【完結】本物の聖女は私!? 妹に取って代わられた冷遇王女、通称・氷の貴公子様に拾われて幸せになります

Rohdea

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27. 不安な気持ち



  ──どうしてなの?
  なぜ、マリアーナがラッシェル国にいるの?
  グォンドラ王国は大変な時だと言うのに聖女がなんで国を出てしまっているの?

  (意味が分からない……)

  だけど、あそこにいるのは間違いなく妹のマリアーナだった。





  昔からマリアーナは、無邪気に私を貶し、私の物を奪っていく……そんな子だった。

『おねえさまー、そのリボンかわいい!』
『これ?  前にお父さまとお母さまにおたんじょうびにもらったものなのよ』
『へー、おたんじょうび……』

  皆の愛情がマリアーナへと傾き始めた頃の私の心の支えは、まだ、自分が家族に愛されていた頃の記憶とその頃に貰った物だった。
  手元に残ったそれらが、あの頃に家族がくれていた愛情が嘘では無いと教えてくれる気がしていたから。

『おねえさま、マリアーナそれ欲しい』
『え?  なんで?』

  私が聞き返すと、マリアーナはきょとんとした顔で言った。

『おねえさまなんかよりマリアーナの方がにあうもん』
『似合うって……これはそういうことじゃないでしょ?』
『でも、欲しい』

  マリアーナは、やだやだと首を横に振る。
  他の物ならまだしも、これは“私”がお父様とお母様に貰ったかつての愛情の証。
  困った私は、どうにか宥めようとした。

『そんなにリボンが欲しいなら、おねだりしてみればいいんじゃないかしら?』

  ───きっと、マリアーナの為なら喜んでたくさん買ってくれるわよ?

  私はそんな言葉を飲み込みながらマリアーナをそう諭した……のだけど。

『え?  もういっぱいもっているわ!  でも、わたしは“それ”が欲しいの、おねえさま!』
『……え』
『だから、マリアーナにちょうだい?』

  マリアーナはにこにこした笑顔で手を私に差し出す。

『いやよ、これは……ダメ』
『どうして?  ひどい……おねえさま…………うっ……』

  譲ろうとしない私に、とうとうマリアーナが泣き出した。
  泣きたいのは私の方なのに……!

『おねえさま、ひどいーー!  わーーーーん』
『マリアーナ……』

  マリアーナが大きな声で泣き出したので、何事かと人が集まってくる。その間も、マリアーナは、泣き続けていた。
  この構図はどこからどう見ても、姉が妹を虐める図にしか見えなかったようで、私は使用人達に冷たい目で見られ、そのままお父様とお母様の元にマリアーナと共に連れていかれた。

『これは、どういう事だ?』
『おとうさま、わたし、おねえさまのリボンが可愛くて欲しくて……ひっく……でも、譲るのはいやって……』
『リボンを?』

  お父様がチラリと私の頭のリボンを見た。

『マリアーナったら、リボンならたくさん買ってあげているのに……それでは駄目なの?』 

  と、お母様が訊ねたけど、マリアーナはえぐえぐ、泣きながら首を横に振る。
 
『おねえさまの頭にあるリボンがいいの……グスッ』
 
  (どうしてよ!)

  そんなマリアーナの声を聞いたお父様は、ふぅ、とため息を吐きながら私に向かって言う。その目はどこか冷たい。

『リディエンヌ、譲ってやれ』
『……!  い、嫌、です』

  震える声で私は拒否をした。他の物ならまだしも、これだけは。だってこれは───

『たかが、リボンの一つや二つ……お前にだって他にもあるだろう?  必要ならまた、買えばいい』
『そうよ。だからそれはマリアーナに譲ってあげなさい』
『…………え?』
  
  必要なら、また買えば……いい?
  だって、これは……お父様とお母様が……

  ───リディエンヌ!  誕生日おめでとう!
  ───ふふ、可愛い!  とてもよく似合っているわ!  ねぇ、あなた!
  ───あぁ、当然さ!  リディエンヌに似合うと思って選んだからな!

