最強師匠ズ、才能なしチートなしの私を育てる

ノミ

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二十九話 対複数戦闘

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「まず、ミッちゃんは後ろに引きながら戦ってたけどね、あれダメ! 複数を相手にする時は引くなんてあり得ない!」

 リン師匠による対複数戦闘の指導。私は正座させられ、若干ニヤケ顔のリン師匠の話を聞く。

「で、でも、引かなかったら囲まれるじゃないですか」
「囲まれないよ! そのために動くんだよ!」

 動く? 動くって私もちゃんと動いていたのに……?

「あのね。動くって言っても軽く走る程度じゃないよ。全力疾走だよ?」
「ぜ、全力疾走?」
「そうだよ。ずっと止まることなく全力疾走。これが対複数戦闘では基本だよ」

 常に全力疾走なんて無理でしょ。しかもそれが基本って。

「全力疾走でひたすら動く。敵に囲まれないのは当たり前、敵に自分の姿を捉えられないようにするんだよ」
「ええ……。無理ですよ」

 そんなのリンさんじゃないと無理ですよ。私じゃ無理です。

「いける! やる! 頑張れ!」
「まさかの根性論!?」

 師匠……。根性論以外でお願いします……。私の根性腐ってますから。
 
「まあわざと見つかることあるんだけどね。……あっ。全力疾走が無理なら幽歩を使うといいよ」
「幽歩を?」

 幽歩って前に習った歩行方法だよね。相手の予想外を歩き、幽霊みたいになるってやつ。

「あれなら全力疾走しなくてもいけるよ」
「なるほど。でも、私まだ出来ないですよ」

 結局私は未だに幽歩を修得出来ていない。ジグザグ走りは出来るようになったけど。

「じゃ、ジグザグ走りでいいよ」
「いいんですか?」
「うん! 障害物を使ってジグザグ走りすれば敵に見つからないよ」

 なるほどなるほど。障害物も使って敵に見つからないようにすると。

「それで走り回って敵の隙を探すんだよ。で、見つけたら一撃。そして、また走り回る。走って一撃入れてまた走るの繰り返しだよ」

 走って一撃また走る。ヒットアンドアウェイってやつかな? 攻撃して引いて攻撃して。

「覚えておくことはひたすら走って止まらないことと一撃入れたらすぐまた走ることだよ。この二つは絶対守ってね」
「はい師匠!」
「むっふっ。分かったらゴーゴー! 鍛錬あるのみ!」
「……はい」

 あっ。やっぱり続きやるんですね。あのリザードマン達にもう一回挑めってことですね。

「安心しろミイナ。今のミイナにまだリザードマン二十体は厳しいからな、数を半減させといたぞ」
「本当ですかシオンさん!」

 なんと。シオンさんが私に優しさを見せてくれるなんて。なんか悪いことでも起こるんじゃないかと思っちゃう。

「ああ。だから、安心して張り切って行ってこい。あっ、これも持ってけ」
「はい!」

 シオンさんは私に先程のナイフを手渡してくれて、それを受け取り、私は二人に送り出されあのリザードマン達の元へと舞い戻った。



「……いた」

 森の中を戻り、リザードマン達を発見する。おお。シオンさんが言っていた通り数が半減している。二十いたのが今は十しかいない。シオンさんが半分倒してくれるなんて。

「……いくぞっ!」

 シオンさんのナイフを強く握り締め気合いを入れる。さあ、いくぞ。まずはもう少し近づかないと。

 慎重に森の中を進む。木や草むらに身を隠しながら少しずつ近づいて行く。

 一番近くのリザードマンまで八メートルほどまで来た。草むらの影に身を隠し、隙を伺う。もう少し近づきたい。けど、これ以上近づけないような気がする。なんだかさっきより警戒してる? 

「一つ言い忘れてたんだけどな」
「ひややああぁ!?」

 突然シオンさんの声が。そして、横を見ればシオンさんが。い、いつの間に、って言うか急に出て来るの止めて! 驚くから! 驚いて変な声出るから! 今そんな声、あっ。

「あいつら仲間殺されて殺意満々だから気をつけろよ」
「シャアアアアァ!!」
「言うタイミング!」
 
 シオンさんどんなタイミングでそれを、っていない! どこ行った! どこに消えたあの馬鹿師匠! 

「シャア!」
「ひょええぇ!」 
「ぷっ」

 危なっ! 槍、槍飛んできた! それに変な声出た! 笑われてた! 本当にどこに隠れてるんだシオンさんは! いやいや、今はそんなことより走らないと! 

