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三十五話 強さ ⑤
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「シオン、さん……?」
私を覆うように現れた影。それはシオンさんだった。
「夜中に女一人で出歩くなんて襲って下さいって言ってんのか?」
「いや、そんなつも……」
「そうかそうか。なら、襲ってやろう。よっ」
「え? ふえええぇ!!?」
飛んでる!? 私空飛んでる!? 私は突如空に浮かび上がった。
「こらこら。暴れんなよ。落っことすだろ」
「お、落っことす!?」
どうやって空を飛んでるのかは分からないけどシオンさんの魔法だろう。と言うかそれしかない。私には空を飛ぶなんて魔法は使えないから。
私はもう大人しくシオンさんに連れ去られるまま空を飛んだ。商業都市を上から眺め、上を向けばいつもより近い星。
「上見るよりあれ見ろ」
「あれ?」
あれって言われても暗いし遠いしであんまり見えない……。ぼんやりしか見えないけど、あれは人?
「ほら」
「わっ!」
すごい。突然すごく見えるようになった。これもシオンさんの魔法か。いや、そんなことより、
「リンさん……?」
私が見ていた人影、それはリンさんだった。
「こんな時間に何を……」
「こんな時間ってお前もだろ」
「そ、それはそうですけど」
「まあ、リンはミイナと違ってここ最近よく夜こうしてるけどな」
リンさんは最近よく夜こうしてる? あっ、確かに最近リンさんは昼間よく眠そうにしていることがあるけど、これのせいなのかな。
リンさんは商業都市の壁の外を歩いていた。そして、どんどん壁から離れていく。でも、なんだかその表情は暗い。悲しそうな凹んでいるような。今にも泣き出しそうなそんな暗い表情。
「あっ……、止まった」
リンさんは商業都市から少し歩いたところで止まった。何もない原っぱで。そして、
「……素振り?」
刀を抜き、素振りをし始めた。
始めは軽い素振りから始まり、徐々に複雑な動きや型へと変わっていく。私が知っているものもあれば知らないものもある。リンさんはそれらを一つ一つ確認するかのように振るう。
「最近はよくこうやって夜やることが多くなっててな。今日も眠そうにしてただろ?」
「はい……」
「前までは昼間にできてたんだけどな。お前が気絶してる間に」
私が気絶してる間に? それって修行の時気絶して起こそうにも起きない時?
「でも、近頃はお前気絶しなくなったからな。だから、こうして夜やってるんだよ」
そう言えば最近私は気絶しなくなった。前までは気絶して気づいたらベッドの上で次の日を迎えてるなんてことが多かったけど、最近は自分の足でベッドに向かって瞬間で眠りについている。
「でも、リンは今成長期だろ? だから、夜寝ろって言ってんのにあいつ聞かねえんだよ。じゃあ、昼間やれって言っても駄目でな」
リンさんは今丁度成長期なんだから夜寝て身体を成長させるべきだ。でも、それをしない。
「どうしてですか……?」
「ミイナのためだと」
「私の……」
私のためにリンさんはこうしている? それって、
「『ボクは師匠だから。弟子が強くなるためにちゃんと教えないといけないし、ボクも強くないと!』だとよ」
……やっぱり私は邪魔ばかりしているんだ。リンさんは昼間は私の指導をするから自分のことが出来なくなる。それで夜に。……私が居なければリンさんが不自由を被ることもなくなるな。
「でも、こんなことしなくてもリンさん十分強いのに……」
リンさんは私と違って遥かに強い。だから、わざわざ睡眠時間を削ってまでこんなことしなくても……。
「何言ってんだ。こんなことをしてるから強いんだろ。ちゃんと鍛錬を積み重ねられてるから強いんであって、達人だから強いんじゃないぞ」
達人だから強いんじゃない? 積み重ねられるから強い? それってどういう、
「あっ……」
休むことなく刀を振るっていたリンさん。でも、その表情はずっと暗かった。そして、ついに泣き出してしまった。瞳から涙が溢れ、大粒の雫がリンさんの頬を伝い、落ちていく。
「リンさん……」
涙はどんどん溢れてくる。大粒の涙が溢れては落ち、溢れては落ちていく。止まる様子もない涙。でも、リンさんは止まらなかった。
リンさんは涙を流しながらも今尚動き続ける。唇を噛み締めるも涙は流れる。しかし、リンさんは止まらない。
刀を振るう。足を動かす。止まらない。涙が流れていようとも動き続ける。
「武神の有り難ーいお言葉にだな、『強き者は決して止まらない。例え、何があろうとも歩み続けられる者だけが強くなれる』って言うのがある。あれはまさにそのいい見本だな」
強き者は止まらない。何があろうとも歩み続ける……。それはまさに今のリンさんを表す言葉のようで。
「人間の心なんて簡単に変わるし、折れる。だが、心が変わろうが折れようが歩み続けること、身体を止めず、積み重ねることが出来るなら強くなれるだとよ。あんな風に日々の積み重ねが大事だってよ」
心が折れようとも、日々の積み重ねを……。
「達人たちはみな止まることなく歩み続けられたことによりその域にまで至ることが出来た。だが、どんな達人だろうと初めはみんな一緒だ。右も左も分からねえ素人から始まり、日々積み重ねを繰り返すことによりその域に至る。初心者、中級者、上級者。そして、達人へと」
「………………」
「リンは強い。腕前だけなら達人の中でも上位に入るだろうな。だが、まだまだ未熟だ。腕前も精神面も。そして、師としても」
リンさんが未熟……?
