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16. 私の味方
そうして街を歩いていると、時々“グォンドラ王国が”という声が聞こえて来る。
どうやら、誰かがあの国の噂話をしているらしい。
「それで、グォンドラ王国が──……」
(……あ、また!)
「……」
「リディエンヌ? どうした?」
「にゃ?」
また、グォンドラ王国と聞こえて来たので今度は思わず立ち止まってしまった。
「すみません、何でもな……」
何でもないです、と言いかけたのだけど。
「───今は嵐のような土砂降りの雨がずっと止まないらしい」
(───え? 雨?)
「おかげで山崩れ、土砂崩れ、川の氾濫……凄い事になってるらしいぞ」
「平和な国って印象だったのにな」
「はは! ついに神様でも怒らせたんじゃね?」
(神様が怒る? 何の話……?)
「最近は我が国の方が気候も安定しているし、景気も良さそうだ」
「神様もラッシェル国に微笑んでるのかもな!」
そして気候の話。そういえば、こんな話は前にも聞いた気がする……
「にゃーん?」
「あ、ティティさん……ごめんなさい、ちょっとぼうっとしてしまったわ」
「にゃー……」
私がそう答えたら、ティティが何かを訴えるような目をしてくる。
「……ティティが心配だにゃ! と言っているぞ」
「ダグラス様?」
「急に立ち止まるから何事かと思った」
「にゃん」
(そうよね、変な心配かけてしまったわ)
「すみません、ちょっとグォンドラ王国の事が妙に噂になっているな、と思いまして」
「グォンドラ王国……」
私がそう言うとダグラス様がじっと私を見つめてくる。
「?」
「いや、何でもない。グォンドラ王国の事だが……最近、妙に噂になっているのは、今、あの国が大変な事になっているからだ」
「……? 大変な事、ですか?」
(どういう事かしら?)
「ここのところ、ずっと異常気象が続いているそうだ。少し前は雨が全く降らずに国中が干上がりかけ、逆に今はずっと雨が止まないのだとか」
「え!」
「元々、安定した国だったからな。それを神の怒りじゃないかと噂している……そんな所だろう」
「神の怒り……」
(マリアーナはいったい何をしているの? 何のための聖女────)
「……いっ!」
咄嗟に首の後ろを押さえる。
「にゃっ!」
「どうした!?」
一瞬だったけれど、首の後ろがチリッと痛んだ気がした。
「にゃー?」
「あ……びっくりさせてごめんなさい。首の後ろがチリッとしたような気がして」
「……首の後ろが? 大丈夫なのか?」
「にゃー……」
ティティがとても心配そうな目で私を見ている。
「大丈夫よ、ティティさん。ありがとう」
「にゃん」
「ダグラス様もすみません。一瞬だったのでもう大丈夫です」
「ああ……」
ダグラス様も同じように心配そうな目で私を見ていた。
(ダグラス様もティティも私に優しすぎるわね)
胸がポカポカして温かくなっていく。
私は自然と笑顔になった。
「さぁ、残りの買い物も済ませてしまいましょう! あ、ティティさん。ほらあそこのお店に、ティティさんが好きそうで楽しそうなおもちゃが……」
「にゃ!」
現金なティティはすぐに顔付きが変わりおもちゃの売っているお店の方へと目が釘付けになる。
(ふふ、わかりやすい……なんて可愛いの!)
今すぐモフモフして撫で回したいくらい可愛い!
「にゃーーん!」
先に行ってるにゃ!
ティティは目を輝かせてそんな言葉を言ってそうな顔をすると、ヒラリと私の腕から飛び降りて先にお店へと行ってしまった。
「ティティの変わり身の速さが凄いな」
「ですね! ふふ、可愛です」
「……」
「ダグラス様?」
何故かダグラス様が私の顔をじっと見てくる。
「……リディエンヌもそうやって笑っている方がいい、と俺は、思う」
「!」
「さっきのリディエンヌは……まるで、迷子になって途方に暮れている……そんな顔だった」
「迷子……」
─────もう、あんな国も人達もどうなろうと関係ない。
私を捨てたのはあの人達だもの。グォンドラ王国には神様がいて声の聞ける聖女がいるのだから、私が気に病む事なんてない。
そう思っているはずなのにね。
「リディエンヌ……」
「っ!?」
ダグラス様が私の手を取ったと思ったら、そのままそっと握られた。
胸がドキッと跳ねる。
「さっきの話、覚えているか?」
「さっきの……ですか?」
私が首を傾げると、ダグラス様が微かに笑った(気がした)
「言っただろう? リディエンヌを傷付ける奴にはティティの猫パンチを喰らわせる、と」
「その話ですか? ふふ」
ティティの猫パンチ姿を想像してしまったら笑いが込み上げてくる。
「もちろん、過去もだ。故意かわざとかは知らないが、これまでリディエンヌを傷付けて来た奴……らには、やはり猫パンチをお見舞いしてやろうと思う」
「ほ、本気ですか?」
「ああ。ティティもやる気満々だと思うぞ?」
「……」
だめ、想像したら、また笑いが……!
