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思い知らされてます
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ヒスイの提案によって、究極魔法の訓練を開始することになったけれども――
「元帥! ペースが乱れてますよ!」
「ちょ……、ちょっと、休ませてくれ……」
――早くも、体力が限界を迎えている。
ミカエラ人形をお姫様抱っこして、人気のない山道を登ることはや三十分……。腕は千切れそうだし、肺は破れそうだし、心臓は爆発しそうだ。
「なに、弱音を吐いているのですか! 元帥ならやり遂げられます!」
黒いタンクトップと迷彩柄のズボン姿のヒスイが、息一つ乱さずさわやかな笑顔を浮かべた。かなりの重さの土嚢を抱えながら、私よりも速いペースで走っているっていうのに、なんて余裕だ……。
「そうだ! 気分が滅入っているのであれば、歌いながら走りましょうか!」
「む……、無茶を……言わないで、くれ……」
こんな状況で歌ったりしたら、間違いなく肺がどうにかなる。
「心配しなくても大丈夫ですよ、元帥! やってみれば、絶対に気分が晴れ晴れしますから!」
「気……分が、ど、うの……という問、題じゃ……」
「それでは、歌いましょうか! おーれの、じーちゃんは、ひゃくじゅういちー!」
「だ、から……うたう……なよ……」
「池ーの上でもトレーニングー!」
……ダメだ。
私の言葉など気にせず、どこかで聞いたことのあるメロディーで、よく分からない歌を歌っている。
「いやぁ、訓練というのは素晴らしいですね!」
「そう……か……」
「懐かしいなぁ……、軍部にいたころは、軍曹として部下たちを育てていましたっけ」
「そう、なの……か……」
そういえば、ヒスイは公式資料集のキャラクター紹介ページに、「なにか意外な一面がありそう」って書いてあったな。攻略対象キャラじゃなかったから、あまり詳しく載っていなかったけれど、こういうことだったのか……。
「ええ。土嚢を抱えて三日三晩不眠不休で走り続けたり、重りをつけてモンスターが大量に生息している沼を何往復も泳いだり……」
……えーと。
軍人相手だとしても、それは厳しすぎるような気もするような……。
「生意気な表情を浮かべていた新人たちが、厳しい訓練に絶望の表情を浮かべながらも、それを乗り越えてたくましく生まれ変わっていくさまを見守るのは、何事にも代えがたいことでしたね」
……ヒスイに訓練をお願いしたのは、間違いだったかもしれない。
「よーし! この勢いで、この山道を五往復くらいしましょうか!」
「む……無……理……だ」
辛うじて返事をすると、ヒスイは不服そうに唇を尖らせた。
「えー、でも、まだ余裕はありますよね?」
「いや……、た……ぶん、あ……と少……しで倒……れる」
「ふむ、それなら仕方ないですね……。じゃあ、あと少しで山頂ですから、そこで休憩にしましょう」
「分かっ……た……」
あと少しくらいならまだ走れそうだし、もう少しだけ頑張ろう。
それからなんとか気合いで走りきり、山頂に辿り着いた。
設置されていたベンチにミカエラ人形を座らせ、私も崩れ落ちるように座り込んだ。
「あー、きつかった……」
「お疲れ様です、元帥。よく走り切れましたね」
息を整えていると、ヒスイもさわやかな笑顔を浮かべながら、抱えていた土嚢を地面に下ろした。その途端、ドゴッっと鈍い音が鳴り響く。あの土嚢、一体、何キロあるんだろう?
