【完結】本物の聖女は私!? 妹に取って代わられた冷遇王女、通称・氷の貴公子様に拾われて幸せになります

Rohdea

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29. 本物の聖女



「嫌ぁぁ、痛いーー」
「うにゃぁーーーー!」

  マリアーナの泣き叫ぶ声とティティの荒々しい鳴き声が、何だかとても遠くに聞こえる。
  だって今、ダグラス様は私に何て言った?

  ───本当の聖女は君なんだ、リディエンヌ。いや、グォンドラ王国の第一王女、リディエンヌ殿下。

  そう言った。

「……っ!」

  ダグラス様のその言葉を頭の中で振り返った瞬間、首の後ろがチリッと痛んだ気がした。

「……ど、どうしてダグラス様が、それを……」

  大きく動揺した私が口から出せた言葉はこれだけだった。
  ダグラス様は、私がどこの誰なのかはやっぱり知っていた……その事はすでに予想していたので、そこまでの驚きは無い。
  でも……

  (──本物の聖女が私!?)

  それだけが分からない。
  マリアーナが偽聖女だという話にも衝撃を受けたけれど、ダグラス様は何を根拠に私が本物だなんて言っているのかが分からない。

「グォンドラ王国の“聖女”の話は、当然だけどラッシェル国にも伝わっている話だ」

  ダグラス様が静かに語り出す。
  そんな彼の私を見る瞳はどこまでも優しい。

「そんなグォンドラ王国にようやく生まれた待望の王女の話や、その王女達の名前くらいは俺だって知っている」
「……そう、ですよね……」
「──リディエンヌ」

  私が顔を伏せるとダグラス様は頭を撫でるのをやめて、今度は私の腕を取ってそのまま抱き込んだ。

「ダ、ダグラス様?」
「リディエンヌ」

  そのまま、チュッと額にキスをされる。

「リディエンヌは王女だろうと聖女だろうと、俺にとってはたった一人の愛する可愛いリディエンヌだ」
「ダグラス……様」

  私の頬が赤くなる。
  こんな所で何を……とも思ったけれど、今の私達はこっそり建物の影に隠れているので目立たない。
  それにティティとマリアーナの光景が凄すぎて、皆の視線もあちらに釘付けで私達に気付く人なんていない事に気が付いた。

「君はグォンドラ王国の第一王女のリディエンヌ。そして今、ティティに、君をバカにし聖女を騙った事で報復されている女は君の妹……第二王女のマリアーナなのだろう?」
「い、いつ、気付かれたのですか?  そ、それに聖女の事も……」

   どうしてダグラス様はそんなに詳しいの?

「リディエンヌ。有名な話だが、グォンドラ王国の聖女には身体のどこかに印が現れると聞いた」
「は、はい!」
「その証となる印は、国花の百合が描かれた模様なのだろう?」
「ダグラス様はそこまでご存知なのですね?  その通りです」

  聖女の証の細かい図案がどのようなものかは神官しか知らないけれど、印が国花の百合である事まではそれなりに広く知られている。

「……あそこで今、徹底的にティティに痛め付けられてるリディエンヌの妹が、“聖女の証”をどうやって偽ったかまではさすがに俺も知らない」
「あれが……偽り?」

  マリアーナは堂々と腕を掲げていて、図案を知っている神官もそれを確認して認めていたのに。

「だが、推測は出来る。きっと、あの女はリディエンヌにある“証”を見て自分に施したんだと俺は思っている」
「私……にある証?」

  そんなの知らない!  だって私の身体にはどこにも───

「リディエンヌ、君は自分で気付いていないようだけど、リディエンヌの首の後ろには“百合の花”が描かれた模様があるんだ」
「え?」
「前に髪型を変えて首を出していただろう?  あの時に気付いた」
「えっ!」

  私は慌てて自分の首の後ろを押さえる。
  そこでようやく気付いた。その場所は先程、チリッとした痛みを感じた場所。そして以前にも何度か同じように痛みを感じていた事があった……

  (あれらは、聖女の証の印が何かに反応していたの……?)

