最強師匠ズ、才能なしチートなしの私を育てる

ノミ

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八十三話 のんびり師弟

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「ふああ。おはよう……ミッちゃん……」
「おはようございますリンさん……」

 師弟の朝は早い。日が登り始めるころに寝ぼけ眼の二人は身支度を済まし、軽く走り軽く体操をする。その後朝食へ。そして、朝食後はお待ちかねの修行、なのだが

「……来ないね」
「……はい。シオンさんとコウジさん」

 昨日二人と別れた場所で待っていたのだが、二人は現れない。レディを待たせるなんてあり得ないよねっなどと雑談して時間を潰してみても一向に来る気配は無い。

「なにかあったんですかね?」
「えーなにか? 飲み過ぎ?」
「うーん、ありそう」

 二人が酒を好むのか知らないがあの二人なら好きそうだし飲み過ぎて潰れてるのもありうる。シラフでも酔っ払いと変わらぬあの二人ならと。

「でも、シオンさんが遅れて来ることなんて一回もなかったのになぁ。いつも私より早く来て、『待たせたから罰な』って罰ゲームさせてくるじゃないですか」
「あるある。それで何故かボクまでやらされたりね。師匠も修行の時間には厳しかったんだけどなぁ」

 意外とその辺りはきっちりしてる二人の師。逆にこの弟子二人は朝に弱く、その辺りが適当なのだが。

「うーん、このまま待ってても意味ないし今日も観光しようよ!」
「え。でも、来たらどうするんですか?」
「遅れて来たから罰ねって言えばいいよ。行こっ!」
 
 リンがそう言うなら大丈夫かと引っ張られながら思うミイナだった。

 


「はえ~すっごい。おっきい」
「立派ですねぇ」

 観光をすると決めた二人が向かったのはアリッジ王国立アリッジ学園だった。国の名を冠するこの学園は世界有数の名門校。別にここを見ようと決めていた訳じゃないが、大きな建物が見えたからとりあえずあれ見ようとなった二人。

「学校って行ったことある?」
「うーん、私の村にあったのはこんなちゃんとした物じゃなかったので、ない、ですかねぇ。リンさんは?」
「ボクもない」

 学校と言うより遊び場に近かったなとミイナは思い出す。お絵描きしてかけっこしてた記憶しかない。リンはそもそも学校に行ってないからそんな記憶すらなかった。
 そんな二人だからただ建物を見て立派だなぁという感想しか出てこない。

「これって中入っていいのかな?」
「えーダメでしょ。怒られますよ」
「でも、ここからじゃ中がよく見えないよ。どうなってるのかもっと見たくない?」

 学校の周りは塀で囲まれていた。頑張ればよじ登って超えられる程の塀だが、立ってるだけでは中は見えない。そして、二人は出入りの門へと移動してそこから中を伺っていたが、登校時間だから門は開いていても建物の中までは見えるはずもない。

 開いた門から中を覗き込んでいた二人。入りたいが入っていいはずもないので門の前でウロウロしていたそこへ

「おい、邪魔だ。どけよ」

 声が飛んできた。

「あっ、ごめんなさ……」
「ふん。平民風情がここに用は無いだろ。お前達には一生縁のない所なんだからな」

 そう言って「ハハハ」と笑いながら門をくぐっていく男達。ここの生徒だろう。立派な制服に身を包みいかにも身分の高いおぼっちゃんですと言わんばかりの男達。彼らは高笑いと共に門の中へと進んでいく。

「……斬っていい?」
「……バレるし駄目です」

 他の生徒達も登校し始め、人通りが多くなってきた。さすがにここでやろうものならお咎め無しと言う訳にはいかない。

「んむむっ…………!」
「……行きましょう……」

 やり場の無い怒りで不満げな二人はすごすごと学園前から立ち去る他なかった。




「なんなのあいつ! ムカつくー!!」

 すごすごと立ち去った二人が向かったのは公園。日も登り人々も活動しだしたこの時間。公園には人が集まりだしていた。ボールを蹴り遊ぶ子供達。話しながら散歩する老夫婦。そして、キィキィとうるさい師匠と弟子。

「いい家に生まれたからって偉いの!? そんな訳ないよねっ!?もぐぅ」
「偉いか偉くないかはともかくあの態度は許せないですよね。はぐ」
「……んだよねっ! 誰もいなかったら斬ってたよ。いい家の生まれか知らないけどボクの方が強いし!はむぅ!うまい!」

 ベンチに座り屋台で売っていたクレープを頬張る二人。怒りながらも甘みに頬を緩める様は話してる物騒な内容と全く違い緊張感の欠片もありはしない。

「んむんむ。ごくんっ。ごちそうさま!」
「早っ。もう食べたんですか」
「ん。ミッちゃん食べないならボクが食べてあげるよ?」
「い、いいです。食べますからっ」
「むぅ。ボクが買ってあげたんだからちょっとぐらいいじゃん」
「それとこれは別です」

 大きな口を開け、取られないように食べ進めていくミイナ。この二人の懐事情は悲しい程差がある。今だBランクのミイナとSランクのリン。毎日の食事や宿、装備を少し整えただけでスッカラカンのミイナ。Sランク昇格時や普段のクエストの報奨金で暖かいリン。師弟の力の差がこんなところにも。そんなにクエストを受けないからというのもあるが。

