白雪姫とシンデレラ

白玉しらす

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6.ラプンツェル

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 その後も何度か、シンデレラとニャンダユウが歪みの先を見に行ってくれたけど、いつ行っても二人はお盛んにいたしていたそうだ。
「元の世界の物語では、二人が真実の愛で結ばれると野獣は人間に戻るはずなんですが……やはり魔法使いのせいでしょうか」
「白雪の世界の物語とこの世界の出来事は、根本的に違う点が多い。二人に話を聞けない以上、確かめようがないな。分かるのは歪みがあると言う事は、魔法使いに歪められている可能性が高いと言う事だけだ」
 ずっとあんな事を続けている二人を考えると、その内死ぬんじゃないかと思った。
「好きでああしているならいいですけど、もしも魔法使いのせいでああなっているなら、一刻も早く魔法使いをなんとかしないと」
「白雪は、自分の事より他人の事で一生懸命になるんだな」
「あんな物を見てしまった以上、放っておけませんよ」
 私は鳥肌がたつ腕を擦りながら答えた。
「魔法使いもいないようだし、次の歪みを探した方がいいのかもしれない」
「あの、歪みを見つけたからと言って、魔法使いを見つけられるんでしょうか」
「それは分からない。でも辿り着くにはこれしかない」
 一体いくつ歪みを探したら魔法使いに辿り着けるんだろう。
「魔法使いと言っても、そういくつも世界を歪ませる事は出来ないだろう。探す歪みの数も多くないはずだ」
 暗くなる私を、シンデレラが励ましてくれた。
「そう言えば、シンデレラはいつからここにいるんですか?」
 私がここにきて五日経った。
 私は五日で音をあげそうになってしまったけど、シンデレラは私より先にここにいた。
 私以上に弱音を吐きたいんじゃないだろうか。
「二年ぐらい前かな」
「え?」
「もう、どれだけ経ったかよく分からない」
 私は恥ずかしくなった。たったの五日で弱音を吐く自分が情けない。
「シンデレラ」
「フニャーッ!」
 私はシンデレラを呼びながら、足元で寝ていたニャンダユウを掴み上げた。
「ナニをスル!マジュウギャクタイだ!」
「探しましょう。歪み。ニャンダユウはこんなんでも優秀な使い魔です。きっと直ぐに魔法使いにも辿り着けますよ」
「こんなんとはシッケイな!」
「お前だけが頼りなんだ。頼むよ」
 暴れるニャンダユウを抱きあげると、シンデレラはニャンダユウの頭を撫でた。
「ごシュジンのタノみなら、ガンバる」
 ニャンダユウはごろごろ喉を鳴らすと、シンデレラの腕の中から飛び立った。


「これまた立派な塔ですね」
 ニャンダユウが見つけた歪みの先には、高い高い塔があった。
 その時点で髪の長い美女が暮らしていそうだったので、先に物語のあらましを話しておいた。
「一つ心配な事は、元々この話って王子が毎晩通って妊娠させちゃう話なので、わいせつ物が登場しやすい気がするんですよね」
「今度は私が確認するよ。白雪はここで待っていてくれ」
「いえ、心構えしておけば大丈夫です。塔の中に魔法使いもいるかもしれませんし、私も行きます」
 やる気みなぎる私は、シュッシュッとシャドーボクシングをしながら答えた。
「心強いな」
 シンデレラはふっと小さく笑い、塔の入口へと向かった。
 シンデレラの笑顔を見ると、なんだが嬉しくなる。もっともっと腹の底から笑える日が来るといいなと思った。

