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愛しい人を想う (エミリオ視点)
「……は? お前が戦争の前線に出て戦闘指揮を執るだと? 馬鹿な事を言うな!」
「いえ、何を言われても譲りません。もう決めた事なので」
「エミリオ!」
僕の固い決意に父上が有り得ない、お前は血迷ったのか? ……という目で僕を見て来る。
そしてその目は、絶対に許さない! そう言っていた。
「エミリオ! お前は自分の立場が分かっているのか!? お前はこの国の王太子なんだぞ!」
「……そうですね」
「レヴィアタンはイラスラー帝国の手駒にされただけだ───突然、そんな事を言い出したと思えば……証拠まで揃えて……イラスラー帝国と戦争し自ら戦場に赴くだと? ……一体どうしたというのだ!」
「……」
───どうしたって? そんなの決まっているじゃないか。
だけど、父上には僕の気持ちはきっと一生分からないのだろうな。
僕は遠い目をした。
(だって僕はどうしても、イラスラー帝国を……そしてあの王女を許すことが出来ないんだ)
シャロン……僕はどうしてもこの手で“君達二人”の仇を打ちたい。
それに、だ。戦争に関してはイラスラー帝国はそう遠くないうちに向こうから仕掛けてくるつもりだっただろう。
それならば、こちらが先に動いたほうが裏をかけるはずなんだ。
「はは、まさかとは思うが、そんなにもレヴィアタンの王女の自害がショックだったのか?」
「……」
(自害……)
僕が何度違うと強く抗議をしても、シャロンの死は自害だと認定されてしまった。
実行犯だと思われるアラミラ王女の部下の二人は無事に捕まえ拘束したが、彼らは今も口を割ろうとしない。
そのせいでシャロンの死が他殺であるという証言を得られないまま父上に報告がいってしまった。
そして、父上は僕の言い分を聞くことなく、レヴィアタンの王女シャロンは離宮で自害したと国内外に発表してしまった。
また、アラミラ王女に買収されて実行犯の二人を離宮に招き入れた使用人は、二人を離宮に招き入れた事までは認めたがシャロンの死とは無関係だと主張している。
(僕は本当に無力だ……)
守りたかった……守るべきだったシャロンとそのお腹にいた子の命を奪われ、その死の真相すら公に出来ないとは……
悔しくてならない。
大切に人たちを守れなかったこんな僕に王子である資格があるのだろうか。
ずっとそんな自問自答の日々が続いている。
そして、シャロンが僕の子どもを妊娠していたという事実は僕と検死をした医師しか知らない。
父上にも報告はあげていない。
もしこの事が明るみになれば、僕がいくら“自分の子”だと主張しても、余計な勘繰りをしてシャロンが不貞を働いていたと言う奴が絶対に現れる。もしかすると自害の理由の一つとまでされてしまうかもしれない。
そんなのは絶対に御免だ。
(今さら遅いが、こんな形でもせめて二人を守りたい)
医師はそんな僕の気持ちを汲んでくれてシャロンの検死結果から妊娠していたという部分を抹消してくれた。
後は医師のことを信じるしかない。
「全く……いいか? エミリオ。あの王女はもうただの厄介者だったんだ。そんな王女の事などさっさと忘れて、お前は次の婚約者の選定を───」
(厄介者だと!? ふざけるな!)
そう怒鳴りたい気持ちをどうにか抑えて冷静になれと自分に言い聞かせる。
父上相手に逆上するのは得策では無い。むしろ悪手だ。
「いいえ、新しい婚約者の事よりもイラスラー帝国を黙らせる事の方が先決ですので」
「エミリオ……」
父上が苦い顔をした。
「だが、やはりお前が戦場に出ることは認められん……」
「ああ、その事ですが、父上。戦場に向かうにあたりまして一つお願いがございます」
「願いだと?」
ますます怪訝そうな顔になる父上。
僕は小さく深呼吸をした後、顔を上げて父上の顔をしっかり見つめた。
(───この選択に後悔はない)
だって、シャロン。僕は君と二人で平和な国を作り上げたかったんだ。
だけど、もう隣に君がいないのなら、その役目は他の人間に託したっていいだろう?
