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九十七話 過去 ⑤
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アリッジ王国国王が亡くなる。
このニュースは国内外に大きな衝撃を与えた。
倒れてから一時は回復したものの、起き上がることも出来ずいくつかの言葉を交わしてそのまま息を引き取った。
国王の突然の死。世界は深い悲しみに包まれていた。
だが、ただ悲しんでいるだけでいていいわけがない。生きる者は前へ進まなくてはならない。特にこの二人は決めるべきことがある。
「王位継承ね……」
王が死んだとなると次の王を決めなくてはいけない。王の子と言えば二人の王子、マーカスとルーカス。王位継承順位は一位と二位。通常何もなければ、一位であるマーカスが即位する。それは周知の事実であり、二位である弟ルーカスも兄が王位に就くとずっと思っていた。だが、
王位は第二王子ルーカスへ譲る。
王が遺言を残していた。それも王位を弟であるルーカスへと譲るという内容を。この一言が大きな混乱を産んだ。
誰もが次の王は兄であるマーカスになると思っていた。それは当の本人達ですらも。だが、それを覆す王の一言。
今はまだこの遺言は一部の者しか知らない事実。これをどうするかで人々の思いが錯綜していた。
王の遺言に従うべきだと言う者。順位を優先すべきだと言う者。国民にも意見を求めようと言う者、いや内密に決めようと言う者。
様々な思いが、企みが声を上げていた。議論が議論を呼び、絶え間なく言葉が発せられる。自分の利益を確保するために。
そんな喧噪も静まりかえった夜の一部屋。薄暗い部屋に椅子へ腰掛ける二人の男。
「……師匠。僕はどうすればいいと思う?」
ポツリと溢れた言葉から次の言葉を紡ぐ弟子ルーカス。師の方を見るわけでもなくただ己の前へと言葉を投げかける。
「…………まずはお前が思っていることを全て言葉で口から出せ。言葉を紡げ」
師コウジもまた同じく目を合わすことなく言葉を発する。言葉は相手の為だけではない。
「……王の、父上の遺言に従いたいと思っている。立場があることでより国の繁栄へ貢献しやすくなるだろうし、父上の最後の言葉、最後の思いなんだ。当然叶えてあげたい。……でも……」
ルーカスの言葉が止まる。表情は先と変わらないように見えるが、瞳の中には暗き影が。
「……続け給え」
何が言いたいかなど言葉にしなくても分かる。だが、それを言葉にすることに意味がある。師は弟子へと続きを促す。
「…………でも、兄上はきっと良く思わない。いや、良く思わないどころじゃないだろう。……きっと兄上は僕を殺しに来る」
言葉にしなければ見て見ぬ振りも出来た。だが、もう見て見ぬ振りは出来ない。
「僕が死ぬのは別にいい。だが、こんなことで無益な争いは起こしたくない。争い、無駄な血を流したなくなんてない。……でも、父上の遺言をなかったことになんかできない。……これが今の僕の思いだよ、師匠」
「……そうか」
王子二人が争えば些細な出来事で終わらせられる訳が無い。多くの人を、国全体を巻き込んでの争いになる可能性もある。だが、父の最後の言葉を無下になんて出来ない。相反する二つの思いがルーカスの中では渦巻いていた。
「……僕は全て吐き出した。次は師匠の番だ」
「……もちろんだ。我が弟子よ」
次は師コウジの番。この二人は今までずっと悩んだり詰まることがあればこうしてきた。お互いの考え、思いを全て言葉に出し、自覚し合う。
「……私が初めてこの城へやって来た日、私は二つ衝撃を受けたことがある」
コウジが言葉を紡ぐ。
「一つは豪なる者の存在。私と比肩する程強き者がいた。レオニクスにシバルト。型は違えど真の強者が存在することへの喜び。私の胸は踊ったものだ」
世界広しと言えどもコウジと比肩出来る者はそういない。それは道場破りのようなことをしていたコウジ自身がよく分かっている。
「そして、二つ目は王なる者の存在。人の器ではなく王の器を持ち生まれた者。それが存在するということ。力による脅しではなく、そこに居るだけで人々に自然と頭を垂れさせる。生まれ持った王としての器」
コウジの頭にはあの時の光景が思い浮かんでいた。コウジとシバルトの睨み合いの中悠然と近づいてきた少年。強者の圧など関係なく、王者の片鱗を垣間見たあの時の光景が。
