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こんな世界嫌だと思ってた

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「はあ、染み渡る……」
 私は体中を巡る樹の魔力を、目を閉じてしっかりと味わう。
「これっぽっちの涙じゃ、全然足りないんじゃ無いか?」
「うん、もっと欲しい」
 目を開けてお願いすると、樹は真面目な顔で私を見つめた。
「なあ咲、いい加減セックスしたらどうだ?」
「急にそう言う事言うの、やめて」
 私は樹のもっともな発言に、顔を顰めてしまう。
「じゃあそれ、どうするんだよ」
「どうしようねえ……」
 私は目の前のパソコンを見て溜息をつく。
「完成するまで泣き続けるのは無理だぞ」
「無理ですか」
「セックスしないと無理だな」
「それは私が無理」
 私は情報の授業で出された、課題のプレゼン資料作成がどうしてもできず、樹と居残りをしていた。
 パソコンを使うにはそれなりに魔力を消費する。
 樹の涙を舐める程度では、全然足りなかった。


 私はどうやら異世界転生をしたらしい。
 前世の事を思い出したのは、小学生の頃だ。
「女子は視聴覚室に集まって」
 保健の先生に集められて聞かされた話に衝撃を受けて、私は前世の記憶を取り戻してしまった。
 いや、衝撃を受けたと言う事は、元々私には記憶があったんだろう。意識していなかっただけで。

「もう生理が始まっている子もいるかな。生理が始まって妊娠が可能になると、女の子の魔力生成器官は魔力を作るのをお休みしちゃうの。年を取ると生理は止まって、また自分で魔力が作れるようになるんだけど、それまでは定期的に男の子から魔力を分けて貰う必要があるのよ」
 保健の先生は真面目な顔で続ける。
「生理が始まって直ぐに魔力が作れなくなる訳じゃないから安心して。五年ぐらいかけてだんだん魔力が作れなくなるの。だから、男の子から分けて貰うのは高校生になってからかな。でも、稀に早くから作れなくなる子もいるから、そうだと思ったら大人に相談すること」
 この世界は元いた世界とほとんど変わらない。
 国名だって日本だし、発展具合もほぼ同じだと思う。テレビもあればスマホもある。
 それでも、異世界としか言えない決定的な違いがあった。

 この世界の主なエネルギーは、人が作り出す魔力だ。
 全てがそうと言う訳ではないけど、前世では電気で動いていたような家電や機器は、使用者の魔力で動かしていた。
 この世界は魔力ありきで成り立っている。
 そして、女子である私は男子から魔力を貰わないといけなくなるらしい。
 前世の記憶を取り戻したと言っても、その記憶は断片的で、子供だった私は前とは全然違うんだなぐらいにしか思わなかった。

 そして中学生になり、魔力の貰い方を教えられた私は絶望する。
 魔力は肉体に宿る。
 だから、女子が男子から魔力を貰うには、身体の一部を貰うしかない。
 理論的には、お肉として直接食べても魔力摂取はできるらしい。
 現実的には、体液を貰うことになる。唾液や精子。
 それらは口から摂取してもいいけど、一番効率がいいのは、膣の奥にある魔力生成器官に精子を当てることだ。
 つまり、この世界で文化的に生きていくには、定期的にセックスする必要があった。


「いつまでもこのままじゃ駄目なのは分かってる。でも、無理なんだよ……」
 私は心配そうに見つめる樹から目を逸らしてしまう。
 幼馴染の久保田樹は、今まで魔力供給のためのセックスを拒否し続けた私に、涙と言う形で魔力をくれていた恩人だ。
「別にセックスなんて、痛くもないしむしろ気持ちいいんだから、やればいいだろ?」
「気持ちいいんだ……」
 男子は男子で、過剰に魔力を貯め込むと身体に悪いと言う事で、定期的に排出する必要があるらしい。
 魔力を必要とする人は多いから、人助けも兼ねてそりゃもうみんなセックス三昧だ。
 元の世界の真面目委員長なら不潔よ!と罵ってくれるだろうけど、今の世界ではこれが普通の事だった。

「まあ……」
 樹はいつになく歯切れ悪く答えた。
「でも、最近はやってない」
「そう言う具体的な話はいいです」
 幼馴染のセックス事情なんて知りたくない。
「パソコンも使えないようじゃ働けないだろ。いい加減セックスして真っ当な暮らしを送れよ」
 樹が急に不機嫌そうに説教をしてきた。
 貴重な魔力供給源に帰られたら課題ができない。ここは私も譲歩が必要だろう。
「私もね、いい加減悟りを開きつつあるんだよ。不特定多数と快楽まみれの人生も、受け入れるしか無いのかなって……」
「いきなり不特定多数じゃなくても、特定の男を作ればいいんじゃないか?」
 挨拶のようにセックスをするこの世界でも、恋人ができれば相手を固定する人がほとんどらしい。
 とは言え、会えなかったりすると手近な所で魔力供給、要はセックスする事はアリだそうで、とにかく私とは感覚が違いすぎる。

「それぐらい振り切らないと無理だもん。それに、日々の暮らしが大変過ぎて、誰かを好きになる余裕も無い……とにかく、私もちゃんと考えているから、今日の所は課題を終わらす為に、樹さん、泣いてください」
 私は手を合わせて拝み倒す。
 魔力が無いと課題が終わらなくて帰れない。
「だから、涙程度じゃ無理だろ」
「そこを何とか。あ、こんな事もあろうかと、最高に泣ける小説持ってきてるけど、いる?」
「……キスならしてやる」
「え?」
 思わず聞き返してしまったけど、樹のこれは100%親切心だ。
 私の感覚だと俺様発言にしか聞こえないけど、優しさの表れだ。
「直接唾液を流し込めば課題も終わるし、涙よりは魔力も持つだろ。最近咲は倒れ過ぎなんだよ。セックスが嫌ならせめてキスぐらいしろ」
 魔力生成器官がほとんど機能しなくなってから、もう一年近く経っている。
 日々の暮らしに魔力はどうしても必要で、樹の涙と、雑巾から最後の一滴を絞る勢いで捻り出した魔力では全然足りなくて、最近では保健室の常連になっていた。