「今まで弟子なんて持ったことねえから変に張り切ったり力入れてたりするだろ。それで上手く行く時もあれば空回りしてる時もある。だから、今みたいに悩んだり思い詰めて泣いたりもする。師も達人も同じ人間だ」
師も達人も同じ人間。私と同じ……?
「でも、止まることはないはずだ。自らの鍛錬も師としての経験も積み重ね続ける。それが自分のためでもあり、弟子のためであるからな。達人だからって止まりはしない。明日になればまたキィキィうるせえ馬鹿声が響くだろうよ」
積み重ね。リンさんも積み重ねて来て、これからも積み重ねる。達人になっても止まらない。それが強さ……。
「ま、リンが師として続けられるかは知らねえが。弟子が居なくなりゃ師匠なんて名乗れないしな」
「………………」
「おっと。勘違いすんなよ。別に続けることを強制してる訳じゃねえ。弟子なんて居なくなれば新しいの取ればいいだけだしな。それに新しく高性能なの取ったほうが楽に指導出来て経験も積めるから一石二鳥だし。止めてくれても結構。と言うか『リンの為に』とか考えるなら止めろ」
止める……? 止めた方がいい? リンさんの為に。迷惑をかけない為にも?
「自分の人生なんだ。自分で決めろ。自分がどうしたいのか、どうなりたいのか。自分の為に決めろ。他人がどうこうは為にならねえし、ただの言い訳だ」
……私が、私がどうしたいのか。どうなりたいのか。
さっきも考えていたけど答えは出ていない。私はこのまま続けるべきなのか。止めるべきなのか。
私が続ければ師匠に迷惑がかかるだろう。リンさんもシオンさんも自分のために割く時間が減る。私が続ければ二人に迷惑が……、……いや、違う。
「………………強くなりたい。強くなりたいと思って、それでシオンさんと出会って、その強さに憧れて弟子入りしました」
そうだ。私は強くなりたいと思った。いや、ならないといけないと。そして、シオンさんと出会い強さを見つけた。圧倒的で何者にも屈することのない強さを。それに憧れ、私もなりたいと思いシオンさんに弟子入りした。
「でも。でも、私は強くなれるんでしょうか。私は、私は、弱くて、駄目でずるくてどうしようも、なくて」
泣くな。今は泣く時じゃない。
「私が弱いのを人のせいにしてっ、二人に迷惑がかかるがらとか、リンさんの為にとか、逃げる理由をっ、人のせいにするような弱い私が」
私は弱い。身体も心も全てが。でも、私は決めたはずだ。あの日、何も出来ず弱かったあの時に。
「……それでも、それでも強くなりたいんです! 私は、私はシオンさんみたいに! 強くなって、自分を変えたい! だから、私はまだ続けたい! お二人にとって迷惑でも、私は続けたい! 強くなりたいんです!!」
シオンさんがとかリンさんがとかじゃなく。私がなりたいからそうしたい。私の為に、私が決めたこと。私はまだ続けたい。二人に師事して強くなりたい。
「……そうか。それがお前の答えだな?」
「はいっ……!」
「今まで通り俺達に師事し、今まで以上にキツイ修行にも耐えて強くなりたいと」
「は、はいっ!」
「そうかそうか」
ぽんと私の肩へ手を置くシオンさん。シ、シオンさん……!
