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41. 悪役にされた令嬢と令息の二度目のデート!
しおりを挟む一緒にお出かけ、という楽しみな事のはずなのに契約の終わり……が近付いているという事実が私の心を落ち着かなくさせていた。
(ずっと一緒にいられるのは今日が最後……)
後は王族や双子の処分が終わったら徐々に距離をとって婚約解消に持ち込んでお終い。
予想したよりもディライト様との関係は注目されてしまったから、私のこの先は愛とか恋とかは関係無くて、とにかく公爵家と手を結びたいどこかの家の妻になるのが有力かしら。
(恋とか愛とか絡まない、そんな割り切った関係の方が上手くやっていけるのかも)
「……よし! うじうじするのは終わり! せっかくのデートを暗い顔で過ごすのはもったいないものね!」
好きな人には暗い顔より笑顔の私を覚えていて欲しい!
そう思った私は自分の両頬をパンッと叩いて気合を入れた。
「はぁぁ…………お嬢様、今日も可愛い……」
「……」
「パーティー仕様は大勢がハッと振り向くような可憐さ中心で攻めていきますけど、デートはターゲットが一人ですからね~」
今日も有能な我が家の侍女達の手で私の髪がくるくるフワフワに仕上がっていく。
「ドゥラメンテ公爵令息様は可愛い方がお好きよね?」
「そうそう、ふわふわ大好きだからー……」
派手すぎず、でも地味すぎず……でもディライト様をメロメロに出来る支度を!
と今日も張り切ってくれている。
「お嬢様の美しさは周囲も巻き込んでしまいますからね。ドゥラメンテ公爵令息様もあの美貌だから……大変だわ」
「まぁ、そこはドゥラメンテ公爵令息様が守るわよ。虫1匹ですら触れる事を許さなそう」
相変わらず、仕える主人である私を持ち上げてくれる侍女達の話はとどまることを知らない。
(でも、彼女達も楽しそうだし、何より自分の好きな格好で可愛くして貰えるのはとても嬉しいわ)
改めてそう思った。
「お待たせしました、ディライト様」
「シャルロッテ!」
迎えに来てくれたディライト様の元に駆け寄ると、私の姿を見たディライト様が嬉しそうに笑ってくれる。
(あぁ、この笑顔、好きだわ)
好きな人がこうして笑ってくれるのはとても嬉しい。胸の奥がじんわりと温かくなる。
「今日もふわふわ……可愛い……語彙が消える」
「ふふ、ディライト様ったら」
「笑わないでくれよ、ふわふわと可愛いしか出て来ないんだから」
そう言ってディライト様が優しく私を抱きしめる。
「アーベント公爵家の侍女達は、俺を分かってくれているな」
「どういう意味ですか?」
「俺が常々思うシャルロッテのここをこうしたら、もっと! 更に! 数倍は可愛くなる! というツボをしっかりおさえてくれている」
「そ、そうですか……」
「とても気が合いそうだ」
シャルロッテの可愛さを語るだけで一日過ごせる……いや、足りないかもしれないな、とディライト様は言った。
(そんなに……?)
────
「シャルロッテはどこか行きたい所はある?」
馬車に乗り込むと、ごく自然に私を抱き寄せて隣に座ったディライト様が訊ねて来る。
「行きたい所と言いますか……買いたい物がいくつかあります」
「買いたい物?」
「はい」
「じゃぁ、とりあえず街に行こう」
───こうして、私達の二度目のデートが開始した。
街に着いた私達は手を繋いで歩き出す。
こうして手を繋ぐ事も自然とする行動の一つとなっていた。
(本当に不思議。もう何年も一緒にいたみたいな空気)
ジョーシン様の前ではずっと緊張していた。
好かれたい! 嫌われないように!
無理やり施していたメイクだけでなく、そんな余裕の無かった私の心が余計に周囲に冷たく映っていた原因なのかもしれない。
「シャルロッテが嬉しそうだ」
「嬉しいですから」
「うん、街に行けるとなると、それは確かにワクワク……」
「え? 場所なんて関係無いですよ? ディライト様と一緒にいられるからですよ?」
「っ!」
私が笑顔でそう答えると、ディライト様が頬をほんのり赤く染めて震えながらモニョモニョと何かを言った。
「……この天然無邪気ふわふわ娘は、今日も無自覚に俺を悶えさせてくる……恐ろしい……」
「ディライト様??」
「何でもない、可愛い可愛いシャルロッテが嬉しいなら俺も嬉しい、そう言っただけだよ」
「……!」
ディライト様は惚れ惚れするくらい美しい笑顔で私の頭を撫でながらそう言った。
まずはふらふらとお店を中心に巡って行く。
「何を買いたいの?」
「……侍女達に何かお礼をあげたいなって思いまして」
「お礼?」
ディライト様が不思議そうな顔をしたので、私も苦笑しながら答える。
「彼女達は昔から私の我儘に付き合わせてばかりだったので」
今、あんなに生き生きしている侍女達を見ていると心からそう思う。
「今は嬉しそうにディライト様の好みを追求してくれています!」
「俺の好み……」
「ふわふわがお好きでしょう?」
「!」
ディライト様は少しびっくりした顔をした後、優しく微笑みながらそっと私の髪に触れる。
「……ふわふわしている物が好き……なのではなくて、シャルロッテだからだよ。シャルロッテのふわふわが好きなんだ」
「……私のふわふわ」
(ふわふわした物なら何でも好き、というわけではない?)