「唾液……」
 ファーストキスもまだなのに、いきなりハードルが高過ぎる。とは言え、もう限界なのも事実だ。
 樹が真面目な顔で私を見つめている。
「あの、私のタイミングでしていいなら、がんばる……」
 いきなり唾液を流し込まれるのは流石に無理だ。
 順を追ってステップアップしていきたい。
「そうか、じゃあほら、好きにやれ」
 樹は私に顔を近づけると、顎に手をかけ上を向かせた。
「うわっ、恥ずかしっ……やっぱ無……」
 無理と言おうとしたら、舌を突っ込まれた。
「うむっ……むっ……んんーっ」
「無理なら俺がやってやる」
 息継ぎのようにそれだけ言うと、樹はまた舌を入れてきた。
 ゆっくりと口中を舐められながら、唾液が注がれる。
 こくりと飲み込めば、樹の魔力が身体中を巡る。
「んっ、んんっ……ん……」
 涙だけでも、樹の魔力はとても美味しかった。
 味がある訳では無い。ただ、身体中が美味しいと感じていた。
 キスは、それ以上にとてつもなく美味しい。

「これぐらいで、いいか?」
 少し顔を赤くして、樹が聞いてきた。
 もっと平気な顔でこう言う事をしていると思っていた。
 こんな顔をして、樹はいつもセックスをしていたんだろうか。
「もっと」
 気がつけば、私は樹の首に腕を回して、キスをねだっていた。
 樹は一瞬驚いた顔をしたけど、何も言わずキスをしてくれた。

 やだなあ。
 こんなの何度もしていたら、絶対どうしようもなく好きになってしまう。
 樹にとってはただのボランティアみたいな物なのに、独占欲とか嫉妬心とか、醜い感情で身を焦がしてしまいそうだ。
「ありがとう。もう、大丈夫」
 名残惜しい気持ちを切り捨てるように唇を離すと、私は電源が落ちてしまっていたパソコンの起動ボタンを押した。
 恥ずかしくて、樹の顔が見られない。
「身体はどうだ?」
「……凄い、子供の時のように軽い!樹の魔力って凄いね!」
 あまりの喜びに恥ずかしさは吹き飛び、笑顔で樹を見る。
 しかし樹はふいと横を向いてしまった。
「別に魔力なんて皆同じだ」
「そうなの?他の人のもこんなに美味しいの?」
「俺が知る訳ないだろ」
「身体も軽いし、魔力は美味しいし、これならセックスだってできるかもしれない」
 いつに無く調子のいい身体に、私ははしゃいでしまう。
 パソコンの画面に向かうと、プレゼンテーションソフトを立ち上げて、凄い勢いで課題をこなしていく。
 今なら、何だってできそうだった。


「樹、ありがとう!おかげで課題が終わった。身体も軽い!」
 私は急いで荷物を片付けた。
「この勢いに乗って、ちょっとセックスしてくる。じゃあね」
 私はカバンを掴むと逃げるように走り去った。
 樹とのキスはやっぱり恥ずかしくて、私だけ意識してしまっているのも恥ずかしくて、とにかく樹の前から逃げだしたかった。

 もう、樹から魔力を貰うのは止めよう。
 これ以上は好きになってしまう。
 いや、ひょっとしたら最初から好きだったのかもしれない。
 いつも身体が重くてそんな事は考えられないでいたけど、今は樹の魔力のおかげですこぶる快調だ。
 私の恋愛力も回復しているんだろう。
 樹の事を思うと、いつになく胸がドキドキした。

「無理無理無理」
 私は走りながら呟いていた。
 この世界で誰かを好きになっても辛いだけだ。
 他の人とはしないでと言うのは、元の世界では『他の人と喋らないで』ぐらいの嫉妬深さだろう。
 そんな嫉妬深い女は嫌だ。なりたくない。
 でも身体の軽さを思い出した今、元のどんよりと重い暮らしにも戻りたくなかった。
 なら、もう私はビッチになろう。
 恋心なんて忘れるぐらい、やってやってやりまくろう。
 他の人の魔力もあんなに美味しいなら、意外と早く樹の事も忘れられるかもしれない。
 さようなら、私の初恋。
 そして永遠に、恋ともさようなら。


「待てよ」
 気がつけば、さよならしたはずの初恋対象者に腕を掴まれていた。
「セックスするなら、俺とすればいいだろ?」
「いや、これ以上迷惑をかける訳には、いきませんので」
 丁重にお断りすると睨まれた。
「何だよそれ。別に俺は迷惑じゃない」
 確かに、この世界ならそうなのかもしれない。
「セックスはしようと思う。でも、樹とはしない」
「……じゃあ、誰とするんだよ」
「そんなの分かんないよ。ステーションにいる適当な人?」
 街のあちこちには、魔力供給を行う為のステーションと言う施設があった。
 ロビーで相手を見つけ、それぞれの部屋で魔力の受け渡しを行う。
 学生は無料で使えるから、カラオケ行こうぐらいのノリでみんな行っていた。
 元の世界の風紀委員長なら、不純異性交遊は禁止です!と取り締まるような場所だ。

「なんで俺とはしないんだ」
「それは……」
 これ以上好きになりたくないからだなんて、本人に言える訳無い。
「咲は、ステーションがどんな所か知らないだろ」
「え?大体は知ってるよ?」
「咲にあそこは無理だ」
「何で?みんなステーションでやってるんでしょ?」
「行けば分かる」
 掴んだままの私の手を引いて、樹は歩き出した。
「待って、私は樹とは……」
 困惑する私に一瞥を寄越すと、樹は真っ直ぐ前を向いてしまった。
「何もしない。いいからついてこい」
 樹の声はとても不機嫌そうだった。
「あの、樹とするのが嫌とかじゃなくて、ええと、そう、今更恥ずかしい、だけだから」
 私の取り繕いに、樹は返事をしなかった。

 そのままステーションに辿り着き、小部屋に案内されてしまった。
 小部屋と言うより、漫画喫茶のボックス席みたいだ。
 あちこちから、嬌声や色んな音が聞こえてきて、私は顔色を失った。
「咲は、ここで知らない男とセックスできるのか?」
 私の顔を覗き込み、樹は睨むように聞いてきた。
 できるできないで言ったら、できない。
 でも、この世界で生きていくためにはやるしかないんだろう。嫌だけど。
 なかなか答えを出せないでいる私に、樹が噛み付くようにキスをしてきた。
「んんっ……んっ……」
 舌を絡ませられ、樹の魔力を身体で感じると、何も考えられなく……いや、やはりアハンウフンとかパンパンとか、聞こえてくる音が気になってしまう。

