最強師匠ズ、才能なしチートなしの私を育てる

ノミ

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四十六話 武闘会

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「おっ、終わったか?」
「…………はい。色々と」

 終わった終わった。色々と。あははは。こんな紙切れ一枚のせいで私死んじゃうんだ。ははは。

「ミッちゃん目が死んでるよ? あっ、お城見たくて待ちくたびれちゃった?」
「そうじゃないです……。これ……」
「ん? これ武闘会の契約書? んー、別に変なこと書いてないような」
「いやいや書いてるじゃないですか! なんですか『何が起きても全て自己責任』って! 自己責任って! それに何が起きてもって!」

 武闘会の契約書に書かれた文面には不吉なことが色々書かれていた。何が起きてもって何? 一体どんなことが起きるって想定してるの?
 
「そりゃ死人が出る時もあるしな。そうでなくても再起不能になるやつは毎回いるらしいしそんな一文もあるだろ」
「死人!?」

 死人に再起不能!? 死ぬか死んでるように生きるかの二択なんて……。

「別にそういうやつが出るってだけでお前がそうなるとは決まってねえだろ? なりたくなけりゃ頑張れよ」
「いや、そんなこと言っても……」

 納得いかないとシオンさんにごねていたその時、

「受付今日までだっけ? 今回は誰が優勝するだろうな?」
「どうせドン・オーガストだろ。誰も勝てねえよあんなの」
「やっぱそうかな。でも、あの最速でSランクになったやつも出てくるんだろ?」
「ああ、どうなるんだろうな……」

 通りすがりの二人組の話が聞こえてきた。

「……聞きました?」
「いいえ」
「絶対嘘ですよね! 聞きましたよね! ドンさんも参加するって話ですよ! それに最速でなんかなった人とかも出るって話です!」
「うん。で?」
「で?じゃないんですよ! 私が勝てるわけないじゃないですか! 出るだけ無意味ですよ! 止めましょう。辞退しましょう」

 まだ契約書にサインしただけだし、今なら辞退も出来るはず。じゃあ、さっさと辞退しよう。うん、だって時間の無駄だし。

「別に優勝しろなんて言ってねえだろ。お前がドンとかに勝てる訳ねえのは分かってる」
「じゃあ……」
「だから、今回はベスト4に入ればお咎め無しだ」
「やっぱり何も分かってない!」

 そうじゃない! 言いたいことはそうじゃない! 優勝だとかベスト4とかじゃなくて、勝てる訳がないのに参加するのは時間無駄、ってベスト4までいかないとお咎めって! きびしっ!

「まあ、上位に行く過程でドンとかに当たった場合は例外としてやる。有難く思え」
「何を!?」

 そうじゃない! 何も有難くない! 

「予選は明日始まるから今日はもう休んでいいぞ。何? 嫌? しょうがねえなあ」
「何も言ってませんから! ああ、もう分かりました! 寝ます!」

 聞く耳を全く持たないシオンさんに何かを期待するだけ無駄だった。選択権などない私は武闘会へ出ることを仕方なく受け入れ、明日行われる予選に備え、休みをとった。ちなみにリンさんとシオンさんとお城に行ったり王都を満喫したらしい。




 そして、迎えた次の日。私は武闘会の予選が行われる会場にいた。

「皆様こんにちは! 武闘会の進行を務めさせて頂きますサリーです。よろしくお願いします!」 

 会場にあった大きな壁に人が映し出されている。投影魔法だっけ? 可愛らしい女性が映し出され動き、話している。見えるだけじゃなくて音も聞こえるなんてすごいなぁ。

「今皆様がいるところは予選会場となります。登録順に六つの会場に振り分け、各会場から五名が決勝トーナメントに進出出来ます」

 五人かぁ。ざっと見る限りこの会場だけで五十人ぐらい居るのに五人かぁ。少ないなぁ。

「この説明が終了しだい予選を始めますので説明をしっかり聞くとともに心の準備もしておいて下さいね!」

 え、そんなすぐ予選始めるの? 私、説明後いったん解散するものだと思ってたんだけど。

「では、ルールの説明をさせて頂きます。ルールは簡単。今いる舞台の上から落ちるか戦闘不能となる、もしくはそう判断されたら失格です。そして、残る人数が五名になれば終了。その五名が決勝トーナメントへと出場できます」

