仔猫殿下と、はつ江ばあさん

鯨井イルカ

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第二章 フカフカな日々

しっかりな一日・その十二

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 シーマ十四世殿下一行は、歌を遠く離れた世界へ送ることに成功したのだった。

 シーマは「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」を覗き込むと、耳と尻尾をピンと立ててうなずいた。

「よし。二人ともイザコザをやめたみたいだぞ」

 シーマの言葉を受けて……

「本当!? やったー!」

「みっみー!」

 モロコシとミミはピョコピョコと飛び跳ね……

「よかった……」

 絵美里はピアノへ崩れ落ちるように脱力し……

「よかっただぁね! 絵美里さん!」

 ……はつ江は絵美里の肩をポンポンとなでた。

 一同がホッとする中、シーマは腕を組むと、尻尾の先をピコピコと動かした。

「さて、二人が休戦してるうちに、絵美里さんを向こうの世界へ返したいんだけど……」

 どうしようかな、とシーマは言おうとした。まさにそのとき!


「よい子のみんな! 待たせたな!」


 聞き覚えのある声が、部屋の中に響き……


「とぅ!」


 掛け声とともに、リアルなバッタのお面をつけ、赤いスカーフをまき、黒い乗馬服に身を包んだ、堅牢な角をした赤銅色の長髪の人物が舞い降り……


「正義の使者、バッタ仮面、参上!」


 決めポーズとともに、高らかに名乗りを上げた。

 本編では百話以上ぶりに、バッタ仮面一号の登場だ。

 そんなバッタ仮面の同時に……

「わぁ! バッタ仮面さんだぁ!」

「みー! みっみみー!」

 モロコシとミミは、目を輝かせながらピョコピョコと飛び跳ねて喜び……

「バッタ仮面さんや、こんにちは!」

 はつ江は、ハツラツとした笑顔で挨拶し……

「あの……、そのお声は陛……、えーと、でも……、バッタ仮面……さん?」

 絵美里はオロオロとした表情で戸惑い……

「まあ……、そうだろうとは思ってたけど……」

 ……シーマはヒゲと尻尾をダラリと垂らして脱力した。

 例によって例のごとくな反応をすると、シーマがはつ江とバッタ仮面に手招きをした。

「あー、二人とも、ちょっとこっちに来てくれ」

「分かっただぁよ!」
「分かったのだ!」

 二人が元気よく返事をすると、シーマは力なくうなずいて、部屋の隅に移動した。そして、恒例の内緒話が始まった。


「まずは、兄貴、来てくれてありがとう」

「気にするな……、じゃなかった、私は魔王ではなく、バッタ仮面なのだ!」

「今、そういうのいいから……」

「あれまぁよ、バッタ仮面さんは、ヤギさんだったのかい」

「……はつ江も、棒読みでのらなくていいから。ともかく、事情はさっきメッセージで送った通りなんだ」

「ああ、さっき確認した。反応が遅くなってしまって悪かった……」

「いや、とりあえず間に合ったから大丈夫だよ」

「今、みんなでお歌を歌って、創さんと明君のケンカをやめてもらってるんだぁよ!」

「そうか……、応急対策をしてくれてありがとう。あとは、俺に任せてくれ」

「ああ、ありがとう兄貴」

「ありがとうね、ヤギさん!」

「いや、気にするな。じゃあ、二人とも、バッタ仮面に合わせてくれ」

「……やっぱり、そこは譲らないんだな」

「わはははは! 任せるだぁよ!」


 そんなこんなで、三人はコクリとうなずくと、絵美里たちのもとに戻った。

「よい子のみんな! 待たせたな! 今日はシーマ君と魔王から連絡を受けて、絵美里さんをもとの世界に帰すお手伝いをしにきたのだ!」

「わぁ! バッタ仮面さんありがとう!」

「わー、バッタ仮面さんありがとー」

「みみみみー!」

 仔猫たちが三者三様に喜ぶと、はつ江がニッコリと笑って絵美里の肩をポンとなでた。

「絵美里さん、よかったね」

「あ、えーと、はい、そうですね……、ありがとうございます、バッタ仮面さん?」

 戸惑いながらも絵美里が頭を下げると、魔王……もとい、バッタ仮面はコクリとうなずいた。

「気にしなくていいのだ! では、シーマ君、テーブルの上にあるお土産を向こうの世界に持って帰っていいか、『よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)』でスキャンしてくれ!」