「何もしないって、言ったのに」
 樹を押し退けると、私は赤い顔で睨みつけた。
「できるのか?セックス」
 私の言葉は無視して、樹は尚も聞いてきた。
「む、無理です……」
 二人がけの小さなソファと、ティッシュとかローションとかが置かれた小さなカウンター。
 間仕切りだけで開放感溢れるボックス席のあちこちで、皆さんお楽しみ中だ。
 やっぱりどう考えても、こんな所ではしたくない。
「ねえ、なんで皆、こんな聞こえるような感じでしてるの?」
「そりゃ、セックスする為には興奮する必要があるからじゃないか?」
「興奮?」
 私からしてみたら異常な場所で、興奮と言うよりむしろ……
「気持ち、悪い……」
 いずれは、この世界の現実も受け入れないといけないと思っていた。
 今がその時だとも思った。
 でも、皆が当たり前のようにしている行為は、とても受け入れられる物ではなかった。
「悪かった、無理やり連れてきて。あと、キスも……出よう」
 返事もできない私の手を引いて、樹はステーションを後にした。


「樹は、平気なんだよね」
「ステーションか?」
「うん……」
「別に、気持ち悪くはない」
 帰り道、私が俯いたまま聞くと、樹は正直に答えてくれた。
「でも、今は行ってないからな」
「そうなの?」
 そう言えば、最近はセックスもしてないって言ってたような気がする。
「ひょっとして、私が気持ち悪がるから?」
「まあ、それもある」
「うわ、ごめん。でも、私がおかしいんだから、気にせず樹は楽しんで。いつも、付き合わせてごめん」
 私がここまでセックスしないで何とかやってこれたのは、樹がいたからだ。
 でも、そのせいで樹に迷惑をかけてしまっていたなら、もう涙を分けて貰うのもやめた方がいいだろう。
「ステーションは無理だけど、何とかセックスはするから……今までありがとう」
「今は俺も、セックスは好きな子としかしたくないと思っている」
「え?」
「咲としかしないと誓う」
「ええ?」
 急な言葉に、理解が追いつかない。
「だから、俺とセックスしよう。好きだ、咲」
 立ち止まり、私を見つめる樹の顔は、至極真面目な物だった。

「私も、樹が好きだよ」
 気がつけば、私は自分の気持ちを素直に口にしていた。
「じゃあ、なんで俺とはしないなんて言うんだよ」
「だって、涙もキスも、魔力を貰うと凄く美味しくて幸せで……セックスなんてしたら、どうしようもなく好きになっちゃう、から」
 恥ずかしくて顔が熱くて、もう何が何だか分からなくなってきた。
「好きになればいいだろ」
「だって、他の子に嫉妬しちゃうもん」
「だから、咲としかしないって誓った。俺も、咲が他のヤツとするのは、面白くない」
「それって……え?どうしよう……凄く、嬉しい」
「咲が俺以外の魔力を受け入れていないと気付いた時、凄く興奮した」
 樹は私を抱きしめると、耳元で囁いた。
 私の身体も熱くなっている自覚があるけど、樹の身体はそれ以上に熱かった。
「咲に、たっぷり注ぎたい」
「な、何を……」
「色々」
 それだけ言うと、樹は私の手を掴み、また歩き出した。


 樹の家は私の家の斜向かいにある。
 俺の部屋に来るかとも言われたけど、樹の家は三人兄弟で専業主婦のおばさんもいるから、絶対誰かが家にいるか、直ぐに戻ってくる。
 私の家は夜まで誰もいないから、私は樹を自分の部屋へと招き入れた。
 多分、いや確実に、セックスするために。

「咲の部屋に来るのは久し振りだ」
 キョロキョロと見回されると、何だか落ち着かない。
 樹は座布団の上に座るとベッドにもたれかかった。
「お茶でいい?」
「いや」
「うちそんなに飲み物の種類ないけど……」
「お茶なんかより、咲が欲しいに決まってるだろ」
 樹に手を引っ張られ、私は樹に跨がるような形で抱きついてしまった。
「あっ……んっ……んんっ……」
 私の頭を抱えるようにして、樹が私にキスをする。
 舌が絡み、唾液が注がれる。
 キス自体も気持ちがいいし、樹の魔力も美味しくてとても気持ちがいい。
「んっ……はっ……んぅ……」
 我慢できなくて、もぞもぞと足を動かしていると、樹は私の腰を掴んで擦り付けるように動かした。

「ふうっ、んっ……んんっ……」
 樹の硬くなった物が足の付け根に当たると、私のそこは自分でも分かるぐらいひくついた。
「気持ち、いいのか?」
 樹はキスを止めると、熱のこもった視線で見つめてきた。
「はあっ……んっ……気持ち、いい……早く、欲しい……」
 私は自分から腰を振って、樹の物を押し当ててしまう。
「初めて、なんだよな?」
「うん……まあ……でも、したい……」
 私は歯切れ悪く答える。
 断片的とは言え前世の記憶があるから、初めてだけど恐怖感とかは全く無い。
 魔力供給の為のセックスには嫌悪感があるけど、好きな人とのそれなら、気持ちが良くて幸せな事は知っていた。

「なら……咲、あの、服、脱いでもいいか?」
 樹が躊躇いがちに聞いてきた。
「うん……制服、汚れちゃうといけないし……」
 私の言葉に、樹は緊張した面持ちで服を脱ぎだした。
 恥ずかしいけど、私も同じように脱いでいく。
「な、何?」
 ブラのホックに手をかけた所で、樹は動きを止めて私をじっと見つめてきた。ガン見だ。
「いや、その、初めてだから、つい」
「何が?」
「うっ……」
 ブラを外しながら聞くと、樹は赤くなった顔を隠すように横を向いてしまった。
 そのままギクシャクと服を脱ぎながら、チラチラと私を覗き見ている。
 なんか恥ずかしいなと思いながらパンツも脱ぐと、樹が息を呑んだのが分かった。

