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28. 私の未来の夫は有能
しおりを挟むぐーきゅるる……
「…………お腹空いたわ」
私はさっきから空腹で鳴り続けているお腹を押さえながらそう呟く。
「ほっほっほ! さすがお姉さま……やることがえげつなーい……」
カスなお兄様に婚約破棄されたガーネットお姉さま。
まず、その足で侯爵家から派遣していた料理人を即時、撤退させていた。
おかげでここ数日、かなり美味しくり、充実していた王宮の料理が元に……いや、以前よりも酷い状態になっていた……
(と、いうか、砂糖と塩を間違えるのはもはや下手くそ以前の問題よ……)
「その他の場所に派遣していた使用人たちも順次撤退させていると聞くし……容赦ないわ~」
(やっぱり、この国滅ぶんじゃないかしら?)
ぐぅーきゅるるるるぅ……
「あああ、もう…………無理! 助けてエリオット!」
私は鈴を取り出すとシャランッと鳴らした。
「────ウェンディ様!!」
バーンと扉が開いてエリオットが駆け込んでくる。
相変わらず秒で駆けつけてくるエリオット。
「待ってたわ……ん?」
しかも……今日はその手に何か持っている。
「エリオット! さあさあさあ! 早くそれの中身を見せなさい! 今日の差し入れは何?」
「え? あ、はい! シェ・ジュフロワのお菓子です。朝から並んで買っておきましたよ」
「エリオット!!」
シェ・ジュフロワ!
その言葉を聞いて私の目が輝く。
しかも、私が呼び出した理由も分かっていて事前に用意をしてくれていたうえ、それがまさかのシェ・ジュフロワ。
「───エリオット! 大好き!」
「はい、知っています」
私がギュッとエリオットに抱きつくと笑って優しく抱きしめ返してくれた。
「それでね、エリオット」
「はい、分かっていますよ。弟王子殿下や残っている使用人たちにもおやつを分けて欲しいと仰るのでしょう?」
「……」
それでね、としか言っていないのに今日もエリオットは私の言いたいことを先読みしている。
「ウェンディ様ならそう仰るだろうと思って、実はかなり多めに買っておきました」
「……エリオット!」
「それでは、これから皆に配りに行きますか?」
「!」
エリオットが手を差し出したので、その手を取った私は笑顔で大きく頷く。
(どうしましょう……私の未来の夫、有能すぎる……! 好き!)
「ああ、もちろん。兄王子───エルヴィス殿下とその婚約者殿の分はありません」
「…………エリオット!!」
(あああああ、私の愛する未来の夫……以下略)
嬉しくなった私はエリオットにもう一度強く抱きついた。
────
エリオットのおかげで空腹と気持ちが満たされた私は、その足でカスとその婚約者の女の元に向かった。(もちろん手ぶら)
訪問理由は今日もネチネチネチネチネチネチネチネチ嫌味を言うため。
───バンッ
ノックも無しに乱暴に扉を開ける。
部屋の中にいた二人はギョッとして振り返った。
「なっ……ウェンディ!?」
「え、ウェンディ殿下……!?」
「……」
私は悪役王女っぽくニヤリと不敵に笑う。
「あーら、お兄様もラモーナ嬢もこんなところでのんびりして随分とお暇そうですわねぇ?」
「……っ」
カス兄がじろっと私を睨む。
「てっきり今頃は、王太子教育とお妃教育とでお忙しいと思いましたのに?」
「……っ」
「こんな所でお水を飲みながら何をしていますの?」
水……もはやお茶ですらないのが笑える。
茶葉はもう尽きた。
「うるさい! お、お前には関係ないだろう!」
「……」
「そ、そうですよ。ウ、ウェンディ殿下、そんな言い方……酷いです……私だって困っている、のに」
「ラモーナ! 泣かないでくれ」
ポロポロと涙を流す彼女を見て心底呆れる。
(この女……なんでもかんでも泣けばいいと思ってない?)
カスお兄様は単純だからすぐに慰めてヨシヨシしているみたいだけど、ことある事にポロポロ泣いてばかりの女が王妃になる国とか絶対に嫌だわ。
「そ、それに私たちとにかくお腹が空いていて……お茶すらも……」
ここで、ぐぅぅぅぅ……とラモーナ嬢のお腹が鳴った。
そして恨めしそうにテーブルの上の水を見る。
私はクスッと笑った。
「あらあら? 王宮料理はラモーナ嬢のご実家とそう変わらないかと思っていましたけど?」
「なっ! さ、さすがに貧乏な我が家でも水ではなくお茶が出るわよ……!」
カッとなったラモーナ嬢が涙を引っ込めて言い返してきた。
「まあああ! そうでしたの?」
「そ、そうよ!」
「───それでしたら、ぜひ王家に差し入れして欲しいくらいですわねぇ」
「え?」
私はにっこり笑いかける。
「お父様とお母様も喜ぶと思いますの。それに────お兄様の元婚約者だった方はかなりの頻度でそういった食べ物も差し入れをしてくれていましたから」
「!」
ラモーナ嬢の目がクワッと大きく見開いた。
(お姉さまがしてくれたのは、差し入れどころじゃなかったけどね~)
あと、これ普通に王家としては恥ずべき行為なのよねぇ……
我ながら情けない国だと思う。
「ガ、ガーネットが……?」
「ええ、そうですわ」
「陛下たちも喜ぶ……?」
「ええ、きっと」
「────なるほど、そうやってずる賢いガーネットは株を上げていたというわけね……?」
「……」
ガーネットお姉さまの親友を名乗って起きながら、敵対心バリバリの様子のラモーナ嬢。
後日、貧しい実家からどうにか頑張ってくすねてきた茶葉は、当然ながらガーネットお姉さまが用意してくれていた茶葉とは雲泥の差で……
「ん? ……これがお茶? 本当に? 水じゃないのか?」
「え! エルヴィス様!?」
ラモーナ持参の茶葉で淹れたお茶を飲んだお兄様が顔をしかめた。
「ラモーナ? もしかして君は僕のことを味の分からないバカかと思って試しているのか?」
「ま、まさか! ち、違います……!」
「じゃあ、これはどういうことなんだ!?」
「……くっ」
ガーネットお姉さまの施しで無自覚に舌が肥えてきていたお兄様にダメ出しをされて険悪ムードになっていた。
「ほっほっほ! 見て、エリオット! あの二人、もう不協和音を奏で始めてるわよ……とっても愉快だわ~」
「もうですか? 早いですね?」
その様子を影から見ていた私はもう笑いが止まらない。
「ふふ、確かに煽ったのは私よ? でも財力がないのにお姉さまと同じことをして勝負しようとしている時点で───ラモーナ嬢は分かってない」
「……」
「そこは貧乏なりに創意工夫をすべきでしょうに。その方がカスお兄様の共感も得られたかもしれないのにね!」
「創意工夫…………ウェンディ様。あなたが言うと説得力ありますね?」
「ええ、だって貧乏王女ですもの!」
私は、ほっほっほと笑い飛ばした。
こうして着々と不穏な道を歩んで行った二人。
もちろんそんな関係が上手く続くはずもなく……
さらに、ガーネットお姉さまもジョルジュ・ギルモアを手下? にして素晴らしい報復を着々と行っていたので────
ついに二人は盛大にやらかした。
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