勇者の中の魔王と私

白玉しらす

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本編

第六夜

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「くっ、ニナ……そろそろ、限界……」
「もう少しだけ……」
「うっ……くっ……」
「あと、少し……」
「ホント、もう……無理……」
「すみません。終わりました」
 ケニスさんは私の言葉を聞くと、机に突っ伏した。
「だ、大丈夫ですか?」
「ニナは容赦ねえな」

 私が以前紙に書き起こして魔術師団に送っていた術式と、おじさまが復元した術式を元に、魔術師団の皆さんがそれぞれ腕輪に書き込んでいく作業が深夜まで続いていた。
 当たり前のように腕輪を使っている事に私が驚くと、おじさまは私が通う学校の実情を聞いて「これだから田舎は」と顔をしかめていた。

 私は欠けが大きい術式を担当したものの、おじさまから絶望的に遅いと言われ、ケニスさんと組んで作業するように言われた。
「ケニス君は魔力量は多いんだけど、理解の方が追いついて無いんだよね」
 おじさまはそう言うと私に魔法をかけた。
 術式を紙に書き起こす魔法の応用で、私が思い浮かべた術式は重ねた手を伝ってケニスさんを通り、腕輪に書き込まれていく。
 魔力を渡すことは出来なくても、代わりに術式を書き込む事は出来たのかと、思いつかなかった事を悔しく思った。

 ケニスさんの手を握り術式の書き込みを始めると、思うままにどんどん術式が書き込まれて行くことに興奮した。
「ケニスさん、凄いですね!」
 握る手に力を込めてケニスさんを見ると、ケニスさんも興奮しているのか、赤い顔でこくこくと頷いていた。
「これなら、あっと言う間に終わりますよ」
 私は勢いに乗って、どんどん術式を書き込んでいく。
「ちょっ、ニナ、ヤバイ、待って、く……れ……」
 ケニスさんは急激な魔力の低下で倒れてしまった。
「普通そんな複雑な術式を、そんな速度では書き込めないんだけど流石だね。でも、もう少しケニス君の事も考えてあげなさい」
 おじさまに窘められ、ケニスさんが復活してからは、様子を見ながら慎重に書き込んでいった。
 ケニスさんはおじさまに魔力量の多さを褒められるだけあって、深夜まで倒れることなく書き込むことが出来たけど、ずっと顔が赤かったから、無理をしていたのかもしれない。
 
「悪い、しばらく、休む……」
 ケニスさんはフラフラと立ち上がると、部屋の隅に置かれた長椅子に倒れ込んだ。
 部屋のあちこちで屍のように横たわる人が増えてきている。
「今日はここまでかな。しっかり休んで魔力を回復させるのも、魔法使いの務めだよ。はい、解散」
 おじさまの言葉に、屍たちはゆらゆらと立ち上がり、そのまま部屋を出ていった。
 その慣れた様子に、過酷な職場なんだなとおじさまの顔を見ると、ニッコリと微笑んでいた。
「ニナ君は魔力を使ってないんだから、まだ大丈夫だね。どの順番で魔法を発動させるか、構成を決めておこうか」
 やはり、過酷な職場だった。
 
 おじさまがそれぞれの進捗を確認する中、私はひたすら構成を練った。
 魔術師団の皆さんは流石に優秀で、この調子だと私の魔法よりも良い物になりそうだった。
「ニナ君も、今日はこの辺にしておこうか」
 気がつけばおじさまは私の隣に座り、優しげに微笑んでいた。
「すみません。私のせいで皆さんにご迷惑をおかけして」
 屍のように横たわる魔術師団の皆さんを思い出して、私は申し訳なさでいっぱいだった。
「ここはいつもこんな風だから気にする事はない。私はむしろお茶会を断る口実が出来て助かったよ」
「お茶会ですか?」
「夜会までの間に大量のお誘いがあってね」
 なぜおじさまにお誘いがあるのか分からず、私は首を傾げる。
「これでも前代の勇者だからね。今代の勇者と並ばせたがる人は多いんだよ」
「おじさまが勇者……」
「謁見の場でオスカー君には会ったけど、やっぱり勇者は好きになれなくてね。きっとオスカー君もそう思ったはずさ。同席なんて御免被りたい」
 おじさまは心底嫌そうな顔をした。
 オスカーが人に嫌われるなんて珍しい。

「オスカー君を嫌う理由が分からないかい?」
 おじさまは憐れむような顔で聞いてきた。
「勇者はね、根本的な性質は皆同じなんだよ。同族嫌悪ってやつだね。特にオスカー君は前々代の勇者にそっくりで反吐が出る」
 おじさまはそこまで言うと、私の反応をうかがうように少し間を置いた。
「あれは外面がいいだけの、ただの変態だよ」
 一体、おじさまは誰の事を言っているんだろう。
「その顔を見ると、やっぱりニナ君も騙されちゃってるんだねえ。まあ、その程度の仲って事かな」
「オスカーはそんな人間じゃありません。いい加減な事を言わないでください」
 私はオスカーの事は、家族だと思っている。
 その程度と言われて腹が立った。

「人は見たいものしか見えないものだからね。まだ手を出されて無いならいいけど、そのつもりが無いなら彼には気を付けた方がいいよ」
 余りに的外れな言葉に何も言えず、私は不快感もあらわにただ首を振る。
 そんな私の様子を見て、おじさまは目を細めて笑った。
「オスカー君が何を考えているか教えてあげようか。……そうだな、虚像しか見ようとしないニナには、身体に教え込みたくなるよね。身体中舐め回して、あらゆる所に擦りつけながら、ニナのイイ所を探したい。我を失ったニナにひたすら名前を呼ばせて、求めさせるのもいいね。ああ、自分の前で自慰をさせて、それを見ながら扱いたら気持ちいいだろうな」
 恍惚の表情で見つめられて、私は固まる。
「ちなみに、私はオスカー君と違って、隠さない変態だから」
 固まったままの私の肩をポンと叩いて、おじさまはドアの方に向かった。
「今日はもう休みなさい。仮眠室を使うといい。それじゃあ、お休み」
 おじさまは私に混乱を残したまま、去って行った。

 私は仮眠室のベットに横たわり、眠れぬ夜を過ごしていた。
 おじさまが変態なのは、この際どうでもいい。
 オスカーが考えている事として言った言葉が、頭をぐるぐる回って離れなかった。
『ニナに自慰を教え込んで、目の前で乱れる姿を見ながら、扱きたい』
 そう言ったのは魔王だったけど、おじさまの言葉と一致している。
 やたらとオスカーの名前を呼ばせたがっていたのも一緒だ。
 今夜全て話すと言っていたオスカーは、何を話そうとしていたんだろう。
 
『ニナ』
 優しく微笑みながら、私を呼ぶオスカーを思い出す。
 オスカーはいつだって優しく、私を守ってくれていた。
 子供の頃、男の子達に枯れ葉みたいな汚い髪だと笑われて落ち葉を被せられた時も、ニナはキレイだと慰めてくれた。
 最近だって、落ちこぼれがいつまでも学校に行っていても無駄だと言われる度に、ニナは凄いんだと反論してくれていた。
 そんなオスカーに、私がしてあげられる事なんて何も無くて、だからこそ、オスカーが笑顔でいてくれるなら私は何だってしようと思っていた。
 おじさまが言うように私の知るオスカーは、本当のオスカーとは違うんだろうか。
 オスカーは今、何をして何を思っているんだろうか。

 答えが出ない問題を考えるのは性に合わない。
 私は無理矢理思考を止めて、目を閉じて眠るように努めた。
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