「……私には一点の迷いも無い。ただ、時が来た。そう思うだけだ」
コウジの言葉は紡ぎ終えたようだ。自らの思いをそれぞれ言葉で紡いだ二人。
暫しの沈黙の後、再び言葉を発する。
「……時が来た、ね。師匠はこうなることを分かっていたみたいだね」
次の言葉を紡ぎ出す。答えへと辿り着く為に。
「……王が亡くなれば次の王になるのはお前。そんなことお前と出会った時から分かっていた。お前の父も王の器を持ちし者、彼が間違うはずもない。……思っていたより随分急で早いが」
概ねあの時思い描いた未来が来ているとコウジは言う。少し早まったがいつかは来た未来がと。
「僕と会った時からね……。思えば色んな人と会ってきた。色んな人と話し、教えられ、助けられたな」
椅子へ深く座り宙へ顔を向け、目を閉じる。閉じた瞼の裏に映るのは今までに出会った人々の顔。その顔の全てを覚えている。誰が何をしてくれたのか。何が彼らの為になるのか。
「……次は僕の番か」
目を開き、決意を口にする。
「ふっ、ようやく言葉にする気になったか」
「……はあ。イジワルだね、師匠は。そうさ、ようやく言葉にする気になったよ。それもこれも素晴らしいお師匠様のお陰です」
はじめから全てお見通しとでも言わんコウジの態度に苦笑するルーカス。だが、実際分かっていたのだろう。なんたってこの師匠だ。
「僕は王になる。父の跡を継ぎ王座へと座ろう。僕の為じゃない。民の為に」
言葉を紡ぐ。来たるべき未来の為の言葉を。王として民の為に力を尽くすと。
「それに僕には師匠達がいる。師匠に、シバルトに、レオニクス。何も恐れることなんてない。だって、お師匠様は世界最強なんだもんね?」
「ふっ。そうだとも。私以上の強者など存在しない。どんな困難があろうと我等がお前の力となろう」
師弟二人は決意した。己の思いに従うことを。その先に困難が待ち受けようとも仲間と共に立ち向かっていくことを。
「さあ、乾杯だ。ほら、お前の分だ」
「まったく、準備いいね」
差し出されたグラスを受け取り、薄く映る己の顔を見る。まだまだだなと映る顔を見ながらグラスを前へ。
「新たな王の誕生を祝って。乾杯」
「……乾杯」
この時、新たな国王が産声を上げたのだった。
このニュースは国内外に大きな衝撃を与えた。
倒れてから一時は回復したものの、起き上がることも出来ずいくつかの言葉を交わしてそのまま息を引き取った。
国王の突然の死。世界は深い悲しみに包まれていた。
だが、ただ悲しんでいるだけでいていいわけがない。生きる者は前へ進まなくてはならない。特にこの二人は決めるべきことがある。
「王位継承ね……」
王が死んだとなると次の王を決めなくてはいけない。王の子と言えば二人の王子、マーカスとルーカス。王位継承順位は一位と二位。通常何もなければ、一位であるマーカスが即位する。それは周知の事実であり、二位である弟ルーカスも兄が王位に就くとずっと思っていた。だが、
王位は第二王子ルーカスへ譲る。
王が遺言を残していた。それも王位を弟であるルーカスへと譲るという内容を。この一言が大きな混乱を産んだ。
誰もが次の王は兄であるマーカスになると思っていた。それは当の本人達ですらも。だが、それを覆す王の一言。
今はまだこの遺言は一部の者しか知らない事実。これをどうするかで人々の思いが錯綜していた。
王の遺言に従うべきだと言う者。順位を優先すべきだと言う者。国民にも意見を求めようと言う者、いや内密に決めようと言う者。
様々な思いが、企みが声を上げていた。議論が議論を呼び、絶え間なく言葉が発せられる。自分の利益を確保するために。
そんな喧噪も静まりかえった夜の一部屋。薄暗い部屋に椅子へ腰掛ける二人の男。
「……師匠。僕はどうすればいいと思う?」
ポツリと溢れた言葉から次の言葉を紡ぐ弟子ルーカス。師の方を見るわけでもなくただ己の前へと言葉を投げかける。
「…………まずはお前が思っていることを全て言葉で口から出せ。言葉を紡げ」
師コウジもまた同じく目を合わすことなく言葉を発する。言葉は相手の為だけではない。
「……王の、父上の遺言に従いたいと思っている。立場があることでより国の繁栄へ貢献しやすくなるだろうし、父上の最後の言葉、最後の思いなんだ。当然叶えてあげたい。……でも……」
