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第43話 迫られた選択 (王太子視点)
しおりを挟むズキンズキン……
……選択肢は二つだと父上は言った。
──“短命”がどれくらいの期間を指すかは、事例が少なくて正確には分からぬ。だから少しでも長生き出来ることを願って死ぬまでこのまま過ごす。
(そんな不確かな……今すぐかもしれないんだぞ!? 父上は私に死ねと言っているのか!?)
──それか今すぐ廃嫡される。そうすれば、“死ぬ”ことだけは免れるだろう。
(廃嫡だと……?)
なぜだ!
なぜ、お告げの令嬢……私の運命の人と確定したオフィーリアをそこの男と離縁させて連れ戻すという選択肢が無い!?
どちらを選んでも、まともな未来は歩めないではないか!
ズキンズキンズキン……
「父上、ま、待って下さい……その選択肢では国が……国が」
私には兄弟がいないんだぞ!?
私が次の王にならなくてどうする?
父上はこの国が無くなってもいいと言うのか!?
「もちろん分かっている……だが、それがお前がこれまでしてきた事の報いなのだ、ウィルよ」
「ち、ちうえ……」
嘘だ、誰か、こんなのは嘘だと言ってくれ!
…………いや、まだだ。
オフィーリア……オフィーリアが私の元に戻ってくると頷けばいいんだ……
そう思ってオフィーリアに視線を向ける。
「……っ!」
(……笑って……いやがる)
あのどこかの暗殺者としか思えない顔をした伯爵がオフィーリアの耳元で何かを囁いたのか、オフィーリアは頬を染めて幸せそうに笑った。
(なんだ……その顔、は……)
ズキンズキンズキン……
あんな顔をするオフィーリアなんて知らない。
頬を染めて赤くなる顔も、幸せそうに微笑む顔も。
声を立てて笑う姿だって今日、初めて見た。
(あんな風に……笑う、人だった……のか)
初めて見た能面令嬢ではないオフィーリアは、これまでずっと可愛いと思っていたコーディリアよりも美しくて綺麗で眩しくて……
(私の妻になるはずだった……)
もしかしたら、あの笑顔が私に向けられる未来があった……のだろうか?
───ズキッ
(畜生……頭だけでなく殴られた頬まで痛んでくるじゃないか!)
アクィナス伯爵。
どこからどう見ても極悪人のような顔をしているわりに、その身体はペラッペラ。
なのに、妙に拳の力だけは強かった。なぜだ……
そのせいで、私はあんな情けない姿をこんな大勢の前で披露するはめに……くっ!
(……これがムキムキの筋肉質な男だったら私は無事ではすまなかっただろう……)
あの男がペラペラの身体で良かったと心から思った。
ズキンズキンズキン……
えぇい! かなりの屈辱だが背に腹はかえられん!
私はガバッとその場に座り込むと床に手をついて頭を下げた。
(そうだ! こっちから歩み寄ってやろう!)
「オ、オフィーリア! 頼む! 私のために戻って来てくれ」
「え?」
オフィーリアの驚きの声と共に会場内も一気に騒がしくなる。
当然だ。
王太子が自ら手をついて頭を下げているのだからな。
だが、さすがにこれくらいやれば、周りの同情も誘えるだろうし、オフィーリアの心も揺れるに違いない!
……ズキンズキンズキン
父上曰く、オフィーリアはずっとこの私に尽くしてくれていたそうだからな!
私のこの姿にきっと胸打たれるはずだ!
「こ、これまでの事も謝る。さ、さっきも私の言い方が悪かった……!」
「……」
「だが、これからの私の人生には君が必要なんだ……だから、頼む、戻っ……」
「え? 嫌ですよ?」
「──あぁ! さすがオフィーリア、君ならそう言ってくれると思っていた……ありが…………ん?」
私は首を捻る。
今、オフィーリアはなんと言った?
───そこまで言うなら……分かりました。あなたと国の為にも戻ります。
てっきりこんな感じのことを言うとばかり思ったのに!?
……嫌 で す よ ?
───だと!?
私はそろっと顔を上げる。
オフィーリアは思っていたより近くにいて私を見下ろしていた。
私と目が合うと、口許が緩やかな弧を描き、思わず見惚れるほどの美しい微笑みを浮かべる。
「殿下はこれまでの話、本当に全く理解されていないようですね」
「え?」
「あなたが、あと何回頭を下げて、何度懇願しようとも、お告げのあった運命の伴侶となる婚約者“タクティケル公爵令嬢”はもう何処にもいないんですよ?」
「え、は?」
何を言っている?
コーディリアはお告げの令嬢とは違ったが、オフィーリアは公爵の正当な血を引いている。
伯爵と離縁させ、絶縁宣言していたとしても多少無理やりにでも家に戻せばタクティケル公爵家の令嬢になるだろう?
「……殿下の事ですから、私をレイノルド様と離縁させて無理やり実家に連れ戻せば……とお考えだと思うんですけど」
「……」
その通りだ! それで全てが丸く収まる!
なんだ、オフィーリアも分かっているじゃないか!
「まさかと思うのですが……殿下は、こんなにも問題を起こした“タクティケル公爵家”がそのままでいられるとでも思っているのですか?」
「………………え」
再び、目が合ったオフィーリアは今度はゾッとするくらい美しく微笑んだ。
何故か胸がドキッとする。
(オフィーリアは、ど、どれだけの表情を隠し持っていたんだ!?)
「お取り潰し……もしくは降爵処分になるとは思わないのですか?」
「…………!」
その言葉にハッとする。
公爵家が処分される───全く考えていなかった……
「絶っっ対にレイノルド様との離縁はしませんけど、汚い手を回して無理やり私を“あの人”の元に戻しても無駄ですよ?」
オフィーリアは“あの人”と言いながら、タクティケル公爵を指さした。
父親とも呼びたくないらしい。
「ですから、お告げのあったタクティケル公爵家の令嬢はもう何処にもいません! 殿下は陛下の示した二つの選択を選ぶしか道がありませんよ?」
───ズッキン
「うっ……!?」
オフィーリアがその言葉を発した瞬間、突然、頭が割れるように痛んだ。
今までにない痛みで意識が持っていかれそうになる。
(な、何だこれは……!?)
ズキズキズキズキ……
これは、早く答えを出せ! そう警告しているのか?
何なんだ……! 治まってくれ!
「ウィル?」
父上の心配そうな声が聞こえる。
(嫌だ……死ぬのは……くっ、それなら……)
「は、は、はい……はいちゃく……」
「ん? 何と言った? ウィル?」
「は、廃嫡……で……」
自分がそう発した瞬間、会場内がザワっと騒がしくなった気がしたが、私はそのまま意識を失った。
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