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17. 訪問者
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───二度と振り返りたくないジョルジュによる、まさかの踏みつけてくれ事件(?)から数日後。
「……おかしいわね」
私は一人で自分の部屋で腕を組んでうーんと首を捻っていた。
「おかしい? 何がだ?」
「何がって、決まっているでしょう? 王家よ王家! というかエルヴィス殿下」
「王家や殿下の何がおかしいんだ?」
「だって、未だに慰謝料請求に関する返事が来な────ん?」
私はピタッと動きを止める。
待って。
(……今、私は部屋に一人で過ごしているはずなのに……会話していなかった?)
どう考えても、その“誰かの声”と私は流れるように会話が成立していた。
しかも、だ。
(この声は……どこからどう聞いても)
「なるほど……そうか。慰謝料請求したのに返事が来ていないんだな?」
「……」
(やっぱり、ジョルジューーー~!)
私は勢いよく立ち上がって後ろを振り返る。
「ねぇ! ジョルジュ───これは、どういうことかしら?」
「そうだな。やはり慰謝料は支払いたくないという意思の……」
「そうじゃなーーい!」
ジョルジュは当たり前のように部屋の中に存在していて、うんうんと頷いていた。
そして私の言葉に眉根を寄せて怪訝そうな様子を見せる。
「そうじゃない?」
「ええ、何故か会話が進んじゃったけど、そうじゃないのよ!」
「……? ガーネットは時々難しいことを言うな……」
「……」
私は手を顔にあてて深いため息を吐いた。
「あのね、ジョルジュ。今の私の発言、“どういうことかしら”はあなたに言ったのよ!」
「俺に?」
「そ・う・よ!」
私は、にこっと微笑んだ。
もちろん、これは含みのある笑い方。
人によっては私のこの笑顔を見ると小さな悲鳴を上げて怯える人もいる。
そんな笑顔……
なのに、何故か目の前の男、ジョルジュ・ギルモアの顔はパッととても嬉しそうに華やいだ。
(あ……あれ!?)
予想外の反応に私は戸惑う。
未だかつて私のこの微笑みを見てこんなにも顔を綻ばせた人なんていたかしら?
「……」
───いないわ!
(それなのに、なんでよ……)
すると、ジョルジュは満面の笑顔のまま言った。
「出た! ガーネットの悪魔のように美しい微笑み!」
「……あ、悪魔……」
ジョルジュはうっとりした顔で言う。
「ガーネットのその天使のような声ももちろんいい! が……悪魔のような微笑みもやはり最高だ!」
「……っっ」
私はガクッと肩を落とす。
(なぜ、なぜそうなるのよ……ジョルジュ)
しかし、これ以上、この男のペースに巻き込まれるわけにはいかない!
だから私はガシッとジョルジュの両肩を掴んだ。
「……ガーネット?」
「あのね、ジョルジュ。あなた何故ここにいるの?」
「ガーネットの元に訪問したからだ」
私はチラッと時計を見る。
時刻は昼過ぎ。
この間よりは早い。
(……馬車、よね? 馬車で来た……のよね?)
私はコホンッと軽く咳払いをする。
「…………え、ええ、そうね? 訪問。確かにそうなのだけど! ならば! どうして突然私の部屋にいるのかしら!?」
「……」
「言っておくけれど! もう、踏まないわよ? 目はもう覚めたでしょう? 頼まれたって絶対に絶対に踏まないわよ?」
ジョルジュのことだから、また踏みつけてくれ! などと言い出しかねない。
だから、私は先手を打ちまくる。
すると、ジョルジュは少し考えてから口を開いた。
「玄関でお嬢様は部屋にいますよ、と執事に言われたからだな!」
「へぇ……それであなたは女性である私の部屋にノックもせず入り込んだ……と?」
踏みつけてくれ……ではなかったことに安堵するも、
執事には後でお説教ね?
そう思いながら、にっこり笑顔でジョルジュに聞いた。
「ああ! 部屋の扉が開いていたからな!」
「ジョルジュ!」
「一応、声はかけたが、ガーネットはずっとブツブツ独り言を呟いていた」
「うっ……それ、は! だっておかしかったんだもの……」
そうして話は振り出しに戻る。
ジョルジュの肩から手を離すと私はソファへと戻り座り直す。
「私は、そんなに日にちを置かずに王家……殿下からは断りの連絡が来ると思っていたのよ」
「……だが、まだ届かない?」
私は頷く。
「イザード侯爵家とフォースター伯爵家の婚約は“白紙”になったわ?」
「……上手くやったんだな」
婚約破棄ではなく白紙───
それは、私の上乗せ特典によりイザード侯爵家への脅しが効いたことを指す。
「つまり、イザード侯爵家からラモーナへの資金源が絶たれたことで、ラモーナからの支援も期待出来ない……つまり王家の懐はかなり苦しい状況のはずなのよ」
(沈黙が不気味だわ……)
そう考えた時、階下が騒がしくなった。
「……? 賑やかだな」
「誰かお客様かしら? 訪問の予定は聞いていないのだけど」
私がそう言うとジョルジュは顔を顰めて言った。
「…………それは迷惑な客だな」
「ねえ、あなたのどの口がそれを言うの?」
「口は一つだが?」
「………………そうね」
私はこれ以上の無駄になりそうな反論は諦めて、階下の音や声に耳を澄ます。
「……何やら訪問者が声を荒らげて揉めているわね?」
「なかなか無礼な客だな」
「……」
なかなか説得力のない発言だわ、と思いながら私は窓際に移動する。
そして窓から外を見た。
(馬車が二台……)
ジョルジュは言いつけ通りちゃんと馬車で来たらしい。
すると、もう一台が今、階下で騒いでいる訪問者の…………
「え?」
「どうした? ガーネット」
「……」
私は目を擦って確認する。
「ジョルジュ……あの馬車」
「俺の乗って来た馬車だな!」
「───そっちじゃなくて! その隣よ! 今来た訪問者のと思われる馬車!」
「ああ……」
ジョルジュはそう言ってもう一台の馬車に目を向けた。
そしてハッとして黙り込んだ。
(やっぱり……よね?)
そのもう一台の馬車の紋章は、どこからどう見ても…………
我が国の王家の紋章だった─────
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