婚約者を妹に譲ったうえに左遷されたあやかし退治人ですが、なぜか結婚して溺愛されることになりました。

鯨井イルカ

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各々の顛末とかそういうやつ・三

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 青雲の本部には他の面々と同じようにリツたちの部屋も設けられていた。

「なんだかまた厄介なことになりましたね」

「そうだねぇ」

 独り言のような呟きに、当然のように側にいるセツが相槌を打つ。一応は別々の部屋を割り当てられていたが行き来はとくに禁じられていない。シミュレーションやうろ覚えの記憶のなかに比べれば、絶対的に不利な状況というわけではないのだろう。

 とはいえ。

「今回からは私も未経験の領域だから、どうなるか皆目見当もつかないからねぇ」

「ですよね」

 相槌とともに力ないため息がこぼれた。

 今までなんだかんだ上手くいっていたのはセツが記憶を頼りに色々と手を回していたというところが大きい。


「まあ、あちらさんの斃しかたは分かってるからさ。戦力も充分すぎるくらいそろってるし、お互いの最悪の事態は避けられると思うよ」

「そう願います」

 最悪の結末。
 
 セツにとっては愛した者を護れなかったこと。
 リツにとっては愛した者が長い地獄に囚われること。

 この時点で都で騒ぎを起こすあやかしが変わっていたことを考えると、少なくとも後者は避けられたはずだ。

「……」

「……」

 部屋のなかに沈黙が訪れる。

 いつしかどちらともなく肩を寄せ手を重ねていた。

「……ま、退治人なんて明日をもしれない稼業だからね。分からないことを気にしていても気分が滅入るだけ、か」

「ええ、本当に」

「ならさ、分かっていたことについて少し話そうか」

「分かっていたこと、ですか?」

「うん。私の呪いが解けたあとにお互いにどうなってたかとか」

「ああ、そういえば。そのあたりのことはお互い話してませんでしたね」

「うん。まあ、あまり面白い話でもないのかもしれないけど」

「そうかもしれませんね」

 重ねた手はおもむろに指を絡ませはじめる。

「まあ、私のほうはだいたいご察しのとおりだよ。アイツと二人きりで長い時間を過ごして、お互いにどうやっても手に入らなかった者を思いながら、憐憫しあってたかんじ」

「そうなるでしょうね」

「おや? 少し妬いてる?」

「多少は。ただ、色々ありすぎて単純にやきもちだけとは言いがたいですね。あの子にはかなりの負い目を感じてましたし」

「あはは、それもそうか。それで、そっちはどんなかんじだったの?」

「そうですね。色々とありましたが端的にいうと……、人とあやかしが入り乱れての最終戦争的なものが起きて、結社の枠組みを越えた総力戦になって、主人公的な若人が諸々の決着つけるところをギリギリ見届けて殉職というかんじです」

「それはまた、派手に大変なことになってたんだね」

「ええ。でもそんなこんなしてるなかでも、咬神家の子孫の方とそれなりにいい感じになっていましたから。最悪とまではいきませんでしたよ」

「なっ!?」

「こちらもお互いにどうやっても手に入らなかった方を思いながら憐憫しあっていた、というだけですよ。どなたかの遺言にしたがって」

「うー。たしかにそんなかんじの言葉は遺したけどさぁ」

「あら? 妬いていらっしゃるのですか?」

「そりゃそうだよ」

「あはは、それもそうですね。でも、結局あの遺言どおりにはいきませんでしたよ」

 絡めた指に自ずと力が入った。

「……ヒナギクに、あんな願いをしたわけですし」

「……ちなみに、しらべはどんなお願いをしたの?」

「え? こちらに戻ってくる前にヒナギクに聞いていなかったのですか?」

「うん。とりあえずヒナギクからは『もう一回だけチャンスをあげられることになったから、今度は色々とガンバレなんだよ!』っていうざっくりとした状況説明しかうけてないよ。私もアイツも」

「そうでしたか」

「そうそう。だから、この際だからちゃんと教えて欲しいなとか思っちゃったりして」

「……」

 強く絡めた指から骨の感触が伝わる。

「しらべ?」

「……夢でもいいから、全員の望みが叶った結末を迎えてみたい」

「それはなかなか素晴らしい願いだけど……、夢でもいいから、か」

「……はい」

「……」

「……」

 部屋のなかに再び沈黙が訪れた。
 わずかな灯が消えれば暗闇のなかで全てが無に帰してしまいそうなほどの静寂。

「ま、たとえ夢だとしてもさ」

「?」

 それを破るように吐息交じりの声がこぼれ指の絡んだ手が宙に浮き、セツの顔の前で動きを止めた。そのまま薄い唇が開き絡んだ指に軽く歯を立てる。

「っ!? い、いきなり何をするんですか!?」

「あはは、ごめんごめん! でもさ、今しっかり歯の当たる軽い痛みを感じたでしょ?」

「それは、まあ」

「そう。それに」

 どこか困ったような笑みに手の甲が運ばれた。

「お互いの体温だってこんなにも確かだ」

「……」

 言葉どおり、手の甲には滑らかで少し火照った頬の感触が伝わってくる。

「なら、今は決して夢じゃないってことにしていいんじゃないかな」

「……そうですね」

 確かな体温を感じながらリツは静かに頷く。


 そして……


「班長……、副班長……、メイ……、厨は……、どっちだ……?」

「あー、ハク殿。ここは一度控室に戻ったほうがいいと思うのだけれども」

「どなたか!! 医務班がどこにいるか教えていただけないだろうか!? 弟が急病なのだ!!」

「えと、兄様ー、聞こえますかー? その件はもう大丈夫なので戻ってきてくださーい」

「ええ、ええ。メイさまの気がかりはスッカリ解決しましたもの」


「……それにこれが夢だったらさ、この状況でこんなにワチャワチャせずに、もっとロマンチックなままでいられると思うんだ」

「……それもそうですよね」


 ……近づいてくる賑やかな足音と声に大いに脱力した。

 かくして、各々の顛末みたいなものを確認しつつ本部での夜は更けていくのだった。
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