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9. あの人
(え、演技なんてしていなかった?)
ではではでは?
あの……
──ニーナと話していると時間を忘れるくらい楽しいんですよ
──俺と話している時のニーナは嬉しそうに笑ったり、たまに不貞腐れたり、ちょっと声を荒らげて怒ったり……くるくる変わる表情は見ていて飽きることはありません
──そうですね。俺は彼女と結婚出来て幸せなので────彼女にも俺との結婚が幸せだと思って貰えるようにこれから努力しなくてはと思っていますよ?
(あれらの……溺愛夫全開の発言は?)
それにそれにそれに……
あの時は私の肩に腕を回して抱き寄せてもいて────
(あれも演技では…………なかったですって!?)
つまり、あれらの発言はレオン様の本心?
そう意識したらブワァァァと一気に私の頬が熱を持っていく。
「ん? ニーナ? 急に顔が赤くなったがどうした?」
「……っ」
あなたのせいよっ!
そう言いたいのに声が出ない。出てくれない。
私は虚しく口をパクパクさせる。
「あぁ……あれか? 興奮しすぎて熱が出てしまったのか? 仕方がないな、どれどれ……」
「っっ!?!?!?!?」
レオン様が自分の前髪をかきあげたと思ったら、そのままピタッと額をくっ付けてくる。
その流れるような自然な動作とイケメンのドアップに度肝を抜かれた。
(〇✕▲□◆▽◇~~!?!!?)
どれどれじゃない……!
私の顔は更に熱くなっていく。
「うーん……ああ、これはかなり熱いな」
「……」
(あなたのせいでねっ!)
「ん? 今もどんどん体温が上昇していく……?」
「……」
レオン様の顔が険しくなっていく。
(だから、全部あなたのせいだってば!)
「これは……風邪か? 帰ったらすぐに医者を呼ばないと。ニーナ、すまないがそれまでは耐えてくれ」
「……」
「ニーナ? おい、大丈夫か? ニーナ!」
(~~~~無理っ! こんなの違う意味で耐えられない!)
私は無言でレオン様の身体を押し戻す。
「ニーナ?」
おかげでレオン様はようやく私から離れてくれた。
けれど、声は出せないまま。
両手で自分の顔を覆って邸に到着するまでは、その場に突っ伏してひたすら悶え続けた。
────
「風邪でなくて良かったな」
「…………ソウデスネ」
邸に到着するなり私を抱えて馬車から駆け降りて、部屋に入ると問答無用でベッドに寝かせて大慌てで医者を呼んだレオン様。
レオン様の剣幕に脅えてすっとんで来た医者の診察を終え、私は風邪ではないという診断を受けた。
──でしょうね!
という言葉しか出て来ない。
風邪ではないと判明したものの、心配性なレオン様によって私はベッドに寝かされたまま。
そんな過保護なレオン様はベッド脇の椅子に腰掛けて私の様子を窺っている。
「医者は健康も健康、至って健康と連呼していたが……」
「…………ソウ、デショウネ」
私は穴があったら入りたいくらいです。
「それならいったいニーナのあの突然の高熱は何だったんだろうな?」
うーんと大真面目な顔で腕を組んで不思議そうに首を捻るレオン様。
「サ、サア……ネ」
カタコトしか喋れなくなった私は掛布団を引っ張って顔を半分ほど隠す。
あなたにドキドキさせられたからよ!
なんて恥ずかしくて言えない。
(い…………いったい、何がどうしてこうなったの……!?)
演技じゃなかった。
レオン様は新婚妻を溺愛する夫を演じてはいなかった。
つまり……
(あれが……レオン様の本心?)
私と話していると時間を忘れるくらい楽しい?
結婚出来て……幸せだと思っている?
ニーナは“あの”新菜なのに?
レオン様は玲音なのにそう思っているということ────……?
心臓のバクバクが止まらない。
(そんなの……)
しかし、そんな甘酸っぱい気持ちになりかけた瞬間、私の頭の中に“アメリア”の顔が浮かんだ。
そう。
前世のあの女性によく似た……
チクッと胸が痛む。
(聞いてみても……いいかな?)
