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22. 離れたくない
ゴミ以下だという来客者が来て、ダグラス様とティティが揃って私を守る宣言をしてくれてからあっという間に一週間程が経ったけれど、心配するような事は何も起こらず、私は平穏な日々を送っていた。
あれから、変な来客者の訪問も無いそうなので、ティティと外で遊ぶ事も出来るようになった。
ここのところずっと気を張っていたティティも最近は、少し落ち着いたように見える。
「ティティさん、いつもありがとう」
「にゃ?」
「ティティさん、私を守ってくれているんでしょう?」
「にゃ~!」
当然! と言った顔でモッフモフが抱きついてくる。この抱き心地は最高で癖になる。
そうしてティティと戯れていると、ダグラス様が現れた。
「リディエンヌ? 今日は外で遊んでいたんだなーーって、ティティまたか! お前は、リディエンヌにベタベタし過ぎだ!」
「にゃん」
モフッ
ティティがダグラス様に見せつけるようにして、更にギュッと抱きついて来たので私は悶えそうになった。
「ベタベタじゃないにゃ? 守ってるにゃ! だと!?」
「にゃーん!」
「俺にはベタベタしているだけにしか見えないぞ!」
「にゃーーん!」
「実はそれもあるにゃ、役得にゃ!? 何を認めているんだ! 嘘をつくなら最後まで突き通せ!」
「にゃー……」
ダグラス様とティティは相変わらず仲良しだった。
「ふふ、仲良しですね。ところで、ダグラス様は私かティティさんに用事ですか?」
「……何でティティに用事だと思うんだ」
「え? なんだかんだで仲良しですし」
「むっ……」
私が笑いながらそう答えると、ダグラス様は仏頂面になった。
氷の貴公子様と呼ばれているとは思えないくらい、ダグラス様が可愛く見えた。
「──実は、ちょっと相談があるんだ」
「にゃ」
ティティが聞いてやろう、という顔付きになってダグラス様を見上げる。
ティティさん、何でそんなに偉そうなの……?
案の定、ダグラス様が怒り出した。
「ティティにじゃない! リディエンヌに、だ!」
「にゃー……」
ダグラス様とティティの攻防がまた始まりそうだったので、私は慌てて口を挟む。
このままでは話が全く前に進まない気がする!
「えーーっと、それで……何かあったのですか?」
「……実は、パーティーがあるんだ」
ダグラス様はあまり乗り気ではなさそうな顔で話を切り出した。
───
「王太子殿下の誕生日パーティーですか?」
「……そうだ。今度、王都で行われる」
将来の行く末が楽しみなこの国の王太子殿下は先日、めでたく6歳になられたらしい。
「大きなパーティーが行われるのは最終日だけだが、祝福の祭典は毎年、一週間程かけて行われるんだ。今年も親バカ……ゴホッ……両陛下が盛大に祝いたいそうでな」
「え! 一週間もですか?」
「ああ。つまり、一週間近く俺は王都に滞在しないといけない」
「一週間……」
ダグラス様はラッシェル国の公爵家の人なので、王家と繋がりがあるはずと思っていたけれど、よくよく確認したところ、現在の国王陛下とは従兄弟同士なのだという。
それは、パーティーや祭典に参加しないわけにはいかない。
ここ最近、王都とこの街を頻繁に往復していたダグラス様だけど、必ず毎日、街の屋敷に帰って来てくれていた。
でも、今度のパーティーは違う。
少なくとも、一週間はこちらの屋敷には戻って来ないという事になる。
(寂しい……)
「……それでなのだが、リディエンヌ」
「はい、私はティティさんとここで大人しくお留守番で──……」
「一緒に王都に行かないか?」
(……ん?)