それにしても、ヒスイのファンがこの姿を見たら、卒倒するんじゃないだろうか? 非力な美青年執事キャラで通っているのに、中身が鬼軍曹というのは……。
「元帥、いかがなさいました?」
若干失礼な疑問を抱いていると、ヒスイがキョトンとした表情で首を傾げた。
「あ、いや、えーと……、この山頂は景色が良いな!」
我ながら、わざとらしすぎる話題の転換だ……。
それでも、ヒスイは気にすることなく、穏やかな微笑みを浮かべた。
「ええ、本当にそうですね。ちなみに、ここは恋人たちに人気のデートスポットなんですよ」
「デートスポット……」
ということは……。
例によって例のごとく、茂みの中からミカエラが勢いよく飛び出て――
「元帥、キョロキョロとなさって、何を探していらっしゃるのですか?」
――くることはなかった。
「あ、いや、いつもならここで、ミカ……光の聖女が、どこからともなく飛び出してくると思ったんだが……」
「ほう、光の聖女殿が、ですか?」
「……ヒスイ、なにをニヤけているんだ?」
「いえ、光の聖女殿とはご友人とおっしゃっていましたが……、本当は片時も離れたくないほど、愛おしいと思っていらっしゃるんですね?」
「な! ベ、別に、そういうことじゃなくて、だな! ただ、アイツが出てこないと、静かすぎて調子が狂うというか……」
「はいはい、そういうことにしておきましょうか」
「……なんか、腹の立つ言い方と表情だな」
「ふふふ、お気に障ったのであれば、すみません。しかし、ご安心ください! こんなときこそ、その人形が活躍するときです!」
ヒスイは突然勝ち誇ったような表情を浮かべて、ミカエラ人形を指さした。
人形が、活躍する……?
「元帥、その人形を優しく抱きしめてください!」
「えーと、こう、か?」
言われるままミカエラ人形を抱きしめると、柔らかくも弾力のある感触が伝わって来た。
そして――
「元帥さん! 光の聖女はたとえ離ればなれになったとしても大好きな元帥さんのことは片時も忘れずに再会の日を夢見て究極魔法の訓練をしているんですからね!」
――ミカエラの声で、なんともWeb小説っぽいセリフを言い放った。
えーと、これは、一体……?
「いかがですか!? 元帥!」
ヒスイが目を輝かせながら、感想を求めてくる。
いや、いかがですかもなにも……。
「一体、どういうことなんだ、これは?」
「ふっふっふ、光の聖女殿から『この人形は抱きしめると、全70種類のうぇぶ小説のタイトルっぽいセリフと、一種類のシークレットボイスを言いますよ!』という伝言を預かっています」
「……そうか」
「あと、『どのセリフが出てくるかは完全ランダムだから、コンプリートするためには、毎日何回も抱きしめてくださいね!』とも言っていました。なので、お手すきの時間には、是非とも抱きしめてあげてくださいませ!」
「……検討は、してみよう」
……うん。
なんというか、ミカエラは側に現れても現れなくても、存在感バツグンだと思い知らされたな……。
「元帥! ペースが乱れてますよ!」
「ちょ……、ちょっと、休ませてくれ……」
――早くも、体力が限界を迎えている。
ミカエラ人形をお姫様抱っこして、人気のない山道を登ることはや三十分……。腕は千切れそうだし、肺は破れそうだし、心臓は爆発しそうだ。
「なに、弱音を吐いているのですか! 元帥ならやり遂げられます!」
黒いタンクトップと迷彩柄のズボン姿のヒスイが、息一つ乱さずさわやかな笑顔を浮かべた。かなりの重さの土嚢を抱えながら、私よりも速いペースで走っているっていうのに、なんて余裕だ……。
「そうだ! 気分が滅入っているのであれば、歌いながら走りましょうか!」
「む……、無茶を……言わないで、くれ……」
こんな状況で歌ったりしたら、間違いなく肺がどうにかなる。
「心配しなくても大丈夫ですよ、元帥! やってみれば、絶対に気分が晴れ晴れしますから!」
「気……分が、ど、うの……という問、題じゃ……」
「それでは、歌いましょうか! おーれの、じーちゃんは、ひゃくじゅういちー!」
「だ、から……うたう……なよ……」
「池ーの上でもトレーニングー!」
……ダメだ。
私の言葉など気にせず、どこかで聞いたことのあるメロディーで、よく分からない歌を歌っている。
「いやぁ、訓練というのは素晴らしいですね!」
「そう……か……」
「懐かしいなぁ……、軍部にいたころは、軍曹として部下たちを育てていましたっけ」
「そう、なの……か……」
