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4.パンケーキ
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「じゃあニャンダユウ、早速ふにょふにょを見つけてきて」
私がニャンダユウにお願いすると、ニャンダユウは目を合わせる事なく無視をした。
「鼻を殴っちゃったのは謝るけど、最初に噛み付いたのはニャンダユウだって事、忘れてない?」
「ヤセイドウブツにムヤミにチカヨるホウがワルい」
ニャンダユウはシンデレラの足元に隠れると、私に背を向けたまま文句を言った。
「白雪はニャンダユウと仲良くしたいんだよ。仲良くしてくれないか?」
シンデレラはしゃがみ込み、ニャンダユウの顎を撫でてあげている。
ニャンダユウはひとしきり嬉しそうに喉を鳴らすと、空を飛び私の目の前にやってきた。
「ごシュジンのタノみだからしょうがナい。おマエともナカヨくしてやる」
私の目線よりも高く飛ぶ辺りに悪意を感じるけど、見た目が九割猫で可愛いから不問に処そう。可愛いは正義だ。
「ニャンダユウ、これからよろしくね」
私の挨拶に返事をする事なく、ニャンダユウはシンデレラの足元に飛んでいってしまった。
仲良くなるにはまだ時間がかかりそうだ。
「シンデレラ、早速ニャンダユウに歪みを探してもらいましょう」
私が言っても聞いてくれないので、シンデレラから頼んでもらう事にした。
「そうだな。ニャンダユウ、歪みを探してきて欲しい」
シンデレラの言葉に、ニャンダユウは羽を大きく広げると一気に空へと舞い上がった。
ぐるりと大きく旋回するニャンダユウを二人で見上げていると、直ぐに私達の頭上近くに戻ってきた。もう見つけてきたんだろうか。
「ニンゲンのコトバヒサしぶりでツカれた。サガすのはヤスんだアト。アシタからホンキダす」
それだけ言うとニャンダユウはどこかに飛んでいってしまった。
「なんですか、あれ」
「疲れているなら仕方ないな」
「優しいですね。でも、明日から本気出すってやる気のなさの現れですよ。明日は来た時点で今日になるんです。永遠に明日が来る事はないんです」
「なるほど」
「見つけたら説教してやりましょう」
「噛まれないように気をつけるんだよ。そろそろ昼だ、一度小屋に戻ろう」
シンデレラはニャンダユウが仲間になっただけで満足なのか、逃げたニャンダユウに腹を立てる事なく歩きだした。
「白雪は、この世界の人間ではないんだったな」
簡単に昼食を済ませ、二人でお茶を飲んでいると、シンデレラがぽつりと呟いた。
「記憶を失い、本当の名前も自分の姿も、忘れてしまった」
「我ながらあり得ない状況だと思うんですが、シンデレラは信じてくれるんですね」
「信じるよ。私もあり得ない状況に身を置く人間だから」
王子のわいせつ物のくだりを説明する時に、さらっと本来の私の事も伝えていた。
でも、思い出せないものを詳しく伝える事はできず、中身が違うと言う事ぐらいしか言えなかった。
「本来の自分を失い、見た目も変わってしまったのに、白雪は平気なのか?」
「平気な訳でもないですが、記憶が無いからそこまで落ち込まないんだと思います。何を失ったのかも分からないので。あ、でも、必要な記憶はちゃんと残っているので、不便はないんですよ」
「不安ではないのか?」
そう聞くシンデレラの方が、不安そうな顔をしている気がした。
「私のモットーは『人生楽しんだもん勝ち』なんです。だから楽しめる事がある内は、まだ大丈夫なんですよ」
「そうだな、料理をする白雪は楽しそうだった」
「シンデレラの方が楽しそうでしたけどね」
塩漬け肉を焼く時に、味付けのために白ワインらしきものをかけたら、かまどの炎に引火して火柱が立ってしまった。
直ぐに消えたから良かったけど、私の慌てようが面白かったのか、シンデレラが堪えきれないように笑った。
笑うシンデレラを見ていると私も可笑しくなって、二人して笑ってしまった。
「そうか、なら私もまだ大丈夫なんだな」
シンデレラは嬉しそうに笑っている。
シンデレラも魔法使いに世界を歪められて、本来の自分とは違う立場に立たされてしまった。
