18 / 46
18. それぞれの気持ち
それから数日後。
ダグラス様は、急に忙しそうになってしまった。
どうやら様子を見ていると、何度か王都にも足を運んでいるみたい。
同じ屋敷に住んでいるはずなのに、あまり会えないすれ違いの日々が続いていた。
「ティティさん、私、すっごく寂しいみたいなの」
「にゃ?」
今日も元気いっぱいに駆け回っているティティについつい語りかけてしまう。
「最近、ダグラス様がお忙しそうであまり会えないし、話も出来ないの」
「にゃん?」
「会いたいし、話したいなんて一使用人としてはただの我儘だと分かっているけれど……でも、ダグラス様は前に“家族”だと言ってくれたから……」
(会えないのは……顔が見れないのはとっても寂しい)
まるで胸にポッカリ穴が開いてしまったみたいな気分だった。
「にゃー」
「ティティさんがいなかったから、もっともっと寂しかったと思うわ」
「にゃー……」
独りでいる事なんて、慣れっこだったはずなのに。
(優しくて温かい温もりを私は知ってしまった)
「にゃん!」
「もしかして!慰めてくれているの? ティティさんありがとう」
「にゃ? にゃーん! にゃ!」
必死で何かを訴えてくるティティさんがとっても可愛い。
何を言っているかは、ダグラス様ではないので分からないけれど、きっと必死に慰めてくれているのだと思う。
「ティティさん、大好きよ」
「にゃーーーーん!!」
「きゃっ!? モッフモフ……!」
ティティさんが飛び付いてきたので抱きとめると、破壊力満点のモフモフだった。
「……そう言えば、どうしてティティさんはダグラス様と会話が出来るの?」
今更ながら気になった。
あと、本当に今更だけど、会話……噛み合っているのよね?
「にゃ! にゃにゃ!」
「ふふ、ダメだわ。私にはティティさんの言葉は分からないみたい」
「にゃー……」
落ち込むティティも可愛いくて頬が緩んでしまう。
(ティティはとても変わった猫さんだと思うのよね)
てっきり、ただの食いしん坊だと思っていた二度の強奪が、もし、本当に私の為だったのなら……
(まるで私の騎士みたいよ、ティティ)
「……でも、何故、引き合わせてくれたのが、ダグラス様だったのかしら?」
「にゃん!」
何であれ、私とダグラス様を出会わせてくれたのはティティに間違いないわ。
あんなに素敵な人の元に連れて来てくれて、私はとってもとっても感謝しているの。
「ありがとう、ティティさん!」
「にゃーーん!」
ダグラス様に会えない寂しさをティティのモッフモフで、たくさん癒してもらった。
◆◇◆◇◆
「────グォンドラ王国の王女がこんな非常事態なのに我が国にやって来る!? それは本当なのですか、陛下」
「ああ。婚約者と共にやって来るそうだ……だが、大々的に王女を迎える形は取らないでくれと向こうの国王からの手紙に書いてある」
ここ数日、屋敷と王都の往復ばかりを繰り返しているダグラスは今日も国王からの呼び出しがあり、王都にて国王陛下と面会をしていた。
(畜生! リディエンヌの顔をここ数日まともに見ていない! 屋敷に帰りたい!)
そんな気持ちをどうにか抑えて陛下に訊ねる。
「……陛下、念の為にお伺いしますが、そのグォンドラの王女とは……」
「第二王女のマリアーナ殿下だ。ほら、グォンドラの“聖女”になったという」
「第二王女……」
(だろうな……だって第一王女は……)
「国がこんな時だから、王女殿下はお忍びでやって来る……と?」
「そういう事だろう。聖女とは随分、お気楽な存在なのだなーははは」
「……」
(笑っているけど目が笑ってない……)
「とにかく、お前が今、住んでる街を通って入国するらしい。まだ、グォンドラ王国を敵に回したくはないから失礼のないように注意しておいてくれ」
「……それは、領主に言ってください。私は領主ではありませんので」
自分は王都にも領地にも住むのがうんざりして、あの街に住んでいるだけだ。
領主でもなんでもない俺は特に権限は持っていない。
(しかし、グォンドラ王国の第二王女……か、つまり、リディエンヌの……)
失礼のないようにだと?