そういえば、ヒスイは公式資料集のキャラクター紹介ページに、「なにか意外な一面がありそう」って書いてあったな。攻略対象キャラじゃなかったから、あまり詳しく載っていなかったけれど、こういうことだったのか……。
「ええ。土嚢を抱えて三日三晩不眠不休で走り続けたり、重りをつけてモンスターが大量に生息している沼を何往復も泳いだり……」
……えーと。
軍人相手だとしても、それは厳しすぎるような気もするような……。
「生意気な表情を浮かべていた新人たちが、厳しい訓練に絶望の表情を浮かべながらも、それを乗り越えてたくましく生まれ変わっていくさまを見守るのは、何事にも代えがたいことでしたね」
……ヒスイに訓練をお願いしたのは、間違いだったかもしれない。
「よーし! この勢いで、この山道を五往復くらいしましょうか!」
「む……無……理……だ」
辛うじて返事をすると、ヒスイは不服そうに唇を尖らせた。
「えー、でも、まだ余裕はありますよね?」
「いや……、た……ぶん、あ……と少……しで倒……れる」
「ふむ、それなら仕方ないですね……。じゃあ、あと少しで山頂ですから、そこで休憩にしましょう」
「分かっ……た……」
あと少しくらいならまだ走れそうだし、もう少しだけ頑張ろう。
それからなんとか気合いで走りきり、山頂に辿り着いた。
設置されていたベンチにミカエラ人形を座らせ、私も崩れ落ちるように座り込んだ。
「あー、きつかった……」
「お疲れ様です、元帥。よく走り切れましたね」
息を整えていると、ヒスイもさわやかな笑顔を浮かべながら、抱えていた土嚢を地面に下ろした。その途端、ドゴッっと鈍い音が鳴り響く。あの土嚢、一体、何キロあるんだろう?
それにしても、ヒスイのファンがこの姿を見たら、卒倒するんじゃないだろうか? 非力な美青年執事キャラで通っているのに、中身が鬼軍曹というのは……。
「元帥、いかがなさいました?」
若干失礼な疑問を抱いていると、ヒスイがキョトンとした表情で首を傾げた。
「あ、いや、えーと……、この山頂は景色が良いな!」
我ながら、わざとらしすぎる話題の転換だ……。
それでも、ヒスイは気にすることなく、穏やかな微笑みを浮かべた。
「ええ、本当にそうですね。ちなみに、ここは恋人たちに人気のデートスポットなんですよ」
「デートスポット……」
ということは……。
例によって例のごとく、茂みの中からミカエラが勢いよく飛び出て――
「元帥、キョロキョロとなさって、何を探していらっしゃるのですか?」
――くることはなかった。
「あ、いや、いつもならここで、ミカ……光の聖女が、どこからともなく飛び出してくると思ったんだが……」
「ほう、光の聖女殿が、ですか?」
「……ヒスイ、なにをニヤけているんだ?」
「いえ、光の聖女殿とはご友人とおっしゃっていましたが……、本当は片時も離れたくないほど、愛おしいと思っていらっしゃるんですね?」
「な! ベ、別に、そういうことじゃなくて、だな! ただ、アイツが出てこないと、静かすぎて調子が狂うというか……」
「はいはい、そういうことにしておきましょうか」
「……なんか、腹の立つ言い方と表情だな」
「ふふふ、お気に障ったのであれば、すみません。しかし、ご安心ください! こんなときこそ、その人形が活躍するときです!」
ヒスイは突然勝ち誇ったような表情を浮かべて、ミカエラ人形を指さした。
人形が、活躍する……?
「元帥、その人形を優しく抱きしめてください!」
「えーと、こう、か?」
言われるままミカエラ人形を抱きしめると、柔らかくも弾力のある感触が伝わって来た。
そして――
「元帥さん! 光の聖女はたとえ離ればなれになったとしても大好きな元帥さんのことは片時も忘れずに再会の日を夢見て究極魔法の訓練をしているんですからね!」
――ミカエラの声で、なんともWeb小説っぽいセリフを言い放った。
えーと、これは、一体……?
「いかがですか!? 元帥!」
ヒスイが目を輝かせながら、感想を求めてくる。
いや、いかがですかもなにも……。
「一体、どういうことなんだ、これは?」
「ふっふっふ、光の聖女殿から『この人形は抱きしめると、全70種類のうぇぶ小説のタイトルっぽいセリフと、一種類のシークレットボイスを言いますよ!』という伝言を預かっています」
「……そうか」
「あと、『どのセリフが出てくるかは完全ランダムだから、コンプリートするためには、毎日何回も抱きしめてくださいね!』とも言っていました。なので、お手すきの時間には、是非とも抱きしめてあげてくださいませ!」
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