レオン様が彼女の顔を見てどう感じたのかを無性に知りたくなった。
「レ、レオン様……」
「うん?」
ドッドッドッ……緊張しすぎて心臓の音が凄い。
言え、言うのよ、私!
きっと今を逃したらもう聞けない気がする!
ギュッと目をつぶった後、胸を押さえながら口を開いた。
「わ……私ね!」
「う、うん?」
隠していた顔を掛布団から出してレオン様の目をじっと見つめる。
「──今日、改めてアメリア様の顔をまじまじと見て思った……のだけど」
「え? 何を?」
顔の話をしたのに何を? という返事が戻って来た。
つまり、レオン様は気にしていない?
「ア……アメリア様の顔ってあの人に似ていると…………思うの」
「あの人?」
怪訝そうな表情になったレオン様に向かっておそるおそる口を開く。
「…………あ、亜芽莉、さん」
私がその名を口にした瞬間、レオン様から表情が消えた。
やっぱり聞かない方が良かった? とも思ったけれど、やっぱりこのままモヤモヤしたまま過ごすのは嫌だ。
「……」
考え込んだレオン様が手で自分の口元を覆う。
(玲音……)
───新菜、違う! 知らない!
───今の話はでたらめだ。絶対に俺じゃない! 信じてくれ!
私の頭の中で必死になって否定していた“玲音”の叫び声が響く。
私は彼のあの叫びを信じるべきだったのか。
離婚してからもその答えはずっと出なかった。
「ご、ごめんなさい。彼女の名前を出すのはちょっと……と思ったけれど、どうしても似ているような気がしてならなかったの」
「……ニーナ」
(あなたは否定していたけど、私と離婚したあとはきっと彼女と再婚……したのでしょう?)
さすがに今はそのことまで聞く勇気は持てないな、と思った。
「……」
「……」
そのまま部屋の中には沈黙が訪れる。
しばらく考え込んでいたレオン様は顔を上げると遠い目をしながらポツリと言った。
「そう言われてみれば……似ているかもしれない」
「……かも?」
随分と曖昧な答え方ね、と不思議に思った。
「ああ…………だが、ニーナに言われなければ考えもしなかった」
「え! どうして!?」
(だって彼女は! 亜芽莉さんは玲音の……)
「アメリア・キャボット嬢のことはニーナを陥れようとしている令嬢としか見ていなかったし」
「レオン様……!」
「それに……」
そこで目を伏せるレオン様。
「レオン様?」
「あ、いや。なんでもない」
レオン様は首を横に振るだけでその先は口を噤んでしまった。
「───だが、顔が似ている……か。俺としてはそれを言うなら彼女よりも十……」
「え? レオン様、今なんて?」
「あ、いや……」
またまたそのまま黙り込んでしまったレオン様は悲しそうに微笑む。
そしてすごくすごく小さな声で呟いた。
───これは…………偶然、なのか?
そう聞こえた。
偶然? 何が?
(だけど、この表情……)
レオン様の今の表情は、“前世の最期を覚えているか?” と聞かれた時の意味深な表情と似ている。
あの時も何だかはぐらかされた感じだった。
そしてそれは今も同じ……
(……玲音は私の知らない何かを知っている?)
それは新菜が前世の最期を覚えていないこととも関係するのだろうか?
───ズキッ
そう思った瞬間、頭に痛みが走る。
思わず頭を押さえ込んだ。
「痛っ……ぅ」
「────ニーナ!? 大丈夫か!?」
焦った顔のレオン様が慌てて私の顔を覗き込む。
「頭痛か!?」
「え、ええ。でも……ほんの一瞬だけだったので今は大丈夫……」
「ニーナ……」
「……あ」
レオン様が悲しそうな顔のまま、腕を伸ばして私の手を取るとギュッと握り込む。
優しい力でそんなに強い力ではない。
私の力でも振り払えそうなほどの力加減にしてくれている。
(でも……)
私はレオン様のその手を振り払うことは出来なかった。
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