【完結】失恋傷心中に転生した先は、欠片も愛されていない側妃でした!

Rohdea

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2. 愛されていない側妃


 エドゥイナと殿下の結婚の儀は質素も質素だった。

 結婚式はナシ。
 ただ、書類にサインするだけ。
 甘い言葉も無ければ誓いのキスすらもない。
 なんなら指一本触れてない。
(伸ばした手は振り払われた)

 そんなところにも私、エドゥイナが愛されていない感が溢れ出ている。

(まともに目すらも合わなかったのに、浮かれてたなんて…)

 私、お花畑思考にも程がある!

「……」

 ───よし、離縁しよう!

 エドゥイナとしての記憶が流れ込んでくる中、私は即結論を出した。
 だって時は戻せない。
 結婚してしまったなら離縁するしかない。
 これが“正妃”なら離縁は難しかったかもしれないけど、なんたって私は“側妃”
 しかも、無理やりその座に着いた。

「……」

(うん。喜んで離縁してくれる気がする!)

 “私”にはエドゥイナという名前の人物にピンと来る心当たりはない。
 きっとここは“私”の知っている世界ではないのだろう。
 でも、分かる。
 絶対この世界での私、エドゥイナの役割は物語で言うところの“悪役令嬢”だ……

(いや、結婚したから悪役妃?)

 悪役令嬢でも悪役妃でもどっちでもいいや。
 ただ、おそらくこの世界での主人公となるのは────正妃となったセオドラ。
 さきほどメイドたちから“見た目だけの中身が空っぽの下賎な女”と散々こき下ろされていた彼女だ。

(うーん……)

 私は頭を押さえながら思い返す。

 彼女と殿下の結婚までの恋物語は王道中の王道と言える。
 身分の低い貴族出身のセオドラ。
 王太子殿下と恋に落ちるも、二人の前には苦難ばかり。
 しかし、そんな苦難も乗り越えて殿下のことが好きで妃の座を狙っていた幾多数多の令嬢たち(私もその中の一人)を蹴落とし、殿下との結婚に反対する周りを説得し結婚。
 そうしてハッピーエンドを迎えた……はずだった。

 ───エドゥイナわたしが居なければ。

 二人の王道な恋物語を隅っこで古い漫画のシーンのようにキリキリしながらハンカチを噛んでいた私、エドゥイナはとにかく諦めが悪かった。
 奪ってやる!
 そう決めて行動した結果がコレ。

(そのガッツは他のことに向けなさいよーーーー!!)

 浮気されて傷心だった“私”がなんで奪う側になるわけ!?
 絶対に嫌だ。
 だから、離縁する。
 実家もエドゥィナの悪どい考えに同調して私を送り込んだようだけど……知ったことか!

(ああ、もう!)

 なんで“今”なの?
 結婚する前に前世の記憶を戻して欲しかった……!


「エ……エドゥイナ様?」
「先程から、だ、黙られて……」
「本当に大丈夫なのです、か?」

 メイドたちがおそるおそる訊ねてくる。
 黙り込んだ私を心配しつつも恐れているみたい。

「───ええ、わたくしは大丈夫。それよりもうここから出るわ。手を貸して」
「は、はい!  お着替えご用意いたします!」

 これ以上お湯に浸かってたら、間違いなくのぼせる。
 考え事はこんな所ですべきではない。
 そう思ってまずはお風呂から出ることにした。


────


「……は?  ちょっと!?  そのスッケスケの服はなんですの!?」

 メイドたちの持って来た着替えを見て私は驚きの声をあげる。
 なんと手に持っていたのはスッケスケのネグリジェ。
 そのスケスケ具合に私は目を剥いた。

(こんなの着られるわけないでしょーー!?)

 私のそんな驚き声にメイドたちは顔を見合せ明らかに困惑した様子を見せた。

「……?  ですが、エドゥイナ様が今晩はこちらを用意するように、と仰いました」
「!」

 そう言われてハッと気付く。
 そうだった。

(ヤバ……今夜このまま初夜じゃん───)

 セオドラから殿下を略奪する気満々だった私は初夜のために悩殺系のネグリジェを用意させていたんだった。

(私はバカなの!?  毛嫌いされてるのに!?)

 こんなスッケスケのネグリジェ着て登場しようものなら、既に激おこな所に更なる怒りの燃料投下するだけよ?

「………………ひぃっ」

 一瞬、処刑台に上がるエドゥイナの姿が頭に浮かんだ。
 ブルッと身体を震わせて小さく悲鳴をあげた私は思いっ切り首を横に振ってその想像を打ち消す。

「……エドゥイナ様!?」
「どうしました?」
「変更……」
「え?」

 私は顔を上げてメイドたちに命令する。

「今夜の服は変更しますわよ!  今すぐ違う物を用意なさい!」
「え!?  何故ですか!?」
「エドゥイナ様はこれで殿下を悩殺する……とあんなに意気込んでおられましたのに!」
「……っ」

(悩殺なんて出来るかー!) 

