最強師匠ズ、才能なしチートなしの私を育てる

ノミ

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五十六話 忘れた記憶 ②

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「…………………………う、うぅん。……ん、……あれ?」

 目が覚めた。私の目の前にはどこかの天井が広がり、身体は横たわっている。どうやら、今まで寝ていたようだ。でも、なんで寝ていたんだろう。

「あっ! ミッちゃん! ミッちゃん! 大丈夫?」
「え、リンさん?」

 あれ? なんだかこの光景前にも見た気が。前も目を覚ますとリンさんに声をかけられて、シオンさんも、ああ違うや。あの時はシオンさんに殴られて起こされたんだ。まあ、でも、今みたいに前もシオンさんリンさんコウジさんが居て……、え、ドンさんも居る。

「……気分はどうだ?」
「え、はい! 大丈夫です!」

 もう全然大丈夫です! 全然はい! ドンさんが気にされるほどのことじゃありません! もうそれは全然! 大丈夫全然! ……なんか全然大丈夫って大丈夫じゃないみたい。

「ホントに? ボク、ミッちゃんのあんな顔初めて見たよ……?」
「え? あんな顔って、私どんな顔してたんですか?」

 あんな顔ってなに!? 私そんな酷い顔してたの!? いつの顔だろう? もしかして、寝顔!? よだれ出てないかな……?

「すごく怖かった……」
「怖い? ……え?」

 怖い寝顔ってなに? 私鬼の形相で寝てたりした? 

「……あの、ミッちゃん? ……覚えてないの?」
「何をですか?」
「……さっきのこと」
「さっき?」

 さっきってなんだ? さっき…………、あっ。あれか。ドンさんがボロボロになって現れて、コウジさんが手当てしてってやつか。うん、それならちゃんと覚えてる。でも、いったいその間のいつ私は怖い顔をしてたんだろう。知らない間に鬼の形相になってたのかな? それはなんか恥ずかしい。

「……ミッちゃん。もしかして、本当に覚えてない?」
「え、え!? 覚えて、……覚えて、ない?」

 私、私は全部、全部……覚えてる? 私の知らない記憶がある? いや、そんなはず……。

「お、覚えてますよ。私、全部。ドンさんがボロボロになってやって来て、コウジさんが手当てして、シオンさんが煽って、リンさんドヤ顔して、ドンさんは無口で……」

 私が記憶していることを紡ぎ出す。私が、私自身が記憶を確認するかのように。確かに、細やかに。

「それで、それで、……………………それで。……あ、あれ?」

 あれ? おかしいな。口に出した記憶は確かにあるし、間違ってもいないはず。でも、でも、次が出てこない。ドンさんのことの経緯を経て、どんな時でも変わらない師匠達の姿を見て何だか気が抜けたというか安心したというか。ここまでは出てくる。でも、その次が出てこない。その次がもう今になっている。

「あ、あはは。なんですかね? なんだかちょっと変なような……、あっ! もしかして、あれですか! またシオンさんが私を痛めつけたんですね! それで今私ベットで寝てたんですね!」

 そうかそうか。きっとこれだな。まーたシオンさんが私をいじめたんだな。もういっつもやり過ぎるんだからシオンさんは。ちょっとは手加減を覚えてくださいよ。

「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「…………あ、あれ?」

 あれ? 誰も何も言わない。な、なんだろう? この空気は。き、気まずい。

「あ、あの皆さん? どうしたんですか? な、何かありました、……か?」
「「「「………………」」」」

 なんで誰も何も言わないの!? なんか私がスベったみたいじゃないですか! そんな私変なこと言ってないですよ!? 


 それとも、本当に私に覚えてないことが? 私が忘れてる記憶があるの?

「あ、あの……!」
「まあまあ、落ち着きたまえ。疲れているだろう? お茶でもどうだね?」
「い、いや、そんな……」
「どうだね?」
「うっ、は、はい。いただきます」

