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~レイノルド・アクィナス~
しおりを挟む───きっと笑ったら、すごく美しくて綺麗なんだろうな。
リアを見る度にずっとそう思っていた。
なぜなら、時折見せてくれる微笑みですら、他の誰にも見せたくないくらい綺麗だったから。
(───だが!)
リアの心から笑った笑顔がこんなにすごい破壊力だなんて聞いていない!!
「……」
「レイさん!? 大丈夫ですか!?」
リアの笑顔に見惚れて椅子からずり落ちてしまった私に、リアが心配して駆け寄って来ようとする。
「だだだだ大丈夫だ!! じ、自分でた、立てる!」
「え?」
私は慌てて駆け寄ってくるリアを手で静止し、何とかヨロヨロと立ち上がる。
リアはきょとんとしてるが、今、リアに近付かれたら、自分はリアに何をするか分からん!
うっかりこの手を伸ばしてその柔らかい身体を抱きしめ、うっかりこの溢れんばかりの愛を告白してしまいそうだ。
(まだ駄目だ! リアは“友達”を望んでいる!)
あんなに“友達”に嬉しそうだったリア……今、実は私が友達以上の関係を望んでいると知ったら悲しむかもしれない。
それに、リアの好みだというとっってもかっこいいらしい“リュウ”という男の調べが終わっていない。
もしかしたら、甘いマスクの男なのかもしれん。……が!
(絶対にリア好みの男になって愛を告げるんだ!)
いったいどんな奴なんだ……リュウ!
❋❋❋❋
「……へ、平民の女性を妻に迎えたい……ですか!?」
側近のビリーが目を丸くして驚いている。
「そうだ。周りにゴネそうな奴はいるか?」
「や、それ……以前にですね……こ、これは、なんの心境の変化ですか? レイノルド様!」
「……」
「あなた様はこのまま独身を貫き、跡取りは養子で構わない……と散々言って……!」
あぁ、そうだったさ。
顔が怖いだのなんだの言って引き攣った笑みを浮かべながらも擦り寄ってくる令嬢や、一目見ただけで「ごめんさぃぃぃーー殺さないでぇぇ」と泣き叫んで逃げていく令嬢に辟易していたからな。
だけど、そんな気持ちも吹き飛ばすくらい、生涯をかけて守りたいと思える女性に出会ってしまったのだからしょうがないだろう?
「レイノルド様! ここ最近、よく街に行っているなとは思いましたが……まさか、視察……仕事ではなく逢い引き!」
「違う! 顔を見たくて(食堂に)会いには行っていたが、あくまでも仕事の合間に少し顔を出していただけだ!」
「では、美味しい肉屋に関する情報収集は……」
「くっ…………そ、それは」
それは、仕事ではない…………な。
だが、リアが肉が好きだと言っていたから……それなら喜んで貰いたいじゃないか!
そして、もっとリアにこの街を好きになって貰いたい!
───この街の“領主”としても。
私は、レイノルド・アクィナス。“レイ”は街での偽名だ。
そして、私はこの街……アクィナス伯爵領の領主だ。
と言っても、最近継いだばかり。
そろそろ、自由に生きたい! 世界旅行に行きたい! という両親の謎の冒険心により、突然なんの心構えもないまま王都から連れ戻された。
私がこの土地に住んでいたのは子供の頃のみだ。なので、今は街のことを知ろうと思い、“レイ”として各地を回っていたのだが……
「……いったい、どんな方なんですか……その方は。あなた様がそんなにも骨抜きになるなんて……」
「女神だ」
私は即答する。
リアを例えるなら“女神”しかないだろう?
だが、ビリーは顔を引き攣らせた。
「そんなっ! ──に、人間ではないのですか!?」
「バカ言うな! ちゃんと綺麗で美しい女性だ! 今日なんてこの世で一番美味い卵焼きを作ってくれたんだぞ!?」
見た目じゃない。
リアは見た目も確かにすごく美しいが、私がリアのことを綺麗で美しいと思うのは、何よりあの“心”だ。
仕事中の細かい気配りも凄い。
彼女は周囲をとてもよく見ていて、さり気なく客が快適に過ごせる空間を作り出している。
リア自身は“笑顔が得意では無い”と言っていたが、そんな事は全く気にならない。
凛としていて美しいのに、よくよく話してみると行動や言動はすごく可愛い。
なんだあれ……
私はもう、リアがそこにいるだけで愛しい!
