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恋する乙女はこういう時は落ち込むはず……
しおりを挟むセイラ様は俯き下を向きながらプルプルと震えている。
(もしかして泣……? どうしよう!)
そうよね……泣きたくもなるわよね
だって、自分の好きな人が人前で堂々と(濃厚な)チューしてるんだもの……
「キャロライン、どうかした? 駄目だよ。余所見なんかしてないで僕だけを見て?」
「え? あっ……シュナイダー……様………………んっ」
そう言ってシュナイダー様は周りの事なんてお構い無しに私の顔をシュナイダー様の方に向けさせ、再び唇を重ねてくる。
そうして、チュッチュと何度も私へのキスを繰り返す。
シュナイダー様にとっては、もうこの場に誰がいても気にならないらしい。
(まさに、私しか目に入っていない……そんな感じだわ)
久しぶりに溺愛王子の本気を見た気がする。
「うぅ……俺の……俺の真実の愛……運命の人……嘘だ、嘘だ……こんなの嘘だ……」
そして、床に這いつくばっている犬王子はなにやら未だに呻いていた。
こっちはもう放置でいいかしらね。
そうして、ようやくシュナイダー様が満足したのか唇を離す。
「キャロライン……人前でごめん。でも、これでそこの王子も分かっただろうね。キャロラインは僕だけのキャロラインだって事がね」
「シュナイダー様……」
「キャロライン……」
見つめ合った後、再びギュッと抱き合っていると、未だに震えているセイラ様の姿が視界の端に見えた。両手で顔を覆っているのでその表情はよく分からない。
(ごめんなさい、セイラ様。シュナイダー様はどうあってもあなたには譲れないの)
隣国の王子の件が片付き、落ち着いたら話そうと思っていたけれど、もうこれは……話すなら今しかない!
「あの、セイ……」
「な、な、なんて事なのかしらーー!!」
「へ?」
あら? 声が元気だわ??
「ま、ま、まさか……! こんな所で……二人の……お二人のラブシーン……それも、ただのラブシーンなんかじゃない! の、濃厚なキスバージョンが見られる……なんて! 嘘でしょう!?」
──んんん?
“嘘でしょう?”と言っているのは同じなのに、そこで這いつくばっている、どっかの王子とテンションが違い過ぎるわよ!?
「本物が見られるなんて夢みたいです……もう、これだけで私、この国に来れて良かった……」
「……????」
「そこだけは、そこに這いつくばっているバカな王子に感謝してもいいわ……!」
え? どういう事?
セイラ様は、プルプルと震えて泣いていたのでは無いの?
これ、泣くどころか顔を真っ赤にして興奮してない……?
そして、何やらブツブツと大きな独り言を喋りまくっていたセイラ様は顔を上げると瞳を爛々と輝かせながら言った。
「キャロライン様、それにシュナイダー殿下! おかわり下さい!!」
「「え!」」
珍しく私とシュナイダー様の驚きの声が重なった。
「はぁぁぁ、夢みたいです」
「セ、セイラ様……?」
「本物のラブシーン……それも濃厚バージョン……あぁぁ、本当に本当にご馳走様でした……」
「セイラ様? あの……」
あまりにもカオスになり過ぎたこの場から一旦離れる事にし、私達は部屋へと移動する。
セクハラの犬は自分で歩く気力さえ無いのか、無抵抗で引きずられている。
ちなみに引きずっているのはエディ様だ。
「何でこんな役目を……」と嘆いている。本当に申し訳ないわ。
(引きずってしまっているけれど国際問題にならない……わよね??)
「大丈夫だよ、キャロライン」
「シュナイダー様?」
私が何の心配をしたのか悟ったシュナイダー様が、私の手を取り握ると優しくそう言った。
「そもそも、僕のキャロラインを奪おうとした時点で国際問題だから」
「…………」
「今更、あれを引きずったからと言ってもね。もう些細な事だよね」
「…………」
全然、大丈夫ではないじゃない!
「大丈夫だよ、キャロライン。君があのポンコツ王子の国との戦争を望むなら今すぐ軍を率いて攻めに向かう所だけど、キャロラインはそんな事を望まないだろう?」
「……!」
コクコクと私は頷く。
全力で頷く。
「だよね」
シュナイダー様はクスリと笑った。
「まぁ、だからと言って僕のキャロラインに図々しくも抱き着いたあのポンコツを野放しには出来ないけどね」
そう言ってピタッと歩みを止めると、シュナイダー様がチュッと軽く私の唇にキスをした。
「……!! シュ、シュナイダー様……!」
「ははは」
不意打ちのようなキスに顔を赤くする私の側で、
「きゃ~!」
「グハッ!」
と、両極端な叫び声が聞こえた。
「えっと、それでいったい皆様はあんな場所で何をされていたのですか? いえ、私はもう夢にまで見たラブシーンが現実で行われていたのを目の当たりに出来たので満足なんですけども!!」
部屋に入り腰を落ち着けるなり、セイラ様が興奮していた。
絶対にテンションがおかしい。
「それと、どうしてビーブル殿下はあんな愉快な事に??」
「……」
愉快って言ったわ……
とりあえずセイラ様にも説明しないと。
セイラ様はある意味私のせい? で、婚約破棄されてしまっているのだから。
「実は……」
そうして、私達はさっきまでの妄想王子が仕出かした事をセイラ様に話をした。
「は? キャロライン様がビーブル殿下の真実の愛のお相手だったのですか!?」
セイラ様は目を丸くして驚いている。
「それで、殿下はあんな状態に?」
セイラ様はチラッと床に投げ出されている犬王子の方を見た。
そんな王子は「うぅ……」と小さく呻いている。
「はー……バカですねぇ。本当にバカなんですね……キャロライン様とシュナイダー殿下との間に入ろうとするなんて無謀です! 無知の極み! 情けないです」
「え?」
そこまで言ってしまうのね、という思いとあれ? という思いが私の中で生まれる。
「セ、セイラ様……」
「どうしました?」
セイラ様はとにかくにこやかな笑顔を私に見せた。
(ど、どういう事?)
恋する乙女はこういう時は落ち込むはず……
なのに、何故こんなにこやかな笑顔なの?
「き、聞きにくい事なのですが……セイラ様、今、お好きな男性……いますよね?」
「え? …………えぇ!?」
突然の私の質問にポカンとした顔を見せたセイラ様は少ししてから顔を赤くした。
この反応!
やっぱり好きな人はいる!! そこは間違いないわ!
「失礼ながら、その相手は……」
「あ……そ、それは、えっと……」
セイラ様は顔を赤くしながら狼狽え始めた。
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