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30. 崩壊する国と糾弾される偽聖女
◆◆◆◆◆
その日のグォンドラ王国の王宮では、またもや王が臣下たちに詰め寄られていた。
「陛下! 聖女は……マリアーナ様はどこにいらっしゃるんですか!」
「……」
マリアーナはリディエンヌを連れ戻す為にこっそり出国している。
まさか、国を抜け出したなんて知られたら、こいつらはまたうるさく騒ぐに違いない。
「マリアーナは体調が優れなくて休養を……」
そう誤魔化そうとしたけれど……
「陛下! もうずっとそう言い続けてどれだけ経っていると思っているんですか!? 聖女が誕生したのに何故、こうも国が荒れるのですか!?」
「そ、それは……」
「それに、マリアーナ殿下の言っていた“今は神の声が聞けない”……というのはどういう意味ですか!? ちゃんと説明をして下さい!」
(えぇい! うるさい輩どもめ! 何故大人しくしておらんのだ!)
あれもこれもそれも、全てリディエンヌのせいだ!
リディエンヌめ……! 自分が本物の聖女だと分かっていながら、ずっと我らの事を騙して馬鹿にして来た……絶対に許さぬ!
そして可愛い可愛いマリアーナをあんなに泣かせるとは!
本当はリディエンヌには、二度とこの国の地を踏ませるつもりなど無かった。だが今、この国には聖女が必要だ……本物の聖女がリディエンヌだと言うのだから仕方がないのだ!
だが、リディエンヌが王宮に戻って来たら幽閉して、死ぬまでマリアーナの影として生きてもらうつもりだ。
聖女の功績は全てマリアーナのものとする。
───“聖女”はリディエンヌなんかでは無く、マリアーナであるべきなんだ! 神の見る目が無かっただけなのだ!
そう思った時だった。
「……ん?」
空がピカッと明るく光った。
そして、すぐにゴロロロ……ドォーンという強い衝撃音が間近で聞こえた。
「な、何だ……今の音は……」
「か、雷……か? すぐ近くに落ちた……ようだ、な」
陛下と集まっていた臣下たちが今の音に焦り出す。どう聞いても尋常ではない。
しかも空はまだゴロゴロと鳴っている。
「あなた!」
「父上!」
王妃と王子が国王の元に駆け込んで来たが、二人の顔も真っ青だった。
「大丈夫だ。おそらく雷が近くに落ちた……それだけだ。えぇい! 誰か! 何が起きたのか現状の確認して来……」
陛下が二人を宥めた後、慌てて大声で命令を出したまさにその時、空が再びピカッと光った───……
◇◇◇◇◇◇
グォンドラ王国の王宮付近と思われる場所に大きな雷が落ちたと思われる。
その話は、ティティに襲われている真っ最中のマリアーナの耳にもしっかり届いたらしい。
「……え? 何を言っているの? 雷が落ちた……? う、嘘でしょう?」
マリアーナはボロボロの姿のまま呆然と呟いた。
「───おそらくですが、あの雷の落ちた先は大きな火事になっていると推測されます」
呆然としているマリアーナを気にしながらも報告者は続ける。
「か、じ? 嘘……王宮……が、燃えてる、の?」
「にゃぁ!」
「お父様……お母様、お兄様……? え、私のお部屋……」
「にゃー!」
マリアーナに向けて発したティティの鳴き声はどこか冷たい。
(ざまぁみろにゃ! って言っているように聞こえる……まさかね)
だけど、ティティはマリアーナに一切同情を見せなかった。
ここまで来ても、まだまだ殴り足りないという顔でマリアーナを睨み続けている。
「……ははは、これはまた神の怒り……ときたか。急展開だな……さて、マリアーナ王女。そなたに一つ聞きたい」
「……」
陛下がマリアーナに何かを訊ねようとする。
マリアーナはどこか虚ろな目で陛下を見返した。
「そなたは本当にグォンドラ王国の聖女なのか?」
その質問にマリアーナの身体がビクッと大きく跳ねる。
「……なっ! へ、陛下は私をお疑いになる、のですか!? 私は儀式を経てちゃんと国に認められた……」