「僕────いえ、私、エミリオの王位継承権の放棄をお願い申し上げます。そして王太子の座は弟、シルベストに」
「!?」
父上は目を大きく見開き、ひゅっと息を呑んだ。
「───兄上! 待ってください、兄上!」
王宮の廊下を歩いていたら、後ろから弟のシルベストが強ばった表情で僕のもとに走り寄って来た。
「兄上! ち、父上から……聞きました。どうして……戦争を? ……それに王太子……」
「……すまない」
シルベストはまだ15歳。
まだ未成年のこの弟に自分の代わりの全てを背負わせることに罪悪感が無いわけではない。
それでも……
「あ……兄上、まさかシャロン義姉さんの所に行こうと思っているんじゃ……」
その言葉を聞いて、シルベストが表情を強ばらせていたのはこのせいなのかと思った。
どうやら、僕がシャロンの後を追うと思っていたらしい。
「だ、駄目です! そんな事をしてもシャロン義姉さんは喜びません!」
(シルベスト……分かっているよ)
僕に後を追われてシャロンが喜ぶはずがない。むしろ、怒るだろう。
彼女はそういう子なんだから。
「違う。後を追うつもりなわけじゃない」
「違う? だったらなぜですか!」
「……」
さすがに口にはしないが、だって今、僕が死んだらあの王女に復讐出来ないだろう?
僕は戦争に勝って、イラスラー帝国には多額の賠償金を支払わせ、王族の直系は全員処刑させるつもりでいるのだから。
自分が死んでしまったらさすがに戦争責任でも処刑まではいかないだろう。特に王女に関しては。
あの王女がのうのうと生きる? そんなの絶対に許せない。
だから、僕は死ぬつもりは無い。
生きてこの手であの王女に自分のした事を後悔させてやる。
「……シルベスト。お前にはすまないが、この国を頼む。そして、出来ることなら……」
「兄上……?」
(出来る事ならレヴィアタンと……)
「いや、なんでもない。お前なら大丈夫だと僕は信じているよ」
(兄上……)
そうして、僕は半ば強引に王位継承権を放棄して王太子の座はシルベストへと移し、イラスラー帝国との戦争に向かった。
出陣式の日に見た、新しい王太子となったシルベストの顔は覚悟を決めたような顔付きだったので僕は密かに安堵しながら出陣した。
(これで、ランドゥーニは大丈夫だろう……)
◇ ◇ ◇
(あぁ、しくじったな……)
切り付けられた部分が焼けるように痛い。そこに触れるとぬるりとした感触がした。
「エミリオ殿下! エミリオ殿下、しっかりして下さい!」
ランドゥーニの兵士の一人が僕に縋り付くようにして泣いている。
「……」
「殿下……なぜ、俺なんかを庇ったんですか!」
「ちが……う。ゆだ……んしただけ……お前、わる、くない……」
……駄目だな。
もう、うまく言葉も喋れないみたいだ……
視界も霞んできた。
(僕は死ぬのかな……)
この戦争はランドゥーニの勝利で終わったはずなのに。
攻め入るつもりが、突然攻め入れられたイラスラー帝国は思っていたよりも呆気なく我々の手に堕ちた。
(この手であの王女に……復讐を……したかった……)
「……くっ!」
「殿下! もうすぐ、もうすぐ、助けが来ますから! それまでは何とか持ち堪えてください!」
「……」
(声……が遠いな……)
これは罰なのかもしれないな……大事な人を守れなかった僕への……
そのくせ、開戦間近だったとは言え……戦争という形で復讐なんてものを企んだから。
死ぬ気は無い。後を追うつもりはない。
シルベストにそう言っておいてこのざまとは……
「すま……ない……シル……」
───もう駄目だな。流れている血が多すぎる。
このまま死ぬかもしれないと感じながらも、僕の心はどこか冷静だった。
(だって……)
……シャロンと僕らの子供のところに行けるなら……それでもいいかな?
いや、真面目なシャロンの事だから怒るかな?
でも、怒った顔もとびっきり可愛いからなぁ…………また、見たいなぁ……
僕はそっと瞳を閉じる。
────エミリオ様!
(シャロン!?)
シャロンの声、が聞こえた気がする。
僕は必死に手を伸ばす。
────エミリオ様……
ああ、シャロン……ここに居たんだね。
───?
なんで泣いているんだ? 僕は君の笑った顔が大好きなのに。
せっかくまた会えたんだ。だから笑ってくれよ。
…………あぁ、そうか。
僕は君に「好きだ」そんな一言さえ伝えた事が無かったんだ……
今頃気付くなんて馬鹿だな。
シャロンはあんなにも僕のことを大好きだと伝えてくれていたのに──
「……」
…………愛していたよ、シャロン。ずっとずっと君だけを……
だから、もし、次があるなら。
赦されるなら、二度とあんな風には泣かせたりしないから。
───今度こそ、絶対に幸せにしてみせるから。
そうだな……
もしこの願いが叶うなら。
今度はシャロンが引くくらい君のことが大好きだと伝えよう……毎日言い続けたらさすがに呆れるかもしれないけど。
────もう、エミリオ様ったら!
あぁ、シャロン……やっと笑ってくれた。
僕はその笑顔が、ずっとずっと見たかったんだ─────…………
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