【完結】本物の聖女は私!? 妹に取って代わられた冷遇王女、通称・氷の貴公子様に拾われて幸せになります

Rohdea

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14. 可愛いという言葉




「……百合の花……グォンドラ……?」

  (……ん?  今、何て……?)

  後ろからダグラス様がとてもとても小さな声で何かを呟いたような気がした。
  気になったので振り返って呼びかけてみると、ダグラス様は何故か固まったまま私を凝視していた。

「ダグラス様?  どうかしましたか?」
「あ、いや……何でもない……が」
「にゃ?」

  ダグラス様は首を横に振りながら言った。

「……リディエンヌは手先が器用なんだな、と思っただけだ」
「器用?  そうですか?」
「あぁ。こんな風に髪を結ったり編んだりだなんて……俺には出来ない」
「……」

  ……私の場合は、2年前に冷遇されるようになってから、髪を結ってくれる人がいなくなったので自分でどうにかするしか無かった。ただ、それだけ。

  最初はまともに結ぶ事さえ出来なかったわ。

  (たくさん練習したんだもの。だから、器用だと褒められるのは嬉しい)

  最初はとにかくボロボロだった。多くの人にバカにするように笑われて、マリアーナにも『お姉様は、まさかそんな髪型で流行りでも生み出そうとしているの?』なんて言われたっけ。
  下手くそだとバカにされて笑われるのだから、バカにされない為にと逆に結わないでいると、それはそれで、結局、王女なのにみすぼらしい姿だなと蔑まれて……

  (今、思い出しても理不尽な事ばかりだわ……)

  そんな苦い過去を思い出していたらダグラス様が、どこか躊躇いがちに訊ねてきた。

「……リディエンヌは今日のように首を出す髪型は以前からもしていたのか?」
「首を出す髪型ですか?」
「ああ」

  ダグラス様の質問の意図がよく分からない。
  だけど、これは答えられるわ。

「いいえ、髪は長さもありますし、あえて首を出していた事はないと思います」
「そうか…………つまり今までは…………」
「?」

  ダグラス様は何だか意味深な様子でうんうんと頷いていた。

「にゃーーーー!」
「ティティさん?」

  ダグラス様の方を見ていたら、ティティが私に向かって一生懸命何かを訴えてくる。
  でも、残念ながら私にはティティが何を言っているのか分からない。

「にゃーーーん!」
「?」
「…………リディエンヌ。ティティはだな……その、リディエンヌはどんな髪型でも……か、か……」
「?」

  通訳をしてくれようとしたダグラス様だけど、何故か最後を言い淀む。

「うにゃーー!!」
「……うっ!  すまない。分かったよ、ティティ」

  ダグラス様がティティに威嚇されていた。
  今のティティが言いたかった事は私でも何となく分かるわ。
  あれは……早く言え!  よね。
  では、ティティは先程は何と言っていたのかしら?

  ようやく覚悟を決めたのか、ダグラス様は照れくさそうに口を開いた。

「……ティティは、だな……リディエンヌはどんな髪型をしていても、か、可愛い!  …………と、言っていた」
「かわ?」
「にゃ~ん!」

  (可愛いですって!?)

  マリアーナが生まれてからの私の記憶の中では、マリアーナが皆に言われている時でしか聞いた事のない言葉が飛び出した。

「か、か……かわ?  本当に私が?」
「にゃーん!」
「あ、あぁ。リディエンヌはとっても可愛いにゃ!  ………………と、ティティが言っている……」

  (───!)