「なら、今日サボった分頑張らねえとな」
「え? えええええぇぇ!?」
シオンさんは私の肩に手を置き、そして、押した。トンっと私は押され、何も支えがない宙から私は落ちていった。
「えええー…………」
「……うっ、ん? ひみゃああああぁぁ!?」
「うげっ! 痛だ! ……くない……」
シオンさんに押され空から落ちた私。咄嗟に受身なんて取ってみたけど効果なんてあるはずない。こんな無傷なのはシオンさんのお陰だろう。
「ミ、ミッぢゃん……?」
「リンざん……」
身体を起こしリンさんを見る。リンさんはずっと泣いていたからかひどい顔で私を見ていた。でも、それは私も同じ。私もひどい顔をしているだろう。お互い相手の顔を見て自分の顔もひどいことを思い出し、顔を直す。そして、向き合う。
「……ど、どうしたの? ミッちゃん。こんな時間に……」
「……それはリンさんこそ……」
「………………」
「………………」
私もリンさんも沈黙してしまう。でも、私はやらないと。しなくてはいけないことがある。
「……ご、ごめんなさい!」
「え?」
私は謝らないといけない。私がしたことに対して。
「リンさんが自分の時間を削ってまで指導してくれているのに、私全然聞いてなくて、やる気なくてっ……」
リンさんは自分の時間を削ってまでして私の指導に当たってくれていた。でも、それを私は蔑ろにした。
「でも、私気づいたんです。私は強くなりたくて、それはリンさんとシオンさんと一緒になりたいものだって」
私は強くなりたい。でも、それは一人でじゃない。シオンさんにバカにされながら、リンさんに癒やされながら、一緒に笑って笑われて。そんな風に、今までみたいにしながら強くなりたい。それが多分正しいから。
「だから、私にチャンスをくれませんか。これからはちゃんと頑張りますから、どうか私にチャンスを。こんな不甲斐ない私を、弟子にしてくれませんか?」
弱くてどうしようもなく不甲斐ない私だけど、もう逃げない。もう止まらない。これからは頑張る。私の為に。そして、師匠の為にも。
「……うんっ。も、もちろんだよっ。こんな、ごんなボクでいいならっ……。……ううっ、ごめんねぇ……!」
「え?」
「ボク、教えるの下手で、ミッぢゃんの気持ちとか、全然考えてなぐて……、うっうっ、ダメな師匠でごめんねえぇ!」
「リン、さんっ……。な、泣かないでくだざいよお……。悪いのは、わだじなんですからぁ……」
リンさんそんなこと思ってたんだ。そんなことはない。リンさんは悪くないのに。
リンさんは泣き出し、私も釣られて泣いた。二人共何も気にせず思いっきり泣いた。泣き止むこともなく泣き続けて、しばらくの間二人共会話にならなかった。
そして、一頻り泣いた後、泣き止んだ。
「うっう……。……ホントに、ボクなんかでいいの……? ボク、教えるの下手だし、強くもないし……」
「そんなこと、ないです……。リンさんは強いし、教えるのも上手です」
「でも、ボクよりシオンの方が上手だし、強いよ……?」
確かにシオンさんは強いし教えるのも上手だ。でも、私はリンさんにも教えて欲しい。リンさんとも一緒でありたい。
「……じゃあ、一緒に強くなりましょうよ。二人で頑張って、シオンさんよりも強くなりましょう?」
「…………うん。うんっ! 頑張る……! 頑張ろう!」
私もリンさんもまだまだ未熟。だから、共に強くなりたい。シオンさんを超えるぐらい、強く。
「ねへへ、ミッちゃんひどい顔……」
「リンさんこそ。ひどいですよ……」
「…………ぷっ。なはははっ……!」
「ふふっ、あははっ……!」
お互いひどい顔のまま笑い合う。でも、顔はひどくても心は晴れやかだ。
「ボク続きやるけど、一緒にやる……?」
「はいっ!」
いつまでも泣いてなんかいられない。止まってなんかいられない。進もう。今日サボった分もやらないといけないし。
月はまた私を照らしてくれていた。美しく、力強く。私が迷わないように。私の影が出来るように。
私はもう止まらない。歩み続ける。リンさんとシオンさんと共に。いつか私も二人と同じ高みまで至れるように。
私を覆うように現れた影。それはシオンさんだった。
「夜中に女一人で出歩くなんて襲って下さいって言ってんのか?」
「いや、そんなつも……」
「そうかそうか。なら、襲ってやろう。よっ」
「え? ふえええぇ!!?」
飛んでる!? 私空飛んでる!? 私は突如空に浮かび上がった。
「こらこら。暴れんなよ。落っことすだろ」
「お、落っことす!?」
どうやって空を飛んでるのかは分からないけどシオンさんの魔法だろう。と言うかそれしかない。私には空を飛ぶなんて魔法は使えないから。
私はもう大人しくシオンさんに連れ去られるまま空を飛んだ。商業都市を上から眺め、上を向けばいつもより近い星。
「上見るよりあれ見ろ」
「あれ?」
あれって言われても暗いし遠いしであんまり見えない……。ぼんやりしか見えないけど、あれは人?