 なんならこっちは浮気されて失恋傷心中だったわよ!?
 私は声を張り上げる。

「いいから!  お前たち、わたくしの命令が聞けないというの!?」
「ひっ!」
「た、ただいまご用意いたします……!」

 バタバタと動き出すメイドたち。
 その中の一人が慌てて振り返った。

「エドゥイナ様!  そ、それで代わりはどのようなお召し物を?」
「あ……」

 そう言われて考える。
 もちろん、こんなスッケスケとは正反対の────

「そうね。地味で清楚な感じの……」

 そう言いかけて私の心が待ったをかける。

(いや?  急なイメチェンは私の首を絞めることにならない?)

 エドゥイナは悪役令嬢の名に相応しいくらいの派手派手大好き女よ?
 そんな女が初夜でイメージと180度違うナイトウェアなんか着ていたらめちゃくちゃ警戒されない?
 これも悪い方向に行きそうな予感。

 ならば、ここでの正解は……

「────いつもの」
「え?」
「は、い?」
「いつもわたくしが着ている物にしてちょうだい!」

 メイドたちが目を丸くしている。

「エドゥイナ様、ほ、本気ですか!?」
「ええ」
「今夜は待ちに待った初夜なのですよ!?」
「ええ」

(───今の私は待ちに待ってない!)

 メイドたちはそんな私に絶句しつつも、ビクビクしながら普段のエドゥイナのナイトウェアを持って来てくれた。




「──そ、それではエドゥイナ様……!」
「ええ、はいはい。分かったから、あなたたちはさっさと行きなさい」
「──絶対に殿下を」
「ええ、ええ、はいはい。わたくしの魅力で虜にするのでしょう?  分かっているから!」
「エドゥイナ様ーー」

 バタンッ
 メイドたちをやや強引に退出させ私は部屋に一人となる。
 扉を閉めた後、時計を見あげて今の時刻を確認した。

「……まだ殿下は来ない、わよね?」

 私は部屋の中央に移動するとソファに腰掛けて足を組む。

「ってか……そもそも殿下は今夜私のところに来るつもりなの?」

 結婚の儀の時、めちゃくちゃ嫌々なオーラが出ていたんだけど?

「周りに説得されて嫌々抱きに来るのかな…………こっちこそ願い下げなんだけど」

 円満に離縁するためにも白い結婚は突き通さなくてはいけない。
 さて───
 ここで私は結婚相手となった王太子、ジャイルズ・パスカリーノ殿下について考える。

(典型的な溺愛型王子……よね?)

 王子は私だけでなく、これまで誰とも婚約はしていなかった。
 エドゥイナは婚約者候補の筆頭ではあったけど、一度たりとも婚約した覚えはない。
 だから、彼は前世での私が腐るほど出会って来た婚約破棄王子ではない。
 セオドラとの運命の出会いを果たした後、その純愛を貫いた溺愛王子。

「……ちょっと待って」

 ジャイルズ殿下の王太子としての資質はどうなの?
 みたいなことがさっばり浮かんで来ない。
 エドゥイナはそういう点はさっぱり目を向けていなかったことが分かる。

(エドゥイナ……そういうところよ?  そういうところが敗北の原因よ……!)

 私は深いため息を吐く。

「はぁぁぁ…………やっぱり顔と権力か。顔なのね?  王子という身分があって顔がいいと多少は性格に難ありでも許せちゃうあの不思議現象はなんなの」

 前世の私のコレクションの中のヒロイン──いや、チョロインたちに言ってやりたい。
 “現実は顔がいいだけじゃやっていけない”
 ───と。

「まあ、物語のことは置いておくとして……今の私がすべきことは初夜の回避、そして離縁よ」

 私はチラッと自分の机の引き出しに視線を向ける。
 あの引き出しの中には、今日の初夜に向けて私が用意した“ある物”が入っている。

(あれはさっさと処分しないと)

 あんな物、見つかったらまずすぎる。

「ほんっと悪役令嬢の考えることは面倒ね……だから、そのガッツは他に向けなさいっての!」

 そう呟いた時だった。
 部屋の扉がコンコンとノックされる。
 思わずビクッと身体が跳ねた。

(き、来た!?)

 来なくて良かったのに!
 初夜のすっぽかし……密かに期待していたのに!!
 セオドラも絶対に嫌でしょう?  
 あの手この手を使って愛する夫を引き止めなさいよ!

 そんな文句を心の中でブツブツ唱えながら私は渋々と扉に向かう。

「……」

 スーハースーハーと大きく深呼吸して気持ちを落ち着けてから勢いよく扉を開ける。

「……お待ちしておりました~───……」

 バンッ

「うッわっ!?」
「わ?」

 扉が何かに当たったぞ? 
 と思いながらよくよく見てみると勢いつけて開けたせいでぶつかってしまったらしい。 

(ヤバ……)

「あら!  し、失礼しましたわ…………って、え?」
「~~っ……」

 てっきり扉がぶつかったのは殿下だと思ったのに目の前で痛がっているのは別の人だった。

「えっと?  ライオネル……様ですわよね?  なぜ、あなたがわたくしの部屋に?」
「……」

 私が問いかけると痛そうに顔を押さえている男と目が合った。
 どうやら扉は顔に直撃してしまったらしい。

 ────今、目の前にいるこの人はライオネル・デイヴィス。
 殿下の側近だ。
 何故か、殿下ではなくその彼が私の部屋を訪ねて来ている。

「殿下は?  殿下はどうなさったの?」
「……」

(来るの?  来ないの?  さあ、どっち!?)

 私はドキドキしながら彼の返答を待った。
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