 人に有無を言わせないコウジさんの眼力。怒ってもないけど絶対に拒否出来ない。実際に今もお茶なんて全然要らないけど、拒否することなんてできなかった。

 いつの間に取り出したのか私の分のカップにお茶を注ぎ、渡してくれる。少しぬるくなっていたお茶を受け取り、怒られそうだけど一気に飲み干す。

「…………ごくん。ごちそうさまでした。あの、それで……」
「ミッ、ミッちゃん! 何してるの!? 早く起きて! 修行するよ!」
「え、ええ!?」

 お茶を一気に飲み干した私に対しコウジさんが何かを言おうとけどその前にリンさんが立ち上がる。

「もう十分休んだでしょ! ほら、早く! 
「いや、でも……」
「でももモモないの! するの! 早く!」

 立ち上がり私へけたたましく急かすリンさん。駄々をこねるかのように。でも、オロオロするかのようにも。

「……リン。座れ」
「なにシオン!? 早くしないと……」
「いいから」
「うっ、………………うん……」

 シオンさんに言われてリンさんは不本意そうに椅子へと座り直す。そして、私はいつになく真剣な顔のシオンさんと向き合った。

「……単刀直入に言うぞ。ミイナ。多分お前は解離性健忘ってやつになっている」
「解離性健忘?」

 シオンさんから放たれた重々しい言葉。でも、なんだろう解離性健忘って。そんな難しい言葉で言われても私分からないんですけど。

「解離性健忘って言うのは、強いストレスを感じる出来事によって起こりうる記憶障害だ。その原因になった出来事に対して思い出せなくなる。そのことに関する記憶を忘れることってだ」
「記憶障害……?」

 解離性健忘は記憶障害……? 強いストレスを感じた出来事を忘れる障害……? ……私が?

「ミイナ。お前は分からないだろうが、お前には忘れた記憶がある」
「忘れた、記憶……」
「だが、その記憶はお前にとって非常に辛いものだ。忘れてしまわないといけなくなるぐらい」
「………………」

 私には忘れてしまわないといけないぐらい辛い出来事があって、私はそれを忘れている。私にはあるべきはずの記憶がなくなっている……? いったいそれはどんな記憶なのか。思い出そうとしても何も思い出させない。

「だから、無理に思い出そうとしなくていい。俺達もお前にそのことを思い出させるようなことはしない。今のこの話も忘れてくれていい。それにこんな話されたら気になってしまうってのなら、俺が消してやる。気にならないようにちゃんと辻褄合わせもする」

 普段のシオンさんからは考えられない程のいつになく優しいシオンさん。それほど私の忘れた記憶は辛いものなのかもしれない。

 シオンさんの言う通り思い出さなくてもいい。思い出せば、なんだか今の私でいられないようなそんな気さえもする。だから、思い出さない方がいい。



 ……でも、
 

「……待って下さい」


 私は


「その記憶を思い出す方法はあるんですか?」

 こんなことを口走っていた。

「ミッ、ミッちゃん!? 別にそんなことしなくていいんだよ!? すんごく辛いことをわざわざ思い出さなくても……」
「いえ、これは忘れてちゃいけないものだと思うんです。まあ、今まで忘れてたんですけど。だから、思い出さないといけない。他の誰でもない私の為に」

 まるで誰かに動かされているかのように。私は私が思っていることを口にしていた。考えて、決めて話してるというより、突き動かされるように。私の腹の中から声が出ていく。

「記憶を消せるぐらいなんですから、思い出させる方法もあるんですよね? シオンさん?」
「……ある。お前は忘れてもお前の影は覚えてる。だから、その影が覚えてる記憶を追体験させてやる」

 私の影は覚えている。ああ、そうか。だから、私はこう言ってるのか。

「だが、いいんだな? 忘れないといけないぐらいの記憶を思い出すことは非常に危険だぞ。思い出してもまた忘れるぐらいならいいが、心を壊し廃人のようになる可能性もある。それにこれは一度始めればもう俺が干渉することは出来なくなる。支配権はお前とお前の影だ。最悪、永遠にその世界から出てこれないこともある」

 私の心が壊れる危険性、始めてしまえばシオンさんに助けてもらうことも出来ず永遠にその記憶から出てこれない危険性も。どちらも危険極まりない。それにシオンさんがこんな危険性をわざわざ説明してくれるってことはこれに陥る可能性は高いのだろう。

 でも、私は

「……はい。それでも私は忘れた記憶を思い出したいです」

 思い出すんだ。他の誰でもない私の為に。


「……分かった。じゃあ、行ってこい。お前の忘れた記憶に」

 軽く頷き微笑んでくれたシオンさん。彼の優しい微笑みも馬鹿にするような笑いも私に力をくれる。私を奮い立たせてくれる。挫けても、止まってしまっても無理矢理立たせて前へ進ませる。そんなシオンさんが居るから私はこうして向かっていけるんだ。

「行ってきます。そして、ちゃんと戻って来ますから」

 彼の手が私の顔へと伸びてくる。そして、その手が、影が私を包んでいく。

「忘れんなよ。これはお前の記憶であり、お前の世界だ。他の誰でもない。ミイナ=ロジャース、全てお前のものだ」

 シオンさんの声を聞き終えると同時に影が全てを覆った。
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