───ボッコボコにしてやりたいのですが?
そう口にしたら陛下はどんな顔をするだろうな。国際問題になるからと止めるのだろうか。
(リディエンヌ……)
頭の中に浮かぶのは楽しそうにティティと遊んでいる彼女の姿。
最近は笑顔を見せてくれる事も増えた。俺はそれを見ているだけで幸せな気持ちになる。
最初は変な女だと思った。
これまで俺の妻の座が欲しくて屋敷に忍び込んで来た他の女達と同じだろう……そう思っていた。
────ち、違います! 私はモフ……じゃない、ね、猫を追いかけて来ただけなのです!
────ね、猫に……だ、大事な私のパンを取られてしまって……取り返そうと追いかけて来ただけなの……です。
初めて会った日、リディエンヌはティティを抱きながらそう必死に訴えてきた。
(あのティティ相手とはいえ、まさかそこまで必死に追いかけてくる猛者が現れるとは……しかも女性の身で。本当に驚いた)
あれから、リディエンヌの事は何故だか放っておけない。
それだけだったのに。
最近はその中に違う感情が混ざっている。
(だって、リディエンヌはすごく可愛いんだ! 可愛くて仕方がない)
今頃ティティと走り回って、あのキラキラな笑顔で遊んでいるのだろうか?
リディエンヌのそんな顔を思い浮かべていたら、思わず頬が緩んでしまう。
そして陛下はそれを見逃さなかった。
「……ほぅ? お前が表情を崩すのは珍しいな。どうした? 氷の貴公子?」
「その名前で呼ばないでください」
「ははは、普段、老若男女問わず、どんな人間にも冷気を放つことで有名だったお前がなぁ……頬を緩ませる……か」
「……」
「で、可愛いのか?」
「は?」
ダグラスは目を丸くして聞き返す。
まだ、リディエンヌの事は報告していないのに?
「お前がそんな顔をするんだ。とても可愛いのだろう?」
「……」
「まさか、氷が溶けるとは……すごいな。さすがー……」
「────はい。とっても可愛いと思っています」
(リディエンヌ……)
ダグラスがリディエンヌの事を思い浮かべながら、答えると陛下は嬉しそうに笑った。
「そうか……猫というのは、そんなにも可愛いのか! 知らなかったぞ!」
「え!」
「だから、猫だ。お前が拾ったという猫の事だ」
「……」
────にゃーーーーん!
脳内にあの呑気な顔でモッフリした猫の姿が浮かんだ。
(……なっ! ティティの話だったのか!! 俺はてっきり……! くっ! 恥ずかしい!)
余計な事を言わないで良かった……
しかし、ティティは不思議な猫だ。
何故かは分からないが出会った時から、ティティの考えている事が頭の中に流れてくる。
(最近は、リディエンヌ、リディエンヌ、リディエンヌ、餌、おもちゃ、リディエンヌ……)
どれだけリディエンヌを気に入ってるんだ! 全く!
だが、ティティの気持ちはすごくよく分かる。
「まぁ、いい。その愛猫の事は後に紹介してもらおう。今はグォンドラの王女の事だ。よろしく頼むぞ、ダグラス!」
リディエンヌの事を考えていたら、陛下がどう考えても面倒な事を押し付けてきた。
よろしくなんてしたくない。
「……」
マリアーナ・グォンドラ第二王女。そして。その婚約者……
こいつらは、リディエンヌに何をした? 何故、リディエンヌがいるのに妹が聖女を騙っている? 何故、リディエンヌはラッシェル国に来た?