「……ごちそうさまです。美味しかった」
「ふふん! どういたしまして!」
「ふふっ、ありがとうございます師匠」

 クレープの甘みによって怒りも落ち着いてきた二人。落ち着ついてしまえば何について怒っていたのかなど忘れるものだ。

「そう言えばあの二人どこに行ったんですかねぇ?」
「さー? どうせ二人で遊んでるんじゃない?」
「え、あの二人が遊ぶ……。すんごいめんどくさそう」

 ナルシストの似非紳士と胡散臭さの擬人化。絶対に関わると面倒だが、意外と相性は良さそうなあの二人。関わってはいけないが。

「あっ、ねえねえミッちゃんに聞きたかったんだけどさ」
「はい?」
「シオンの事好きなの?」
「はいいいぃぃっ!!?」

 突然の質問に裏返った声で今日一番の声量を出すミイナ。こんな大声で裏返るのは稀と言うレベルで。

「な、な、何を言ってるんですか!?」
「いやなんとなーく。好きなのかなー?って」
「す、好きって……、いやそりゃ……そ、尊敬はしてますけど。師匠として! 師匠としてですよっ!」

 わたわたと焦るミイナにふーんと平静なリン。だが、リンの口角はもう既に上がり始めていた。

「えー。でも、シオンいいんじゃん。カッコいいと思うよ」
「ま、まあ、見た目はカッコいいですけど……」
「それに強いじゃん。ボクより強いよ」
「つ、強いかもしれないですけど……」
「……ふーん。じゃボクがもらっちゃおうかなー?」
「えっ!?」

 リンの顔がニヤリと悪い顔へ変わる。

「だってー、カッコいいし強いんだよ? 最高じゃん!」
「いや、でも……」
「え?なに?でも?なに?でも?」

 少し言い淀んだミイナをニヤニヤと追撃するリン。まるで誰かさんを思い出させるウザさで。

「……リンさんシオンさんに似てきてません?」
「え? 相性いいって?」
「言ってません。……山に飛ばされて散々な目に合わされたこと忘れたんですか」
「…………あったねー」

 シオンを放ったらかしにし罰せられた過去を思い出す。あれは散々だったなと二人してしみじみ思う。

「……毎日あんな目に合いますよ?」
「……それはイヤだなー」

 今までのことをよく思い出して見るとミイナはもちろん散々な目に合ってきたがリンも意外と巻き添えを喰らってきた。それが今度は全部自分一人で受けることになると考えると言葉も弱くなる。

「じゃあ、ん?」
「すいませーん! ボールとってくださーい!」

 二人の座っているベンチ近くテンッテンッとボールが転がって来た。そのボールの持ち主であろう少年達がリン達へと手を振っている。

「よーし! 分かったー!」

 そして、そのボールをリンは拾い、足を振り上げ蹴った。

「いっくよー! それーー!」
「わー! どこ蹴ってるのー!?」

 思いっきり蹴ったボールは思いっきり明後日の方向へ。まるでこちらが正しいと言うかのように迷いなく一直線に。

「ああー! ご、ごめーん!! ボクがとってくるからーー!!」

 ダッシュでボールを追いかけるリン。ポツンと一人ベンチに残されたミイナは元気だなぁとその様子を眺める。ボールを拾ったリンが今度は蹴らずに手渡して謝っている様子をぼっーと。
 
「ミッちゃんー!」

 少年達と話していたリンがミイナへ手を振っている。それに対しミイナもひらひらと手を振り返す。少年達の方がリンより結構年下なはずなのに同じに見えるなーなんて思いながら。

「何のんびりしてんのー!? 早くー!」
「えっ?」
「ボク達も一緒にまぜてもらえることになったんだよー! 早く早くー!!」
「ええっ……」

 まさかの展開に唖然とするミイナ。同じみたいだなーと考えていたがまさか本当に同じだったとは。でも、特にやることも無いし、リンは既にやる気満々の様子だったから、ミイナはベンチから立ち上がる以外になかった。



「バイバーイ! また遊ぼうねー!」

 日が沈みだした夕暮れ。ブンブンと手を振り子供達と二人は別れの挨拶をしていた。

「はあー。楽しかったねぇ」
「そうですね。こんなに遊んだのすごく久しぶりです」

 結局、二人は今日一日ずっと子供達と遊んでいた。ボール遊びから始まり、かくれんぼや鬼ごっこなど色んな遊びをずっと。

「っというか、リンさんに引っ張られて遊んでましたけどコウジさん放っといてよかったんですか?」
 
 一日ずっと遊んでいて二人共コウジとシオンに会うことがなかった。二人が遊んでいて探しに行かなかったのももちろんだが、それは逆にあの二人もこの二人を探していないことにもなる。あの二人が探せば簡単に見つけるはずだから。

「うーん。まあ、広いけどこの王都に居るって分かってるしいいよ。なんか用事あるんでしょ」

 昨日のコウジの様子からしてこの王都に用事があるのは二人共分かっていた。だから、まだ探す必要もない。

「それにシオンもいるし。何かあればシオンに言えばすぐどうにかしてくれそう」
「確かに……」

 あの意味不明な胡散臭いならば意味不明なナルシストが消えてしまっても簡単に見つけてくれそう。そう二人共思っていた。







「……はあ。暇だなぁー」

 薄暗い地下に暇そうな声が響く。その声はこの牢屋に閉じ込められた男からの声。

「早く助け出してくれねえかな。お姫様達」

 牢屋に閉じ込められているのはシオンだった。
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