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第53話 あなたと幸せに
しおりを挟む「すごくいい天気……」
今日は朝からバタバタ忙しいというのに、思わず窓の外の雲一つない青空を見ていたら、ついついそんなことを口にしていた。
「──クラリッサ様! お気持ちは分かりますが今はご支度を!」
「気持ちの良い青空は後で堪能してくださいませ!」
「あ……は、はい、今行くわ!」
侍女たちに促されてわたくしは慌てて準備に取り掛かった。
「────ようやくこの日がやって来ましたね」
「え?」
「ご結婚、おめでとうございます。クラリッサ様」
「あ、ありがとう!」
その言葉で実感する。
わたくしは今日、コンラッド様の花嫁になるのだと───
「既にデレデレ状態のコンラッド殿下を、本日はメロメロにしてしまいましょうね!」
結婚式が近づくにつれてコンラッド様は誰が見ても浮かれていた。
城の者たちの話によると、昨日くらいからはデレデレ度がかなりアップしたとか。
(……なんだか不思議)
この国に来たばかりの時は皆、あんなにもよそよそしい雰囲気だったのに……
コンラッド様とサマンサ嬢の話を聞いて、わたくしは邪魔者だった──なんて思っていたのがすごく遠いことに思える。
「クラリッサ様の顔立ちは可愛らしいからお化粧は───」
───クラリッサ様
少し前から城の者たちにも王女殿下……ではなく、クラリッサ様とわたくしは呼ばれるようになっていた。
初めてサマンサ嬢に呼ばれた時もそうだったけれど、何だかとてもくすぐったい。
それと同時にようやく、自分がプリヴィアの人間になれたような気がする。
「とっても綺麗です! お美しい……それでいて可愛らしい!」
「あぁ、その可愛らしさにコンラッド殿下は間違いなくメロメロになりますね!」
「それでなくても浮かれているご様子ですからね」
支度を終えたわたくしに向かって皆が褒めてくれる。
「あ、ありがとう。でも、少し大袈裟では?」
「いいえ、大袈裟なものですか!」
「そうですよ!」
「……」
(────今日くらいは、自分を“可愛い”……そう思っても許される……わよね?)
わたくしは、こっこり鏡を見てそう思った。
❋
「────クラリッサ!」
「コンラッド様? ───っ!」
大好きな声が聞こえてわたくしは振り向く。
そこには、同じように結婚式の支度を終えたコンラッド様のお姿。
そのあまりのかっこよさにわたくしの頭もクラクラする。
「支度が終わったと聞いた。一番に君の姿が見たくて飛んで…………」
ひょこっと顔を出したコンラッド様は、そこまで口にして固まった。
「……あ、あの?」
「……」
「コンラッド様……?」
「っっっ」
コンラッド様の身体が震えている。
そして、すごくすごくすごーーく小さな声で呟いた。
「────想像以上だ…………閉じ込めておきたい」
「はい?」
うまく聞き取れなかったので聞き返したけれど、コンラッド様は首を横に振るだけ。
「コホッ……い、いや? 何でもないよ。私の妃が美しい……そう言っただけだ」
「……妃」
「そうだよ、クラリッサ。君は今日から私の妃だ」
コンラッド様の手が私の頬にそっと触れる。
そして、いつものように顔を近づけようとしてピタッと止まる。
「コンラッド様……?」
「───このままクラリッサ……君にキスをしたいところだけど……ダメみたいだ」
「ダメ?」
そこで、コンラッドの目線がチラッと後ろで控えている侍女たちに向かう。
「無言の圧力が凄い……」
「無言の……圧力ですか?」
「ああ。仕方がない。ここは誓いのキスまで我慢するとしよう」
コンラッド様はそう言って笑った。
そうして、二人で手を繋いで式を行う会場まで向かう。
「そういえば、ここのところ連日手紙が凄かったね」
「あ……」
コンラッド様のその指摘にわたくしは苦笑する。
「結婚式の日程が伝わっていたようで、家族それぞれから手紙が届きました……」
「……なんで、バラバラに送ってくるんだ……迷惑だな」
「皆、今はそれぞれバラバラになったようなので……」
「ああ……なるほど」
そんな家族からの手紙はどれも、結婚の祝福とわたくしの幸せを願うと書かれていた。
「まだ、返事を書く気にはなれませんが……」
「無理しなくていい。どうせ今は、こんなにも可愛いクラリッサのウェディングドレス姿を見られなかったことを後悔している頃だろう」
そう口にするコンラッド様は少しだけ悪い顔をしている。
「さぁ、行くよ、愛しい私のクラリッサ。今日は君への愛を皆の前で誓う時なんだから」
「はい。わたくしも……コンラッド様への愛を誓います」
「……」
「ふふ」
互いの目を見つめて微笑み合ったわたくしたちは、繋いでいた手に更にギュと力を込めた。
(あなたと幸せになります───)
❋❋
───そして、わたくしたちの結婚式は大きなトラブルもなく終わった。
たくさんの人に“おめでとう”と優しくお祝いされて思わず何度も何度も涙が出そうになった。
かつてランツォーネで向けられていたあのたくさんの冷たい目が嘘のよう。
(この国に来た時はこんな幸せな結婚が出来るなんて思っていなかったのに……)
厄介払いを含んだ政略結婚だと勘違いしたり、サマンサ嬢が乗り込んで来たことでコンラッド様には恋人がいると思い込んだり……
幸せになりたいけれど、自分の罪を隠したまま幸せになってもいいの?
そんな風に心もずっと揺れていた。
(けれど、そんなわたくしの憂いは全てコンラッド様が晴らしてくれた)
事件の真実を明らかにして黒幕を捕まえて、家族との溝を少しだけ埋めてくれて。
何でもお見通しの彼は、そうやってわたくしの心のしこりを一つずつ取り除きながら、どんな時も真っ直ぐ愛してくれて……
「だから、大丈夫。傷痕を見てもコンラッド様は引いたりしないわ」
───今夜は初夜。
夜が近付くにつれて今夜は肌を見せるのだと気付いて今更ながら動揺してしまった。
「そうよ……傷痕を含めて、クラリッサだものね!」
ウジウジ悩むより、大好きな人と愛し合えることの方を幸せに思うべきだと思い直したところで、ちょうど部屋の扉がノックされた。
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