、この婚約パーティーに参加していた男はみな、私狙いのようでした。
マルスもそのうちの一人、みたいなんだけど……どうして私狙いなのか教えてくれません。
でも、顔を真っ赤にしていたので、私に一目惚れでもしていたのでしょう。
……それでゲルミアですが、あの後散々責められた挙句、周りにいた女性には捨てられたみたい。
これで、少しはマシな男になってくれればと思う反面、こうも思うのだった。
――ざまぁ。
と。
理由はわかるだろう?
俺は可愛い女がなにもしなくても寄ってくるのに対し、お前は誰も相手しないブス。
つまりだな。俺のような男にお前はふさわしくない。
わかったら、早く出て行け!」
「え、えぇ……」
なにを言っているのでしょう、この男は。
私との婚約を破棄する……ですって?
私としてはとてもありがたいですが、あなたはそうやすやすと婚約破棄だなんて言葉を使っていいのかしら?
私、あなたの両親からの頼みがあったから、あなたみたいな不細工と婚約をしただけなのに。
それが、なんで私が婚約を破棄される側なんでしょう……。
それはそれとして、この人の周りに可愛い女性なんて集まっていたかしら?
私から見れば、なんとか整っていない顔面を厚化粧で誤魔化している人しかいなかったような……。
後、私ってブスだったかしら。
たしかにこの人と婚約をしてから、美の意識というものが欠けていたように思うけど……。
まぁ、相手から婚約を破棄してきたのだから、わざわざ追い縋る必要もない。
私は気ままなフリーになることにしましょう。
今日は貴族が集まる月に一度のパーティー。
たしか、このパーティーは貴族同士の親交を深めるために催されるものだったはず……。
今では婚活パーティーに近いものだけれど。
「……げっ」
なんであの男がいるのかしら。
こんなパーティーに出席しなくても、あなたの周りには女性が集まってくるんでしょう?
私は父さまと母さまに行くように言われてやってきたというのに……不愉快だわ。
ただでさえ、こういった場所は苦手なのに。
「……あ、そうだわ。少し意趣返しでもして、気分を晴らそうかしら」
というのも、私はあの人からもらった婚約指輪をまだ律儀に持っていたのだ。
別に未練があるわけじゃなくて、単純に売り場所が見つからないだけ。
でも、この婚約指輪を売るために時間を浪費するのもバカらしくなってきたから、これを使ってやり返してやろうというわけです。
「お久しぶりです、ゲルミア様」
「ああ? なんだ、フィリアか。俺になんのようだ?
今さら、婚約破棄をなかったことにはしないぞ」
「いえ、そのことではなく……この婚約指輪をお返ししようかと思いまして」
「ハッ。お前がつけていた物などいらん。売るなり捨てるなりしてくれ」
「……そうですか。なら――」
――えいっ!
私は全力をもって、婚約指輪を地面に叩きつけた。
すると、あろうことか指輪についていた宝石は簡単に砕け散ってしまう。
「……ゲルミア様、これは?」
「い、いや……なにかの間違いだ」
「か弱い女性が叩きつけただけで砕ける指輪をお渡ししていただなんて……」
私はまったく悲しくないけど、泣き真似をしてみる。
すると、周りにワラワラと人が集まってきて――ゲルミアを非難し始める。
私はさらに追い打ちをかけるように、膝から崩れ落ちて、嗚咽を漏らした。
……あら、私ったら演技上手!
これはもう泣いてるようにしか見えない。
それは、私のすぐそばまで来てくれた一人の男が証明している。
「大丈夫ですか、フィリア様?」
「え、えぇ……。大丈夫、です……」
「ゲルミア卿、あなた最低ですね。守るべき女性を泣かせるなんて、それでも男ですか!」
うわぁ……この人めちゃくちゃ純粋。
なんかこの人に悪いことをしてしまった気分。
でも、それは私が思っているだけで、周りの男たちもゲルミアを非難し始めた。
そう、私そっちのけで……。あれ? 私、ここの中心人物のはずなんだけど……。
「……まぁ、いっか。想定してたものとは違うけど……」
私は泣き真似をやめて、この場から離れる。
すると、
「どこに行かれるのですか、フィリア様」
一番初めに私を気遣ってくれた男が話しかけてきた。
「……あなたは?」
「僕はマルスです。それで、どこへ行くのですか?」
「別に。あなたには関係ないでしょう?」
「えー。せっかくフィリア様の演技に便乗したのに……」
「あら、それがわかっててゲルミアを非難するだなんて、あなた悪い人ね」
「フィリア様の足元には及びませんよ」
「ふふっ。あなたとは上手くいきそうね」
「僕もです」
こうして、私の婚活はあっけなく終わった。
まさか、このような場所で運命の相手に出会えるだなんて思ってもみませんでした。
……あ、そうそう。
これは後で聞いたのですが、この婚約パーティーに参加していた男はみな、私狙いのようでした。
マルスもそのうちの一人、みたいなんだけど……どうして私狙いなのか教えてくれません。
でも、顔を真っ赤にしていたので、私に一目惚れでもしていたのでしょう。
……それでゲルミアですが、あの後散々責められた挙句、周りにいた女性には捨てられたみたい。
これで、少しはマシな男になってくれればと思う反面、こうも思うのだった。
――ざまぁ。
と。
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