思っていたのと違う言葉が聞こえたので、私は目を丸くしてダグラス様を見た。
「一緒に王都……ですか? え? 私も?」
「あぁ、リディエンヌも一緒に、だ。もちろん、ティティも一緒だ」
「にゃ!」
ダグラス様のその言葉にティティの目がキラッと輝いた。
「最終日のパーティーは室内ではなく、殿下の事を考えて日中にガーデンパーティーを予定しているそうだ。だから、ティティも会場入り出来るらしいぞ? ────いい子にしていられるなら、だが」
「にゃーーーん! んにゃ! にゃぁ!」
ティティが大興奮している。
……これは、ダグラス様でなくても分かるわ。間違いなく、ティティは行く、絶対に行く! そう言っている。
「にゃぁ~」
「王都のご飯、食い尽くすにゃ! って、ティティ……頼むから強奪はするなよ」
「にゃん!」
ティティは元気よく返事をした。
「……信じるぞ?」
「にゃーーーん!」
「は? それに、美味しいご飯食べながらリディエンヌと王都をデートにゃ! だと? いやいや、それをするのはティティじゃなく…………くっ!」
「にゃー!」
「ダグラス様?」
ダグラス様が変な所で言葉を切ったので、どうしたのかと顔を見ると何故か顔が赤い。
「……どうされました?」
「いや、ティティがリディエンヌとデートだなんて言うから……その、少しムキになってしまった……すまない」
「まぁ! ふふ」
「にゃ?」
私が笑うと、ダグラス様も優しく微笑みながらそっと私に手を伸ばし、軽く頭を撫でられた。
「……リディエンヌを王都に連れていく事が正解なのかは分からないが……たとえ、ティティや他の護衛がここに残ったとしても、だ。俺のいない所でリディエンヌを一週間もこの街に残す方が嫌なんだ……ゴミ共の事もあるし」
「ダグラス様……」
ダグラス様の瞳がとにかく私の事を案じてくれている。
私も、ダグラス様のいないこの街で一週間でも過ごすのは嫌。
だけど、王都へ行くのに躊躇いがあった事も事実。
追放された身であまり人前に出たいとは思わないし、何より“王族”そのものが信用出来なくて、彼らの前に出たくないとさえ思っていた。
けれど、ダグラス様の元にいる以上、王家に関わらずに生きていく事はきっと不可能。
(そろそろ潮時なのかも……)
それに、ダグラス様の身内なら信じてもいいかもしれない。そんな気持ちが生まれる。
「ティティさん、私、王都に行っても大丈夫かしら?」
ここは私の騎士に訊ねてみる事にした。
ティティは勘が鋭いので何か問題があるならここで首を横に振るはず。
「にゃ! にゃーーん!」
「……リディエンヌ。残念ながら今のティティは、興奮していてリディエンヌの事より食い気に走っている。あまり参考にならない気がするぞ」
「そうですか……」
色々と期待したけれど、ティティもただの猫だった……という事らしい。
「……だけど、何か本当にリディエンヌに危険が迫っているなら、ティティはこんなに王都行きを喜び興奮もしないだろう」
「そうですよね」
「何より、俺もリディエンヌと離れたくない……ので一緒に来てくれると嬉しい……」
「ダグラス様……」
ダグラス様が頭から手を離し、今度はそっと私を抱きしめる。
「リディエンヌを誰にも見せず、会わせず、この屋敷の中だけにずっと閉じ込めておく事は……正直簡単だ」
「え!」
「でも、そんなのはリディエンヌを守っているようで守っているとは言えないだろう?」
「……」
「リディエンヌにはこれからも伸び伸びと好きな様に過ごして欲しいんだ……そこの好奇心旺盛なティティみたいに」
「んにゃ!?」
突然、話をふられて驚いているティティが可愛い。
「ゴミ共の事もそれ以外の事もだが……俺はリディエンヌが何かに怯えること無く、この国で安心して過ごせるようにしたいと思っている」
「ダグラス様……」
「そして、そんなリディエンヌの隣に……俺は居たい」
その言葉を聞いて確信する。やっぱりダグラス様は“私”を誰だか知っている……
そして、ようやく気付いた。
ダグラス様にゴミ共と呼ばれている人達は……グォンドラ王国の人間……? まさか、私の追っ手だった?
(でも、要らないからと捨てた元王女に追っ手を差し向ける必要なんて本来は無いはず)
そうなると、それさえも覆したくなるほど何か事態が変わって私を国に連れ戻そうと思っている?
考えられるのは異常気象の話……でも、それが私と何の関係があるの?
(……何であれ、絶対に嫌! 私はもうあんな国には戻らない!)
「……リディエンヌ」
「ダグラス様?」
私を抱きしめていたダグラス様が身体を離したと思ったら、今度は私の手を握る。
「俺は、この手でリディエンヌを幸せにし………………な、痛っ! こら、ティティ! 何をする!?」
「にゃーーーーん!」
ティティがなんとダグラス様に軽い猫キックをお見舞いしていた。
「いい所なのに、何でいつも邪魔をするんだ!」
「にゃーーーーん!」
「いったい、いつになったらお前は俺を認めてくれるんだ!?」
「にゃ!」
ティティは、まだまだにゃ……そう言いたそうな顔で首を横に振る。
「ふ、ふふ……」
「リディエンヌ! 何でそこで笑うんだ!?」
「え、だって……ふふ」
「にゃん!」
その光景が可笑しくて楽しくて。私は笑いが止まらなかった。
───こうして、私はダグラス様とティティと一緒に王都へ向かう事になった。
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