「……うん! 分かったよ、バッタ仮面さん!」

 シーマは白々しく返事をすると、「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」をテーブルの上にむけた。すると、すぐさま画面に、大きな丸が映し出された。

「バッタ仮面さん! みんな持って帰って平気だったよ!」

「そうか! 調べてくれてありがとうなのだ、シーマ君! それでは、絵美里さん!」

 不意に声をかけられて、絵美里はビクリと肩を震わせた。

「は、はい! なんでしょうか、陛……ではなく、バッタ仮面さん?」
 
「今から転移魔法で、もとの世界に戻しますが、大丈夫ですか……、なのだ!」

 若干、素に戻りつつもバッタ画面が尋ねると、絵美里はコクリとうなずいた。

「は、はい。よろしくお願いします」

 絵美里がペコリと頭を下げると、バッタもコクリとうなずいた。
 そんなやりとりを見て、モロコシとミミが耳をぺたんと伏せて、尻尾をダラリと垂らした。

「絵美里先生が帰っちゃうと、ちょっと淋しくなるね……」

「みみー……」

「そうですね……」

 二人の言葉を受けて、絵美里も淋しげな表情を浮かべた。すると、バッタ仮面が膝をかがめて、モロコシとミミの頭をポフポフとなでた。

「二人とも、安心するのだ! 絵美里さんは魔界のみんなに優しくしてくれたから……」

 そう言うとバッタ仮面は立ち上がり、上着のポケットをゴソゴソとあさった。

 そして……

「この、『よい子のルンルン魔界フリーパス』を授けよう……、と魔王から伝言があったのだ!」

 ……そう言いながら、折り紙のメダルのようなパスポートを取り出して、差し出した。

「これがあれば、いつでも魔界に遊びに来られるのだ! 絵美里さんがもとの世界に戻った日の一週間後から使えるぞ!」

 バッタ仮面の言葉に、モロコシとミミは耳と尻尾をピンと立てた。

「本当!? 絵美里先生、ぜったい遊びに来てね!」

「みみー、みみみみー!」

 モロコシとミミがピョコピョコ飛び跳ねると、絵美里はフワリと笑って二人を抱きしめた。

「ええ、絶対に遊びに来ますよ。二人とも、またね」

「うん! またね、絵美里先生!」

「みみみー!」

 絵美里はもう一度二人をぎゅっと抱きしめてから、ゆっくりと立ち上がった。

「それでは……、殿下、はつ江さん、陛……バッタ仮面さん、今日は本当にありがとうございました」

 それから、三人に向かって深々と頭を下げた。

「いえいえ、気にしないでください。向こうでもお元気で」

「絵美里さん、向こうで会ったら、お茶でもしようね!」

「今まで民たちが世話になったな……、のだ! では、転移魔法を始めるのだ!」

 三人の言葉を受けて、絵美里はコクリとうなずいた。

 それから、バッタ仮面は複雑な呪文を唱えはじめた。すると、絵美里の頭上に魔法陣が現れ、あたりは眩い光に包まれ、バッタ仮面以外の一同は目をつぶった。

 光がおさまり一同が目を開くと、絵美里とテーブルに置かれたお土産たちは、スッカリと姿を消していた。

 かくして、魔王……もとい、バッタ仮面の活躍により、仔猫殿下とはつ江ばあさん一行は、絵美里を無事にもとの世界に戻すことに成功したのだった。
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