【完結】婚約破棄されて処刑されたら時が戻りました!?~4度目の人生を生きる悪役令嬢は今度こそ幸せになりたい~

Rohdea

文字の大きさ
48 / 52

40. フィオーラの異変 (レインヴァルト視点)

しおりを挟む


  コンコン


  執務の合間にフィオーラの眠っている部屋に立ち寄って、様子を窺っていたら部屋をノックする音が聞こえた。
  フィオーラのいるこの部屋は立ち入りを制限させている。
  常駐している医師の顔を見ると小さく頷いたので、扉を開けさせるとそこに居たのはクリムド伯爵令嬢だった。
  彼女は部屋に入り、医師に持参したものを手渡す。
  フィオーラの薬だろうか。 
  毎日、薬師室から薬や栄養剤を運んでくるのは彼女の役目だと聞いている。
  それもクリムド伯爵令嬢自ら志願したと聞いた。フィオーラを心配しての事なのだろう。

「いつも、すまないな」
「いえ。私に出来るのはこれくらいしかありませんから。殿下もちょうどいらしていたのですね」
「あぁ、少しだけ様子を見に来ていた」

  そうして2人でフィオーラへと視線を移す。

「フィオーラ様は今日も変わりがありませんね……」
「そうだな……」

  そこには良くも悪くもあの日から変わらないフィオーラが眠っていた。



  フィオーラが卒業パーティーでハリクスに斬られて、意識が戻らないまま日にちだけが過ぎていた。
  毎日、こうして時間が出来る度に様子を見に行っているが、一向に目覚める気配は無い。
  今のフィオーラは衰弱する事の無いように、体内に栄養を与える事で何とか生き長らえている……そんな状態だった。

  それでもフィオーラはまだ生きている……生きているんだ。
  俺が諦めてどうする!  と、自分に言い聞かせてフィオーラの目覚めを待つ日々を送っていた。





  そんなある日、カレンダーを見てふと気付いた。

「……まさか!」

  自分の思い至った考えに背筋が凍った。
  今、誰かに自分の顔を見られたら、真っ青だと心配されるだろう。それくらい俺は動揺していた。

  フィオーラがあの日、どうにか一命を取り留め、そして今も死なずに生きているのは。


  それは────……



  ────まだ、フィオーラが死ぬ日ではないから。




  最初の人生と2度目の人生でフィオーラが処刑された日。
  そして、3回目の人生で流行病に罹って命を落とした日。

  それは、全て同じ日だった。
  だから、フィオーラは生きている。

  俺は今、ようやくその事に気が付いた。

  だが、問題のその日がやって来ようとしている─────明日だった。


「………………っ!」


  フィオーラは、絶対に死なせない。
  明日、死ぬのが運命だと言うのならどんな事をしても変えてやる。
  俺はそう決意した。




****




「……殿下!?  どうされたのですか!?  もう日付が変わる夜中ですよ!?」
「今晩は私が看病する」
「え!?」
「陛下にも許可は得ている。頼む、看病させてくれ!!」

  フィオーラの部屋に行き、看病を頼み込む俺に医師は目を丸くして驚いている。
  いつもこんな時間に様子を見に行く事は無かったから当然だ。
  しかも看病まで頼み込んでいる始末。

「今のところフィオーラ様の容態に変化はありませんよ?」
「…………」

  その容態が急変するかもしれない、とは口に出せないのが悔しい。

  絶対に死なせるわけにはいかない。
  だから、俺は父上に頼み込んで、今晩から明日一日の公務を全て免除させて貰った。
  最初は渋い顔をした父上も、俺の只事では無い様子に何か思う所があったのか許可をくれた。あの人の考える事は未だによく分からないが、今回は助かった。


「……そうですか。分かりました。では、私は隣室で待機してます故、何かあればすぐにお呼びください」
「あぁ、頼む」

   医師が部屋から出ていくのを確認し、俺はベッドで眠り続けるフィオーラのそばに寄る。

「……ただ、眠っているだけのように見えるのにな」

  ベッドの傍らに座り、そっとフィオーラの片方の手を取り握った。
  その手は確かに温かみがあってフィオーラがまだ生きている事を感じさせてくれていた。

「フィオーラ……」

  頼む。逝かないでくれ!!