私と違ってシンデレラには記憶がある分、以前と比べて落ち込んだり不安になったりするんだろう。
私だって運良くここに来られたから笑っていられるけど、わいせつ物に捕まっていたら、さすがに楽しむどころではない。
むしろ楽しんだら快楽墜ちまっしぐらだ。
「シンデレラが笑ってくれるなら、いくらでも火柱を上げちゃいますよ」
少しでもシンデレラの不安が少なくなるならと思いおどけて言うと、シンデレラは真顔に戻ってしまった。
「火傷するといけないから、次からは気をつけて欲しい」
「はい、すみません……」
「でも、美味しい食事を作ってくれてありがとう。今まで食べたどんな料理より、美味しかったよ」
料理と言っても私がやった事は塩漬け肉と野菜を炒めただけだ。
しかもガスコンロと違い火力調整が出来ないからちょっと焦げちゃったし、塩漬け肉は塩抜きが足りなくて塩辛かった。
「そう言って貰えるのは嬉しいですが、私の実力はまだまだこんな物じゃないはずなんです。ニャンダユウが戻ってくるまで、ちょっと料理の研究でもしてみます」
「そこまでしなくてもいいんじゃないか?」
「いえ、異世界に来たら料理知識で無双するのが、正しい日本人のあり方なんです」
「よく分からないけど、逆境の中でも目標をもって努力するのはいい事だな。私も白雪を見習って剣術の稽古でもしてくるよ」
「じゃあ私はおやつ作りを頑張りますね。豊かな暮らしは豊かな食生活から、ですよ」
「そうか、楽しみにしているよ」
シンデレラは私に笑顔を向けると、木の枝を携えて外へ出ていった。相変わらずギャップ萌えが凄かった。
楽しみにしてくれるシンデレラのためにも立派なおやつを用意したかったけど、いきなり薪オーブンを使いこなせる訳もなく、レシピも完全に覚えている訳でもないので、フライパンでパンケーキを作ることにした。
ホットケーキミックスなんて言う便利な物も無いので、メレンゲを泡立ててそれっぽく作ってみたけど、なかなかいい感じに焼けてきた。
部屋中に甘い香りが漂ってきたので、私は鼻歌を歌いながらテーブルの準備をした。
「アイカわらず、オンチ」
パントリーからジャムを持って戻ってきたら、ニャンダユウがいた。
「音痴じゃない。こう言う音楽なの」
「いいニオいする」
私の反論はスルーされ、ニャンダユウが鼻をひくひくさせた。
「もうすぐパンケーキが焼けるからね。でもニャンダユウは食べちゃだめだよ」
「サベツ、ヨくない」
「猫が人間の食べ物を食べると身体に悪いからだめなの」
「ニャンダユウ、マジュウ。カラダにワルいモノなんてナい」
「自分の事、野生動物って言ってたでしょ」
「ナンでもタべられる、バンノウなヤセイドウブツ」
「食べられるのと消化できるのは違うんだよ」
「ナンでもショウカデキる、バンノウなヤセイドウブツ」
「言い直してもだめ」
ニャンダユウと言い争っている間にパンケーキが焼き上がり、シンデレラも戻ってきた。
「いい匂いだな」
「ごシュジン、あのオンナ、ニャンダユウをイジめる」
「虐めてない。猫にパンケーキはあげちゃだめなんだってば」
「猫?ハラルは雑食で何でも食べると書物には書いてあった」
「え?そうなんですか?」
「だからバンノウとイった」
ニャンダユウがニャーニャー鳴いて抗議している。
「それはごめんね。お詫びに先にちょっとあげる。熱いから気をつけてね」
焼き立てのパンケーキの端を千切ると、ニャンダユウの前に置いてあげた。
ニャンダユウは直ぐに噛り付き、熱かったのかフギャーと鳴いた。
「気をつけてって言ったのに」
シンデレラにも切り分けながら言うと、ニャンダユウはパタパタと飛んでパンケーキを見つめていた。
「サめたら、もっとホしい」
「ふにょふにょ探しに行ってくれたらいっぱいあげるよ」
「シカタない。ふわふわのタメに、ふにょふにょサガす」
そう言うとニャンダユウはパタパタ飛んで出ていった。
「なるほど、これが料理知識で無双か……」
「こんなレベルで無双は違う気がしますけどね」
やはり少し焦げてしまっているパンケーキを見て微妙な気持ちになったけど、ニャンダユウが働く気になってくれたから良しとしよう。
