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第12話 笑えていた私
しおりを挟むな、な、何故なの! もう大丈夫なのよね?
レイさん!? いったいどうしてしまったの?
そんな事を考えている間も、レイさんはぎゅーーーーと私を抱きしめて離さない。
さらに耳元で私の名前まで囁いた。
「……リア」
「!」
何だか色っぽく聞こえるレイさんの声に、ますます胸がドキンッと跳ねる。
せっかく生きるために逃げ出して来たのに今日で人生が終わってしまいそう……! それくらいドキドキが止まらない。
(落ち着け私! こ、こういう時……こういう時はどうすれば……? 教えてリュウ様!)
筋肉……
そうよ、こういう時は大好きな筋肉のことを考えて気を紛らわ…………
「……リア、ずっと……こうしていたい……」
「ひぇ!?」
レイさんのとんでもない言葉で、大好きな筋肉が一瞬でどこかへ吹き飛んで行った。
────
「……す、すまない」
「……」
「お、思いの外……リアの温もりが……心地よく、その離れがたくて……だな」
「……」
謎の抱擁からようやく身体を離してくれたレイさん。
ハッと我に返ってからずっと私に謝り倒している。
「レイさんは……」
「な、なんだろうか!」
「……誰にでもこういう事をするのですか?」
これまで私の生きて来た世界が狭すぎてよく分からない。
“王太子の婚約者”で“能面令嬢”な私に近付いてくる男の人なんていなかったから。
「誰にでもって……」
「レイさんは、近くにいる女性にこうやって……」
「す、す、するはずが無いだろう!?」
クワッとレイさんのお顔が三倍増しくらい厳つくなった。
「……リアだからだ! リアだからもっと触れたいと……」
「私だから……」
「そ、そうだ! それに、もともとお、俺に女性は近寄って来ない!」
レイさんのその言葉に私は首を傾げた。
「寄って来ない、ですか?」
「……そうだ。この顔が……どうも……怖い、らしい……」
(な、な、なんですってーーーー!?)
その言葉に私は大きな衝撃を受けた。
確かに、私だってもっとその身体がムキムキだったなら……なんて失礼な事を考えてしまったことは何度かあるけれど……お顔は……そのお顔は……
「怖い……? そんなに素敵なのに……」
「リ……!!!!」
「え! レイさん、お顔が……」
「リア! い、今はお、俺を見ないでくれっっ……」
「で、ですが……」
恥ずかしそうに顔を隠そうとするレイさん。
そんな五倍増しくらいに厳つくなったレイさんのお顔は真っ赤で心配になってしまった。
───
「……リア。肉料理の店はだいたい案内し終えたと、思う。他に行きたい店はあるか?」
「本屋! 本屋に行きたいです!!」
レイさんはようやく落ち着いたのか、まだ少し頬が赤いものの、街の案内を続けようとしてくれている。
(律儀な方だわー……)
「本屋? リアは本を読むのが好きなのか?」
「大好きです!!」
「だ……」
私が間髪入れずに……しかも、興奮気味にそう答えたからか、レイさんはビックリした目を私に向けていた。
「コホッ……あ、案内する!」
「ありがとうございます」
こうしてレイさん案内の元、念願の本屋へと向かう事が決定した。
(リュウ様、待っていて! 今、あなたの筋肉に会いに行きます!)
「───リアはどんな本を読むんだ?」
「え……」
本屋に向かう途中、レイさんに訊ねられた。
「……俺はリアの好きな物を……肉以外の好きな物をもっと知りたい!」
「レイさん……」
(筋肉よ……)
心の中で訂正しながら、そこでようやく私は気付く。
レイさんは私と友達になりたいと思ってくれているのだ、と。
だから、私の事を知りたいと思ってくれている……なるほど!