「た、卵焼き? えっと、に、人間様でしたか……それなら良かった、のですが……平民の女性を伯爵夫人とするのは……」
「周囲の反発か?」
「いえ、それも無くはないですが、まず教育が追いつくか……という問題ですね」
ビリーは貴族としてのマナーやしきたりやらが、などと言う。
文字だって読めるかどうか──
「…………それなら、心配は要らないと思うぞ」
「はい?」
ビリーは不思議そうに首を傾げる。
「……彼女は読書も好きらしいからな」
つまり、リアは文字を読める。
食堂で働いている時の様子から、すでにそれは分かっていたが。
と、言うよりも……
リアはおそらく、貴族だった女性だ。
それも、おそらく伯爵家以上の。
あの洗練された身のこなしに、美しい所作……あれは一朝一夕で身につくものではない。
相当な教育を受けているとしか思えない。
なぜ、平民としてあの食堂で働いているのかは不明だが。
(短く切られた髪にその辺の理由がありそうだな……)
だが、あの髪型はリアにとてもよく似合っている。
髪と言えば、あの髪留め……まさか、あんなにすぐに使ってくれるとは……
宝物ですと言ってくれた可愛かったリアの姿……思い出すだけで顔が……頬が緩む。
「ひっ! レイノルド様……その顔はっっ!」
「むっ?」
「嬉しい時の、え、笑顔だと分かっていてもヒヤッとしますよ……」
「そ、そうか」
もう、慣れたが私はいつもこうだ。
(……リアは一度も私を怖がらない)
なんなら、この顔を素敵だとまで言ってくれた。
リアの中で深い意味は無くても、私がどれだけ嬉しかった事か……
(リア……)
どんな経緯があってリアがこの街に来たのかは知らない。
言いたくないのにリアから無理に聞き出そうとは思わない。
だが……
リアが助けを求める時は、私は全力で彼女を守ろう。
領主として領民の幸せを守るのは当然だ。それを怠るつもりもない!
だが、まずは愛する人を幸せに出来なくては真の漢にはなれん!
私はグッと気合を入れる。
「……ところで、レイノルド様。そのお相手の方は伯爵夫人になる事をどうお考えのようなのですか?」
「まだ何も」
「……はて? まだ……何も……とは?」
ビリーの様子が変だな。
「彼女は私が“レイノルド”である事すら知らない」
「知ら……ない? でも、お付き合いを……交際をしている……のですよね?」
「なっ! こ、こ、交際だと!? そんな関係では無い! ま、まだ、と、友達だ!」
「とも……!?」
だが、私は決めている。ここから必ず友達以上に───……
「むっ?」
何故かビリーが青白い顔で床に深く沈んでいる。どうしたのだろうか。
「まさかの、か、片思い……つ、妻に迎える以前の話ではないですか……」
「いや、私には彼女しかいないんだ! その為に出来る準備は早くしておいた方がいいだろう?」
リアが色々戸惑ったら大変だろうからな。
「そ……その自信がどこから来るのか分かりません!」
「むっ?」
変なビリーだな。私はリアを生涯をかけて守りたいだけなのだが?
────
未来の伯爵夫人問題は一旦置いておくとして、仕事に取り掛かる。
そんな中、ビリーが気になる情報を持って来た。
「───隣国の様子がおかしい?」
「はい。最近、妙なんですよ」
「……」
そう言ってビリーから渡された報告書を手に取り、目を通す。
隣国と国境で接しているのは私の領だ。変なことに巻き込まれては困る。
「む……国内が荒れているな。特に王家の様子が……」
「何でも、人を探しているそうで」
「……人を?」
ビリーは神妙な顔をして頷く。
「最初はこっそり探していたようですが、最近はなりふり構わなくなったのか……大々的に捜索をしているようで」
「なんだと? 誰を探しているんだ?」
極悪犯か?
そう思って私は眉をひそめた……が。
「……王太子殿下の婚約者だそうです」
「婚約者?」
極悪犯ではないことにホッとしながらも、婚約者に逃げられたと言って、王家や王太子が大々的に捜索をしているのか? と驚く。
そんな私にビリーは続けて言う。
「彼女の実家も捜索しているようですね。よっぽど手放せない存在なのでしょうか」
「……それは凄いな。どんなご令嬢なんだ?」
私はリアがこの世で一番の女性だと思っているがな!
「───その彼女の名は、オフィーリア・タクティケル。隣国のタクティケル公爵家のご令嬢です」
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