【完結】役立たずになったので身を引こうとしましたが、溺愛王子様から逃げられません

Rohdea

文字の大きさ
17 / 34

第17話 “変態紳士”との顔合わせ

しおりを挟む


「シグルド様、ごめんなさい」

  翌日。
  私の結婚相手となるらしい、グレメンディ侯爵との顔合わせの朝、私は部屋で一人そう呟いていた。

  抵抗せず、全てを諦めて大人しく嫁ぐか、それとも最後まで抗うか……

「一晩……色々、考えたけれど」

  そう口にした私は机の引き出しを開けて、そこに入っている“ある物”を取り出す。
  そしてそれをそっと懐に忍ばせる。
  グレメンディ侯爵という人が私の知っている通りの人なら、きっとこれで──……

  (どうか……)

  私の決意が固まったからか、もう頭痛はしなかった。


  ───ねぇ、シグルド様。
  あなたは、こんな事をしようとしている私をどう思うかしら?
  それでも私は───



****



「ほぅ。そなたがルキア殿か」
「初めまして、グレメンディ侯爵様」

  グレメンディ侯爵は時間通りに我が家にやって来た。
  家族総出で玄関にて出迎える。
  そんな侯爵は、じろじろと不躾に私を見ながら言った。
  
「ほぅ?  殿下との仲睦まじい様子はパーティーでも遠目からはよく見かけておったが……あぁ、の女性だ」
「……ありがとうございます」

  私が素直に頭を下げたのが意外だったらしい。グレメンディ侯爵は「おや?」という顔を見せた。

「そなた、変わっているな。父親と歳も変わらぬ儂に嫁ぐ事になって、てっきり泣いて嫌がっているとばかり思っておったが。逆にこれは大人しすぎてつまらんのう」
「いえ……そんな……」

  ──貴方がそんな風に泣いて嫌がる女性を更にいたぶるのを好きだと知っているからよ!

  と、私は微笑みを浮かべながら内申で毒づく。

  (私が貴方の事を何も知らないとでも思っているのかしら?)

  この方が影で“変態紳士”と呼ばれている事を私は知っている。
  馬鹿にしないで欲しいわ。
  私は、シグルド様の隣に立った時に恥をかかない様にと主たる貴族の事は頭に叩き込んでいたんだから!
   
「だって、グレメンディ侯爵様は王家にも見放されてしまったこのような私に手を差し伸べて下さった素敵な方ですもの。年齢なんて関係ありませんわ」
「ほほぅ!  そうかそうか。まぁ、そういう素直なのも儂は嫌いではないぞ」

  (……でしょうね)

  しかし、噂でしか知らなかったこの方と初めて向き合った私はこう思わずにはいられない。
  ……“変態”はともかく“紳士”って嘘でしょう?  と。

  (どこから来た呼び名なのよ)

  グレメンディ侯爵は鼻の下を伸ばしながらニタリとした笑みを浮かべていた。
  ちなみに、侯爵の事をよく知らなかったらしいお父様とお母様は、侯爵のこの様子を見て盛大に顔を引き攣らせていた。




  その後は、場所を変えてお父様とお母様も一緒に、これからの生活や結婚に関する話をまとめていく。
  グレメンディ侯爵はよほどこの婚約が嬉しいのか、かなりの饒舌ぶりだった。

「しかし、ルキア嬢もとんだ災難にあったものよ、可哀想に」
「……」
「しかし、王家はルキア嬢をなんだと思っているのでしょうなぁ。魔力が失くなったからと言うだけで簡単にお払い箱とは。血も涙もないではないか。まあ、そのおかげで儂はこうして可愛い花嫁を手にする事が出来るのだがな、はっはっは!」
「……」
「なぁに、ルキア嬢。これからは殿下の代わりに儂が朝から晩までたっぷり可愛がってやるので安心するといい」
「!」

  適当に話は受け流していたけれど、最後のその言葉にはさすがに背筋がゾワゾワした。
  令嬢失格と言われようとも、出来る事ならこのまま張り手の一つでもお見舞いしたい気分だった。
  
  (ダメ。今はまだダメ。我慢……我慢するのよ)

  必死に自分に言い聞かす。

「ルキア……」

  隣から悲痛な声が聞こえて来たので、チラッと横目でお父様の顔を見たらとても沈んだ顔をしていた。
  
  (そんな顔をしないで、お父様……)  

  私は安心して欲しくて無理やり笑顔を浮かべた。




「さて、伯爵殿。そろそろルキア嬢と二人っきりで話をさせてもらいたいのだが?」
「ふ、二人で……ですか?」

  お父様が大きく動揺している。

「何か問題でも?  ルキア嬢は儂の花嫁となる身だろう?  良いではないか」
「……いいえ!  まだシグルド殿下との婚約解消が正式に発表されておりませんので、ルキアはまだ、シグルド殿下の婚約者です」

  お父様がそこは譲らないと首を横に振る。
  グレメンディ侯爵も、そこにはムムっという顔になり「発表が遅いな……」と呟く。

  (まだ、“シグルド殿下の婚約者”という状態である私に手を出したら不味い事は一応分かってはいるのね)
 
  それにしても。
  もうすぐ時間はお昼となるのに、王家……いえ、陛下からの私とシグルド様の婚約解消の発表が未だに無い。

  (何か手間取っているのかしら?)