 私は槍を避けた後すぐさま立ち上がり走り出す。こちらの位置はリザードマン達にバレている。だから、引くだけじゃダメだ。前にも出ないと。

 対複数戦闘の基本は全力疾走で走り回ること。それで相手に自分の姿を捉えさせないようにする。そして、それが出来なければ障害物を利用し幽歩をする。これが基本。

 この基本において今の私に出来ることは障害物を利用しながらジグザグに走り回ること。木を避けつつ森の中を走る。前後ろ、左右。様々な方向へと方向転換しながら走る。ジグザグ走りは修得出来ていたお陰か急激な方向転換も出来るようになっていた。

 そして、走り回ること数分、リザードマン達は私を見失った。

 やった。なんとか敵に私の姿を捉えられなくした。なら、次は隙を伺い一撃を入れること。おっと。止まっちゃダメだ。敵が私を見失ったとしても動き続けないと。多分隙が出来るのを待つより無理矢理作った方がいい。動いて隙を作らせる。

 止まることなく動き続け、リザードマン達に近いて行く。隙を作るために。でも、隙なんてどうやって作ろう。本当は死角に回り込んで一撃を入れるのが理想なんだろうけど、さっきから死角に回り込めないんだよね。走り回ってるから姿を完全に捉えさせていないけど、私のことは把握されている。

 私のおおまかな位置はまだバレている。私が通った後すぐにそこを見られてるし。音かな。走っている音でかな。

 死角からは無理となるとやっぱり隙を作らせるしかない。どうしよう? 隙を作るとなると驚かせるのがいいかな? でも、驚かせるか。どうやったら驚くかな。

 いつも驚かされてばかりだし、驚かすとなると難しいな。ついさっきだってシオンさんに驚かされたし。あれはびっくりした。突然現れて突然消えてるんだし。…………あっこれだ。

 私が突然現れて、突然消えればリザードマンだって驚くだろう。よし、じゃあ驚かせに行こう。

 今私の近くにいるリザードマンは二体。他の八体はどうやら私を追いつつも私に対してはあまり警戒していないみたい。シオンさんに半分倒されたんだから私よりシオンさんを警戒してるのかな。なら、これは隙だ。隙だらけだ、リザードマンの群れ。

 私は走る。もう少し。もう少し動け。……今! 

 タイミングを図り、私は飛び出した。

「! シャア!!」

 二匹のリザードマンが私に気づく。二匹の内私に遠い方は私の真っ直ぐ直線上にいる。そのリザードマンに向かって私は全力で近づいていく。

「シャアアアァ!」

 そのリザードマンより手前にいたリザードマンは私の左側から私へ攻撃を仕掛ける。持っている武器は剣。槍ではない。私をその剣で斬るなら私へ近づかないといけない。だから、手前のリザードマンは左側から私へ近づき、私を斬ろうとした。

 対複数戦闘の基本は走り回り、障害物も利用すること。何もそれは立ち回る時だけの基本じゃない。攻撃の時だってこれが基本となるんだ。
 
 手前のリザードマンの攻撃を私は左へ身を捻り避ける。避けて、私は加速する。


「そこぉ!!」

 思いっきり手を突き出す。シオンさんから借りたナイフを強く握り締め。そして、その手は深々と奥にいたリザードマンの腹へと突き刺さった。

 障害物は何も木や草むらだけじゃない。敵からしたら彼らの仲間も障害物となり得るのだ。左から来たリザードマンにより私の姿は隠された。だから、奥のリザードマンに隙が出来た。私を見失ったから。仲間が障害物となり私が消えたから。

 一撃を入れたらすぐにまた走り出す。これも対複数戦闘の基本。私はリザードマンの脇腹に刺さったナイフを抜き、横をすり抜けようとする。しかし、

「ふあ、くうっ……」

 横をすり抜けようとした時、手負いのリザードマンから反撃を受ける。長い尻尾による足払い。それに引っかかり転倒しかけるもなんとか前回り受身を取ることで回避。しかし、前回り受身から立ち上がるまでの時間はあまりにも痛いロスだった。

「シャアアアァ!!」

 さっき目隠しとして使ったリザードマンが私の背後に迫る。そして、立ち上がったばかりで避けるのことの出来ない私へ剣を振り下ろす。

 私の背後で振り下ろされた剣。それがどうなったのか分からない。でも、私の背後でキィンという鋭い音がした。そして、私は振り下ろされた剣で斬られずにいて、振り返るとそこには

「合格だよっ! ミッちゃん百点!」

 リザードマンの剣を斬り捨て、満面の笑みで笑っているリンさんがいた。
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