「鍵がかかっている」
 元の話では塔に入口は無かった気がするけど、ここにはちゃんと玄関があった。
 塔を見上げれば、いくら髪が長くてもこの高さは登れないなと思うので、そりゃ玄関ぐらいあるだろう。
「壊しますか?」
「どうやって?」
「ショットガンにドアブリーチング弾を装填して、蝶番を打ち抜くんですよ。そうしたら後は体当たりで開くはずです」
 聞かれたので得意気に答えてしまったけど、ここにはショットガンなんて無かった。
「困りましたね」
 無駄知識披露は無かったものとして答え直すと、シンデレラは塔を見上げた。
「外から登るしかないか」
「そんな、危ないですよ……あれ?待ってください。ニャンダユウって空間を歪ませられるんですよね?それでなんとかなりませんか?」
 歪み検知機としてしかその能力を使っていなかったけど、元々は空間を歪ませてあちこち移動する生き物なはずだ。
「ニャンダユウ、ここから塔の中に入りたい。できるか?」
「ニャンダユウはユウシュウ、それぐらいおチャのコさいさい」
「よし、いけ、ニャンダユウ!テレポートだ!」
「おマエのシジはウけない」
 付き合いの悪いニャンダユウはバサバサと飛び立つと、私達の頭上を旋回した。
 怒ったのかなと思って見上げているとフニャーと鳴き、次の瞬間私達は塔の中にいた。
「すごい、すごい。ニャンダユウすごい」
 私が顎を撫でて褒めると、ニャンダユウはごろごろと喉を鳴らした。
 ニャンダユウは口では偉そうに言っても、一緒に暮らす内に割と私にも懐いていた。
 私が作るご飯も気に入ってくれているようだし、なかなか可愛いやつだ。

 魔法使いがいるかもしれないので、私達は警戒しながら塔を登った。
「白雪はここで待っていてくれ」
「魔法使いがいたら、直ぐに呼んでくださいね」
 最上階を目前にして、シンデレラは立ち止まり、私に声をかけた。
 これ以上わいせつ物を見たくない私は、シンデレラの言葉に素直に従う。
 警戒を怠らず一人で待っていると、直ぐにシンデレラとニャンダユウが戻ってきた。
「どうでしたか?何か分かりましたか?」
「いや……」
 何やら複雑そうな顔で、シンデレラは口ごもった。
「オトコ、イッパイ。オンナ、セイエキマミれ。んっほおぉっサケんでた」
 ニャンダユウが無邪気に答え、私とシンデレラは黙りこくった。
「魔法使いもいなかった。取り敢えず、戻ろう」
「ヒトリのオトコ、コウビチュウ。ホカのオトコタチ、オンナのカミでセイキシゴく。カオにムかって、ハッシャ。キタナい」
「ニャンダユウ、それ以上もう言うな」
「ヒトのコウビ、リカイフノウ」
 私だって理解不能だ。
「ああ言うのは、特殊な例だ……多分」
 シンデレラも常識がぐらついているんだろう。その声にいつもの様な力強さは無かった。


 小屋に戻ってきた私達は、いつものハーブティーを飲みながら、疲れた心を癒やしていた。
「シンデレラ、大丈夫ですか?」
 シンデレラはずっと幽閉されていて、その後も二年近く一人で過ごしていた。
 大人っぽい見た目や言動から、その手の事にも動じないと思っていたけど、実は全く免疫が無い事だって考えられる。
 初めてのヰタ・セクスアリスがニャンダユウの言った通りだとしたら、先行きが心配だ。
「私なら大丈夫だ。そんなに直ぐ魔法使いが見つかるとは思っていないよ」
「いえ、そうでなく……その、わいせつ物を見てショックを受けてないかなー、って」
「ああ」
 シンデレラはそんな事かと言う様な顔を私に向けた。
「教育は受けていたし、元は……」
 シンデレラは途中で口を噤むと、じっと私を見つめた。
「いや、何でもない」
 少し寂しそうな顔をするシンデレラに、私は気が気じゃなかった。
 雄しべ雌しべ的知識と、複数プレイやら髪を使った自慰やら顔射やらをかぶりつきで見るのとでは、えらい違いだ。
 大丈夫と言いながら、やはり心に傷を負ってしまったんじゃないだろうか。
「シンデレラ、ちょっと気分転換しましょう」
 私は極力明るい声でシンデレラに呼びかけた。
「私も連日のわいせつ物にちょっと疲れました。そんな時はキャンプですよ、キャンプ」
「キャンプ?」
「疲れた心はじっと焚き火を見つめて癒やすに限ります。ちょっと私、今から火起こししてきますね。晩ごはんはソーセージを火で炙ってパンに挟んで食べましょう。いやもう、言ってる端からよだれが出ますね」
 私は立ち上がると、外に向かった。
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