「あの、私、おかしい?」
 樹の様子があまりにも変で、私は樹ににじり寄って聞いた。
「い、いや、その、エロ過ぎて……鼻血出そう」
「裸ぐらい、見慣れてるんじゃないの?」
「そんな訳ないだろ!」
「だって、セックス、何回もしてるんでしょ?」
「魔力供給はな!くそっ、なんで咲はそんなに余裕なんだよ!」
 急に怒り出した樹は、私の胸を鷲掴みした。
「い、痛い。もっと優しく揉んで」
「柔らかい……手が、止まらない……」
 私の声は聞こえていないのか、樹はひたすら胸を揉みしだいている。
 正直、脂肪を揉まれてもそんなに気持ち良くはない。
「あの、もっと……乳首の方も、触って……」
 私の言葉に、樹は目を剥いて驚いた。
「い、いいのか?」
「うん……あと、こっちも……気持ち良く、して……」
 私は樹の手を掴むと、既に濡れている割れ目に持っていった。
「さ、き……」
 樹は私の名前を呼ぶと、私を見つめながら割れ目をなぞった。
「いつ、き……んっ……」
 指を入れられ、ぎこち無い動きで抜き差しされる。
 反対の手でも、硬くなった乳首を扱かれて、私の身体は急速に溶けていった。

「あっ、んっ……ああっ……」
「本当に、初めて……なんだよな?」
 自分からも腰を揺らして気持ちのいい所に当てようとしていると、樹が困惑した表情で聞いてきた。
「え?う、うん……」
 私は腰の動きを止めて樹をじっと見た。樹のものが、小さくなっている。
「……ごめん、ちょっと……待ってくれ」
 樹は私から離れるとベッドに座り、がくりと項垂れた。
 そんな樹の様子に、私はかける言葉が見つからない。
 樹は何度もやっていて経験豊富なんだしと思って、欲望のままに動いてしまった。
 この世界はセックスが当たり前だから、処女をありがたがる文化は無いはずだ。
 それなのに、こんなに萎えさせてしまうなんて、私はよっぽどおかしかったんだろうか。


 高校生になり『正しい魔力供給の手引き』を配られ、保健の先生二人から教えられたのは、どう考えてもセックスだった。
「不安な子は先生がやってあげるから、保健室に来なさい」
 まだ若くてそこそこカッコいい男の先生は、それも仕事の一つなんだろう。
「男子はちゃんと魔力供給できるかテストするから、練習しておきなさいね。相手は自分で見つけてもいいけど、保健室に来たら先生か保健委員が相手するから」
 セクシーで美人な女の先生の言葉に、何が何でも保健委員にだけはならないようにしようと心に誓った。
 手引きは投げ捨てるように資源回収に回したし、あんまりな現実に三日寝込んだ。
 それから私は、極力そう言う事からは逃げて過ごして来た。
 だから、この世界の正しいセックスのあり方が、よく分かっていなかったのかもしれない。

「ご、ごめんね。もう、いいから……」
 私は恥ずかしさや情けなさから少し涙ぐみながら、服を着ようと手を伸ばした。
「よくない」
 私の手を掴むと、樹は私を押し倒した。
「見たいし触りたいし舐め回したい」
「でも、私、おかしいんでしょ?無理しないで」
「違う、初めてだから、緊張して……でも、咲は平気そうだし、上手くできるか不安になって……とにかく、もっとしたい」
「初めて?初めてじゃないでしょ」
 テストもあった訳だし、ステーションにも行ったことがあるはずだ。初めてな訳がない。
「だから、魔力供給でしかセックスはした事ない。こんな、裸を見たり触ったり、愛し合うセックスは初めてなんだ」
 私は樹に組み敷かれたまま、手引きの内容を思い出していた。
 図解は男女ともに服を着ていて、教育的配慮なのかと思っていたけど、そうじゃなかったんだろうか。
 そう言えば、女の子は供給して貰う前にローションを使おうとかも書いてあったような気がする。
「ひょっとして、魔力供給のセックスと愛し合うセックスって、だいぶ違う?」
「魔力供給は挿れて出すだけだ。服も脱がないし、身体も極力触らない。まあ、そこら辺は人によるけど、俺はそうだった。そう言う事は、咲としたかったから……」
 樹はそう言うと、私にキスをしてきた。
 唇が触れるだけの、軽いキス。それなのに、樹の顔は赤くなっていた。
「こんなキスも、咲が初めてだ」
 そんな樹の様子に、私まで顔が赤くなってしまう。

「あの、私前世の記憶があるの」
「前世?」
 唐突な私の告白に、樹は首を傾げた。
「そんなに具体的じゃないけど、こう言う事をした記憶もある」
 樹は少しだけ眉をひそめた。
「今の身体はした事なくても、気持ちがいい事は知ってる。だから樹ともしたくて、我慢できなかった。気持ち悪いよね、ごめん」
「そうか……」
 樹は私の腕を引っ張り身体を起こすと、座ったまま私の後ろから抱きついた。
「なんか、納得した」
 言いながら樹は私の胸を揉みだした。
「あっ、んっ……」
 乳首を扱くように摘まれて、快感が走る。
「子作りすると、魔力供給のためだけのセックスに嫌悪感を持つことがあるって言うからな。咲は、前世で子作りした記憶があるのか」
「う、うん?どうだろう……そこまで、あっ……記憶は、具体的じゃ、んっ……ない、からぁ……」
 樹の手付きは段々とこなれてきて、話すどころでは無くなってきた。
 この世界の子作りは、精子を魔力として消費してしまわないように、数日籠もってとにかくやり続ける必要があるらしい。
 そんな経験は無いけど、異世界の説明をこの状況でできるとは思えなくて、私は誤魔化すように樹の手を割れ目に誘った。
「いつき……こっちも……」
「だから、初めてなのにエロ過ぎるだろ」
「んっ、あっ……エロいのは、いや?」
「嫌な訳、ない」