 この舞台の上からとにかく落ちずにいればいいのか。でも、この正方形の障害物など無いもない平坦な舞台の上に五十人ぐらい居てすごっく狭いんだけど。人数に舞台の広さがあってない。今も窮屈だし。

「場外に出る、戦闘不能となる、もしくはそう判断された場合は皆様に装着して頂いた腕輪により救出されます。そうなった時点で腕輪にかけた転移魔法が発動し、救護室へと送られます。戦闘不能になっても舞台の上に留まることはないのでご安心下さい」

 わあ、この腕輪のお陰で戦闘不能になっても場内に残って追撃を受けることはないんだ。安心ー。絶対乱戦になるしね。これがあっても死ぬかもしれない。

「基本ルールはこれだけです。しかし、禁止事項があります。この禁止事項を破れば即刻失格となりますのでお気を付け下さい」

 ルール説明これだけ? 簡素過ぎない?

「禁止事項は二点です。一つ目は浮遊魔法などによる浮遊の禁止。飛んではいけません」

 空を飛ぶのは禁止。でも、私にはちっとも関係ないしどうでもいいや。

「二つ目は他の参加者を殺害するのは禁止。事故であれ殺害した時点で失格です。

 殺したら失格か。別に殺す気なんてないし、そもそも狙って殺すことなんて出来ないだろうけどこれだけ人が多いと事故で何かなる可能性もあるな。シオンさんのナイフ借りてるけど出してたら事故起きたりしそうだし出さないでおこう。

「以上でルール説明を終わります。では、これより予選を開始させて頂きます」

 え、早くない? いや、そうするって聞いてたけど。ちょっとぐらい休憩とか挟んで……、

「準備はいいですね? それでは、始め!」

 早い! こちらの意見を一切聞く気がない! 「準備はいいですか?」じゃなくて「いいですね?」ってところに悪意を感じる! なんかどこぞの誰か、うわあ!!

「ひょお!? あ、危、ない!?」

 は、早い! 運営もだけど参加者も早い! こんな開始の仕方なのにみんなもう動き出してる! 戸惑ってもたついてるの私ぐらいだ!

「わわっ、あわわ、うひゃあお!? 無理無理無理!」

 多い! ありとあらゆる方向から色んなものが飛んでくる! この人数でこの広さは狭過ぎる! 拳やら武器やら人やらが飛んでくる! 人って!

 開始された時点で舞台の丁度真ん中居たせいで四方八方から飛んでくる。どうにか外へ出たい。あれ? でも、外へでると落とされる可能性が増えるかな? この真ん中にいれば落とされることはひょお!? やっぱ無理! 外へ逃げる!

「出ます! 出ます! 外に出、おおう!? だ、出させてー!」

 外へ出ようかと画策するも中々出れない。考えることはみんな同じみたいで中へ中へと集中している。そして、集中したところで起こる乱戦。何これ地獄? 馬鹿なの? みんな外へ散らばればいいのに。私は中寄りのところにいるけど。

「ぐああああ!」
「あっ……」

 続々と脱落者が出てくる。場外に落とされる者、戦闘不能となり強制退場させられる者。次々と脱落していく。よしよし、その調子で脱落していってくれれば広くなって楽になるや。もうそろそろ避け続けるの辛いです。

 あれだけの乱戦をしていたからか開始五分も経たない内に脱落者はいっぱい出てた。もう避け続けるの辛いなんて思っていたさっきまでと違って今や舞台の上は落ち着きつつある。

 今残っているのは多分二十人ぐらい。まだ半分ぐらいいることになるけど最初に比べればかなり減ったし、広くなった。よーし、あともうちょっとだ。私の事は無視してくれていいから皆さんで争っていてください。私の事は見ないでください。そう、私は空気。私は空気。空気空気。

