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母親になって後悔している(6)
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一瞬、皆の動きが止まった。そして陽子さんの次の言葉を待った。しかし、陽子さんは
じっと湯気を見つめて何も言わない。店内にあるクーラーの風音がやけに大きく聞こえる。
陽子さんは、ふうっと大きなため息をついた。
「あー言っちゃった。私…。言葉に出しちゃった」
「ちょ、ちょっと冗談だろ?何、いきなり重い事、言っちゃってんの。あんなに陽介君と仲良しで、いいママやってんじゃない」
タクさんがふざけた調子で言う。しかしその口調から明らかに動揺が感じられた。祐介
も陽介君と楽しそうにスーパーで買い物をする陽子さんの口からそんな言葉が出るとは驚きだった。正直、聞きたくない言葉だった。自分から聞いた質問なのに勝手なものだ。
「『いいママやってる』かあ…」
陽子さんがどことなく自虐的に鼻で笑う。
「うん。そうだよ!俺は立派だと思ってるよ、一人で育ててさ」
タクさんは力強く陽子さんに言う。どうやら励ましているようだった。
「うん、自分でも頑張ってると思う、母親業。働きながらだから完璧じゃないけどね」
「うん、そうだよ!」
「あの子がいるから頑張っていられるんだと思う。可愛くて大好きだよ、陽介の事。だけど、息子を愛している事と、母親である自分が幸せとはまた別の問題なの。実は幸せだと感じた事はないの。責任感ばっかりで。一度母親になったら、やめたくてもやめられないし」
重い空気がその場を支配する。
「苦しくてネットで情報をいろいろ検索してたら、『人を産むという事は人を殺すより罪深い』ってある哲学者が
言ってて、そうか私は殺人より罪深い事しちゃったんだって」
「それはあまりにも極端だろ!誰だよ、その哲学者は!ニュートンか?」
「ニュートンは哲学者じゃなくて科学者よ」
陽子さんが小声で突っ込む。
「でもそのくらい、子供を産んで育てるって責任重大で、時々それに押しつぶされそうになる。そこから逃げたくなる。こんな思いをするなら産まなければ良かったって思う」
「でも、可愛いんだろ?息子の事は」
「もちろん。だからそれとこれとは別の問題だし、矛盾してる気持ちなの」
陽子さんは全てを吐ききったかのように、フッと小さく息をついた。
「なんか重い事、言っちゃってごめんなさい。でも、今夜はこの事を言えて良かった。聞いてもらえて良かった。ちょっとだけ楽になれた。別にね、母親をやめようとか、そんな事は思ってないの。多分、陽介と二人の今の生活がこの先続いて行くんだと思う。ただ、自分は今、そんな思いを抱いている。それを言いたかっただけ」
「…ビールの次は何にします?スパイス料理に合う赤ワインとかどうですか?」
香菜さんが声をかける。
「ありがとう。頂きますね」
じっと湯気を見つめて何も言わない。店内にあるクーラーの風音がやけに大きく聞こえる。
陽子さんは、ふうっと大きなため息をついた。
「あー言っちゃった。私…。言葉に出しちゃった」
「ちょ、ちょっと冗談だろ?何、いきなり重い事、言っちゃってんの。あんなに陽介君と仲良しで、いいママやってんじゃない」
タクさんがふざけた調子で言う。しかしその口調から明らかに動揺が感じられた。祐介
も陽介君と楽しそうにスーパーで買い物をする陽子さんの口からそんな言葉が出るとは驚きだった。正直、聞きたくない言葉だった。自分から聞いた質問なのに勝手なものだ。
「『いいママやってる』かあ…」
陽子さんがどことなく自虐的に鼻で笑う。
「うん。そうだよ!俺は立派だと思ってるよ、一人で育ててさ」
タクさんは力強く陽子さんに言う。どうやら励ましているようだった。
「うん、自分でも頑張ってると思う、母親業。働きながらだから完璧じゃないけどね」
「うん、そうだよ!」
「あの子がいるから頑張っていられるんだと思う。可愛くて大好きだよ、陽介の事。だけど、息子を愛している事と、母親である自分が幸せとはまた別の問題なの。実は幸せだと感じた事はないの。責任感ばっかりで。一度母親になったら、やめたくてもやめられないし」
重い空気がその場を支配する。
「苦しくてネットで情報をいろいろ検索してたら、『人を産むという事は人を殺すより罪深い』ってある哲学者が
言ってて、そうか私は殺人より罪深い事しちゃったんだって」
「それはあまりにも極端だろ!誰だよ、その哲学者は!ニュートンか?」
「ニュートンは哲学者じゃなくて科学者よ」
陽子さんが小声で突っ込む。
「でもそのくらい、子供を産んで育てるって責任重大で、時々それに押しつぶされそうになる。そこから逃げたくなる。こんな思いをするなら産まなければ良かったって思う」
「でも、可愛いんだろ?息子の事は」
「もちろん。だからそれとこれとは別の問題だし、矛盾してる気持ちなの」
陽子さんは全てを吐ききったかのように、フッと小さく息をついた。
「なんか重い事、言っちゃってごめんなさい。でも、今夜はこの事を言えて良かった。聞いてもらえて良かった。ちょっとだけ楽になれた。別にね、母親をやめようとか、そんな事は思ってないの。多分、陽介と二人の今の生活がこの先続いて行くんだと思う。ただ、自分は今、そんな思いを抱いている。それを言いたかっただけ」
「…ビールの次は何にします?スパイス料理に合う赤ワインとかどうですか?」
香菜さんが声をかける。
「ありがとう。頂きますね」
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