最強師匠ズ、才能なしチートなしの私を育てる

ノミ

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十一話 ボクも師匠に!

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「ヴォウ! ヴォウヴォウ!!」
「ひえええぇぇ!!」
「あっはっは! もっと頑張れよー。追いつかれるぞー」
「そ、そんなこと言ったって、わっ、きゃああ!」
「あーあ」

 痛い痛い! 噛まれてる! 爪食い込んでる! 

「痛っ、やめっ、助けっ、シオンっ……」
「はいはい」

 寸でのところでシオンさんに助けられる。あ、危なかった。もう少しで喉食いちぎられるところだった。

「ハァハァ……。し、死ぬかと思った……」
「もっと頑張れよー。すぐ捕まってたら見てる俺が楽しくないだろ」
「シオンさんが楽しいかなんて知りませんよ!」

 ゴブリンに襲われ死にかけたあの日から、一日。私はまた死にかけていた。

「ううっ……。痛い……」
「はいはい。痛いの痛いの飛んでいけ~。はい」
「……ありがとうございます」

 噛まれ引っかかれ傷ついた身体はシオンさんによって一瞬で治される。昨日の死にかける程の傷も一瞬で治され、今日も元気に走らされる。

「よし。じゃあ、もう一本行くぞ。よーい……」
「ちょっ! 待って下さい! 大体逃げられる訳ないじゃないですか! ヴォルフは私よりずっと足が速いんですよ!」

 今日から再び始まったシオンさんの指導。それはヴォルフからの逃走。四足で鋭い牙と爪を持つ魔物ヴォルフ。その発達した四肢で素早く地を蹴り、素早い動きで翻弄し狩りをする獣型の魔物。それから逃げる。

「それぐらい知ってるけど? はい、よーい……」
「知ってるのになんで、いゃあああ!!」
「ドン。あっはっは」

 シオンさんの影踏みにより動きが止められていたヴォルフが動き出す。全速力で森の中を一直線に駆け抜ける私。それを追うヴォルフ。勝負はあっという間についた。

「………………」
「次行くぞ。よーい……」
「待って、待ってください……」

 追いつかれ殺されそうになり、シオンさんに助けてもらい治してもらう。これを朝から今までずっと繰り返している。この森を抜けられたら終了なんて言われてるけど終わる気がしない。

「無理ですよぉ。ヴォルフから逃げられる訳ないじゃないですか……」

 ヴォルフは私より遥かに足が速い。そして、今いるのは障害物の多い森の中で、森はヴォルフの絶好の狩場。私が逃げられるはずがない。

「出来る出来る。って言うより出来なきゃ冒険者なんてやってられねえぞ」
「ええ……」

 嘘だー。ヴォルフから逃げることが下手な冒険者なんていっぱいいると思うんだけど。そもそも逃げることが上手な冒険者なんて居るのかな? 強い冒険者ならいっぱい居るけど。

「いいか、逃げることは冒険者にとって必須能力だ。これが出来なきゃ冒険者はやってられない」
「……そうですか?」
「そりゃそうだ。いつでも戦うなんて選択してる奴はすぐ死ぬぞ。昨日逃げれなくて死にかけた奴いただろ」
「…………そうでしたね」

 私は昨日ゴブリン達に会った時逃げられなくて死にかけた。でも、あれは体力がなかっただけで万全な状態なら逃げられたのに。

「万全な状態なら逃げられたってか?」
「うえ!?」

 なんで!? 声に出してないのに!? 顔? 顔に出てた!?

「逃げるって言うのは格上との戦闘や無駄な戦闘を避けるだけじゃなくて、万全じゃない状態での自衛行動も含まれるんだぞ」
「自衛行動?」
「走るだけじゃなくて、隠れるや潜むなども逃げるだ。要するに自分に不利な状況を作らないための行動が逃げるだ」

 隠れたり、潜んだりするのも逃げる。自分に不利な状況を作らない。

「さっきまでミイナはずっと一直線に走ることしかしてなかっただろ。そんなんじゃ自分より足の速い奴に捕まるのは当然。もっとちゃんと逃げねえと。自分に出来ること。周りにあるもの。相手の能力。頭使えよ」

 ただ真っ直ぐ走ってるだけだから捕まる。確かに。考えてみればそれは当然だった。私より速いヴォルフから逃げるのにただ走ってるだけじゃ捕まるのは当然。

「よし。じゃあ、いくぞ。よーいドン」
「へ? ちょ、もおぉぉぉ! 急に始めないでー!」

 拘束から解かれ一斉に走り出すヴォルフ。私はそれから逃げるために走る。木を避け、草むらを飛び越し、走る。

「ヴォウヴォウヴ!」

 後ろから迫りくるヴォルフ。ただ走るだけじゃダメだ。何かしないと。

 走るながらあたりを見回す。ここはまだ森の中。あと少しで出れそうだけどまだまだ遠い。だから、あたりにあるのは木や草むらぐらい。

 草むらに飛び込んで隠れる? 見つかっているのに無理だ。なら、木を登る? 登っても降りられなくなるだけだし、ヴォルフは木も登れるし意味がない。

 あたりにあるのは木、草むら。私に出来るのは走るか歩くか。他に出来ること、私に出来ること。走る、歩く以外で。木や草むらを使って。……あ。

「ヴォウ! ヴォ……、ウ?」

 ヴォルフは困惑し、動きが止まる。……今だ!

「ヴ、ウ! ヴォヴヴウォ!」

 見つかった。でも、あと少し。あと少し走りきるだけ!

 ヴォルフは一瞬私を見失い、動きが止まった。それは私が消えたからだ。後ろから迫り来るヴォルフからすればそう思えただろう。何故なら、私は走って木を避けた後、その木に身を沿わし止まっていたから。後ろから追っていたら、木を避けた前の奴が突然消えた。そう思えたはずだ。

 だから、隙が出来た。その隙をついて私は森を駆け抜ける。私に気づき追いかけてくるヴォルフ。でも、もう遅い。

「ハッハッ、ハッ、ハッ、ッ抜けた!」

 ラストスパート全力で駆け抜け、そして、森を抜けた。森を抜けたら終了。やっと達成出来た。

「はあー、はぁ、疲れ、うわっ! まだ追ってきてる! シオンさんー!」

 森を抜け、草原へ。気持ちのいい天気の中、もう少しだけ追いかけっこした後、草原へ横たわる。気持ちいい。爽やかな風。草がふわっとした生える地面。そして、この達成感と身体の疲労感。すごく気持ちいい。あっ、シオンさんもどう……

「誰が休んでいいって言った? 行ったら帰る。森を抜けたらまた入る。さあ、行くぞ!」
「ええ! ちょっとぐらい休憩させて下さいよ!」

 ……鬼のようなシオンさんにせかされ、私は再び立ち上がる。

 仕方ない。頑張れ、私!

 自分で自分を元気づけ、私はシオンさんを追いかけた。
 
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