ルーカスの言葉が止まる。表情は先と変わらないように見えるが、瞳の中には暗き影が。
「……続け給え」
何が言いたいかなど言葉にしなくても分かる。だが、それを言葉にすることに意味がある。師は弟子へと続きを促す。
「…………でも、兄上はきっと良く思わない。いや、良く思わないどころじゃないだろう。……きっと兄上は僕を殺しに来る」
言葉にしなければ見て見ぬ振りも出来た。だが、もう見て見ぬ振りは出来ない。
「僕が死ぬのは別にいい。だが、こんなことで無益な争いは起こしたくない。争い、無駄な血を流したなくなんてない。……でも、父上の遺言をなかったことになんかできない。……これが今の僕の思いだよ、師匠」
「……そうか」
王子二人が争えば些細な出来事で終わらせられる訳が無い。多くの人を、国全体を巻き込んでの争いになる可能性もある。だが、父の最後の言葉を無下になんて出来ない。相反する二つの思いがルーカスの中では渦巻いていた。
「……僕は全て吐き出した。次は師匠の番だ」
「……もちろんだ。我が弟子よ」
次は師コウジの番。この二人は今までずっと悩んだり詰まることがあればこうしてきた。お互いの考え、思いを全て言葉に出し、自覚し合う。
「……私が初めてこの城へやって来た日、私は二つ衝撃を受けたことがある」
コウジが言葉を紡ぐ。
「一つは豪なる者の存在。私と比肩する程強き者がいた。レオニクスにシバルト。型は違えど真の強者が存在することへの喜び。私の胸は踊ったものだ」
世界広しと言えどもコウジと比肩出来る者はそういない。それは道場破りのようなことをしていたコウジ自身がよく分かっている。
「そして、二つ目は王なる者の存在。人の器ではなく王の器を持ち生まれた者。それが存在するということ。力による脅しではなく、そこに居るだけで人々に自然と頭を垂れさせる。生まれ持った王としての器」
コウジの頭にはあの時の光景が思い浮かんでいた。コウジとシバルトの睨み合いの中悠然と近づいてきた少年。強者の圧など関係なく、王者の片鱗を垣間見たあの時の光景が。
「……私には一点の迷いも無い。ただ、時が来た。そう思うだけだ」
コウジの言葉は紡ぎ終えたようだ。自らの思いをそれぞれ言葉で紡いだ二人。
暫しの沈黙の後、再び言葉を発する。
「……時が来た、ね。師匠はこうなることを分かっていたみたいだね」
次の言葉を紡ぎ出す。答えへと辿り着く為に。
「……王が亡くなれば次の王になるのはお前。そんなことお前と出会った時から分かっていた。お前の父も王の器を持ちし者、彼が間違うはずもない。……思っていたより随分急で早いが」
概ねあの時思い描いた未来が来ているとコウジは言う。少し早まったがいつかは来た未来がと。
「僕と会った時からね……。思えば色んな人と会ってきた。色んな人と話し、教えられ、助けられたな」
椅子へ深く座り宙へ顔を向け、目を閉じる。閉じた瞼の裏に映るのは今までに出会った人々の顔。その顔の全てを覚えている。誰が何をしてくれたのか。何が彼らの為になるのか。
「……次は僕の番か」
目を開き、決意を口にする。
「ふっ、ようやく言葉にする気になったか」
「……はあ。イジワルだね、師匠は。そうさ、ようやく言葉にする気になったよ。それもこれも素晴らしいお師匠様のお陰です」
はじめから全てお見通しとでも言わんコウジの態度に苦笑するルーカス。だが、実際分かっていたのだろう。なんたってこの師匠だ。
「僕は王になる。父の跡を継ぎ王座へと座ろう。僕の為じゃない。民の為に」
言葉を紡ぐ。来たるべき未来の為の言葉を。王として民の為に力を尽くすと。
「それに僕には師匠達がいる。師匠に、シバルトに、レオニクス。何も恐れることなんてない。だって、お師匠様は世界最強なんだもんね?」
「ふっ。そうだとも。私以上の強者など存在しない。どんな困難があろうと我等がお前の力となろう」
師弟二人は決意した。己の思いに従うことを。その先に困難が待ち受けようとも仲間と共に立ち向かっていくことを。
「さあ、乾杯だ。ほら、お前の分だ」
「まったく、準備いいね」
差し出されたグラスを受け取り、薄く映る己の顔を見る。まだまだだなと映る顔を見ながらグラスを前へ。
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