私とシンデレラはふわふわのパンケーキを食べながら、ニャンダユウの帰りを待った。
私がニャンダユウにお願いすると、ニャンダユウは目を合わせる事なく無視をした。
「鼻を殴っちゃったのは謝るけど、最初に噛み付いたのはニャンダユウだって事、忘れてない?」
「ヤセイドウブツにムヤミにチカヨるホウがワルい」
ニャンダユウはシンデレラの足元に隠れると、私に背を向けたまま文句を言った。
「白雪はニャンダユウと仲良くしたいんだよ。仲良くしてくれないか?」
シンデレラはしゃがみ込み、ニャンダユウの顎を撫でてあげている。
ニャンダユウはひとしきり嬉しそうに喉を鳴らすと、空を飛び私の目の前にやってきた。
「ごシュジンのタノみだからしょうがナい。おマエともナカヨくしてやる」
私の目線よりも高く飛ぶ辺りに悪意を感じるけど、見た目が九割猫で可愛いから不問に処そう。可愛いは正義だ。
「ニャンダユウ、これからよろしくね」
私の挨拶に返事をする事なく、ニャンダユウはシンデレラの足元に飛んでいってしまった。
仲良くなるにはまだ時間がかかりそうだ。
「シンデレラ、早速ニャンダユウに歪みを探してもらいましょう」
私が言っても聞いてくれないので、シンデレラから頼んでもらう事にした。
「そうだな。ニャンダユウ、歪みを探してきて欲しい」
シンデレラの言葉に、ニャンダユウは羽を大きく広げると一気に空へと舞い上がった。
ぐるりと大きく旋回するニャンダユウを二人で見上げていると、直ぐに私達の頭上近くに戻ってきた。もう見つけてきたんだろうか。
「ニンゲンのコトバヒサしぶりでツカれた。サガすのはヤスんだアト。アシタからホンキダす」
それだけ言うとニャンダユウはどこかに飛んでいってしまった。
「なんですか、あれ」
「疲れているなら仕方ないな」
「優しいですね。でも、明日から本気出すってやる気のなさの現れですよ。明日は来た時点で今日になるんです。永遠に明日が来る事はないんです」
「なるほど」
「見つけたら説教してやりましょう」
「噛まれないように気をつけるんだよ。そろそろ昼だ、一度小屋に戻ろう」
シンデレラはニャンダユウが仲間になっただけで満足なのか、逃げたニャンダユウに腹を立てる事なく歩きだした。
「白雪は、この世界の人間ではないんだったな」
簡単に昼食を済ませ、二人でお茶を飲んでいると、シンデレラがぽつりと呟いた。
「記憶を失い、本当の名前も自分の姿も、忘れてしまった」
「我ながらあり得ない状況だと思うんですが、シンデレラは信じてくれるんですね」
「信じるよ。私もあり得ない状況に身を置く人間だから」
王子のわいせつ物のくだりを説明する時に、さらっと本来の私の事も伝えていた。
でも、思い出せないものを詳しく伝える事はできず、中身が違うと言う事ぐらいしか言えなかった。
「本来の自分を失い、見た目も変わってしまったのに、白雪は平気なのか?」
「平気な訳でもないですが、記憶が無いからそこまで落ち込まないんだと思います。何を失ったのかも分からないので。あ、でも、必要な記憶はちゃんと残っているので、不便はないんですよ」
「不安ではないのか?」
そう聞くシンデレラの方が、不安そうな顔をしている気がした。
「私のモットーは『人生楽しんだもん勝ち』なんです。だから楽しめる事がある内は、まだ大丈夫なんですよ」
「そうだな、料理をする白雪は楽しそうだった」
「シンデレラの方が楽しそうでしたけどね」
塩漬け肉を焼く時に、味付けのために白ワインらしきものをかけたら、かまどの炎に引火して火柱が立ってしまった。
直ぐに消えたから良かったけど、私の慌てようが面白かったのか、シンデレラが堪えきれないように笑った。
笑うシンデレラを見ていると私も可笑しくなって、二人して笑ってしまった。
「そうか、なら私もまだ大丈夫なんだな」
シンデレラは嬉しそうに笑っている。
シンデレラも魔法使いに世界を歪められて、本来の自分とは違う立場に立たされてしまった。
私と違ってシンデレラには記憶がある分、以前と比べて落ち込んだり不安になったりするんだろう。
私だって運良くここに来られたから笑っていられるけど、わいせつ物に捕まっていたら、さすがに楽しむどころではない。
