最強師匠ズ、才能なしチートなしの私を育てる

ノミ

文字の大きさ
98 / 100

九十六話 過去 ④

しおりを挟む
 晴れた良き天気の日の昼下り。キィンギィンと金属の音が鳴り響く。
 王城のいつものことであり、音を発しているのもいつものメンバーだった。
 
「ぐっ、……ここだ!」
「甘いな」
「な、うぐぐぐ……ぐあっ!」

 盾で受け止めた剣が盾ごとそのままルーカスを押し潰す。力ではなく技による押し潰し。これが出来るのは流石の最強お師匠様だ。

「盾の使い方がなってません。滑らすか止めるかの判断が甘いです」

 今日も中庭ではルーカスの修行が行われていた。今日の修行はレオニクスによる指導。
 レオニクス自身もコウジと比肩する程の実力の持ち主。さらに性格が真面目なので一つ一つ丁寧に教えることから指導役としては適任だった。
 コウジが打ってそれをルーカスが盾で受ける。レオニクスはそれを見て指摘、実演する。いつもの光景。

「盾は初めの角度で次の行動が決まるのですから、常に盾の持ち手を……」
「パパー!」
「ん? あっ、カエデ~~!」

 そんな修行中の中庭に似合わぬ幼き声が響く。

「迎えに来てくれたのか~! ヨウコも!」

 やって来たのは小さな女の子とその母。レオニクスの娘と妻であるカエデとヨウコだった。

「やあ、カエデちゃん。元気そうだね」
「ルーカスおにいちゃん! うん、げんきだよ!」
「………………」
「あっ、へんなひと。こんにちわ」
「だれが変な人だ!」

 四歳になるカエデはルーカスとへんなひとへ元気よく挨拶する。それに対しいつもと変わらず応対するルーカスとどこかよそよそしいコウジ。目を合わそうともしない。
 
「駄目だぞカエデ。変な人には気軽に声をかけちゃ駄目だ。近寄るのも駄目だ。見てもいけない」
「お前は娘に何という教育をしているのだ……」
「正しいだろうが。お前は近寄るな。シッシッ」

 犬を追い払う様にシッシッと手を払うレオニクス。悪しき獣を愛娘へと近付けないという親として間違っていない正しき教育をしているだけだと。

「あっ、パパのけんだー」
「あ、カエデそれ危ないから……」
「パパわたしにもけんおしえて?」
「え? いや、カエデにはまだ早……」
「わたしもパパみたいにつよくてかっこよくなりたいのー!」
「待ってろカエデ!! 一番軽い木刀取って来てやるからな!!!」

 そう言うと猛ダッシュで部屋へと消えて行ったレオニクス。今日一番の猛スピードで愛娘の為に走る走る。

「……馬鹿だなあいつは」
「え! パパはバカじゃない! バカはおまえ!」
「おまっ、お前……?」

 そんなレオニクスを見ていて、ついポツリとこぼれたコウジの一言に娘は反応する。父を馬鹿にするなと。馬鹿はお前だと。

「バカっていうほうがバカなの! だから、バカはおまえ!」
「……ぐっ、この私に向かって何という口の聞き方を……」
「ぷっ、駄目だよ師匠。子供相手に手を上げちゃ」

 あまり見れないコウジが怯む姿につい噴き出すルーカス。天下無双最強無敵の師匠にもある弱点。その光景を見るのがルーカスの楽しみでもあった。

「カエデ~! お待たせ、あっ!? お前何してんだ! 何近寄ってんだ! お前は近寄るな! 二人には指一本触らせん!」

 そして、帰って来た男のこの姿を見るのも好きだった。普段は真面目で堅物の彼が家族の前でフニャフニャになる姿を見るのが。

「……まったく。この馬鹿親子はキャンキャンキャンキャンと。口のなってないところはそっくりだな」
「ああっ!? なんだって!?」
「弱い犬ほどよく吠えるとは言ったものだ」
「うるせえ! お前なんかそのうち……」
「パパー」
「ごめんねカエデ~~! あんな変態は放っといて剣の稽古しましょうね~」
「うん、するー!」
「……はあ」

 変態は放っておき、愛する家族との楽しい時間を満喫し始めたレオニクスに半ば呆れつつ近くのベンチへ腰掛けるコウジ。ルーカスもその隣へ座り、二人してその光景を眺め出した。

「師匠もそろそろ身を固めたらどう? 子供も作ってパパになりなよ」
「ふん、私が子供苦手なのは知っているだろう? 流石の超天才である私だが、子育てだけは苦手だしやりたくないものだ」
「ふーん。でも、僕の剣術指南役は引き受けてくれたんだね」
「罰だからな。渋々仕方なくだ。そうでもなければ誰がこんな面倒くさいガキのお守りなんてやるものか」
「そりゃ悪かったね」

 ベンチに腰掛け、レオニクス一家の仲睦まじい光景を二人で眺める。まだ修行の時間は終わっていないが、家族の時間を邪魔する程野暮ではない。

「それに順番で言えば私よりお前だろう。イザベラももうあと少しで学校を卒業だ。卒業すれば晴れてお前達は結婚するのだろう?」
「まあ、その予定だけど」
「ふん、糞ガキだったお前が伴侶を見つけるとは。人生とは分からんものだ」

 イザベラは今この時も学生として学校に通っている。卒業すれば、王子ルーカスと結婚するというのはもう既に周知の事実。その為か国全体がソワソワしている様な空気感がある。幼い時から王族として精力的に民の為に活動してきたルーカスの人気はとても高い。そんなルーカスの祝い事は盛大に行われることになるだろう。

「師匠だってそのうち子供を抱いてるかもよ」
「無いな。そうだ、お前達に子供が出来ても私に近付けるなよ。子供は何を考えてるか分からんから苦手だ」
「ふふっ、わざわざ近付けようとなんてしないよ。しなくてもそっちから来るだろうし」

 クスクスと笑うルーカスに呆れたように一つため息をつくコウジ。

 暖かき光景を眺め、他愛の無い会話を楽しむ。この穏やかな時間が、平穏なこの時がいつまでも続くだろうと誰も疑いを持たなかった。



 だが、それは突如崩れ去れるのだった。



「た、大変です! ルーカス様!!」

 一人の兵が息を切らして中庭へ現れる。そして、

「王が、国王陛下が倒れられました!!」

 これが始まりだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...