 樹の指は何度か割れ目を撫でると、ゆっくりと中に入ってきた。
「ああっ……」
「ローション使って無いのに、トロトロなんだな」
「だって、樹の手っ……あうっ……気持ち、いいっ……」
 こう言う事は初めてだと言っても、やはりセックスの経験はあるからか、樹の手付きはどんどん巧みになっていった。
「どうしたらもっと気持ちよくなる?俺に教えてくれ」
 耳元で囁かれた樹の声は、いつもとなんだか違って熱っぽくて、それだけで私から蜜が溢れてしまう。
「もうっ、十分、ああっ……気持ちっ、いいっ……」
「最初にキスした時も思ったけど、咲は感じやすいんだな」
「分かん、ないけどっ……樹に触られるとっ……ああっ、やっ、もうっ……ああっ……」
「ヤバイ……凄い……」
「やあっ、んっ……あっ、ああっ!いやあっ、ああっ……」
 激しくなる指の動きに、クリトリスへの刺激も加わって、私は身体を仰け反らせてビクビクと震えてしまった。

「イッたのか?」
 お尻に当たる樹のものは、少し前からまた硬くなっていた。
「も、無理……欲しい……樹の、ちょうだい……」
 私は樹の方を向くと、樹に跨り割れ目に硬いものを押し当てた。
 そもそも、魔力生成器官なんてものがある時点で、前世とは身体の作りが違う。
 そのせいなのか、樹の硬いものを感じるたび、私の中は切ないぐらいにそれを求めてしまっていた。
「ああっ……いつき……はっ、あっ、気持ち、いいよぉっ……」
 ぬるぬると割れ目を押し当てていると、樹は何も言わず私にキスをした。
「ふっ、んっ……んんっ、んっ……」
 唾液とともに魔力が私の中に入ってくる。
 もっと、もっと欲しくて私のあそこはもうぐちょぐちょだ。

 樹は私の腰を掴むと、キスをしたまま中に入ってきた。
「んんんっ、んーっ……んっ、ふっ、んんっ……」
 その瞬間、私の身体に凄まじい快感が走る。
「ふっ、んぐっ……んっ、はっ……やあ、あっ……」
「ヤバイ……すぐ、出そう……」
「出してっ……やあっ……欲しいっ、精子っ、欲しいっ……もうっ、だめっ……ああっ……がまんっ、できないっ……」
 樹のものが奥を突くたびに、どうしようもなくひくついてしまう。
 自分からも腰を振って、奥の奥、多分魔力生成器官があるところに樹のものを当てる。
 クリトリスを刺激された時のような、ううん、それ以上に直接的で激しい快感。
 こんなの、私は知らない。

「ひっ……あうっ……うぐっ、うっ……んっ、ああっ……」
 あまりに強い快感に、私はもううめき声しか出なかった。
「咲っ……」
 樹の身体が震え、ドクドクと熱いものが注がれる。
「ああっ、あっ!……ひっ、あっ、ああっ……」
 その瞬間、身体中に快感と樹の魔力が広がった。
 もう、頭の中は真っ白で、私はガクガクと腰を揺らしながら、快感の渦に身を任せた。


 激し過ぎるセックスが終わり、二人して倒れ込む。
 正気に戻った私は、あまりにあんまりな自分の痴態に、手で顔を覆った。
「これは、ヤバイ……」
 隣で樹も手で顔を覆っていた。
 指の隙間からお互い顔を見合わせる。
「最高に、気持ち良かった……」
 感慨深く呟く樹に、私の頬も自然と緩んだ。
「私も……あんなに気持ちいいなんて、思わなかった。もう、凄くて、訳が分からなくて、樹は凄いね……」
 魔力が身体中に行き渡り、私の身体はポカポカと温かく幸せだった。
「そう言って貰えると嬉しいけど、多分咲の魔力が空に近かったからだと思う」
 樹は私を優しく抱きしめて背中を擦ってくれた。
「魔力が少ない程、供給された時は気持ちいいって言うからな。魔力が枯渇した女に魔力供給してよがり狂わせるのは定番のエロネタだけど、枯渇した女なんてまずいない。そんなのはAVか漫画だけの話だ。でも、思えば咲はそうだったんだよな……良かった、他の男に取られなくて。危なかった……」
 樹は一人で何だかブツブツ言っている。
「じゃあ、次はあんなに気持ち良くない?」
 毎回魔力を貰うたび、あんな理性を失うような事をしていたら身が持たない。
「そう言われると、意地でもよがり狂わせたくなるじゃないか」
「普通でいいから、またして」
 私が苦笑しながら答えると、樹は私に覆いかぶさってきた。
「んんっ……ふっ……んぅ……」
 またって、後日って意味で言ったんだけどなと言う思いは、注ぎ込まれる樹の魔力の前に、すぐ消えていった。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 
「いっちゃん、野球しよー!」
 幼馴染の花岡咲は、毎日のように俺の家に来ては野球に誘って、日が暮れるまでキャッチボールをしたり魔球の研究をしたり、男子のような女子だった。
 ガラリと性格が変わったのはいつだったろうか。
 中学に上がる頃には、俺に対してもどこか余所余所しくなり、高校に行く頃にはすっかり大人しい性格になっていた。
 俺たちの家の近くにはそこそこの進学校があり、同じぐらいの学力の俺と咲は、同じ高校に通う事になった。
 クラスも同じになった咲は、教室で物憂げな表情で本を読んでいる事が多く、美人でスタイルが良い、もっと言うと胸がデカいと男子から密かな人気だった。

 高校生と言えば、男が一番浮かれてアホな時期と言えるだろう。
 初めての魔力供給に、どうって事ないと言う振りをしながら夢中になる時期だ。
 俺も人並みにはやっていた。テストもあるし。
 いや、嘘だな。テストなんか無くてもやりまくっていただろう。
 その頃は咲とはほとんど話す事も無くなっていた。
 正直、あんなに仲が良かったんだから、一回ぐらいは誘われると思っていた。
 それなのに何も言ってこない咲に、俺は完全に拗ねていた。
 俺の知らない所で、俺ではない誰かとやってんだろうなと、冷ややかな目で見てしまっていた。

 夏も過ぎる頃になると「学年が上がるまでにクラスの女子全員に魔力供給する」と宣言するヤツが現れた。
 クラスに一人はこの手のアホが出てくるのは、男子高校生あるあると言えるだろう。
 アホな癖に見た目はそこそこいいそいつは「あいうえお順で全女子攻略」を掲げ、順調に女子への魔力供給を達成していった。
 そこそこ見た目がいいだけあって、女子も順番を待つような空気になっていたのに、咲は頑なにそいつを拒んだ。
 意地になって咲に纏わりつくアホと、順番を待っている女子からの非難の声に、咲は追い詰められていった。