 残っている人達は様々な様子だった。息を整えて平静だったり、逆にふんすふんすっと息荒く士気を高めていたり。人数も少なくなってみんなある程度バラけて場所を取り、お互いを牽制し合っている。そんな中私は舞台の隅っこへと移動し陣取っていた。そして、一人息を潜めていた。何故なら私は空気だから。
 
 少しの硬直状態の後、一人が動き出すと共に全員が動き出した。そして、また始まる乱戦。前より規模は小さいけど、ここまで残っている人達だから質が高い。あー怖いなぁ。こっち見ないでほしいなぁ。今のところ空気化成功してるしこのまま最後まで空気で終わりたい。

 周りは戦う中、一人息を潜め、まるで観戦者のように佇む私。良かった。これ予選で。本戦だと観客ありだしシオンさんに見られる。こんなサボってるの見られたら何されるか分かったもんじゃない。

「ん? わっ。びっくりした……」

 もうこれ私完全に空気じゃん。観戦者じゃん。なんて思ってちょっと気を抜いてたら槍が飛んできた。びっくりした。なんで私を攻撃するかな? あっ、私も参加者だった。

「小癪な。隠れ通して予選を通過する気か。そんな輩はわしが成敗してくれよう!」

 ううっ、遂に見つかっちゃった。それにしてもこのおじいちゃん、「小癪な」って。別にいいじゃん。私はこんな大会とかどうでもいいもん。やる気ないの。でも、予選落ちなんてしたらシオンさんに何されるか。だから、戦わず隠れて勝手に予選通過出来たらなんて思ってたのに。

「受けてみよ! わしの槍を! はあああ!」

 おじいちゃんは槍で思いっきり私を突いてくる。だけど、この程度の攻撃なら私でも躱せる。シオンさんの方が何倍も早い。それよりこのおじいちゃん私の事殺す気で来てるんだけど。ルールちゃんと理解してる? 殺したら失格になるんですよ? まあ、殺せないけど。

「小癪なあ!! 避けてばかりか! 小娘めええ!!」

 私は避け続ける。だって、攻撃の仕方分かんないもん。シオンさんに借りてたナイフがあるけど、こんなので攻撃したら下手したら殺しちゃうし、おじいちゃん硬そうな防具に身を包んでるし蹴ったり殴ったりはこっちが怪我するだけだしなあ。どうしよう。

 舞台の隅っこで繰り広げられる攻防。隅っこに陣取っていた私は下手に一歩下がればすぐ場外。背水の陣ってやつみたい。まあ、水も無いし必死でもないんだけど。

「このちょこまかとぉ! はあはあ……、避けるだけかあ!!」

 おじいちゃんもう息上がってる。昔はこの人もすごい人だったのかな? でも、今は全然。繰り出される槍は遅いし、隙も大きい。この槍掴めるかもなんて思えるぐらい。あっ、掴んでみるか。

 飛んでくる槍を避ける。そして、その槍が最大まで突き伸ばされる時に合わせ手を伸ばす。掴んだ。刃の根本付近の柄を。おじいちゃんは槍を突き終え手を目一杯伸ばしてる状態な訳だから、その力に逆らわず引っ張ってみる。すると、

「むおっ!? おっとっとぉ!!」

 体勢を崩し、前のめりになるおじいちゃん。そのまま場外へと落ちそうなところを何とか踏ん張った。なんだ落ちないのか。じゃあ、手伝ってあげよう。

「えい」
「むう!? ぬあっ!」

 隙だらけの背中へと回り込み、ぽんっとその背を押して上げる。さっきは落ちずに踏ん張ってたけど、一度助かったから気を抜いたのかな。軽く押しただけで場外へと落ちていった。バイバイ、おじいちゃん。もう三十歳ぐらい若ければ良い勝負になったかもしれないよ。

「それまでです! 決勝進出者の五名が決定しました!」

 おじいちゃんを落とした後、響き渡った終了宣告。え、何? もう終わり? あっ、本当だ。人全然居ない。

 どうやら私、おじいちゃんと遊んでいたら予選突破したみたいです。
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