(リディエンヌは自分の首の印に気付いていなかった……つまり、自分が聖女だとは知らないのだろう……)
リディエンヌが言いたくないのなら無理には聞かない。だが……
この妹王女が乗っ取ったのか? そしてリディエンヌを追い出した?
事と次第によっては、俺とティティが許さない。
陛下の前では静かに頭を下げながら、ダグラスは内心でずっとそんな事を考えていた。
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました
水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。
それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。
しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。
王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。
でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。
◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。
◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。
◇レジーナブックスより書籍発売中です!
本当にありがとうございます!
救国の代償で白髪になった聖女、一度のミスを理由に「無能の戦犯」として追放される ~隣国の覇王に拾われ、愛され、奇跡の力を見せつける~
スカッと文庫
ファンタジー
聖女アリシアは、百年に一度の大氾濫から国を守るため、禁忌の魔力全解放を行い、単身で数万の魔物を殲滅した。その代償として、彼女の美しい金髪は真っ白な「白雪色」に染まり、魔力は一時的に枯渇してしまう。
しかし、その功績はすべて現場にいなかった「偽聖女セシリア」に奪われ、アリシアは「結界を一部損壊させた戦犯」「魔力を失った役立たず」として、婚約者の王太子ギルバートから国外追放を言い渡される。
「失敗したゴミに、この国の空気は吸わせない」
泥の中に捨てられたアリシア。しかし、彼女を拾ったのは、敵対国として恐れられていた帝国の「武徳皇帝」ラグナールだった。彼はアリシアの白髪が「高純度の神聖魔力による変質」であることを瞬時に見抜き、彼女を帝国の宝として迎える。
数ヶ月後。アリシアが帝国の守護聖女として輝きを取り戻した頃、王国では「一度きりの奇跡」だったセシリアの魔力が尽き、本当の滅亡が始まっていた。
「今さら結界が解けたと泣きつかれても、もう私の魔力は一滴も残っていません」
婚約者を奪われるのは運命ですか?
ぽんぽこ狸
恋愛
転生者であるエリアナは、婚約者のカイルと聖女ベルティーナが仲睦まじげに横並びで座っている様子に表情を硬くしていた。
そしてカイルは、エリアナが今までカイルに指一本触れさせなかったことを引き合いに婚約破棄を申し出てきた。
終始イチャイチャしている彼らを腹立たしく思いながらも、了承できないと伝えると「ヤれない女には意味がない」ときっぱり言われ、エリアナは産まれて十五年寄り添ってきた婚約者を失うことになった。
自身の屋敷に帰ると、転生者であるエリアナをよく思っていない兄に絡まれ、感情のままに荷物を纏めて従者たちと屋敷を出た。
頭の中には「こうなる運命だったのよ」というベルティーナの言葉が反芻される。
そう言われてしまうと、エリアナには”やはり”そうなのかと思ってしまう理由があったのだった。
こちらの作品は第18回恋愛小説大賞にエントリーさせていただいております。よろしければ投票ボタンをぽちっと押していただけますと、大変うれしいです。
婚約破棄されたので、聖女になりました。けど、こんな国の為には働けません。自分の王国を建設します。
ぽっちゃりおっさん
恋愛
公爵であるアルフォンス家一人息子ボクリアと婚約していた貴族の娘サラ。
しかし公爵から一方的に婚約破棄を告げられる。
屈辱の日々を送っていたサラは、15歳の洗礼を受ける日に【聖女】としての啓示を受けた。
【聖女】としてのスタートを切るが、幸運を祈る相手が、あの憎っくきアルフォンス家であった。
差別主義者のアルフォンス家の為には、祈る気にはなれず、サラは国を飛び出してしまう。
そこでサラが取った決断は?
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね
猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」
広間に高らかに響く声。
私の婚約者であり、この国の王子である。
「そうですか」
「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」
「… … …」
「よって、婚約は破棄だ!」
私は、周りを見渡す。
私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。
「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」
私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。
なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。