「魔力供給ぐらいさっさと済ませちゃえよ」
 帰り道、たまたま一緒になった俺は、俯いて歩く咲に声を掛けた。
「まだ、必要ない……」
 俺の顔も見ず俯いて歩き続ける咲の言葉に、俺は少し驚いた。
「まだやってなかったのか」
 咲は暗く沈んだ目でちらりと俺を見ると、また俯いてしまった。
「幼馴染のよしみで、俺とやるか?」
 冗談めかして言った俺の言葉に、咲は歩きを止めて泣きそうな顔で俺を見つめた。
「樹まで、そんな事言うんだね」
「なんでそんな顔……」
「私は、好きな人としかしたくない!」
 そのまま走り出した咲の背中を見ながら、つまり俺の事は好きじゃないんだなと、告っても無いのに振られたような気持ちになった。

 それから程なくして、咲は恋人とエロい事をやりまくっていると言う噂が流れた。
 頑なに魔力供給を拒むのはそのせいだと。更に言うと、だから胸がデカいんだとも。
 そうか好きな人がいたのかと、何だか面白く無い気持ちになったけど、俺には関係ない事だと、咲の事は気にしない事にした。
 
 それなのに、学年が上がっても咲とは同じクラスになってしまった。 
 新学期早々、咲は倒れて保健室に運ばれた。
 家が近所と言うだけで、何故か俺がカバンを持っていく事になった。
 気まずいなと思いながら保健室に行くと、養護教諭と咲が言い争っていた。
「今は魔力を使用する機械がそこら中に溢れているから、魔力が切れないようにちゃんと魔力供給しないとだめだよ。ほら、先生が供給してあげるから、パンツを脱ぎなさい」
「だ、大丈夫です。私はまだ、大丈夫ですから」
「その様子だと、家に帰るまでにもまた倒れてしまう。いいから早く脱ぎなさい」
「あ、あの、他、他でちゃんとやりますから」
「だったら連れてきてあげるから、ここでしなさい。相手は何年何組の誰?」
「え……あ!き、来ました。彼、彼とやります。幼馴染なんです!」
 俺に気付いた咲が、必死な様子で俺を指差している。
「そうなの?」
「いや、まあ、はい……」
 咲があまりに必死なので、話を合わせておいた。

「なんで魔力供給してないんだよ」
 保健室に二人きりにされて、俺は決まり悪く咲に聞いた。
「だって、無理だもん……」
「でも、倒れるってよっぽどだろ。恋人とやりまくってるんじゃないのか?」
「何それ……恋人なんて、いる訳ない……」
「そうなのか?」
 咲の様子からは嘘をついているとも思えなかった。なぜだか、俺の心は浮足立つ。
「まさか、まだやってない、とか?」
「もういいよ、その話は……」
 俺の言葉を、咲は否定しなかった。
「全く魔力が作れない訳じゃ無いから、魔力を使わず大人しくしていれば、まだ大丈夫……」
「そんな事言ってると、また倒れるぞ」
 養護教諭が言うように、今は街中魔力を使う機械で溢れている。
 知らず知らずに魔力を消費してしまう事もあるだろう。

「好きなヤツとしかしたくないなら、そいつに頼めばいいだろ」
「好きな人なんていないよ……好きになんて、なれない……」
「じゃあどうするんだよ」
「どうしたら、いいんだろうね……」
「セックスが嫌なら、フェラは?」
 俺の言葉に咲は目を見開いた。
「無理なんだな。じゃあキスとか」
「キスって……」
「唾液なら飲めるか?」
「無理だよ……」
 何がそんなに無理なのか、咲は頑なに魔力供給を拒む。
「何なら、口にできそうなんだ?」
「涙ぐらいなら……」
「ちょっと待て」
 俺は大きく口を開けて、無理やり何度かあくびをした。
「ほら」
 零れ落ちそうな涙を指で掬うと、咲の口元に差し出した。
「早くしないと、落ちる」
 俺の言葉に咲はおずおずと、俺の指を軽く咥えた。
 唇の柔らかさにドキリとしたが、咲の反応にもっとドキドキした。
「あ……うわ……美味しい……」
 うっとりと俺を見つめる咲の顔は、少し頬が赤らんでいて、何だかエロかった。
「ああ……凄い……」
 身体を少し震わせながら、咲は俺を見つめている。
「……あの、もっと……ちょうだい……」
 その時から、俺はどうしようもなく咲に恋してしまった。

 先に進みたい気持ちもあったけど、咲がうっとりと俺の涙を口にする姿は、それはそれでなかなかくるものがあった。
 でも、いつまでもこの状態でいられる訳がない。
 咲は、好きな人とならセックスできるらしい。
 それはつまり、魔力供給の為のセックスは嫌だけど、愛し合う為のセックスならできると言うことだ。
 確かに、同じセックスでもその二つは全くの別物だ。
 なら、咲も俺を好きになればいい。
 そうすれば、俺は咲に魔力と愛を注ぐことができる。
「不特定多数としてると思うと、どうしても嫌悪感が先に来ちゃうから……あー、恋愛対象としての嫌悪感であって、人としてどうとかはないから。大丈夫、樹はお好きに、どうぞ……」
 好きなタイプを聞いてみたら、そんな答えが返ってきて、俺は少なからずショックを受けた。
 俺もごく普通に魔力供給をしていた訳で、恋愛対象としては嫌悪感を持たれていた。
 しかも完全に相手にされていない。
 その時から、俺は魔力供給も断るようになり、ステーションにも行かなくなった。
 少しでも、咲に相応しい男になりたかった。

