【完結】本物の聖女は私!? 妹に取って代わられた冷遇王女、通称・氷の貴公子様に拾われて幸せになります

Rohdea

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6. 崩壊する国 ~前兆~



「あぁ、もう!  見失ってしまったわ……」

  モッフモフした泥棒猫を追いかけていた私だけれど、残念ながら猫は逃げるのが素早くて姿を見失ってしまった。

「……私のご飯……」

  飼い猫なのか野良猫なのかは知らないけれど、食べ物の恨みは恐ろしいんだから!  
  次に会ったら絶対にモッフモフの刑にしてやる!!
  と心に決めた。

「はぁ……」

  姿を見失ってしまったのでこれ以上は追跡してもしょうがない。なので、ひとまずは諦めてこの先の事を考える事にする。

  (さて、どこに行こうかしら……)

「……そう言えば、グォンドラではこういう家無し、仕事無しの状態になってしまった女性が一定期間だけ修道院に身を寄せられる支援制度があったけれど、ラッシェルは──」

  災害に見舞われたとか、一家の稼ぎ頭だった夫が突然亡くなったなどの、自分ではどうしようも無い不幸があった時、一時期だけなら身を寄せるという事が出来る制度があの国にはあった。
  昔、ラッシェル国について学んだ時には同じ制度があったと記憶しているけれど、今も変わっていないかどうかまでは分からなかった。

  (聖女になれなかった事が判明してからの2年。何もさせて貰えなかった事は大きいわね)

「……過去を悔やんでもしょうがないわ。試しに行くだけ行ってみようかしら?  このままここにいてもしょうがないもの」

  (あぁ、でも、お腹空いたわ……あのモッフモフ猫め……!)

  ぐぅきゅるるるぅ~
  お腹の虫を鳴らせながら私は歩き出した。

 




◆◆◆◆◆


  その頃のグォンドラ王国では──────


  国王が王妃、王子、そしてマリアーナを集めてリディエンヌを追放した事を説明した。
  
 
「お姉様を追放した!?   お父様、どういう事?」
「どうもこうも……可愛いお前マリアーナを泣かせるだけの出来損ないの役立たずを処分しただけだよ」

  そう言って国王は愛娘の頭を優しく撫でる。
  昔から素直で可愛いマリアーナ。成長してからもそれは変わらず、自慢の娘だ。

「お、お父様?  確かにお姉様は聖女になれなかった出来損ないのお荷物でしたけど……」
「あんな出来損ないが心配なのか?  マリアーナは本当に心優しいのだな」
 
  国王はそう言ってさらにマリアーナの頭を撫でる。

「別に構わないわ。もう、正直いてもいなくても影響のない子だったものね」

  と、王妃。
  実の娘にかける言葉とは思えない言い草。

「あいつは昔から勉強ばかりでマリアーナとは違って、全く可愛げの無い妹だったな」

  と、王子。
  こちらも血の繋がった妹を語るには薄情な言葉だった。

「追放と言っても荷物も持たせてやっている。詳しくは知らんが、金も少しくらいなら持ってるだろう。わざわざラッシェル国の国境付近までも馬車を出してやったのだ。あとは好きに生きるだろう…………まぁ、一人で生きていける力があるなら、だが」
  
  国王のその言葉はまるで、リディエンヌが何処かで野垂れ死のうとも構わない、と言っているように聞こえる。
  王子も王妃もその言葉に同調したが、何故かマリアーナだけは納得がいかないという顔をしていた。

「だ、ダメよ!  お父様、今すぐお姉様を連れ戻して?」
「どうしてだ?  マリアーナ。散々お前を泣かせ冷たくして来た姉だぞ?  同情は要らない」
「そ、そういう事じゃないの!  お姉様がいなくちゃ意味が無いの!」
「意味が無い?」

  マリアーナが必死に訴えるけれど、国王はもう遅いと首を横に振る。

「とっくに馬車も出発している。二度とこの国に戻るなと言いつけてあるし今更そんな事は言えん」
「そんなぁ……」

  マリアーナは顔を青ざめさせてフラフラとよろける。
  そこをすかさず兄王子が支えた。

「ありがとう、お兄様……」
「なぁ、マリアーナ?  なぜ、リディエンヌにこだわる?  聖女にもなれなかったような女で、デュバル侯爵家のリードも婚約破棄してお前を選んだとはいっても、やはりいたら色々と邪魔だろう?」
「……それはそうなのだけど」

