6 / 46
6. 崩壊する国 ~前兆~
「あぁ、もう! 見失ってしまったわ……」
モッフモフした泥棒猫を追いかけていた私だけれど、残念ながら猫は逃げるのが素早くて姿を見失ってしまった。
「……私のご飯……」
飼い猫なのか野良猫なのかは知らないけれど、食べ物の恨みは恐ろしいんだから!
次に会ったら絶対にモッフモフの刑にしてやる!!
と心に決めた。
「はぁ……」
姿を見失ってしまったのでこれ以上は追跡してもしょうがない。なので、ひとまずは諦めてこの先の事を考える事にする。
(さて、どこに行こうかしら……)
「……そう言えば、グォンドラではこういう家無し、仕事無しの状態になってしまった女性が一定期間だけ修道院に身を寄せられる支援制度があったけれど、ラッシェルは──」
災害に見舞われたとか、一家の稼ぎ頭だった夫が突然亡くなったなどの、自分ではどうしようも無い不幸があった時、一時期だけなら身を寄せるという事が出来る制度があの国にはあった。
昔、ラッシェル国について学んだ時には同じ制度があったと記憶しているけれど、今も変わっていないかどうかまでは分からなかった。
(聖女になれなかった事が判明してからの2年。何もさせて貰えなかった事は大きいわね)
「……過去を悔やんでもしょうがないわ。試しに行くだけ行ってみようかしら? このままここにいてもしょうがないもの」
(あぁ、でも、お腹空いたわ……あのモッフモフ猫め……!)
ぐぅきゅるるるぅ~
お腹の虫を鳴らせながら私は歩き出した。
◆◆◆◆◆
その頃のグォンドラ王国では──────
国王が王妃、王子、そしてマリアーナを集めてリディエンヌを追放した事を説明した。
「お姉様を追放した!? お父様、どういう事?」
「どうもこうも……可愛いお前を泣かせるだけの出来損ないの役立たずを処分しただけだよ」
そう言って国王は愛娘の頭を優しく撫でる。
昔から素直で可愛いマリアーナ。成長してからもそれは変わらず、自慢の娘だ。
「お、お父様? 確かにお姉様は聖女になれなかった出来損ないのお荷物でしたけど……」
「あんな出来損ないが心配なのか? マリアーナは本当に心優しいのだな」
国王はそう言ってさらにマリアーナの頭を撫でる。
「別に構わないわ。もう、正直いてもいなくても影響のない子だったものね」
と、王妃。
実の娘にかける言葉とは思えない言い草。
「あいつは昔から勉強ばかりでマリアーナとは違って、全く可愛げの無い妹だったな」
と、王子。
こちらも血の繋がった妹を語るには薄情な言葉だった。
「追放と言っても荷物も持たせてやっている。詳しくは知らんが、金も少しくらいなら持ってるだろう。わざわざラッシェル国の国境付近までも馬車を出してやったのだ。あとは好きに生きるだろう…………まぁ、一人で生きていける力があるなら、だが」
国王のその言葉はまるで、リディエンヌが何処かで野垂れ死のうとも構わない、と言っているように聞こえる。
王子も王妃もその言葉に同調したが、何故かマリアーナだけは納得がいかないという顔をしていた。
「だ、ダメよ! お父様、今すぐお姉様を連れ戻して?」
「どうしてだ? マリアーナ。散々お前を泣かせ冷たくして来た姉だぞ? 同情は要らない」
「そ、そういう事じゃないの! お姉様がいなくちゃ意味が無いの!」
「意味が無い?」
マリアーナが必死に訴えるけれど、国王はもう遅いと首を横に振る。
「とっくに馬車も出発している。二度とこの国に戻るなと言いつけてあるし今更そんな事は言えん」
「そんなぁ……」
マリアーナは顔を青ざめさせてフラフラとよろける。
そこをすかさず兄王子が支えた。
「ありがとう、お兄様……」
「なぁ、マリアーナ? なぜ、リディエンヌにこだわる? 聖女にもなれなかったような女で、デュバル侯爵家のリードも婚約破棄してお前を選んだとはいっても、やはりいたら色々と邪魔だろう?」
「……それはそうなのだけど」
マリアーナは言葉を濁しながらも答える。
「でも、お姉様にはずーーっと、ずーーーっと私の側にいて欲しかったの」
「あぁ……お前はなんていい妹なんだ、マリアーナ……」
「本当ね、さすが私の娘で聖女だわ!」
「……」
(そうよ。だって、お姉様がいなくちゃ───……)
───王族達がとにかくマリアーナを可愛がり持ち上げる……そんな呑気な会話をしていた頃。
「何か今日、暑くないか?」
「あぁ、季節外れの暑さだよな」
そんな会話が農民達の中で交わされ始める。
朝まではいつもと変わらなかったはずの気候が昼過ぎから急に暑くなり始めた。
「せっかく聖女様が誕生したのにどうしたんだろうなぁ……」
「ま、今日だけだろう? この暑さで作物も大きく成長してくれるかもしれないぞ」
「ははは、そうだな!」
「……大丈夫さ。我々には“聖女様”がついている」
数十年ぶりに誕生した聖女様のおかげで、これからこの国はどんどん栄えていく。
神様の守護を受けて自分達の暮らしもどんどんよくなるに違いない。
───誰もがこの時はそう思い、明るい希望を夢見ていた。
だから、もともと華やかなマリアーナの陰に隠れて、目立たず、更には2年前からは冷遇までされていた第一王女の事など誰一人として頭に無かった。
───
「マリアーナ殿下」
「リード様!」
リディエンヌが追放されてから一週間が経ったその日、王宮を訪ねて来たリードをマリアーナは笑顔で迎えた。
「今日、学院はお休みでしたの?」
「あぁ、臨時休校になったんだ」
普段なら学院に通っているリードなら授業中であるはずの時間。なのに何故か彼はやって来た。
マリアーナは嬉しいけれど不思議だった。
「臨時休校?」
「そう。最近、ちょっと尋常ではない暑さが続いているだろう? それで暑さにやられて倒れる人が続出していてね、気候が安定するまで授業は中止した方が良いってなったんだ」
「え? 尋常ではない暑さ?」
マリアーナはリードの言っている話が分からず首を傾げる。
「え? マリアーナ殿下……これは今、すごく国中で問題になっている話だよ?」
さすがのリードも驚く。
最近の国王は専らその対処に追われていると聞いているのに、何故王女であり、聖女でもある彼女がそれを知らない?