「ふ、ふふ……」
「あー……つまりだ、その、リディエンヌ」
「?」
笑いを堪えていたらダグラス様の真剣な瞳と目が合った。
同時に手もギュッと力強く握られた。
「俺……とティティは何があってもリディエンヌの味方だ。それを忘れないでくれ」
「えっと?」
「それはリディエンヌがどこの誰で、どんな過去を持っていても、だ。絶対に変わらない」
「!」
(……まさか、ダグラス様は私が誰なのか知っている?)
今更ながら気付く。
自国ならともかく他国の王女だし……と思って、私は偽名も使わずにそのまま本名を名乗ってしまっていた。
(ダグラス様はこの国の公爵家の人間……王族とも繋がりがある血筋だった……!)
それなら“グォンドラ王国の第一王女、リディエンヌ”の名前くらいは知っていてもおかしくない。
リディエンヌの悪評がこの国までどんな風に届いているかは知らない。
それでも、ダグラス様は……私が“リディエンヌ王女”だったとしても味方でいてくれると言うの?
「……」
(氷の貴公子様……優しすぎるわ。全然、氷じゃない……)
「……私、とんでもなく悪い女、かもしれませんよ?」
「!」
私がわざとそう言うと、ダグラス様は今度はハッキリと笑った。
「わ、笑っ……」
「……そうだな。リディエンヌのようなこんなに可愛い悪女なら俺は大歓迎だな」
「なっ!?」
ダグラス様はそう言って私の手の甲にそっとキスを落とした。
「~~~!!」
私は真っ赤になってしまって腰が抜けてしばらくその場から動けなくなった。
お店でティティが早く早く……と言わんばかりに、うにゃうにゃ鳴きながら待っていたのが分かっていたけれど、無理だった。
◆◆◆◆◆◆◆
そして、その頃のマリアーナ達は……
「は? 何を言っているんだ、マリアーナ!」
「ですから、私がラッシェル国にお姉様を迎えに行って来ます!」
「迎え!? ば、馬鹿な事を言うな! リディエンヌは国外追放した身だぞ!」
マリアーナの提案に国王は憤る。
「知っているわ。でもお姉様が聖女なんだもの。今、この国の問題を解決するにはお姉様が必要でしょう?」
「ぐっ……」
追放した王女、リディエンヌが、本物の聖女だったという事は公表していない。
王と王妃と王子、そしてマリアーナとリードの中だけで留めている。
「今、お前が国を離れたらなんと言われるか分かっているのか! 臣下たちも……」
「大丈夫よ、お父様。その為に私は最近ずっと引きこもって来たんだもの。こっそり変装でもして抜け出せばバレないわ」
「マリアーナ……」
「それに、一人では危険だからリード様も着いて来てくれるそうよ! ね? だから良いでしょう?」
マリアーナはとても嬉しそうな笑顔で国王にお願いする。
「世間はお姉様が本物の聖女だとは知らないわ。だから、こっそりお姉様を連れて帰って来ればいいのよ! それでお姉様にはこれまでの分も聖女の役目を果たしてもらうのよ」
(───そう、一生……ね)
「この天変地異? さえどうにかなれば国は落ち着くし、民も静かになるでしょう? 体裁が悪くてお姉様を人前に出せないなら、私の力が戻ったとでも言って、皆の前では私がこれまでのように聖女として振る舞えぱいいと思うわ!」
(……お姉様には裏で私の為に働いてもらうわ)
「……しかし、リディエンヌは生きているのかどうかすら怪しいだろう?」
「まぁ! お姉様は生きているに決まっているわ。私はそう信じているの」
マリアーナが必死にそう訴えると国王は感動していた。
「マリアーナ……お前はそんな純粋にリディエンヌの事を?」
「……大事なお姉様ですもの」
(バカなお父様……生きているに決まってるでしょ。お姉様は本物の聖女なのよ? どうせ何かに護られているに決まっているわ)
「お前を脅していたという最低な姉なのに……本当になんていい妹なんだ……」
「……」
「あぁ、何でマリアーナが聖女ではないんだろうか……」
(───お姉様、待っていてね! 今、可愛い妹がお姉様に会いに行くわ)
「神はどこに目をつけていたのだろうな……」
(私はね、お姉様が幸せに生きるなんて許せないの……───)
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