  マリアーナは言葉を濁しながらも答える。

「でも、お姉様にはずーーっと、ずーーーっと私の側にいて欲しかったの」
「あぁ……お前はなんていい妹なんだ、マリアーナ……」
「本当ね、さすが私の娘で聖女だわ!」
「……」

  (そうよ。だって、お姉様がいなくちゃ───……)



  ───王族達がとにかくマリアーナを可愛がり持ち上げる……そんな呑気な会話をしていた頃。


「何か今日、暑くないか?」
「あぁ、季節外れの暑さだよな」

  そんな会話が農民達の中で交わされ始める。
  朝まではいつもと変わらなかったはずの気候が昼過ぎから急に暑くなり始めた。

「せっかく聖女様が誕生したのにどうしたんだろうなぁ……」
「ま、今日だけだろう?  この暑さで作物も大きく成長してくれるかもしれないぞ」
「ははは、そうだな!」
「……大丈夫さ。我々には“聖女様”がついている」

  数十年ぶりに誕生した聖女様のおかげで、これからこの国はどんどん栄えていく。
  神様の守護を受けて自分達の暮らしもどんどんよくなるに違いない。

  ───誰もがこの時はそう思い、明るい希望を夢見ていた。
  だから、もともと華やかなマリアーナの陰に隠れて、目立たず、更には2年前からは冷遇までされていた第一王女の事など誰一人として頭に無かった。



───

 

「マリアーナ殿下」
「リード様!」

  リディエンヌが追放されてから一週間が経ったその日、王宮を訪ねて来たリードをマリアーナは笑顔で迎えた。

「今日、学院はお休みでしたの?」
「あぁ、臨時休校になったんだ」

  普段なら学院に通っているリードなら授業中であるはずの時間。なのに何故か彼はやって来た。
  マリアーナは嬉しいけれど不思議だった。

「臨時休校?」
「そう。最近、ちょっと尋常ではない暑さが続いているだろう?  それで暑さにやられて倒れる人が続出していてね、気候が安定するまで授業は中止した方が良いってなったんだ」
「え?  尋常ではない暑さ?」

  マリアーナはリードの言っている話が分からず首を傾げる。

「え?  マリアーナ殿下……これは今、すごく国中で問題になっている話だよ?」

  さすがのリードも驚く。
  最近の国王は専らその対処に追われていると聞いているのに、何故王女であり、聖女でもある彼女がそれを知らない?
 
「えー?  そう言われても……だって私、外には出ないからよく分からないわ」
「だ、だとしても誰かから話を聞いたり……」
「でも、私……難しい話はよく分からないし」
「……」

  リードがマリアーナの答えに絶句している時だった。

「マリアーナ様、国王陛下がお呼びです」

  と、声がかかる。
  何の用かしらと父親の元を訪ねたマリアーナに向かって国王は言った。

「最近の気候について、神の声を聞いて貰えないか?」
「え!」
「全く雨が降らず、毎日気温だけが上昇している。体調を崩す者も多く、民の中には年寄りを中心に亡くなった者もいると言う……だから、頼む!  マリアーナ!」
「……」

  そして、マリアーナは神殿の奥に入り“神の声”を聞きに行く事になった。
  戻って来たマリアーナは神がなんと言っていたのかと聞かれて、

「雨乞いの儀式をするといいそうですよ」    

  と、答えた。
  その話を聞いて国中で雨乞いの儀式が行われる。
  そして数日後、祈りが届いたのかようやく雨が降り、長々と続いた国全体の気温上昇も終わりを迎えたのだった。

  “さすが聖女様!”“マリアーナ様の言う通りだった!”
  と、国中に聖女・マリアーナを称える声が広がっていく。

  その声に、マリアーナは笑顔で手を振って応えていた。

  (ふふ、さすが私。やっぱりお姉様とは違うのよ)


  ────これが、更なる崩壊へと向かう前兆とも知らないで。

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