「ティティさん!」
「にゃ!」

  あまりにも嬉しくて私はティティを更にギューッと抱きしめる。
  モッフモフの触り心地はやっぱり最高だった。

「ティティさん、ありがとう!  嬉しいわ!!」
「にゃーん!」

  私が感激していると、ティティは嬉しそうな顔をしながら、チラッとダグラス様に視線を向ける。
  そこで、一人と一匹の目が合った。

「にゃん!」
「……くっ!  ティティの奴め……何で俺に言わせるんだ……!  お、俺だって……」
「にゃん!」
「先に言ったもん勝ちにゃ……だと?  くっ!」
「にゃ!」

  目が合った一匹と二人は何故か今度はバチバチの火花を散らしていた。

  (よく分からないけれど、やっぱり仲良しさんだわ)

「……っ!  リディエンヌ!」

  そう思って一人と一匹を微笑ましく見守っていたら、ダグラス様が凄い勢いで私の方に振り返ってきた。
  何故かダグラス様の顔は赤い。ティティと白熱しすぎたのかもしれない。

「……に、似合っている!」
「はい?」
「お、俺もリディエンヌのその髪型はよく似合って…………か…………と思う」
「え?」

  思ってもみなかった言葉が聞こえたので、最初は聞き間違いかと思った。

  (似合っている?  と言った?)

「だ、だから、か、か、かわ、いい……!  と、俺も思ってる……ティティだけじゃ……ない」
「っ!!」

  可愛い?
  聞き間違いでは無かったわ!

  (や、頬が……)

  完全な不意打ちだったので、私の頬が一気に熱を持った。

「……リディエンヌ、の顔が赤い…?」
「……言わないで下さい……恥ずかしいです」
「リディエンヌ……」

  ダグラス様の手がそっと私の頬に向かって伸ばされた。
  私の胸がトクンッと高鳴る。

  そして、その手があと少しで触れる……という時、

「にゃーーーーーん!!」
  
  私の腕の中で抱っこされていたティティが突然、暴れだした。
  手を引っ込めたダグラス様が呆れたような声で説明してくれた。

「…………早くおもちゃを買いに行くにゃ!  だそうだ」
「あ!  そ、そうですね。そうでした……」
「にゃ~~ん!」

  こうして私達はティティに、促されて遊び道具の物色に取り掛かる事になった。
  ティティの遊び道具を選びながら、私は横目でそっとダグラス様を見る。

  (何でこんなに……)

  妙に胸はドキドキするし、頬もすぐに熱くなる。
  ダグラス様といるといつも私、どこかおかしい気がするわ。

  (それに、どうしてかしら?)

  さっき首の話をしたせい?
  首の後ろが何だかチクチクするような気がする────……




◆◆◆◆◆◆


  ───その頃のグォンドラ王国。


  マリアーナの元を訪ねていた婚約者のリードは彼女の左腕を見た。
  マリアーナの左腕。
  そこには聖女の証となった印がある場所だ。
  あの日、マリアーナは皆の前で堂々と左腕のその印を掲げて見せていた。

  だが……

「……マリアーナ殿下!  これはどういう事なのですか!」
「…………どういう事って?」
「ここにあった、あなたの“聖女の証の印”が……」
「……」

  リードは目を凝らして何度も何度もマリアーナの左手を見てみるけれど、あの日にはあったはずのマリアーナの聖女の証の印が確認出来ない。
  リードの背中に冷たい汗が流れる。

「ま、まさか……き、消えてしまったのですか?」

  そんな話聞いた事がない!
  その質問にマリアーナは鼻で笑った。

「消えた?  違うわ。さっき全部言った通りだもの」
「待って下さい、殿下!  ……それでは、あの儀式の日のあなたの聖女の印はどうやって……」

  儀式で浮かび上がる聖女の証である印は、国家の花だという事はよく知られているが、は、神官のみが知っている。
  マリアーナ殿下の左腕にあった印は神官が“本物”だと認定したはずなのに───……

「そんなの……に決まってるでしょう?」
「見た?  だって、そんな事が……────っ!  ま、まさか!!」
「……」

  マリアーナは答えなかったが、ここまで来ると導き出せる答えはもう一つしかない。

  (本当の、グォンドラ王国の本当の聖女は……)

  その瞬間、リードは自分が……自分達が取り返しのつかない事をしてしまっていた事を知った。

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