「では、扉は開けておく。それなら構わぬだろう?」
「……承知しました。ルキアも……それで、構わないか?」
「ええ。ありがとうございます、お父様」

  お父様の瞳が心配そうに揺れている。
  私としてはそう進言してくれただけでも充分有難い。だから大丈夫と言う思いを込めて微笑んだ。

  その後、お父様とお母様が心配そうな顔をしながら部屋から出て行くと、グレメンディ侯爵と私は二人になった。

  (さぁ、ここからよ!)

「侯爵様、実は私、侯爵様に確認したい事があるのです」
「うん?  あぁ、ルキア嬢、何かな?」

  グレメンディ侯爵はこの状態でも良からぬ事を考えていたのか、鼻の下を伸ばした締まりの無い顔を私に向けた。

「私の身に起きた事はいつどこで知ったのですか?」
「あぁ、そんな話か」
「そんな話じゃありません!  大事な話ですわ。陛下から直接お話があったのですか?」

  私のその言葉にグレメンディ侯爵は、うーんと考えながら答える。

「いや、陛下からの話の前に……そうだ、最初は……どこかの令嬢が声をかけて来たんだった、かな?」
「まぁ!」
「ほら、あれだよ。最近、そなたと同じ力を発現したとも騒がれている……男爵令嬢!」

  (──ミネルヴァ様だわ!  やっぱり彼女が関わっている!)

「……その方は何てお話されていたのですか?」
「んー……どこだったかのパーティーで、会ったんだが……“ここだけの話ですけど、王太子殿下の婚約者様が魔力を失ってしまって王家に捨てられてしまうそうですよ”とか言ってたかな?」
「……」
「それで、何故だ?  とか、何で君がそんな事を知っていて儂に声をかけたのか?  と聞いたな」

  侯爵はうろ覚えなのか、首を捻りながら答えていく。

「……それで?  その方は何と?」
「理由は教えてくれなかったぞ。だが、“王家に捨てられてしまう可哀想な令嬢を救えるのはあなたの様な素晴らしい方だけですわ、是非、お力になってあげて?”  と言っていたか……それで、そのすぐ後に陛下から話があったので少し驚いたものだ」
「……」

  (ミネルヴァ様……!)

「その令嬢のおかげでこうして事前に準備が整える事が出来て早々にルキア嬢、君を迎え入れる事が出来るというわけだ」
「まぁ、そうでしたのね!  ありがとうございます」

  私はふふっと笑顔を浮かべながら考える。

  ミネルヴァ様は事前に侯爵に接触し、私の存在をチラつかせて早く準備を進めるよう促していた?
  だけど何故、ミネルヴァ様は、私とシグルド様を婚約解消させた後に、陛下が私を押し付けようと思っていた相手がグレメンディ侯爵だと知っていた?

  (ダメ、分からない。でも、やっぱり不気味だわ)

「そんな事より、ルキア嬢」
「……っ!」

  しまった!  
  ミネルヴァ様の事を考えていたせいで、侯爵様との距離がかなり縮まっている。
  目の前にグレメンディ侯爵の顔が!

「……グレメンディ侯爵様?  近いですわ」
「ははは、どうせ、ルキア嬢が儂の花嫁になる事はもう決定済みなんだ。少しくらい味見をしても許されると思わないか?」

  (阿呆なことを言わないで!)

「まぁ!  なんてお戯れを。ですが、駄目です。まだ早いですわ」

  私はやんわりと逃げようとする。しかし、さすが相手はあのグレメンディ侯爵。
  ねっとりした視線を向けたまま私を捕まえようとする。

  (……気持ち悪い!  ちょっと早いけど下手にこんな人に触れられるくらいならもう……!)

  と、思った私が懐に忍ばせていた物を取り出そうとするのと、顔を近付けて来た侯爵が逃げられないようにと私の腕を掴もうとしたのは、ほぼ同時だった。

  そして。

「うわぁぁあぁぁぁぁぁぁ!?」

  (─────えっ!?)

  バチンッという強い音がしたと思ったら、私に触れる寸前だった侯爵が凄い勢いで部屋の隅へと吹き飛んで行った。

しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙冬可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

処理中です...