『こ、これは、だってこれは……』
『リディエンヌ! !   可愛い妹が泣いて頼んでいるんだぞ!?』
『あ……』

  強く怒鳴られた私は、反論が出来ずその場で頭に結んでいたリボンは無理やり解かれてしまい、マリアーナへと手渡される。

『わーい、おねえさま、ありがとう!』
『……』

  その日は、嬉しそうに頭にリボンを結んだマリアーナだったけど、その日以降、髪に付けている姿を見る事は一度も無かった。



─────……


  どうして今、そんな過去の話を思い出してしまったのだろう?
  久しぶりにマリアーナの顔を見たから?

  (…………不安、なんだわ)

  私は、自分の身体が震えている事にようやく気付いた。

  私は今、ダグラス様とティティに出会ってたくさんの幸せを感じている。愛し愛され本当の幸せを知ったばかり。
  だから、マリアーナが現れた事でそれがまた崩されて奪われるかも……って不安なんだわ。

「リディエンヌ」
「にゃー」

  ダグラス様とティティに呼ばれて下を向いていた私は顔を上げる。
  ティティは私の胸にモフッと飛び込んで来て、ダグラス様はティティごと私を抱きしめた。

「そんな顔をしないでくれ。言っただろ?  俺とティティはリディエンヌの味方だ」
「にゃ!」
「……そんな、顔……?」
「…………今すぐ捨てられる、と不安を抱えている子供のような顔……だな」

  (過去の出来事を思い出したせいだわ……)

「リディエンヌ。俺はリディエンヌしか目に入らない」
「にゃん!」
「…………ティティもそう言っているな。食い物は別だそうだが」

  ふっ、その言葉につい吹き出しそうになった。だって、ものすごくティティっぽい。

「可愛いと思うのもリディエンヌだけだ。笑顔が見たい、守りたい、側にいたい……全部リディエンヌだから思う事なんだ。他の女には欠片も思わない」
「にゃ!」
「ダグラス様、ティティ……」

  (私、不安になる必要どこにも無かった……?)

「……あの侵入者に会いたくないんだろう?  とりあえず、ここに隠れて様子を見よう」
「にゃ!」

  幸いマリアーナは私の存在には、まだ気付いていない様子。ティティのお陰だ。

  私はダグラス様に抱き込まれたまま、そっとマリアーナの様子を窺った。



  マリアーナはパーティー会場の入口で止められていて、“わざわざ来てやったのにどうして入れないの?”という顔をしている。

「私を誰だと思っていて?」

  マリアーナのそんな声が聞こえて来た。
  自国でもないのに、どうしたらそんな尊大に振る舞えるのかが私にはさっぱり分からない。

  (グォンドラ王国はただでさえ今、評判がガタ落ちしているというのに!)

  街で聞いた噂は気象異常の同情話だけでは無い。
  国を守るべき王侯貴族達の振る舞いが悪く、暴動が……なんて噂も耳にしていた。

「マリアーナ様、や、やめましょう、帰りましょう?  どう考えても迷惑です」

  (……リード様)

  マリアーナの横に控えながら必死に宥めているのはリード様だった。
  顔色があまり良くない。
  
「迷惑?  どうして?」
「……な!」
「私は“聖女”という尊い存在なんだから喜ばれるでしょう?」
「……は?  あなたは今、ご自分の置かれている状況が分かっておられないのですか!?  何のために変装までして……こっそり……」

  リード様が目を丸くし、驚愕した様子でマリアーナを咎めた。

  (何だか内輪揉めしているように見えるわ……)

「だって、いい加減お姉様は見つからないし、もう、こそこそするのにも飽きちゃったんだもの」
「あなたは……」
「それに、可愛い妹もラッシェル国にやって来ましたよー!  って、広まった方がお姉様も出て来てくれるんじゃないかしら?」

  (……私?  どうしてここで私の話になるの?)

  しかも、今の言葉……マリアーナは私に会いに来た……?

「うふふ、案外、お姉様もこの場にいたりして!」

  背景は分からないけれど、今、マリアーナに見つかると良くない事になる、という事だけは、よーーーく分かった。

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