最強師匠ズ、才能なしチートなしの私を育てる

ノミ

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五十五話 忘れた記憶

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「ド、ドンさん!?」

 着ている服も、鍛え抜かれた屈強な身体もひどく損傷し、立っているのもやっとのような足取りでこちらへふらふらとやって来たのは、あのドン・オーガストだった。

「どうしたんですか!? 大丈夫ですか!?」
「お前は……、ミイナだったか」

 駆け寄った私を睨みつけるような目で見つめてきたドンさん。身体はボロボロでも心はすごく強くあるようだ。いや、こんな時だからこそなのかもしれない。

「ぐすっ……。うわあ、ボロボロ」
「……お前の顔もだろう」
「なぁあ!?」

 そして、師匠達もドンさんのもとへやって来た。

「おいおい、いったいどうなされました? ドン・オーガストともあろうお方がそんなボロボロなお姿で」

 ニヤニヤしながら問いかけるシオンさん。なぜ煽る。煽らないと生きていけないのかこの人は。

「……鍛錬が足りなかっただけだ」
「ほう、謙虚じゃないか。私は謙虚な者は好きだよ。どれ、肩を貸してやろう。掴まりたまえ」
「……要らん」
「ハッハッハ。この私がせっかく手を貸してやると言っているのだ。素直に借りておきたまえ。それに私の好意に対し拒否する権利など存在しない。拒否しようものなら力づくで借りさせるまでだ」
「ええ……」

 力づくで無理矢理借りさせるって……。それは最早好意とかじゃないし、ありがた迷惑をも軽く超えている。ただの悪意。

 そんな悪意を受けたドンさんはすごく嫌そうにしながらも、コウジさんの本気の目を見て諦めたようだった。仕方なくコウジさんの肩を借りるドンさん。そして、私達と一緒に冒険者ギルドへと向かった。

 


「これでよし。どうだ? 私の素晴らしい看病は?」

 冒険者ギルドに戻り、コウジさんによる好意という名の治療を受けたドンさん。自分で素晴らしいとか言っちゃうぐらいのことはあったようでコウジさんの治療は手早くかつ丁寧で素晴らしいものだった。

「いったい何があったんですか? ドンさんがそんなボロボロになるなんて……」
「さっき言った通りだ。ただ鍛錬が足りなかった。それだけのこと」

 ドンさんは頑なに答えてはくれない。絶対何かあったのは誰の目にも明らかなのに。

「へえー。アリッジ王国武闘会、優勝者はマルク=ブラウン。ドン・オーガストの六連覇を阻止し見事初優勝ねえ」
「え!?」

 いつの間にか新聞を広げ記事を読んでいたシオンさん。そして、その新聞にはデカデカと武闘会優勝者の名前が。ドンさんが負けた?

「最速で冒険者ランクのSランクへと到達したマルク=ブラウンが初参加で初優勝。圧倒的な力で難なく決勝へと駒を進め、ドン・オーガストとの決勝戦でもその力は圧倒的なものだった。なんと武闘会五連覇中のドン・オーガストを一撃で倒したのだ。そして、ここに新たな王者が誕生した。だってよ」 
「………………」

 ドンさんが一撃で負けた? え、本当に? あのドンさんが? いったい何が……?

「君ほどの達人が一撃で倒されるとは。このマルクという者はそんなに強いのかね? まあ、私なら逆に一撃で倒してやるのだが」
「……俺が油断していただけだ。確かに、中々の力は持ってるようだが、それでもそこのガキにも及ばない程度」
「……え、ボク!? ガキ!? ガキ言うな!」

 ガキ、じゃなくてリンさんに及ばない程度の力? 私はまだまだ弱いから分からないけど、それぐらいの相手にドンさんが負けるのかな? それも一撃で。

「ふむ。それなら随分と油断していたのだね。それとも君は意外と弱いのか? まあ、私に及ばないのは当然のことだが、リン程度の相手に油断していたとは言え負けるとは。私なら眠っていてもリンに勝てるぞ」
「勝てるわけないでしょ! どんだけボクをバカにすんの!?」
「………………」

 コウジさんまで煽りだす。いや、この人の場合相手を煽るとか馬鹿にするとかいつ気持ちは無いんじゃないのかな。純粋にそう思って聞いてるんだろうな。自分では本当にそんなことあり得ないと考えながら。

「まあまあ。ドン・オーガストにも色々あるんだろ。なあ、ドンさん?」
「………………」
「それに意外とそのマルクって奴が強かったのかもしれねえぜ? リンに及ばないなんて言われてるけど、リン強いもんな?」
「そうだよ! ボク強いもん! だから、落ち込まなくていいんだよ! だって、ボク強いもん!!」

 ククッと笑っているシオンさんにドヤ顔で胸を張るリンさん。コウジさんはもう興味が無くなったのか一人で勝手に紅茶を飲んでいる。

 なんだろう、この人達と居たら調子が狂うっていうか安心感があるっていうか。ドンさんが負けたなんて非常事態なのに全然そんな風に思えなくなる。何でもないかのような、平和な日常のような感じに。









 なんて思ってたのは間違いだった。本当の非常事態はこれからだったんだ。

 私の記憶はここで終わっている。
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