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37. モッフモフの二年間 ①
「…………にゃっ」
「え? ちょっ……! ティティさん!?」
明らかに動揺した様子を見せたティティは逃げの体勢をとった。
それはまるで、疚しい事のある人間が逃げようとする姿にそっくり。
(……まさか)
“聖女”については私も(国も)知らない真実が隠されていた。
だから、てっきり“守護者”であるティティにも何か深い事情や秘密があって、それで二年間私の前に現れなかった……そう思ったのだけど。
(何だか違う気がするわ!)
「にゃーーーー……」
「こら! ティティ!!」
「……ーーん? んにゃぁー!」
そんなティティをダグラス様がしっかり捕まえてくれた。
逃げたかったらしいティティは、必死に暴れ回っては逃げようとする。
「にゃ! んにゃ! にゃーー!」
「はにゃせ? 触るにゃ? ははは、誰が離すか!」
「……にゃー」
暴れてもダメだと察したティティは、今度はくりんとした目を向けて訴え始めた。
さすが、ティティ様。
自分がどんな顔をしたら可愛いと思われるのかをよく分かっている顔だった。
(な、なんてあざといの……)
「そんな顔をしても無駄だ。ちゃんときっちり話してもらおうか?」
「にゃっ!?」
「お前の大好きなリディエンヌが悲しむぞ? 俺もリディエンヌの事が大好きだから悲しむ顔は見たくない。さぁ! 素直に吐け! 吐くんだ!」
「にゃ~~……」
それでも、ティティは足掻く。
これはよほど話しづらい何かがあるに違いない。
だけど、私はどうしてもその事情が知りたいの。
だから、ここは私もティティのあざとさを見習って吐かせるしかないわ!
「……ティティさん……」
「にゃっ!!」
私はダグラス様に捕まっているティティの前足をそっと握り、目を潤ませてティティの目をじっと見つめる。
「……私、ティティさんの事をもっと知りたいの。だから……教えて?」
「にゃっ!?」
(よし!)
ティティの心が明らかに揺らいだわ。これはもう一押しね!
「ティティさん……お願い」
私はぐっと顔を近付けて“お願い”をする。
「にゃ、にゃ……にゃう~……!」
「うっ……リ、リディエンヌ……そんな小悪魔的な行動を……ど、どこで学んだんだ……!?」
(小悪魔的……? ダグラス様は何を言っているの?)
ティティだけでなく、何故かダグラス様まで顔を赤くして動揺し始めた。
どうしてそんな事になったのか分からず首を傾げていたら、ダグラス様とティティが目配せをして互いに頷きあっていた。
「にゃーーん……」
「あぁ、そうだな、ティティ。無自覚ほど恐ろしいものはないな」
「にゃん……」
「だが、そこがめちゃくちゃ可愛い」
「にゃ」
「惚れた弱みだ。俺は一生勝てない自信がある」
「にゃー」
「励ましてくれるのか……ははは」
「んにゃ!」
よく分からないけれど、ティティが大人しくなったのでこれで話が聞けるはず! と、私は期待した。
「───氷の貴公子と暴れモフ猫をあっさり手玉に取ったぞ……なんて恐ろしい聖女なのだ……」
陛下が苦笑いしながら小さく呟いたその言葉は……聞かなかった事にした。
───
「……にゃ~」
ティティが逃げ出したりしないように、話を聞く間は私がしっかり抱っこする事にした。
ダグラス様はちょっぴり不満そうだけど、「ティティはそこが一番好きなのは知っている……羨ましい……」と渋々だけど、認めてくれた。
「にゃ~ん!」
「ティティ! ふわふわにゃ~! じゃないだろ? けしからん! そこは俺の……コホッ……い、いいから早く説明しろ。お前はリディエンヌが聖女になってからパン泥棒するまでの二年間、どこにいた!?」
「にゃーー……」
「……仲良しだな」
陛下が思わず……といった様子で呟いた言葉には同意しかなかった。
「にゃ……にゃー……」
「は? おい……やっぱりお前……」
ティティが語り出したところ、すぐにダグラス様の顔色が悪くなる。
「にゃん! にゃーー!」
「いやいやいや、とっても美味かったにゃ! じゃないだろ!? どこまで食いしん坊なんだ! あと、それは泥棒だ!」
(……美味しかった? 泥棒……やっぱりティティ、あなた……)
「にゃーーん!」
「泥棒じゃない? 心優しき人たちによるお恵みにゃ? お前……そんなんで、よく守護者をクビにならなかったな……」
「にゃ?」
「俺が、神様なら職務怠慢でとっくにお前はクビだぞ!」
「にゃーーーーん……」
クビという言葉にはさすがのティティも嫌そうだった。
「はぁ……リディエンヌ」
「はい」
ダグラス様が大きなため息を吐くと私に向き合う。
ティティとの会話の内容を教えてくれるらしい。
「思っていた以上に自由猫生活だったぞ」
「にゃ?」
「しかも、自分がどれだけ可愛いかも自覚しているから非常にタチが悪い」
「にゃん!」
「ティティさん……」
ティティはまん丸のくりっとした目を私に向ける。
確かに可愛かった……
「───えっと、つまりティティさんはグォンドラ王国とラッシェル国をフラフラして食べ歩き……ケホッ……旅をしていた?」
「にゃん!」
「……守護者になった当初は聖女の守護者なんて御免にゃ! と思っていたと。かなり、やる気なかったみたいだ」
ダグラス様がティティに聞いたところによると、たいてい“守護者”は聖女の近くにいる動物が選ばれるらしい。(主に飼われてるペット)
ここ数年は廃れていたようだけど、昔のグォンドラ王国の王族はペットを飼っている人が多かったそう。
「ですが、私は動物……ペットは飼っていませんでした……」
「あぁ。だからたまたま当時、リディエンヌの儀式の日にグォンドラ王国の王宮の近くをフラフラしていたさまよい猫のティティが選ばれた……」
「え!」
「にゃん!」
(神様! 適当すぎます!!)
「……まぁ、ティティからすれば、にゃんだって!? となる話だ」
「にゃー……」
「そして、この自由奔放な猫は思った…………よく分からにゃいのでトンズラするにゃ! と」
「ティティさん……あなた……」
「にゃ!」
すまんにゃ! ティティは私の胸の中でそんな顔をして笑った。
(神様……あなたという方は……)
やる気の無かった私と、これまた自由でやる気の無いティティを聖女と守護者に選ぶなんて……どうかしているわ!
あぁ、今これほど神様と話をしたいと思った事は無い!
「そうしてトンズラして、食い倒れの旅(という名の食泥棒)をしていたティティだが、神は諦めなかった」
「え?」
「ティティに、いかにリディエンヌが素直で可愛い女性かを伝え続けたそうだ」
「にゃーん!」
「えー……」
ティティさん? あなたすごくいい笑顔だけどそれ、洗脳って言うんじゃないかしら?
「神様の地道な草の根運動が実を結び、ティティの中で少しずつ“リディエンヌ”への興味は生まれていったが……なんと言っても肝心のリディエンヌが外に出ない。フラフラさまよい猫のティティとは会えるはずが無かった」
「確かに……王宮に迷い込んだフリをしてもすぐに追い出されたと思うわ……」
「一方のティティは、神様からの(しつこい)話で、この国の聖女の事や、リディエンヌの事を知る」
「にゃ~……」
ティティが少し遠い目をする。
二年間も時間があったんだもの。話ばかり聞かされては疲れちゃうわよね……
そう思った私はそっとティティの頭を撫でる。
「にゃーーん!」
その返事の可愛さに私の胸がキュンとした。
「そしてティティは……」
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