むしろ楽しんだら快楽墜ちまっしぐらだ。
「シンデレラが笑ってくれるなら、いくらでも火柱を上げちゃいますよ」
少しでもシンデレラの不安が少なくなるならと思いおどけて言うと、シンデレラは真顔に戻ってしまった。
「火傷するといけないから、次からは気をつけて欲しい」
「はい、すみません……」
「でも、美味しい食事を作ってくれてありがとう。今まで食べたどんな料理より、美味しかったよ」
料理と言っても私がやった事は塩漬け肉と野菜を炒めただけだ。
しかもガスコンロと違い火力調整が出来ないからちょっと焦げちゃったし、塩漬け肉は塩抜きが足りなくて塩辛かった。
「そう言って貰えるのは嬉しいですが、私の実力はまだまだこんな物じゃないはずなんです。ニャンダユウが戻ってくるまで、ちょっと料理の研究でもしてみます」
「そこまでしなくてもいいんじゃないか?」
「いえ、異世界に来たら料理知識で無双するのが、正しい日本人のあり方なんです」
「よく分からないけど、逆境の中でも目標をもって努力するのはいい事だな。私も白雪を見習って剣術の稽古でもしてくるよ」
「じゃあ私はおやつ作りを頑張りますね。豊かな暮らしは豊かな食生活から、ですよ」
「そうか、楽しみにしているよ」
シンデレラは私に笑顔を向けると、木の枝を携えて外へ出ていった。相変わらずギャップ萌えが凄かった。
楽しみにしてくれるシンデレラのためにも立派なおやつを用意したかったけど、いきなり薪オーブンを使いこなせる訳もなく、レシピも完全に覚えている訳でもないので、フライパンでパンケーキを作ることにした。
ホットケーキミックスなんて言う便利な物も無いので、メレンゲを泡立ててそれっぽく作ってみたけど、なかなかいい感じに焼けてきた。
部屋中に甘い香りが漂ってきたので、私は鼻歌を歌いながらテーブルの準備をした。
「アイカわらず、オンチ」
パントリーからジャムを持って戻ってきたら、ニャンダユウがいた。
「音痴じゃない。こう言う音楽なの」
「いいニオいする」
私の反論はスルーされ、ニャンダユウが鼻をひくひくさせた。
「もうすぐパンケーキが焼けるからね。でもニャンダユウは食べちゃだめだよ」
「サベツ、ヨくない」
「猫が人間の食べ物を食べると身体に悪いからだめなの」
「ニャンダユウ、マジュウ。カラダにワルいモノなんてナい」
「自分の事、野生動物って言ってたでしょ」
「ナンでもタべられる、バンノウなヤセイドウブツ」
「食べられるのと消化できるのは違うんだよ」
「ナンでもショウカデキる、バンノウなヤセイドウブツ」
「言い直してもだめ」
ニャンダユウと言い争っている間にパンケーキが焼き上がり、シンデレラも戻ってきた。
「いい匂いだな」
「ごシュジン、あのオンナ、ニャンダユウをイジめる」
「虐めてない。猫にパンケーキはあげちゃだめなんだってば」
「猫?ハラルは雑食で何でも食べると書物には書いてあった」
「え?そうなんですか?」
「だからバンノウとイった」
ニャンダユウがニャーニャー鳴いて抗議している。
「それはごめんね。お詫びに先にちょっとあげる。熱いから気をつけてね」
焼き立てのパンケーキの端を千切ると、ニャンダユウの前に置いてあげた。
ニャンダユウは直ぐに噛り付き、熱かったのかフギャーと鳴いた。
「気をつけてって言ったのに」
シンデレラにも切り分けながら言うと、ニャンダユウはパタパタと飛んでパンケーキを見つめていた。
「サめたら、もっとホしい」
「ふにょふにょ探しに行ってくれたらいっぱいあげるよ」
「シカタない。ふわふわのタメに、ふにょふにょサガす」
そう言うとニャンダユウはパタパタ飛んで出ていった。
「なるほど、これが料理知識で無双か……」
「こんなレベルで無双は違う気がしますけどね」
やはり少し焦げてしまっているパンケーキを見て微妙な気持ちになったけど、ニャンダユウが働く気になってくれたから良しとしよう。
私とシンデレラはふわふわのパンケーキを食べながら、ニャンダユウの帰りを待った。
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