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20. モッフモフの騎士
最近、ティティの様子がおかしい。
「にゃーー……」
「ティティさん?」
気がたっていると言えばいいのか……とにかく何かを警戒しているようだった。
「どうしたの? 遊びましょう?」
「にゃん!」
すると、モッフモフがまん丸の目をこっちに向けて、可愛い顔をして抱っこを迫って来た。
「もう! ティティさんったら、今日は甘えん坊さんなのね?」
「にゃ!」
「今日も天気がいいみたいなので、抱っこしたまま外で遊びます?」
「にゃ!」
抱っこをせがまれた理由はよく分からないけれど、モフモフさせてくれるのは嬉しいので、そのままティティを抱き上げる。
そうして、部屋を出て玄関の方へと歩き出したら屋敷の玄関のベルが鳴った。
「あら? 珍しいわね。来客かしら?」
「…………にゃ?」
ダグラス様はさすが氷の貴公子と呼ばれるだけあって、人付き合いがとっても苦手みたい。
おそらく、これまで必要最低限の社交だけして生きて来ている。
そんな彼なので、屋敷を訪ねてくる人なんて滅多にいない。だからこれはとても珍しい事だった。
「……ティティさん? どうしたの?」
「にゃーー」
険しい顔になったティティが私を玄関とは真逆の方へと向かわせようとする。
来客者の事を気にしたのかもしれない。
「ティティさん? 来客があっても、私達は玄関を使わないで外に出られるわよ?」
「にゃー」
返事はくれたけれどティティは頑なに私を外に向かわせようとしない。
(うーん……?)
天気も良いし外で遊ぼうと思っていたけれど、何だかティティの様子がおかしいし、今日は部屋で遊ぶ事にした方が良いのかもと思い直した。
「よく分からないけれど、戻った方がいいの? それなら、今日はお部屋で遊ぶ事にしましょうか?」
「にゃーん!」
ティティの顔が笑顔に変わり、元気よく返事をしてくれたので、この判断は間違っていなかったみたい。
そのまま私は玄関に向かうのを止めて、ティティを抱っこしたまま部屋へと引き返した。
「にゃんにゃー」
外みたいに力いっぱい走る回る事は出来なくても、さすが公爵家のお屋敷。
部屋そのものはとても広く、ティティも走り回って遊ぶ事が出来るので、部屋に戻ったティティは早速元気に走り回っている。
「にゃ、にゃー」
(猫って追いかけて捕まえるの好きよねぇ……)
なんてほのぼのしていたら、玄関の方がガヤガヤと騒がしい。
これはさっきの来客者かしら?
何だか揉めてる声がするような?
「……にゃ」
ティティもその音や声に反応したのか、それまで走り回っていたの止めてピタッと動きを止めた。
「玄関が騒がしいわ。揉めているのかしら?」
「にゃん!」
「外に行かなくて良かったかも……」
「にゃ!」
来客者は気性が荒そうなので鉢合わせたら、良くない事が起こる気がする。
程なくしてその来客者と思われる人達が帰っていく音がした。
これは屋敷にあげて貰えず、玄関で門前払いをされたのではないかと推測出来た。
「ダグラス様狙いのどこかのご令嬢の突撃だったのかしら?」
「にゃ~?」
だったら嫌だわ……
そんなモヤモヤした気持ちが私の中に生まれる。
「……ねぇ、ティティさん。私のこのモヤっとした気持ちって何だと思……」
「にゃー」
うまく説明がつかないこの気持ちをティティに向かって吐き出そうとしたら……
「────リディエンヌ! ここにいるのか!?」
突然ダグラス様の声がしたと思ったら、勢いよく部屋にダグラス様が入って来る。
「ダグラス様!?」
「……リディエンヌ!」
ダグラス様はいかにも慌てて走って来ました! と、言わんばかりに息を切らしている。
いったい何があったの……?
「……リディエンヌ」
「え?」
「にゃっ」
私の名前を呼びながら、こちらに駆け寄って来たダグラス様がそのまま私をティティごと抱きしめた。
(えぇぇええ!?)
「……誰にも会ってないか?」
「え?」
その質問の意図がよく分からない。
誰にも? それはさっきの来客者の事かしら?
「え、ええ。ティティさんとずっとここで遊んでいましたから」
「…………良かった」
ダグラス様はホッとしたように安堵のため息を吐いていた。
一方の私は、ドキドキが止まらない。
「にゃぅ……」ティティに至っては苦しそうだった。
───
「すまない、騒がしかった声が聞こえただろうから分かっているかもしれないが、ちょっと迷惑な来客者が突然来たんだ……」
そう語るダグラス様は、心底嫌そうな顔をしながらそう言った。
これは相当迷惑な来客者だったみたい。
「にゃっ!」
「あぁ、そうだよ、ティティ。最悪、ティティの猫パンチが必要になりそうな事態だった」
「にゃ~~!」
「おい、ティティ! 今はその殺気はしまえ! 客はもう帰ったのでいない。次に来ても通さん」
「にゃ……」
ティティは猫パンチが出来なかったのが残念だったのか、明らかに落ち込んでいた。
それにしても、ティティの猫パンチが必要になる危険人物とはいったい……?
「にゃん!」
ティティが私に何かを訴える。
「ティティさん?」
「……リディエンヌは絶対守るにゃ! そこの役立たずとは違うにゃ…………だと? おい、ティティ! まさか役立たずとは俺の事か!?」
「にゃーーーーん!」
ティティは私の腕から降りて床に着地するとそのまま走り出した。
それをダグラス様が追いかける。
「こら! 待て、ティティ!」
「にゃーーん」
そんな楽しそうで微笑ましい光景に自然と笑顔になる。
こんなに小さな身体でも、私を守ってくれようとするなんて……やっぱりティティは立派な私の騎士だわ!
「リディエンヌ……」
「にゃ」
ティティを捕まえたダグラス様が戻って来た。
「……リディエンヌを守りたいのはティティだけじゃない」
「え?」
「俺も……俺にもリディエンヌを守らせて欲しい」
ダグラス様がそう言いながら、ティティを降ろすとそっと私の手を取った。
「俺はリディエンヌが大切だ」
「大切……?」
「何よりも大切なんだよ」
そう語るダグラス様の目がとても真剣で、目が逸らせない。
「あ、ありがとうございます……」
私が照れながらお礼を言うと、ダグラス様も優しく微笑んだ。
その微笑みは最上級の微笑みで心臓が飛び出すかと思った。
「と、ところで、ダグラス様もティティも何故か“私を守る”って話になっていますけど、今日の来客者はそんなに危険な人だったのですか?」
「……」
ダグラス様が難しい顔で少し黙り込んだ。
「そうだな…………一言で言うなら……あいつらはゴミだ」
「……ゴミ?」
「いや、ゴミ以下だと思う」
「にゃん!」
何故かティティまで同意する。
(ゴミ以下だなんて、いったい、どんな人が……)
ダグラス様のこの言い方で、相当面倒な悶着があったのだと分かる。
そんな危険人物から私を守るだなんて……
でも、ダグラス様とティティならどんな人でも撃退してくれそうだわ、と私は思った。
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