「ほら」
「わっ!」
すごい。突然すごく見えるようになった。これもシオンさんの魔法か。いや、そんなことより、
「リンさん……?」
私が見ていた人影、それはリンさんだった。
「こんな時間に何を……」
「こんな時間ってお前もだろ」
「そ、それはそうですけど」
「まあ、リンはミイナと違ってここ最近よく夜こうしてるけどな」
リンさんは最近よく夜こうしてる? あっ、確かに最近リンさんは昼間よく眠そうにしていることがあるけど、これのせいなのかな。
リンさんは商業都市の壁の外を歩いていた。そして、どんどん壁から離れていく。でも、なんだかその表情は暗い。悲しそうな凹んでいるような。今にも泣き出しそうなそんな暗い表情。
「あっ……、止まった」
リンさんは商業都市から少し歩いたところで止まった。何もない原っぱで。そして、
「……素振り?」
刀を抜き、素振りをし始めた。
始めは軽い素振りから始まり、徐々に複雑な動きや型へと変わっていく。私が知っているものもあれば知らないものもある。リンさんはそれらを一つ一つ確認するかのように振るう。
「最近はよくこうやって夜やることが多くなっててな。今日も眠そうにしてただろ?」
「はい……」
「前までは昼間にできてたんだけどな。お前が気絶してる間に」
私が気絶してる間に? それって修行の時気絶して起こそうにも起きない時?
「でも、近頃はお前気絶しなくなったからな。だから、こうして夜やってるんだよ」
そう言えば最近私は気絶しなくなった。前までは気絶して気づいたらベッドの上で次の日を迎えてるなんてことが多かったけど、最近は自分の足でベッドに向かって瞬間で眠りについている。
「でも、リンは今成長期だろ? だから、夜寝ろって言ってんのにあいつ聞かねえんだよ。じゃあ、昼間やれって言っても駄目でな」
リンさんは今丁度成長期なんだから夜寝て身体を成長させるべきだ。でも、それをしない。
「どうしてですか……?」
「ミイナのためだと」
「私の……」
私のためにリンさんはこうしている? それって、
「『ボクは師匠だから。弟子が強くなるためにちゃんと教えないといけないし、ボクも強くないと!』だとよ」
……やっぱり私は邪魔ばかりしているんだ。リンさんは昼間は私の指導をするから自分のことが出来なくなる。それで夜に。……私が居なければリンさんが不自由を被ることもなくなるな。
「でも、こんなことしなくてもリンさん十分強いのに……」
リンさんは私と違って遥かに強い。だから、わざわざ睡眠時間を削ってまでこんなことしなくても……。
「何言ってんだ。こんなことをしてるから強いんだろ。ちゃんと鍛錬を積み重ねられてるから強いんであって、達人だから強いんじゃないぞ」
達人だから強いんじゃない? 積み重ねられるから強い? それってどういう、
「あっ……」
休むことなく刀を振るっていたリンさん。でも、その表情はずっと暗かった。そして、ついに泣き出してしまった。瞳から涙が溢れ、大粒の雫がリンさんの頬を伝い、落ちていく。
「リンさん……」
涙はどんどん溢れてくる。大粒の涙が溢れては落ち、溢れては落ちていく。止まる様子もない涙。でも、リンさんは止まらなかった。
リンさんは涙を流しながらも今尚動き続ける。唇を噛み締めるも涙は流れる。しかし、リンさんは止まらない。
刀を振るう。足を動かす。止まらない。涙が流れていようとも動き続ける。
「武神の有り難ーいお言葉にだな、『強き者は決して止まらない。例え、何があろうとも歩み続けられる者だけが強くなれる』って言うのがある。あれはまさにそのいい見本だな」
強き者は止まらない。何があろうとも歩み続ける……。それはまさに今のリンさんを表す言葉のようで。
「人間の心なんて簡単に変わるし、折れる。だが、心が変わろうが折れようが歩み続けること、身体を止めず、積み重ねることが出来るなら強くなれるだとよ。あんな風に日々の積み重ねが大事だってよ」
心が折れようとも、日々の積み重ねを……。
「達人たちはみな止まることなく歩み続けられたことによりその域にまで至ることが出来た。だが、どんな達人だろうと初めはみんな一緒だ。右も左も分からねえ素人から始まり、日々積み重ねを繰り返すことによりその域に至る。初心者、中級者、上級者。そして、達人へと」
「………………」
「リンは強い。腕前だけなら達人の中でも上位に入るだろうな。だが、まだまだ未熟だ。腕前も精神面も。そして、師としても」
リンさんが未熟……?