「お恥ずかしながら……私、恋愛小説を好んでいるのです」
「恋愛小説?」
レイさんは、俺にはさっぱり無縁の世界だ、と苦笑した。
それならば! と、私は説明を始める。
「お話としては、とっっっても、かっこいい男性が素敵なお姫様と恋に落ち……」
「───かっこいい男性…………だと!?」
まだ、筋肉のきの字も語れていないのに、レイさんの顔色が変わる。
そして、すごく真剣な表情でブツブツと呟き出した。
「それは……つまり、リアの好み……リア好みの男……!」
「レイさーん?」
「ハッ……リ、リア! 君の思う、その、とっっってもかっこいい男とはどんな奴なんだ!」
ブツブツ呟いていたレイさんが、パッと顔を上げる。
こんなに喰いつくなんて!
まさか、レイさん恋愛小説に興味を……?
「リュウ様ですね」
「リュウ?」
「はい。彼はもう、とっっってもかっこいいのです」
「……! そ、そんなにか……どんな奴なんだ……リュウ!」
レイさんが、何故かリュウ様に大変大きな興味を示してくれたので、このままレイさんもリュウ様を好きになってくれたら筋肉談議が出来るのになぁって、考えてしまった。
(すっごく楽しそう!)
「それなら、言葉で語るよりも本屋で私の好きな本を見ていただければ、分かる思います!」
「そうか……! よし行くぞ!」
そうして、内心ウキウキで本屋へと向かったのだけど……
「定休日……!」
「すまない……今日は休みの日だったのか……普段は取り寄…………行かないから失念していた」
残念ながら運悪く休みの日だったらしい。
レイさんにリュウ様を紹介出来なかったのは残念だけど、こればっかりは仕方がない。
私はがっくり肩を落とした。でも……
「いえ、大丈夫です。場所が分かっただけでも有難いですから。ありがとうございます!」
(それに、これで、新刊発売日に本が手に入れられる!)
逃げて来て本当に良かったわ……
「リュウとやらがどんな奴かは見られなかったが……リアが嬉しそうなら良かった」
「……? 嬉しそう、ですか?」
確かに今、私は嬉しい気持ちでいっぱい。でも、何故それがレイさんに伝わったの?
「リアは本当に無意識なんだな」
「え……?」
そう言ったレイさんの手がそっと私の頬に触れる。
トクンっと私の胸が高鳴った。
「リアは“笑顔が得意では無い”と言った」
「は、はい……」
だって可愛げがない、能面令嬢ですから……
「だが……リアは時折、自然と微笑んでいるぞ?」
「ほ、微笑んで…………私が、ですか!?」
「ああ。それも思った通りの破壊級の美しさだ……」
「!」
私は驚いて声が出ない。
(微笑み……私、笑えている……の?)
「……だから、だな。その、俺はリアがこれからも……」
「レイさん!」
「な、何だ?」
もし、本当に私が少しでも笑えているなら、それはレイさんのおかげだ。
もちろん、私を助けてくれた店主夫妻も!
(この場所があたたかいから……)
だから、お礼を言わなくちゃ! そう思った。
「私とお友達になってくれてありがとうございます!」
「お友……だち?」
あら? レイさんの反応がちょっと変?
もしかして、図々しかった? 馴れ馴れしすぎた?
「い、いや……俺たちは友達なの……か」
「駄目でしたか? それなら、今まで通りお客様と店員としてケジメを…………」
「いやいやいや、待て待て待て!」
レイさんが慌てだした。すごい必死の形相!
「と、友達で構わない!」
「本当ですか?」
「ああ、俺たちは友人だ! …………い、今は」
「?」
最後が小声でよく聞こえなかったけれど、これで、私達は“友達”らしい。
(友達が出来たわ……嬉しい!)
そして、ウキウキの気持ちでお店に帰り、待ってましたと言わんばかりの顔をして
「リアちゃん! 肉デートはどうだった?」「レイは男らしくバシッとスマートに決めたか?」
と詰め寄って来た二人に、
「お友達になりました!」
と、告げたら二人仲良くすっ転んでいた。
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