  どんなに願いを込めようとも目覚める気配は無い。

  そして、無常にも時計の針は12時を超え、かつてのフィオーラが命を落とした日がやって来た。

  おそるおそるフィオーラの様子を確認する。

「………………」

  日付けが変わった瞬間に容態が急変し、今すぐどうこうという事はなさそうだ。
  だが、油断ならないのも事実。
  ここまでの予想通りでいくなら、おそらく処刑が行われた時間が危険だと思われる。

「フィオーラ」

  愛しくてたまらない彼女の名前を呼ぶ。

  婚約者候補として初めて会った12歳の時。
  高位貴族の令嬢らしさそのままの態度だった彼女からはどこか冷たい印象を受けた。
  温かそうな色をした赤い髪とは対象的なその様子が、とても強く印象に残ったのを今でも覚えている。
  そんな様子だったから、俺達の会話が弾むわけでもなくその日の顔合わせは終わった。

  それでもその後、婚約は結ばれた。

  父上から、フィオーラが俺との婚約を強く望んだからだと聞いた俺は、柄にも無く喜んだ。
  しかし、その後会う彼女からはそんな熱量は全く感じなかった。
  その事に…………浮かれていたのは自分だけだったのかと酷く落胆した事は今でも忘れられない。
  そんなフィオーラは、何年経っても本当に何を考えているのか分からないままだった。

  そんな彼女の本音を知った、死後に渡された日記。
  俺と出会ってからの6年間、フィオーラが何を思って生きてきたのか。
  それを知った時、涙が止まらなかった。
  ただただ、俺の中に残ったのは彼女への愛しさだった。

  時を戻してからのフィオーラを見ていたら、今まで知らなかった彼女がたくさん見えてきた。

  冷たいようで、本当は誰よりも優しい心を持っている事。
  生真面目だけど、意外と好戦的な性格をしている事。
  思い込むと一直線で軽率な行動しがちな事。
  そして、笑顔が誰よりも可愛い事。

  そんなフィオーラが俺の側にいるのは間違いなく窮屈だろう。妃として様々な事を求められるし、我慢も苦労もさせる生活を強いてしまう。
  きっと俺から解放した方が、フィオーラはのびのびと好きな様に生きられるのかもしれない。
  それでも俺は……




「フィオーラ……」

  何度呼びかけても、彼女は反応を返さない。

「愛してるよ。だから、目を覚ませ」

  俺はゆっくりと自分の顔をフィオーラの顔に近付けて、そっと唇を重ねた。

「……温もりはあるのにな」

  唇を離し、俺はひとり呟く。

 「これがどこぞの物語なら、お姫様は王子様のキスで目覚めるもんなんだぞ……?」

  キスした後の、顔を赤くするフィオーラが見たいな。
  可愛くてもっとしたくなるんだ……。
  目覚めないフィオーラを見て強く思った。



****



「…………そろそろ、か」

  俺は結局、一睡もしないで夜の間ずっとフィオーラを見守っていたが、今のところ変わった様子は見られない。

  そして、無情にもかつてのフィオーラの処刑時間が迫ってきている。


「…………フィオーラ」

  また、フィオーラの手を握る。
  感じる温もりは今も全く変わらない。




「………………ゔっ」

「フィオーラ!?」

  そしてまさに、処刑時間になろうかという時、フィオーラが小さな呻き声をあげた。
  そしてその顔が苦痛に歪み始めた。

「っ!  クソっ!!  フィオーラ!!」

  ────どうして、こんな時だけ予想が当たるんだ!!

  当たって欲しくない事ほど的中するなんて最悪だ。
  急いで医師を呼ぶと、青い顔をして駆け付けてきた。


「……殿下、拙いです……このままではーー」


「フィオーラ!!」


  何度も何度も名前を呼びかけるが、フィオーラはただただ苦しそうで、息を粗くしている。

「フィオーラ!!  お願いだ!  逝くな!!  俺と生きると約束しただろ!?」

  自分の無力さに涙が溢れる。
  どうして、俺は何も出来ないんだ……

  フィオーラを死なせたくない。

  そんな俺の身勝手な願いで3度も時を戻したのに、4度目も死なせてしまうのか?


「ちくしょう!!」


  俺の頬から伝い落ちた涙がフィオーラの頬に落ちたと思った瞬間、
  突然、辺りが眩しい光に包まれた。

「なっ!?」

  何だ?  この光は……!

  そして、光が消えた瞬間、キラキラとした金色の粒子が空から降ってくる。

「…………え?」


  ──俺は、この金色の粒子を知っている。


  だが何故、今ここでこの現象が起きたんだ!?


「今は……それよりも!!  フィオーラ!?」


  俺は慌ててフィオーラの様子を確認した。
しおりを挟む
感想 159

あなたにおすすめの小説

地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~

夏笆(なつは)
恋愛
 ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。  ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。 『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』  可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。  更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。 『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』 『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』  夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。  それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。  そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。  期間は一年。  厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。  つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。  この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。  あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。    小説家になろうでも、掲載しています。 Hotランキング1位、ありがとうございます。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...