「今まで弟子なんて持ったことねえから変に張り切ったり力入れてたりするだろ。それで上手く行く時もあれば空回りしてる時もある。だから、今みたいに悩んだり思い詰めて泣いたりもする。師も達人も同じ人間だ」
師も達人も同じ人間。私と同じ……?
「でも、止まることはないはずだ。自らの鍛錬も師としての経験も積み重ね続ける。それが自分のためでもあり、弟子のためであるからな。達人だからって止まりはしない。明日になればまたキィキィうるせえ馬鹿声が響くだろうよ」
積み重ね。リンさんも積み重ねて来て、これからも積み重ねる。達人になっても止まらない。それが強さ……。
「ま、リンが師として続けられるかは知らねえが。弟子が居なくなりゃ師匠なんて名乗れないしな」
「………………」
「おっと。勘違いすんなよ。別に続けることを強制してる訳じゃねえ。弟子なんて居なくなれば新しいの取ればいいだけだしな。それに新しく高性能なの取ったほうが楽に指導出来て経験も積めるから一石二鳥だし。止めてくれても結構。と言うか『リンの為に』とか考えるなら止めろ」
止める……? 止めた方がいい? リンさんの為に。迷惑をかけない為にも?
「自分の人生なんだ。自分で決めろ。自分がどうしたいのか、どうなりたいのか。自分の為に決めろ。他人がどうこうは為にならねえし、ただの言い訳だ」
……私が、私がどうしたいのか。どうなりたいのか。
さっきも考えていたけど答えは出ていない。私はこのまま続けるべきなのか。止めるべきなのか。
私が続ければ師匠に迷惑がかかるだろう。リンさんもシオンさんも自分のために割く時間が減る。私が続ければ二人に迷惑が……、……いや、違う。
「………………強くなりたい。強くなりたいと思って、それでシオンさんと出会って、その強さに憧れて弟子入りしました」
そうだ。私は強くなりたいと思った。いや、ならないといけないと。そして、シオンさんと出会い強さを見つけた。圧倒的で何者にも屈することのない強さを。それに憧れ、私もなりたいと思いシオンさんに弟子入りした。
「でも。でも、私は強くなれるんでしょうか。私は、私は、弱くて、駄目でずるくてどうしようも、なくて」
泣くな。今は泣く時じゃない。
「私が弱いのを人のせいにしてっ、二人に迷惑がかかるがらとか、リンさんの為にとか、逃げる理由をっ、人のせいにするような弱い私が」
私は弱い。身体も心も全てが。でも、私は決めたはずだ。あの日、何も出来ず弱かったあの時に。
「……それでも、それでも強くなりたいんです! 私は、私はシオンさんみたいに! 強くなって、自分を変えたい! だから、私はまだ続けたい! お二人にとって迷惑でも、私は続けたい! 強くなりたいんです!!」
シオンさんがとかリンさんがとかじゃなく。私がなりたいからそうしたい。私の為に、私が決めたこと。私はまだ続けたい。二人に師事して強くなりたい。
「……そうか。それがお前の答えだな?」
「はいっ……!」
「今まで通り俺達に師事し、今まで以上にキツイ修行にも耐えて強くなりたいと」
「は、はいっ!」
「そうかそうか」
ぽんと私の肩へ手を置くシオンさん。シ、シオンさん……!