「ああ……生き返る……」
 咲がどこか物欲しそうに俺を見つめる。
「もっといるか?」
 俺の言葉に、咲は俺を見つめたまま小さく頷いた。
「ほら」
 差し出した指を咲が咥える。
 最初はおずおずと軽く唇に押し当てるように涙を舐めていた咲も、何度かやる内に俺の指ごとパクリと咥えるようになっていた。
 咲の口の中、咲の舌が俺の指を美味しそうに舐め回す。
「は、あ……」
 ほんの僅かな涙だけで、こんなにも恍惚の表情を浮かべて、それ以上の事をしたらどうなるんだろうか。
「俺の涙だけでは、足りないんじゃないか?」
「うん……でも、樹以外から貰う訳にもいかないし……」
 それ以上の事を仄めかすと、咲は見当違いの返事をした。
 でも、それで気付いてしまう。
 咲は俺以外の魔力を知らない。
 そう思うと、ぞわりとしたものが背中を走った。
 そんな存在、普通はあり得ない。
 なんだか、咲が俺だけのもののように感じて、物凄く興奮した。
 俺しか知らない、俺だけの咲。
 もう、俺の我慢は限界だった。


「これぐらいで、いいか?」
 はじめて咲にキスをした。言いくるめて半ば強引に。
 それなのに咲はもっととねだり、首に腕を回して執拗に俺を求めた。
「ありがとう。もう、大丈夫」
 そう言った咲の頬は赤く、潤んだ瞳はどこか熱をはらんでいた。いつも以上に物凄くエロかった。
 俺が大丈夫じゃないと言いたかったけど、咲は嬉しそうに課題に取り掛かってしまう。
 課題が終わらないと帰れないんだから仕方ない。
 でも、咲は確かに「これならセックスだってできるかもしれない」と言っていた。

 ついに、その時が来るのかもしれない。
 もっとと言って顔を寄せてくる咲や、腕を絡ませながら緩く口を開ける咲。そして絡み合う舌。
 繰り返し記憶を反芻しながら、来たるべきXデーに思いを馳せていると、咲は慌ただしく荷物を纏めて走り去っていった。
「この勢いに乗って、ちょっとセックスしてくる。じゃあね」
 そんなセリフを残して。

 え?どこに?誰と?俺は?

 予想外の展開に、俺は直ぐに動けなかった。
 慌てて追いかけて捕まえると、俺とはしないとかステーションの適当な男とやるとか言われて意味が分からなかった。
 俺以外の魔力が咲に入ると思うと、非常に不愉快だった。
 こんな事を思うのは理不尽だと分かっている。
 生きてく上で魔力は必要で、常に俺が与えられるとは限らない。
 必要があれば誰からでも魔力を貰う事はごく自然な事だ。それでも、咲には俺以外の魔力を知って欲しくなかった。

 異常な程の嫉妬に駆られた俺は、無理やり咲をステーションに連れて行った。
 あんなに魔力供給に嫌悪感を持っていたんだから、魔力供給の為だけのこの施設が平気な訳がない。
 思った通り、あちこちから聞こえる嬌声や肉がぶつかる音に、咲はすっかり顔色を失っていた。
「咲は、ここで知らない男とセックスできるのか?」
 それでも咲は、俺の質問に直ぐには答えず、悩むように黙りこくってしまった。

 するのか、セックス。
 ここで、俺の知らないヤツと。

 そんな事許さない。
 何もしないと言ったくせに、気付けば咲にキスをしていた。
「んんっ……んっ……」
 唾液を、魔力を流し込めば咲の身体から力が抜ける。
 周りから聞こえる音に、俺は我を忘れそうになった。
「何もしないって、言ったのに」
 押し退けられ、赤い顔で睨みつけられて本来の目的を思い出した。
「できるのか?セックス」
 俺の問いかけに無理だと答えた咲は、青白い顔で気持ち悪いと言った。
 こんな場所に無理やり連れてきて、何をやっているんだ俺は。
 咲を傷つけたい訳じゃないのに。
 無理やり連れてきた事、そして嫉妬に駆られてキスをした事を謝ると、俺は咲とともにステーションを後にした。

 家への帰り道、思いの外すんなりと告白できた俺を、咲は受け入れてくれた。
「それって……え?どうしよう……凄く、嬉しい」
 手で赤い顔を隠しながら告げられた言葉に、俺はもう我慢できなかった。
「咲に、たっぷり注ぎたい」
 そう言って掴んだ手を、咲は拒まなかった。

 あんなにセックスに嫌悪感を持っていたのに、咲は積極的だった。
 キスだけでせつなげに足を摺り合わせる咲に、俺は硬くなった俺のモノを、擦り付けるように押し付けた。
 好きな人とならできると言う事は、挿れて出す以上の事をしてもいいんだろうか。
 緊張しながら脱いでもいいか聞くと、咲はあっさりと了承し、するすると服を脱いでいった。
 ブラジャーに手をかけ、躊躇いなくホックを外そうとするから、思わず脱ぐ手を止めて見つめてしまう。
 そんな俺の様子に不審がりながらも、咲は一気にブラジャーを外した。
「うっ……」
 初めて見る咲の胸は、破壊力抜群だった。
 余りにエロくて、直視できない。でも、見ない事もできなかった。
 チラリと見れば、少し前かがみになっているからか、その大きさが際立っていた。
 更にチラリと見れば、咲の動きに合わせてふるふると柔らかそうに揺れていた。

 あれを、好きにしていいのか?

 俺の胸は期待に膨らみ、違う部分も痛いほど膨らんでしまう。
 咲の動きは尚も止まらず、ついにパンツも脱いでしまった。
 なぜ、そんなに手際がいいんだ。
 現れた黒い茂みに息を呑むと、咲がにじり寄ってきた。
 俺の目の前に咲の裸がある。エロ過ぎて鼻血が出そうだった。
 何でも無さそうな咲に対して、余裕の無い俺自身に腹が立って、思いっきり咲の胸を掴んだ。
「い、痛い。もっと、優しく揉んで」
 余りに柔らかくて、気持ちが良くて、咲の言葉も耳に入らない。
「あの、もっと、乳首の方も、触って」
 咲が困ったような顔で言ってきた。見ると俺の指の間で赤く色づいた乳首が俺を誘っていた。
「い、いいのか?」
「うん……あと、こっちも……気持ち良く、して……」
 咲は熱っぽい視線で俺を見つめたまま、俺の手を割れ目に宛てがった。
 そこはもうビショビショに濡れていた。
 濡れた割れ目をなぞり、指を入れる。
 乳首を扱くように胸を揉むと、咲は自ら腰を振りだした。
「あっ、んっ……ああっ……」
「本当に、初めて……なんだよな?」
 気持ち良さそうに目を細める咲に、再度確認してしまう。
 魔力供給の為のセックスは、独りよがりでも問題は無い。男が中に出せば女も満足する。
 でも、愛し合う為のセックスはそうではないだろう。どれだけ快感を与えられるか、男の力量が問われる。
 咲の手慣れた様子に、俺のものは縮こまってしまった。
 胸の揉み方も分からないような俺が、ちゃんと咲をイカせられるか、完全に自信を失っていた。

