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19. 動き出した偽聖女
「ティティさん!」
「にゃーーん!」
今日も目一杯、ティティさんと遊んでいる時だった。
「リディエンヌ」
後ろから聞こえたその声に私の胸がトクンッと高鳴る。
「にゃー!」
「リディエンヌを呼んだのに何故、ティティが返事をするんだ!」
「にゃ~」
そんな相変わらずな一人と一匹の様子にさえ嬉しさを覚える。
「リディエンヌ」
「……ダグラス様!」
その声で振り返るとやっぱりそこにはダグラス様がいた。
久しぶりにまともに会えた事が嬉しくてティティと一緒にダグラス様の元へと駆け寄った。
「お帰りなさいませ!」
「あぁ、ただいま」
「にゃ!」
(嬉しい、嬉しい、嬉しい!)
久しぶりに顔が見られた事が嬉しい。
声をかけて貰えた事が嬉しい。
そんな嬉しいという気持ちが溢れてしまって、口元が緩んでしまう。
「お仕事は大丈夫なのですか?」
「……とりあえず、王都との往復ぱかりする日々は落ち着いた……と思う」
「そうなのですね!」
それなら、これからはもう少し顔を合わせる事が出来るかもしれない!
私が内心で喜んでいると、ダグラス様がふぅ、とため息を吐く。
「騒がしい王都や領地が嫌でここに来たのに……こんな事になるとはな」
「ダグラス様?」
何か面倒事でもあるのかしら?
そうは思うも、ティティのお世話係の私がダグラス様に出来る事などそう多くは無い。
(私にとってのティティみたいに、私がダグラス様の癒しになれたらいいのに)
「何でもない。そうだ、王都で美味しそうなお茶を見つけたから買ってきた。一緒に飲まないか?」
「わ、私とですか!?」
「にゃ!」
「そうだよ」
目を丸くして驚く私を見たダグラス様が可笑しそうに笑う。
最近のダグラス様はよく笑うようになったと思う。
(氷の貴公子なんて呼び方は大袈裟だったんじゃ……)
「……ティティは呼んでないが?」
「にゃ!?」
「冗談だ」
「にゃ~~!」
「……くっ、こら! やめろ!」
からかわれたティティが、ダグラス様に軽く猫パンチをお見舞していた。
確かに軽くでも痛そうだった。
そんな光景で和んでいると、
──チリッ
「……?」
(また首が……?)
最近、どうしたのかしら?
首の後ろがたまにチクリとする。
まるで、変な警告でも受けているみたい────?
なんて考えすぎよね!
今はダグラス様とティティと過ごすこの時間を楽しみたいので、深く考えない事にした。
これで、またこうして楽しい日常が戻って来る。
そう思っていたのに────
◆◆◆◆◆
───その頃のマリアーナ。
「マリアーナ殿下! 本気でリディエンヌ殿下を探す気なのですか?」
「リード様……」
お父様の計らいもあったおかげで、私とリード様は無事にこっそり国内を抜けてラッシェル国への入国を果たした。
なのに、ここに来てリード様が怖気付いたような事ばかり言う。
お姉様に会うのが気まずい気持ちは分かるけれどね。
私は目を潤ませて答える。
リード様は涙に弱いからこうしておけば大丈夫。
「だって、それが私の使命なんですもの」
「全く……本当に君は優しいのだな」
───ほらね?
「ふふ、そんな事ないです……」
最近、不思議なの。
あーーんなに素敵だと思っていたリード様が全然、素敵に見えなくなって来た。
何でかしらね?
他にもっと私に相応しい人がいるんじゃないかしら? とも思う。
そうよ! あのお姉様がもっと泣いて悔しがるような素敵な人がいい!!
「マリアーナ殿下? どうかしましたか?」
「っ! ……い、いいえ、何も!」
リード様が不思議そうな顔をしてこっちを覗き込んでくる。
危なかったわ。
そうして、私達はまずこの街の領主の屋敷へと案内された。
大々的に出迎えはしないようお父様が言ってくれたけれど、さすがに滞在する領主には、私が王女だと言わざるを得なかったのでここでは丁重に扱われた。
(ふふん! 私は王女だし、表向きは“聖女”なんだから扱いとしては当然よね!)
ふふ、領主の息子が頬を染めて私のことを見ているわ。
やだわ。私にはリード様がいるのに、美しくて可愛いって罪なのね!
そう思った私は、その彼に向かってにっこり微笑む。
「!!」
(あら、もっと赤くなったわ)
ほらね、さすが私!
あんな陰気なお姉様には一生かかっても出来ないでしょうね!
(想像するだけでも愉快よ)
でも、領主の息子は簡単に私の虜になってくれたけれど、妹達は違う。
同性同士の目は厳しいものだもの。そんな簡単にはいかない。最初は敵意バシバシの目で見られたわ。
でも、“聖女”らしく振る舞えば───
「マリアーナ様って可愛いらしくてとてもお綺麗ですね!」
「婚約者の方とも、とってもお似合いです」
「カッコいい方ですよね」
───ほらね? 簡単にチヤホヤしてくれるようになる。
さすが私!
「あ、でも、やっぱり一番はダグラス様だと思うわ」
「そうね。冷たいけど」
(ダグラス様? 冷たい?)
「えっと……どこの方の話なんですか?」
私が訊ねると、領主の娘たちは嬉しそうにペラペラと喋ってくれた。
何でもラッシェル国の公爵家の息子がこの領地に住んでいるらしい。
王都はともかく、他の領地に住むなんて珍しいわね、と興味を引かれた。
「───それで、彼は通称・氷の貴公子様! と呼ばれているんですよ」
「まぁ!」
領主の娘によると、その公爵家の息子は氷の貴公子と呼ばれているそう。
しかも、美形ですって!
「でも、ちょっと聞いたところによると、最近デートしていたって噂よ」
「ええ、ショック! 氷が溶けちゃったのかしら? 私が溶かしたかったのにー」
「あなたには無理よ」
「ええ、酷ーい」
(……! それよ!)
その話を聞いてハッとする。
難攻不落そうなその“氷の貴公子”とやら、会ってみたいわ!
どんな人にも冷たいなんて言われる人が、私にだけ微笑むとか最高じゃないかしら?
「その方にはどうすればお会い出来るの? すごく興味深い方なので気になるわ」
「え? えっと、彼は……」
お姉様を探し出すついでに、その“氷の貴公子”とやらにも会ってみたくなった。
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