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35. それから
◆◆◆
グォンドラ王国へと強制送還されている最中の馬車の中で私、マリアーナは嘆く。
───どうして、私がこんな目に合わなくてはならなかったの?
今まで経験した事の無いような冷たい目で見られ、乱暴に連れていかれて事情聴取。
偽聖女の烙印を押されて強制送還。
しかも、肝心なお姉様とは会えないまま……
「……私の可愛い顔が! こんな顔では帰りたくない……!」
聖女の守護者だとかいうモフモフした猫につけられた傷。自慢だった私の顔はめちゃくちゃだ。
「我儘を言わないで下さい、マリアーナ殿下。命があっただけでも良いではないですか」
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「…………? 私が? どうして?」
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「そ、それは……」
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「……僕はマリアーナ殿下、あなたの事を勘違いしていたのかもしれません」
「え? や、やだわ。な、何を言っているの? リード様……」
「……」
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「あなたが実は聖女ではなく、リディエンヌ殿下が本物だったと知った時に気付くべきでした」
「ちょっ……だ、だから、何を言っているの? リード様……」
「……」
私にベタ惚れのはずのリード様……いったいどうしてしまったの!?
「……マリアーナ殿下。リディエンヌ殿下は、当時、本当に僕に会いたくないと言って僕の事を避けていたのですか?」
「っ!!」
──やめてよ! 何で今になってそんな事を言い出したのよ!?
「よくよく考えれば、おかしな話だった……と今なら思います」
「……リ」
「今更、リディエンヌ殿下に真相を聞くことは出来ないのですが」
「……っ!」
リード様はそう言って再び、冷たい目で私を見る。
──どうして? どうしてリード様、そんな目で私を見るの?
(私はリード様が欲しくて……お姉様なんかには勿体ないって……だから……)
そんな馬車での気まずい時間を過ごしながらも、どうにか帰って来たグォンドラ王国。
「あら、雨は止んでいる……?」
馬車の中から窓の外をのぞくと、ずっと降り続いていた雨が止んでいる。
あの止まない雨も神の怒りって事だけど、これって許されたんじゃない?
まだ、空が曇っているせいで薄暗いけれど、きっとこれから日が差して昔みたいに──……
そう思って外に出たけれど……
「! さっ、さっむ!」
「何だこれ! こんな寒さ経験した事がない!」
リード様も動揺していた。
グォンドラ王国の気候は一年を通して穏やかだった。こんなに寒かった事なんて無い。
しかし、私とリード様が動揺しているのにも関わらず、何故か一緒に着いてきたラッシェル国の者達は平然としていた。
「あなた達、この地に降りて寒いと思わないの?」
気になってそう訊ねたら、彼らは不思議そうに顔を見合せながら言った。
「普通ですよね? ラッシェル国では以前からよくある寒さです」
「あぁ、この薄暗い感じなんて特に懐かしいくらいだ」
「最近は、ずーーっと穏やかな天候に恵まれていたからな」
呑気な様子でそう笑いあっている。
は? 嘘でしょう!? 何を言っているの?
私がラッシェル国に居た間にそんな天気になった事は一度もないのに!?
暮らしやすい気候……そう、グォンドラにいた頃と変わらない気候だと思っていたわ。
──待って? ラッシェル国は最近、穏やかになった?
私はハッと気付く。
「……っ! ま、まさか……」
グォンドラ王国のずーーっと穏やかだったあの気候は……
「お姉様の……聖女の力だったと言うの……?」
「殿下?」
「そんなの……」
様子がおかしくなった私にリード様が声をかけてくれたけれど、返事どころでは無かった。
そして、この後、雷が落ちたと思われる王宮に向かった私はそこに広がる光景にますますショックを受ける事になる────……
◇◇◇◇◇◇
国王陛下は、マリアーナ達がしっかり国を出た事を確認した上で、私達を呼び出してくれた。
「ご配慮頂き、ありがとうございます。そして、この度は……」
「あー……構わん。そして、謝罪も要らん」
謝罪は止められてしまった。
「マリアーナ王女を君やダグラスに会わせたくないと思ったのは、あくまでもこちらの意思なのでな」
「陛下……」
「にゃん!」
ティティが嬉しそうな声で鳴いた。
陛下、さすがにゃ! とか言っている気がした。
そんなティティを見た陛下が、コホンッと咳払いをしながら口を開く。
「……ふむ。そうだな、しかしどうしてもお礼がしたいと言うのであれば、そのモッフモフを思う存分撫でま……」
「にゃ?」
「───陛下! いいから話を続けましょう! 今日はリディエンヌについて話をする時間であり、モフモフする時間ではありません!」
ダグラス様が横から口を挟む。
「……そうか……では、モッフモフを堪能するのはまた今度……」
「にゃー」
陛下は名残惜しそうにティティをチラチラ見ながら、がっくり肩を落としていた。
───……
「……それで、今一度確認するが、ダグラスから提出された婚約の届出では“リディエンヌ”と名前だけになっていたが、君はリディエンヌ・グォンドラ。グォンドラ王国の第一王女で間違いないか?」
「はい」
気を取り直して、陛下との話が始まった。
「……二年前に慣例通りに“聖女の儀式”を受けたが、神の声は聞こえなかった、と」
「はい。何の反応もありませんでした」
「だが、聖女の証である印は授かっていたようだが、首の後ろという事もあり、全く気付かなかったし、気付かれなかった?」
「はい」
ダグラス様が言うには、マリアーナだけは知っていたはず、との事だけれど。
「そうして、グォンドラ王国では聖女は誕生しなかったと思われ続け、この度、そなたの妹である、あのやかましい王女が儀式に臨んで“神の声を聞いた”と宣言したわけか」
「……そうなります」
わたしは頷きながら膝の上で両拳を握りしめる。
まさか、全部嘘だったなんて。
でも、そうね……今なら分かるわ。
あの時、神殿の奥から戻って来たマリアーナの様子がおかしかったのは、神の声が聞けなかったからなんだわ。
マリアーナは自分が聖女だと信じていたから、声が聞こえなかった時、きっと大きなショックを受けたはず。その後、偽聖女になる事を画策したようだけれど、その時の動揺が残っていた……
「つまり、神の声は本物の聖女であるはずのそなたも、あの偽物迷惑王女も聞いていない」
どういう事だろう? 神はどうした?
そんな空気になった時、
「にゃ?」
ティティが不思議そうな顔をしてちょいちょいと前足で私を呼ぶ。
「ティティさん?」
「にゃーーん! にゃ!」
何かを訴えるティティ。
「……は? ちょっと待て、ティティ。お前、何を言っている?」
「にゃん!」
「本当の事にゃって……どういう事だ!?」
ティティの言葉を汲み取ったダグラス様が焦りだした。
「にゃー……」
「ダグラス様? あの、ティティはなんと言っているのですか?」
「あー……」
ダグラス様が躊躇いながらも口を開く。
「……神の声は聞けなくて当然にゃ……神様はもともと聖女と話をする事は無いにゃ! ……とティティは言っている」
────えぇっ!?
ダグラス様の告げるその言葉に驚いて慌ててティティを見たら、ティティはまん丸の目をこちらに向けて元気よく「にゃーーん!」と鳴いた。
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