「──コホッ、そ、それで何を買おうと思っているんだ?」
ディライト様が少し照れながら話を元に戻す。
「本当は一人一人に贈りたい所ですが……人数が多すぎますので」
「あぁ、だよね……」
「ありきたりですけど、やっぱりお菓子が無難かな、と思っています」
魅了のクッキー騒動なんてものがあったので悩んだけれど。でも、あれはイザベル様による手作りだったわけで。信頼されたお店の物なら大丈夫……
「……だったら、いいお店があるよ! なかなかの高級店で店舗販売のみの数量限定! 限られた人しか手に出来ないという噂の……」
「そ、それは! 私も食べてみた……行ってみたいです!」
「よし!」
私達は手を繋ぎながら急いでお店に向かった。
───ディライト様との二度目のデートは、手を繋いで街を歩き回りながら、私が気になったお店に入るという形で過ぎて行った。
「色々、買えてよかったね」
「はい……お腹も満足です!」
買い物しながら、美味しそうなお店にふらふらと立ち寄ったのでお腹もいっぱい。
「だけど、街の皆さんって、サービス精神旺盛なんですね」
「え?」
「“お嬢さん可愛いからオマケするね”ってたくさん言われました」
「……あぁ」
ディライト様が苦笑する。
笑っているけれど彼だって“お兄さんカッコいいからサービスしちゃうわ”って言われていた。
(分かるわ……本当にカッコいいの)
もちろん、見た目も素敵。でも、ディライト様の外見しか見ていない人達には、とにかく中身がとてもとてもとてもカッコいいのよ! そう言ってまわりたい。
「やっぱり、シャルロッテは簡単に誘拐されてしまいそうだ……」
「……また、それですか?」
前にも聞いたわ、それ。
「うん。いいか? シャルロッテ。美味しそうな物を差し出されても」
「着いて行きません!!」
「……」
「……」
私達はふふふと笑い合う。
(ずっとこんな風に過ごせたら幸せなのに)
「ディライト様、ありがとうございます」
「うん?」
「あの日、私を助けてくれて……そして無茶な私のお願いを叶えてくれて……」
偽装婚約なんかを持ち出してこの人を縛ってしまった。それなのにいつだって優しくて素敵で……
「本当は、侍女より何より真っ先にお礼を贈りたいのはディライト様なのですが」
「シャルロッテ……」
前回のデートも結局、何も返せなかった。
「お礼……か。それなら“約束”の俺のお願いを聞いてくれる?」
「……は、はい! 勿論です!」
ドキッと胸が跳ねた。
(つ、ついにこの時が来たわ!!)
「あ、でも……ここでは、ちょっと。少し移動しようか」
「え? あ、はい……」
よくよく考えれば今は道の往来。人目が凄い。
今日の私達もずっと、不快では無いけれどじろじろ視線を向けられているので、移動するのは賛成だと思った。
「……」
「……」
私達は無言で手を繋いで歩きながら移動する。
(どこに向かっているのかしら?)
「この先はあまり人が来ない所なんだけどー……きれいな花が咲き誇ってる場所があって……」
「そんな所が?」
「うん、街をフラフラしていて以前見つけた…………ってここだ」
そう言ってディライト様が連れて来てくれた場所は、確かに言われたように花がたくさん咲き誇っていた。
「綺麗……何のお花かしら?」
「シャルロッテ!」
目を奪われフラフラとそちらに向かいそうになる私の手をディライト様が引き止める。
「……は、花に見とれるより前に」
「?」
そう言ってディライト様が私の手を取ったままその場に跪く。
「……!? ディライト様? な、何をして……汚れてしまいます!」
「……」
「あ、の?」
「……」
困惑する私の目の前で、ディライト様は跪いたまま顔を上げるとじっと真剣な目で私を見つめる。そのあまりの真剣さに目が離せなかった。
「…………シャルロッテ・アーベント公爵令嬢」
「は、はい!」
改めて名前を呼ばれるなんて……どういう事? と内心で首を傾げていたら、ディライト様は一度大きく深呼吸をした後、こう言った。
「──偽装じゃない。本当の婚約者となって…………このまま俺と結婚して欲しい」
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