マリアーナが必死に弁解を始める。
しかし、そんな必死なマリアーナを陛下は鼻で笑って一蹴した。
「はは! よく考えてみるがいい。何かがおかしいではないか。こたび待望の聖女が誕生したばかりのグォンドラ王国が何故こうも急に傾く? むしろ聖女不在だった頃の方が平和だったのではないか?」
「そ、それは……」
マリアーナの目が泳ぐ。
「そうして、ここで雷と来た。それも王宮に落ちたかもしれないだと? これを神の怒りと呼ばずして何と呼ぶ? いったいグォンドラ王国の者達は何をして神を怒らせたのだろうな」
「……! そ、それはさっきも申し上げました……! お姉様が私を虐めた事で神がお怒りに!」
「ははは! それなら何故、神はグォンドラ王国を攻撃している? 聖女であるマリアーナ王女を虐げた姉王女に怒りを覚えているのなら、現在、姉王女が滞在している我が国……ラッシェル国を狙うのが普通だろう?」
「───っ!」
「悲劇の王女になりたくて作り話をするのは結構だが、非常に考えが浅くて甘いな、マリアーナ王女」
「……っっ」
マリアーナは言葉を失い、その場で硬直する。
「さて、マリアーナ王女。一つそなたの知らなそうな話をしてあげよう」
「え……」
陛下はにっこり笑顔をマリアーナに向ける。ちなみに、笑顔だけど目の奥は全く笑っていない。
「実は、我が国にもそなたの国の“聖女”についての話は色々と伝わっていてね」
「……」
「まぁ、遠い昔はいざこざもあった事から、注意喚起の意味で記録が残っているのだろう」
「……?」
マリアーナは陛下が何を言いたいのか分からず怪訝そうな表情を浮かべる。
「そこにあった記述の一つによると、グォンドラ王国の聖女には必ず“守護者”がいるそうだ」
「守護者……?」
「そうだ。だが……残念ながらマリアーナ王女には、その“守護者”がいるようには見えんのだが?」
「!!」
(───守護者? 初めて聞く話だわ)
その指摘にマリアーナは完全に動揺していた。
陛下が言ったようにおそらくマリアーナも知らない話だったのだと思う。
(グォンドラ王国には伝わってない話なの? どういう事?)
私が驚いていると、ダグラス様の私を抱きしめる腕に更に力が込められた。
「大丈夫か? リディエンヌ」
「ダグラス様……今の陛下の話、守護者の事って知っていましたか? 私、知らなくて……」
「……実は俺も数日前に聞いたばかりだ」
「え?」
(誰から聞いたのかしら? 陛下? でも、いつ……?)
そんな疑問が浮かんだけれど、今は陛下の話の続きを聞く事にした。
「そんな聖女の守護者というのは“動物”らしい」
「え?」
「何の動物が守護者になるのかは、その時の聖女で違うようだがな」
──動物ですって?
私の中でまさか……という思いが生まれる。
「そして、先程からマリアーナ王女。君に腹を立てて攻撃をしている、こちらのモッフモフの猫の事だが……」
「にゃん!」
ティティが元気よく陛下に返事を返す。
「ま、まさか……!」
マリアーナの顔がサーっと青ざめる。
「その猫はとある公爵家の跡取りの氷の貴公子と呼ばれる男が飼っている猫なのだが、最近、その男は婚約をした」
「……え? 公爵家、氷の貴公子……の猫?」
「その猫は彼の婚約者となった女性にとても懐いているのだ。そう、まるで彼女を護るかのように」
「にゃん!」
ティティが、またまた元気よく返事を返す。
一方のマリアーナは青ざめたまま、頭を抱えて混乱し始めた。
「待って……え、氷の貴公子って……猫、婚約? 誰と……? ま、まさか……この猫……は」
「にゃ!」
ティティとマリアーナの目がバチッと合う。
「……ひっ!」
「んにゃぁ!」
「ひゃあああぁあぁあーーーー」
マリアーナに向かってティティは飛び付き、辺りには再びマリアーナの悲鳴が響き渡った。
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