「なら、今日サボった分頑張らねえとな」
「え? えええええぇぇ!?」
シオンさんは私の肩に手を置き、そして、押した。トンっと私は押され、何も支えがない宙から私は落ちていった。
「えええー…………」
「……うっ、ん? ひみゃああああぁぁ!?」
「うげっ! 痛だ! ……くない……」
シオンさんに押され空から落ちた私。咄嗟に受身なんて取ってみたけど効果なんてあるはずない。こんな無傷なのはシオンさんのお陰だろう。
「ミ、ミッぢゃん……?」
「リンざん……」
身体を起こしリンさんを見る。リンさんはずっと泣いていたからかひどい顔で私を見ていた。でも、それは私も同じ。私もひどい顔をしているだろう。お互い相手の顔を見て自分の顔もひどいことを思い出し、顔を直す。そして、向き合う。
「……ど、どうしたの? ミッちゃん。こんな時間に……」
「……それはリンさんこそ……」
「………………」
「………………」
私もリンさんも沈黙してしまう。でも、私はやらないと。しなくてはいけないことがある。
「……ご、ごめんなさい!」
「え?」
私は謝らないといけない。私がしたことに対して。
「リンさんが自分の時間を削ってまで指導してくれているのに、私全然聞いてなくて、やる気なくてっ……」
リンさんは自分の時間を削ってまでして私の指導に当たってくれていた。でも、それを私は蔑ろにした。
「でも、私気づいたんです。私は強くなりたくて、それはリンさんとシオンさんと一緒になりたいものだって」
私は強くなりたい。でも、それは一人でじゃない。シオンさんにバカにされながら、リンさんに癒やされながら、一緒に笑って笑われて。そんな風に、今までみたいにしながら強くなりたい。それが多分正しいから。
「だから、私にチャンスをくれませんか。これからはちゃんと頑張りますから、どうか私にチャンスを。こんな不甲斐ない私を、弟子にしてくれませんか?」
弱くてどうしようもなく不甲斐ない私だけど、もう逃げない。もう止まらない。これからは頑張る。私の為に。そして、師匠の為にも。
「……うんっ。も、もちろんだよっ。こんな、ごんなボクでいいならっ……。……ううっ、ごめんねぇ……!」
「え?」
「ボク、教えるの下手で、ミッぢゃんの気持ちとか、全然考えてなぐて……、うっうっ、ダメな師匠でごめんねえぇ!」
「リン、さんっ……。な、泣かないでくだざいよお……。悪いのは、わだじなんですからぁ……」
リンさんそんなこと思ってたんだ。そんなことはない。リンさんは悪くないのに。
リンさんは泣き出し、私も釣られて泣いた。二人共何も気にせず思いっきり泣いた。泣き止むこともなく泣き続けて、しばらくの間二人共会話にならなかった。
そして、一頻り泣いた後、泣き止んだ。
「うっう……。……ホントに、ボクなんかでいいの……? ボク、教えるの下手だし、強くもないし……」
「そんなこと、ないです……。リンさんは強いし、教えるのも上手です」
「でも、ボクよりシオンの方が上手だし、強いよ……?」
確かにシオンさんは強いし教えるのも上手だ。でも、私はリンさんにも教えて欲しい。リンさんとも一緒でありたい。
「……じゃあ、一緒に強くなりましょうよ。二人で頑張って、シオンさんよりも強くなりましょう?」
「…………うん。うんっ! 頑張る……! 頑張ろう!」
私もリンさんもまだまだ未熟。だから、共に強くなりたい。シオンさんを超えるぐらい、強く。
「ねへへ、ミッちゃんひどい顔……」
「リンさんこそ。ひどいですよ……」
「…………ぷっ。なはははっ……!」
「ふふっ、あははっ……!」
お互いひどい顔のまま笑い合う。でも、顔はひどくても心は晴れやかだ。
「ボク続きやるけど、一緒にやる……?」
「はいっ!」
いつまでも泣いてなんかいられない。止まってなんかいられない。進もう。今日サボった分もやらないといけないし。
月はまた私を照らしてくれていた。美しく、力強く。私が迷わないように。私の影が出来るように。
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