香菜さんの男子禁制酒場

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この世で一番嫌いな女、それは「美味しんぼ」の栗田(6)

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「そもそも、比べるのが間違ってるんじゃないですか?」
 香菜さんが繁美さんの前に鮮やかな藍色のパスタ皿を置いた。
 クリーム色のショートパスタが盛り付けられている。
 ところどころくすんだグリーンと黄色の具材がちりばまれていて、藍色の皿とお互いに
 色が引き立てあっている。
「はい、どうぞ。赤ワインに合いますから、ゆっくり食べて心を落ち着けて下さいね」
「何それ?さっきからすごい匂いなんだけど」
 タクさんが店内に漂う濃厚な匂いを全て吸い取るような勢いで嗅ぐ。
「ゴルゴンゾーラソースなの」
「あら、ワインが進みそうねえ。いただきます」
 さっきまで泣き叫んでいたカラスがなんとやらで、繁美さんは早速パスタをフォークで
 刺して口の中へ。
「あら?これって、パスタじゃないわ!モッチモチで。ニョッキ?」
「ふふ、何でしょう?」
「あ!お餅?」
「正解です。短冊サイズに切って入れてみました」
「へー、面白い使い方ねえ。合う合う!ゴルゴンゾーラソースと」
「でしょ?一回、トッポッキで作った事があって。日本のお餅でもいけるかなって」
「正月にお餅余ったら真似してみるわ」
「是非」
 ソースの中に埋まった、1センチ四方の黄色い具材を繁美さんはフォークで刺して見つめる。
「これって…」
 恐る恐る口の中へ運ぶ。
「あ、栗の甘露煮!意外と合うわね!ゴルゴンゾーラと」
 繁美さんはワインをクイッと飲んだ。
「本当にワインにぴったり。グビグビ進んじゃう。それにゴルゴンゾーラのパスタって
 途中で飽きるけど、栗の甘さがアクセントになって最後まで飽きないで食べちゃう。」
「題して、御節の残りでイタリアンです」
「なんか最近は、甘栗とかモンブラン見るだけで栗田を思い出してイライラしてたけど、
 栗田もやるわねえ」
「すごい。栗を擬人化するほど栗田が嫌いだったんですね」
 祐介が失笑する。  
「ゴルゴンゾーラって、家では中々手が出せない食材だけどさ。子供が臭いって騒ぐか
ら。でも栗の甘露煮と合わせるって良いわね。今までキントン以外の使い道ってケー
キに入れて焼いたりとかとか、デザートでしか考えた事なかったわ」
「そんな風にこの料理を理解してくれるのって、
 繁美さんがこの土地で長い間、スーパーのお惣菜売り場で働いていたからだし、
 家庭の仕事もしてからだと思うんですよね」
 香菜さんが繁美さんに諭すように言った。
「それは栗田にはない武器じゃないですか」
「…そうよねえ、栗田には五十人前の惣菜、一気に作るなんて事、出来ないわよね」
「そっちの資産を大切にしましょうよ。お互いに」
「そうよねえ」
 繁美さんがしみじみと呟き、ワインを飲む。
「ていうか、そもそもさ、フィクションのキャラクターと自分を比べるってのが…」
「うるさい!」
 繁美さんと香菜さんがユニゾンでタクさんの言葉をピシャリと止めた。
「茜屋スーパー、やめるんですか?」
 祐介が繁美さんに伺うような目で聞いた。
「年明けに店長に相談するわ」
「おー!」
 繁美さんのその腹からの声に、並並ならぬ決断を感じてその場の三人が思わず拍手を送る。

「女、五十にして夢を叶えるわよ」
 繁美さんが立ち上がってワイングラスを高らかに掲げる。
 まるでニューヨークの自由の女神のようだった。
 その神々しい力強さに、圧倒された香菜さんとタクさんと祐介は、
 無言で自分達のグラスを繁美さんに向かって掲げた。
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