「えー? そう言われても……だって私、外には出ないからよく分からないわ」
「だ、だとしても誰かから話を聞いたり……」
「でも、私……難しい話はよく分からないし」
「……」
リードがマリアーナの答えに絶句している時だった。
「マリアーナ様、国王陛下がお呼びです」
と、声がかかる。
何の用かしらと父親の元を訪ねたマリアーナに向かって国王は言った。
「最近の気候について、神の声を聞いて貰えないか?」
「え!」
「全く雨が降らず、毎日気温だけが上昇している。体調を崩す者も多く、民の中には年寄りを中心に亡くなった者もいると言う……だから、頼む! マリアーナ!」
「……」
そして、マリアーナは神殿の奥に入り“神の声”を聞きに行く事になった。
戻って来たマリアーナは神がなんと言っていたのかと聞かれて、
「雨乞いの儀式をするといいそうですよ」
と、答えた。
その話を聞いて国中で雨乞いの儀式が行われる。
そして数日後、祈りが届いたのかようやく雨が降り、長々と続いた国全体の気温上昇も終わりを迎えたのだった。
“さすが聖女様!”“マリアーナ様の言う通りだった!”
と、国中に聖女・マリアーナを称える声が広がっていく。
その声に、マリアーナは笑顔で手を振って応えていた。
(ふふ、さすが私。やっぱりお姉様とは違うのよ)
────これが、更なる崩壊へと向かう前兆とも知らないで。
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
救国の代償で白髪になった聖女、一度のミスを理由に「無能の戦犯」として追放される ~隣国の覇王に拾われ、愛され、奇跡の力を見せつける~
スカッと文庫
ファンタジー
聖女アリシアは、百年に一度の大氾濫から国を守るため、禁忌の魔力全解放を行い、単身で数万の魔物を殲滅した。その代償として、彼女の美しい金髪は真っ白な「白雪色」に染まり、魔力は一時的に枯渇してしまう。
しかし、その功績はすべて現場にいなかった「偽聖女セシリア」に奪われ、アリシアは「結界を一部損壊させた戦犯」「魔力を失った役立たず」として、婚約者の王太子ギルバートから国外追放を言い渡される。
「失敗したゴミに、この国の空気は吸わせない」
泥の中に捨てられたアリシア。しかし、彼女を拾ったのは、敵対国として恐れられていた帝国の「武徳皇帝」ラグナールだった。彼はアリシアの白髪が「高純度の神聖魔力による変質」であることを瞬時に見抜き、彼女を帝国の宝として迎える。
数ヶ月後。アリシアが帝国の守護聖女として輝きを取り戻した頃、王国では「一度きりの奇跡」だったセシリアの魔力が尽き、本当の滅亡が始まっていた。
「今さら結界が解けたと泣きつかれても、もう私の魔力は一滴も残っていません」
婚約者を奪われるのは運命ですか?
ぽんぽこ狸
恋愛
転生者であるエリアナは、婚約者のカイルと聖女ベルティーナが仲睦まじげに横並びで座っている様子に表情を硬くしていた。
そしてカイルは、エリアナが今までカイルに指一本触れさせなかったことを引き合いに婚約破棄を申し出てきた。
終始イチャイチャしている彼らを腹立たしく思いながらも、了承できないと伝えると「ヤれない女には意味がない」ときっぱり言われ、エリアナは産まれて十五年寄り添ってきた婚約者を失うことになった。
自身の屋敷に帰ると、転生者であるエリアナをよく思っていない兄に絡まれ、感情のままに荷物を纏めて従者たちと屋敷を出た。
頭の中には「こうなる運命だったのよ」というベルティーナの言葉が反芻される。
そう言われてしまうと、エリアナには”やはり”そうなのかと思ってしまう理由があったのだった。
こちらの作品は第18回恋愛小説大賞にエントリーさせていただいております。よろしければ投票ボタンをぽちっと押していただけますと、大変うれしいです。
婚約破棄されたので、聖女になりました。けど、こんな国の為には働けません。自分の王国を建設します。
ぽっちゃりおっさん
恋愛
公爵であるアルフォンス家一人息子ボクリアと婚約していた貴族の娘サラ。
しかし公爵から一方的に婚約破棄を告げられる。
屈辱の日々を送っていたサラは、15歳の洗礼を受ける日に【聖女】としての啓示を受けた。
【聖女】としてのスタートを切るが、幸運を祈る相手が、あの憎っくきアルフォンス家であった。
差別主義者のアルフォンス家の為には、祈る気にはなれず、サラは国を飛び出してしまう。
そこでサラが取った決断は?
出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね
猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」
広間に高らかに響く声。
私の婚約者であり、この国の王子である。
「そうですか」
「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」
「… … …」
「よって、婚約は破棄だ!」
私は、周りを見渡す。
私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。
「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」
私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。
なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました
水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。
それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。
しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。
王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。
でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。
◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。
◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。
◇レジーナブックスより書籍発売中です!
本当にありがとうございます!