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第47話 絶望と幸福
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───ですから、お告げのあったタクティケル公爵家の令嬢はもう何処にもいません! 殿下は陛下の示した二つの選択を選ぶしか道がありませんよ?
……オフィーリアは私にそう言った。
(こんな所で死ぬくらいなら……)
何かの警告のように響く頭痛から、一刻も早く解放されたくて自分が選んだ選択は“廃嫡”だった。
だがこの時、まだ意識を失う寸前の私はまだ心の奥では楽観視していた。
そう。
この謎の頭痛がこうする事で治るのなら……
治った後にこっそり訂正したってよいのではないか? ───きっと父上も建前上、廃嫡と言わせたに過ぎないのだと! そう思った。
(なぜなら、父上の跡継ぎになれるのは私だけなのだから!)
そんな思いを抱きながら目を覚ました。
(頭痛……が、しない、しないぞ?)
あの日から……オフィーリアが行方不明と知った日から私を苦しめて来た頭痛がしない!
私は勝った! 勝ったのだ!
“廃嫡”と言わされたのは屈辱だったが、これで大丈夫だ。
……そう思っていたのだが。
「───廃嫡の手続き処理を終えてる……だと!?」
「はい。陛下が“他に急いで処理せねばならん事が山盛りなので先に済ませる”と仰ってウィル殿下が眠っている間にさっさと廃嫡の手続きを終わらせていましたよ?」
「なっ……」
「ですから、ウィル殿下はもう王太子ではありません」
(ち、父上ー!?)
もう王太子ではない。
側近にそう言われてまず、部屋の移動をさせられることになった。
今まで使っていた王太子の部屋よりも明らかに狭い部屋を与えられた。なんて屈辱だ。
(なぜ、部屋の移動までさせるのか……?)
「……ま、まさか! 私の代わりに別の誰かが王太子になるのか!?」
「どうでしょうか? 私には分かりかねます。それは陛下に確認してください」
側近が言うには近々、父上から大きな発表があるという。
(誰だ! いったい誰が……父上の跡を継ごうと言うんだ!)
「ち、父上には会えないのか!?」
「陛下は大変忙しくしております故……しばしお待ちをとの事です。殿下が目覚めた事は伝えてありますので……」
「~~~!」
結局、それから父上に会えるまでこの後、三日かかった。
───
「そういえば、オフィーリアはどうした?」
当たり前だが、目が覚めた時には、建国祭もパーティーも終わっていた。
オフィーリアは結局どうしたのだろうか。
「はい、オフィーリア様なら、夫となられた伯爵様とイチャイチャして帰られましたよ」
「……は? イチャ?」
イチャイチャ……だと!?
私は自分の耳がおかしくなったのかと思い眉を顰めた。
そして、改めて聞き直したが、側近の返答は変わらなかった。
「ですから、イチャイチャです。パーティーの後、お帰りになられる前、夫の伯爵様がオフィーリア様を横抱きにして王宮内を闊歩されていました」
「横抱き……」
「新婚だからでしょうか? その光景を目撃した城の者達によると二人共、そんな大胆な事をしているのに、頬を赤く染めていてずっと初々しくも甘々な雰囲気だったとのことです」
「オフィーリアが……」
頬を染めて……甘々で? イチャイチャしていた……?
あの美しくて綺麗な微笑みが頭の中に浮かぶ。
(────っ!)
「要するに……オ……オフィーリアは倒れている私の事など、全く心配どころか気にすることもなく夫と仲良く帰国した……というわけか?」
「そうなります。見送りをした者によると、とても爽やかで晴れ晴れした表情だったとか! その表情もまた美しかったそうで……」
「くっ!」
それはつまり、オフィーリアにとって私はもうどうでもいい存在なのだと────……
と、思った時、部屋の扉がノックされた。
今なら父上と話が出来るという。
(父上はいったい誰を王太子に据えるつもりなんだ!)
オフィーリアの事は一旦置いて、私は慌てて父上の元に向かった。
「───は? 君主制を廃止する?」
「そうだ」
誰であっても、私以外が王太子になるのは反対だ!
そんな断固拒否のつもりで話を聞きに行くとまさかの話が待っていた。
(王太子どころの話では無いじゃないか……!)
そんな事になってしまったら私の“王族”という地位さえなくなるではないか!
今、私の顔は真っ青だろう。
慌てて父上に声をかけた。
「いやいやいや、待ってください父上!」
「何だ? ウィル」
「な、な、なぜ……」
「なぜだと? お前には分からぬのか?」
───さっぱり、分からない!
「わ、私は! 私には何らかの地位が与えられるのでしょうか!?」
「……それなのだが、ウィル。私もそうなのだが……お前の今後は……」
父上は神妙な表情で私の“これから”について語った。
「……え?」
私は再び目の前が真っ暗になったような気がした。
❋❋❋❋❋❋
「───リア。大丈夫か?」
「……はひ……」
とても心配そうな顔をしながら、レイさんが私の部屋に入って来た。
手にはホカホカの湯気が出ているスープのような物を持っている。
「これ……食べられそうか? 食堂店主直伝の胃に優しいスープなのだが……」
「ご主人様の……?」
「ああ、我が家の料理人が、リアの為にと教えを乞いに、食堂へここ数日通っていた」
「えー?」
「リアの為ならば、と快く教えてくれたそうだ!」
そう言ったレイさんは運んで来たスープをテーブルに置くと、私が寝ているベッドの脇にそっと腰掛けた。
そして、私に顔を近づけると、額と額を合わせて熱を測る。
(……!)
レイさんの素敵なお顔のアップに私の心拍数が一気に跳ね上がる。
「……まだ、少し熱いな」
「っっっ! い、いえ、こ、こ、これはレイさんのせいかと……思います……!」
「むっ? 何故だ?」
レイさんが不思議そうに首を傾げる。
なんで、いつもは鋭いのにこういう所は鈍いの! もう!
隣国の建国祭のパーティーから帰って来た翌日、私はこれまでの疲れが溜まっていたのかそのまま熱を出して寝込む事になってしまった。
(せっかく! せっかくの新婚なのに……)
おかげで大好きなレイさんの妻になれたというのに、新婚らしい事が出来ずに今に至る。
そんな情けない新婚妻をレイさんは「妻の世話をするのは夫の役目だ!」と言って使用人よりも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
このスープだって、きっとレイさんが私の好きな食事を摂らせてあげたい! と考えてくれたから頼み込んだのに違いない。
(本当に優しいわ、レイさん……)
「よく分からんが、リア。さぁ、口を開けてくれ」
「くち?」
そう言ってレイさんに顔を向けると、レイさんは私の目の前にスプーンを差し出す。
(ま、まさか、これは……!)
お姫様が怪我をして療養していたリュウ様にしてあげていた“あーん”というやつでは!?
「あ、あ、あ……」
「ほら、リア。遠慮するな。あーん、だ!」
(やっぱりーーーー!)
お姫様役がレイさんになっているけれど、これは憧れの“あーん”だわ!
私はドキドキしながらそっと口を開ける。
それを見たレイさんがとても嬉しそうに笑った。
(あ、もうこのお顔だけでお腹がいっぱい……!)
いつもなら、このスープに使われている食材は……
と、完璧に答えられるのに今日はドキドキしすぎて全く分からなかった。
けれど、レイさんに“あーん”されて食べたスープはとってもとっても美味しかった。
───私がそんな幸せを堪能していたまさに同時刻、ウィル殿下は、陛下から今後の自分がどうなるのかを聞かされて膝から崩れ落ちていた……らしい。
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