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41歳の娘(7)
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部屋に戻ってベッドに倒れこみ、翌日は会社を休み車に乗り込んだ。
そういう事だったのか。十二年前に私と同期がプロデューサーにいきなり抜擢されたのは。
そういう事情があったからなのか。
才能があったからではない。
ただその時、たまたま二十代の女だったからだ。
何だったのだろう。私の十二年間は。いや、新卒から数えると十八年か。
滅多になれない職業だと思っていた。
いっぱしのクリエーター気取りだったが、私の仕事は「娘」だったのだ。
私が学生時代から愛して入社したあの制作会社。
自分も愛されていると思ったら、裏で売られていたという訳か。
「知らなければ良かった」
由紀子の言葉に女将は厳しい視線を向ける。
「あの時、井川さんに会わなければ。井川さんにそんな話を聞かされなければ、
私は違う部署で地味だけど穏やかな会社員人生がおくれたのに…」
遼介とタクさんが由紀子の横顔を見つめる。なんと声をかけていいのか分からないのだ。
「知って良かったんじゃないですか?」
「え?」
由紀子は顔を上げる。女将は続けて言った。
「知らなかったら、そのまま元娘として存在していくんですよね。その会社で」
元娘。そうか。あの会社で女性の社員は娘か元娘しか存在しないという訳か。
「まあ、ひとまずお腹を満たして下さい。長い運転で疲れたでしょうから」
由紀子の前に丼が置かれた。
かき揚げ丼だった。かき揚げが随分と分厚い。四センチはある。
「うわ。揚げ物なんて久しぶり。丼ものも」
「でしょうねえ、お互いに」
女将は含み笑いをする。
由紀子はなるべく太るものを食べないようにしていた。
その筆頭が揚げ物だ。炭水化物もなるべく取らない。だから丼ご飯なんていつ以来だろう。
かき揚げは箸でちぎれないので、由紀子は思い切って齧りついた。
「お、豪快にいったねえ」
脇目で見ていたタクさんが呟き、祐介に静かに突かれて下を向く。
「あ」
天つゆと思っていたタレに爽やかな酸味がある。
「これ、ポン酢ですか?」
「そう。カボスで作ったの。この辺りの土地では、結構カボスが採れるから」
だから揚げ物もサッパリ頂けるわけか。かき揚げの具材は小エビではなく、
大きめの車海老を荒く切ったもの、くし切りにした甘い玉ねぎ、
そして三つ葉だと思った青葉はパクチーだった。
「珍しい。私、パクチー大好きなんですよね」
「女の人は好きですよね、パクチー」
そうだ。
男は嫌いな人が多かった。
だから打ち上げや会食の店を選ぶ時は、パクチー料理を出さないような店をと由紀子はいつも配慮していた。
パクチーと車海老のかき揚げは、東南アジアのネオン街のように色どりが鮮やかだった。
海老のプリッとした食感にパクチーの風味が刺激を与えて、玉ねぎの甘さが包み込む。
次から次に舌の上を意外な美味しさが踊り、由紀子は白いご飯を夢中でかきこんだ。
気がついたら丼の中は空っぽだった。
ペールエールも飲み切っていた。由紀子は満足気に大きく息を吐いた。
長い間、自分に禁じていた事を一気にしたような開放感に満ち溢れていた。
そういう事だったのか。十二年前に私と同期がプロデューサーにいきなり抜擢されたのは。
そういう事情があったからなのか。
才能があったからではない。
ただその時、たまたま二十代の女だったからだ。
何だったのだろう。私の十二年間は。いや、新卒から数えると十八年か。
滅多になれない職業だと思っていた。
いっぱしのクリエーター気取りだったが、私の仕事は「娘」だったのだ。
私が学生時代から愛して入社したあの制作会社。
自分も愛されていると思ったら、裏で売られていたという訳か。
「知らなければ良かった」
由紀子の言葉に女将は厳しい視線を向ける。
「あの時、井川さんに会わなければ。井川さんにそんな話を聞かされなければ、
私は違う部署で地味だけど穏やかな会社員人生がおくれたのに…」
遼介とタクさんが由紀子の横顔を見つめる。なんと声をかけていいのか分からないのだ。
「知って良かったんじゃないですか?」
「え?」
由紀子は顔を上げる。女将は続けて言った。
「知らなかったら、そのまま元娘として存在していくんですよね。その会社で」
元娘。そうか。あの会社で女性の社員は娘か元娘しか存在しないという訳か。
「まあ、ひとまずお腹を満たして下さい。長い運転で疲れたでしょうから」
由紀子の前に丼が置かれた。
かき揚げ丼だった。かき揚げが随分と分厚い。四センチはある。
「うわ。揚げ物なんて久しぶり。丼ものも」
「でしょうねえ、お互いに」
女将は含み笑いをする。
由紀子はなるべく太るものを食べないようにしていた。
その筆頭が揚げ物だ。炭水化物もなるべく取らない。だから丼ご飯なんていつ以来だろう。
かき揚げは箸でちぎれないので、由紀子は思い切って齧りついた。
「お、豪快にいったねえ」
脇目で見ていたタクさんが呟き、祐介に静かに突かれて下を向く。
「あ」
天つゆと思っていたタレに爽やかな酸味がある。
「これ、ポン酢ですか?」
「そう。カボスで作ったの。この辺りの土地では、結構カボスが採れるから」
だから揚げ物もサッパリ頂けるわけか。かき揚げの具材は小エビではなく、
大きめの車海老を荒く切ったもの、くし切りにした甘い玉ねぎ、
そして三つ葉だと思った青葉はパクチーだった。
「珍しい。私、パクチー大好きなんですよね」
「女の人は好きですよね、パクチー」
そうだ。
男は嫌いな人が多かった。
だから打ち上げや会食の店を選ぶ時は、パクチー料理を出さないような店をと由紀子はいつも配慮していた。
パクチーと車海老のかき揚げは、東南アジアのネオン街のように色どりが鮮やかだった。
海老のプリッとした食感にパクチーの風味が刺激を与えて、玉ねぎの甘さが包み込む。
次から次に舌の上を意外な美味しさが踊り、由紀子は白いご飯を夢中でかきこんだ。
気がついたら丼の中は空っぽだった。
ペールエールも飲み切っていた。由紀子は満足気に大きく息を吐いた。
長い間、自分に禁じていた事を一気にしたような開放感に満ち溢れていた。
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