「……神様も意地が悪いよな。そんな自分では分からないような所に印を授けるとか……」
「でも、儀式の後もそれまでと変わらず周りの人にお世話をされていればすぐに誰かに気付かれたはずです。でも、私は……」

  ダグラス様は「うん……」と言ってもう一度私ギュッと私を抱きしめる。

「それだけで“リディエンヌ殿下”が、自分の儀式の後、どんな風に過ごして来たのかが分かるな」
「ダグラス様……」
「今、ここに鏡があればリディエンヌに見せてあげられるんだが……」

  そうは言うけれど、ダグラス様が嘘をつくはずがない。
  
  (本物の聖女は私だった……)

「マリアーナは全部分かっていて、嘘をついて皆を騙して“聖女”になった……?」
「……俺はそれこそが本当の“神の怒り”だと思うぞ。いや、実際そうなんだろう」
「神の怒り……」
「それに、リディエンヌが国を出てからだろう?  グォンドラ王国がおかしくなったのは」
「……あ!」

  確かにタイミング的にはその通りだ。

「リディエンヌ……おそらく君がラッシェル国に来てからは逆に我が国の気候が安定した」
「え?」
「それだけでも、俺はリディエンヌが聖女の証だと思っているよ。あのゴミのような女とは違う」

  そう言ったダグラス様の視線がティティとマリアーナに向けられたので、私も釣られて視線を向ける。

「うにゃーー!」
「いやーーーー!  な、何すんのよぉぉぉー……猫のくせにぃぃ」
「んにゃぁ!」
「え、あ……ちょっ」

  マリアーナはますますボロボロになっていた。
  自慢の顔はティティには引っ掻かれて傷だらけ、当然、髪もボロボロでボサボサ。
  ティティはあちこちに噛み付いたり引っ掻いたりしたのか、ドレスもボロボロだった。

  そして、そんなマリアーナを助けようとする人は誰もいない。

  (リード様なんてさり気なく距離を置いているわ……)

  あんなにマリアーナを好きだと言っていたのに。
  いざとなった時の彼は身を呈して庇う事もしなければ助けようとする事さえもしない。

  (何だか二人の愛がとても薄っぺらいものに感じる)

「にゃあぁぁあーー」
「何でよ?  この猫は何に怒ってるのよぉーー」
「んにゃーー!」
「痛っ!  顔!  顔は止めてよ……私の自慢なのぉぉ」

  ティティは手を緩める事を一切しない。とことんマリアーナを痛めつける気なのがこっちにまで伝わって来る。

「知るか!  うるさいにゃ!  お前のせいでリディエンヌはずっと苦しんで来たにゃ!  絶対に許さないにゃ!  ……すごいな。ティティはあれでも足りないと言っている」
「ティティさん……」
「ティティの気が済むまでやらせておこう。飽きたらやめるだろ」

  ダグラス様がマリアーナに冷たい視線を送りながら非情な言葉を発する。

「ティティはリディエンヌが大好きだからな。許されるなら俺もボコボコにするのに参加したい所だよ」
「ダグラス様……ティティは何者なのでしょう?」

  偽聖女め!  神の声なんて聞けていないくせに!
  ダグラス様曰くティティはそう言っていたという。つまり、ティティは何かを知っている?

  (───あ、神の声!)

「ダグラス様……私、本物の聖女だと言われてもやっぱりおかしいです」
「何でだ?」
「私は確かに二年前の儀式で神様に声をかけました!  でも、神様は応えてくれませんでした」

  ダグラス様の言うように首の後ろに聖女の証があっても私に“神の声”が聞こえないのは変わらない。それでも“聖女”と名乗れるものなの?
  ダグラス様に聞いた所で答えが出る話では無いと思ったけれど言わずにはいられなかった。

「……それは」

  ダグラス様が何かを言いかけた時だった。
  パーティー会場に物々しい雰囲気を纏った人達がやって来て国王陛下の前に進み出た。

「───陛下に至急の連絡を申し上げます」
「何だ?」

  わざわざパーティー会場に乗り込んで来るぐらいなのだから、これは只事では無い。
  会場内に緊張感が走る。

「……先程、グォンドラ王国の上空に大きな雷雲が発生しまして、一際大きな雷が落ちた事が確認されました」
「ほう?  それはどこに落ちたのだ?」
「…………おそらく、方角、位置共にグォンドラ王国の王宮付近かと思われます」

  (───え?)

「目撃者によると、それはまるで“神の怒り”のようだったと……!」

  会場内は一気にしんっと静まり返った。

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