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42. 崩壊した国 ~マリアーナ視点~
「何故、そなた達はそれなりの地位でいられると思っているのだ?」
「……は?」
お父様は完全に肩透かしをくらったような顔になった。
お母様とお兄様も同じような顔をしている。
(だから言いたかったのに!)
私の話を聞いてくれないから……!
お姉様の味方をするこの陛下が生易しい事を言うはずなんてないのよ!
「そ、それはどういう意味でしょうか?」
「はっはっは、どうもこうも……」
陛下はにっこりと笑った。
「そなた達は平民として生きる事しか出来ないであろうな」
「は? 平民……? 我々が?」
「嘘でしょう!?」
「こ、この俺が……平民……だと!?」
これには私もショックが隠せない。
(お姉様は氷の貴公子……公爵家の跡取りと結婚するのよ!? つまり未来の公爵夫人! なのにこの私が平民ですって!?)
「い、嫌よ! そんなの絶対に嫌!」
私も声に出して嫌がった。
なのに、あの憎き陛下はそんな私を見て鼻で笑った。
「ははは、あれだけの醜態を晒しておいて、まだ、貴族社会で生きられると思っているとは……マリアーナ王女はやはり随分とおめでたい頭の持ち主なのですな」
「……っ!」
私が反論出来ずに押し黙ると、お父様達が何の事だ? と声を上げた。
「……マリアーナ! あれだけの醜態とは何の話だ!? その傷と関係あるのか?」
「そうよ! どうしてそんな言われ方をしているの?」
「お前、ラッシェル国で何をしたんだ!?」
「~~~……!」
言えるわけないじゃない! 向こうでも聖女の偽物だとバレて、しかもモフモフした守護者だとか言う猫に襲われた……だなんて!
私は悔しくて陛下に向かって叫んだ。
「どうして、私がそんな言われ方をしなくてはならないのですか!? それに平民だなんてあんまりです! 確かに私達はお姉様を……聖女を蔑ろにしたかもしれません! でもそれは仕方がなかった部分だって……」
だって、お姉様は自分で聖女だって気付いていなかったのよ?
私だってたまたま首に変な痣があると思って見つけただけ!
お姉様があの場で神の声を聞こえないと言った理由は知らないけれど、それってやる気が無かっただけなんじゃないの!? だったら、私は悪くなんか無いはずよ!
「そうだ! リディエンヌだって自分が聖女である事を隠して……」
「……グォンドラ国王……王妃、王子……そしてそこの王女も本当に分かっていないのだな」
「?」
「私がそなた達に怒りを覚えているのは、リディエンヌ王女が聖女である事に気付かずに蔑ろにしていたからという事だけではない!」
「ど、どういう意味だ?」
陛下は、はぁ……と大きなため息を吐いた。そして息を大きく吸ったと思ったら私達に向かって怒鳴った。
「聖女だとか王女だとか言う前に、リディエンヌ王女はそなた達の娘であり妹であり姉であり……家族だったはずだろう! ? そんな家族であるはずの娘に貴様らは何をしてきたんだ! 私は何よりもそれが許せぬ!」
陛下の剣幕にその場がしんっと静まる。
「神の声が聞こえなかった……そう口にしたからなんだと言うんだ……そんな事はリディエンヌ王女を虐げる理由になんかならないはずだ。なぜ、一人の家族として大切にしなかったのだ!」
陛下の言葉に私達は誰も何も答えない。
「……そもそも、貴様らがリディエンヌ王女を蔑ろにしていたのは聖女の儀式の前からだろう!」
「なっ!」
「そ、そんな事は……ねぇ?」
「ああ、ちゃんと妹だと……」
お父様達が顔を見合せて頷き合う。
「……以前から……我が国にグォンドラ王国の王女の話が入って来る時はいつもマリアーナ王女の事ばかりだった。外交の際もマリアーナ王女ばかりを連れ歩いていたな?」
「……」
「ふと、いつだったかもう一人の王女はどうしているのかとグォンドラ王国の使者に訊ねた事がある。その者がなんと言ったか分かるか?」
「……い、いえ」
お父様は首を横に振った。
「知らない、そう答えた。国王一家の団欒の場にも姿を見せないので王女という気がしませんね、その者はそう言って笑っていたのだぞ? それが、一国の王女に対する臣下の態度なのかと、とても驚かされた……」
「……ぐっ」
「それはつまり、貴様らがリディエンヌ王女をそのように扱っていたからだ! 貴様らは人として最低だ! 恥を知れ!」
陛下のその怒鳴り声はとてもよく響いた。
「い、いえ、待ってください! リディエンヌと我々は儀式の日以降はアレでしたが、それまではちゃんと良好な関係を……」
「……王よ、反論するならば聞かせてもらおうか?」
「な、何をです?」
「貴様らとリディエンヌ王女の心温まるような家族らしいエピソードだ。本当に家族だったならそう言った話の一つや二つあるものだろう? 例えば……誕生日とかな」
「「……っ!」」
お父様とお母様が顔を見合わせる。そんな二人の顔は真っ青だった。
そして二人とも口を開かない。どうやら何も浮かばないらしい。
「ははは! 何も出て来ない……か。それが答えだな。どうせそこのマリアーナ王女との思い出はたっぷりあるのだろう?」
「うっ……」
「今さら後悔しても遅いのだ! リディエンヌ王女はもう貴様らの事など忘れて我が国で幸せになろうとしている。お前達が虐げた分も氷の貴公子とモッフリした猫が幸せにしてくれるだろう!」
「リディエンヌが……幸せ……リディエンヌだけが……」
「そうだ。お前達とは違って幸せが約束されている。こうなったのは他でもないお前達自身のせいだ! さぁ、これ以上のくだらない言い訳は終わりにして今後の話をしようではないか」
もう、誰も何も言えなかった。
お父様もお母様もお兄様も私も誰もそれ以上の反論は出来ずに、項垂れた。
そんな私達は向こうの要求を全て受け入れるしか無かった。
(こうなったのは私達……自分自身のせい……)
陛下のその言葉は私達に重くのしかかった。
そして陛下は最後にこう言った。
「……リディエンヌ王女の中でグォンドラ王国に対しての未練は一切無いようだぞ。やはり、これは貴様らの自業自得だな……」
それは、お姉様にとって私達……私なんてもはやどうでもいい。
国も崩壊して構わない。そう言われたも同然だった。
「そなた達の今後の行き先と住処についてはまた、連絡するとしよう。あぁ、当然知っていると思うが、平民は自分で働かないと生きていけないので、まずはせいぜい頑張って仕事を探すといい。焼け落ちた王宮に財産など無いからな」
「「「「……!」」」」
(働く……ですって!?)
ショックを受けた私達はそのまま膝から崩れ落ちる。
最後に言われたその言葉はまさに、私達がこれからの迎える地獄の日々を予想したかのような言葉だった……
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