 
「あの、私前世の記憶があるの」
 咲の告白はにわかには信じられなかったけど、納得できる部分もあった。
 魔力供給に対するあれ程の嫌悪感、それに反して愛し合う事への積極性。
 俺ではない誰かと愛し合った記憶があると思うと面白くなかったけど、それは前世の話だ。
 それに、ひょっとしたら前世での相手も俺だったかもしれない。
 こんなにも咲を独り占めしたいと思うんだから、きっとそうだ。そうに違いない。
 そう思うと、もう我慢できなかった。
 エロく貪欲に俺を求める咲に、俺の全てを注ぎ込んだ瞬間。
 余りに気持ち良くて幸せで、もう咲無しでは生きていけないんじゃないかと思うぐらい、最高な気分だった。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「樹ー!見て見て、スマホを買いました!」
 樹と付き合うようになり、しっかりと魔力供給して貰うようになった私は、毎日が楽しかった。
 今まで使えなかった家電をフルに活用し、文化的な暮らしを堪能していた。
「良かったな。使い方が分からなかったらいつでも聞いてくれ」
「それは大丈夫。フリック入力もバッチリだよ!」
 前世では普通に使っていたので、使用に問題は無い。
「あ、そうだ。あと、これ」
 私はスマホをカバンに放り込むと、持っていた紙袋を樹に渡した。
「キッシュとローストチキンとレモンケーキとクッキー。今までお母さんがいる時しかオーブンが使えなかったから、反動で色々作り過ぎちゃった。良かったら皆で食べて」
「重っ」
「愛情たっぷりだからね」
 私が笑うと樹も笑った。
「それは、俺も愛情をたっぷりと注いでお返ししないとな。早く上がったらどうだ?」
 何にとかどうやってとかは聞かない方が良さそうだ。

「お邪魔しまーす」
 奥にいるであろうおばさんに向かって挨拶すると、玄関に上がる。
「やだー、咲ちゃん久し振り!」
「これ、貰った」
「まあ、こんなに一杯!咲ちゃんが作ったの?」
 樹の家に来るのは久し振りで、おばさんの元気な声が何だか懐かしかった。
「お口に合うか分かりませんが、皆さんで召し上がってください」
「やだー、咲ちゃんったらしばらく会わない内にすっかりお嬢さんになっちゃってー」
「そう言う世間話はいいから。ほら、咲も早く行くぞ」
「もう、久し振りなんだからいいじゃない。咲ちゃんごゆっくりねー。タオル用意しておくから、終わったらシャワー使って」
「え、いや、あの……ありがとうございます……」
 終わったらって、やっぱりアレの事なんだろうか。久し振りにカルチャーショックを受けてしまった。


「うーん、全く見覚えがない」
 樹の部屋に入ると、そこは見知らぬ男の人の部屋だった。
「咲とは外で遊ぶ事が多かったしな。俺も久し振りに咲の部屋に行った時は、落ち着かなかった」
「野球ばっかりしてたもんね」
「今の咲からは想像もつかないけどな」
「中学辺りからは男子に混じって何かをするのも嫌だったし、色々悲観してたからね。でも、今ならもう大丈夫。また魔球の研究できるよ!」
「その前にやる事があるだろ」
 ボールを握って投げるふりをする私に、樹は呆れた顔をした。
「え?それって……」
「登録しないと、連絡がつかない」
 樹が自分のスマホを差し出してきた。
「あ、うん。そうだった」
 勘違いした事が恥ずかしくて、私は誤魔化すように慌ててスマホを取り出した。

「ちょっといいか?」
 樹は私のスマホを操作して、色々登録してくれている。
 完全にエッチな事が始まる流れかと思ってしまった。恥ずかしい。
「ほら」
 差し出されたスマホを受け取ると、樹は自分のスマホを操作しだした。
 私のスマホから、ピコピコとメッセージ受信の音が鳴る。
 樹からのメッセージだった。

 咲が好きだ

 目の前にいるんだから直接言えばいいんだろうけど、文字で見ると、耳で聞くのとはまた違う嬉しさがあった。

 私も樹が好き
 樹がいてくれて良かった

 私からもメッセージを送ると、樹も赤い顔でじっと私を見つめてきた。
 私は再び樹にメッセージを送った。

 樹の魔力が欲しい
 いっぱい、ちょうだい

「俺から誘おうと思ってたのに」
 樹はスマホを投げるように机に置くと、私の手を掴みベッドに押し倒した。
「俺の魔力は、咲の物だ」
 樹はそれだけ言うと、キスをしてきた。
 舌が差し入れられ、絡み合う。
「んっ……ふっ……んんっ……」
 舌が絡み合えば合うほど、樹の魔力が感じられて、うっとりするぐらい気持ち良かった。
「咲……」
 樹が薄く笑いながら私を見下ろす。
「たっぷり注ぐ約束だからな。覚悟しておけよ」
「……うん、愛情もたっぷりでお願いね」
 私から樹を引き寄せると、唇が触れるだけのキスをした。
「あー、もう。ホント好きだ」
 樹は私をきつく抱きしめて、耳元で囁く。
「私だって、大好きだよ」
 ギュッと抱き合うだけでは魔力は貰えないけど、樹がそこにいるだけで、私は幸せだった。


 ずっと、こんな世界嫌だと思ってた。
 でも、樹がいるならこの世界も悪くない。
 次から次へと注がれる樹の魔力を感じながら、私はそんな事を思った。
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みんなの感想(1件)

さるどり島
2020.08.18 さるどり島

おぉぉぉぉ〜もしろぃ!
(*´Д`*)ハフン♡

現実にそこに
生まれ変わったら
きつそぅー(^◇^;)

けど、物語として読むと
凄く面白かったです( ^ω^ )!

白玉しらす
2020.08.19 白玉しらす

感想ありがとうございます!

お読みいただきありがとうございました!

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