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37. だって好きなんだもの
しおりを挟む薔薇の数が1本おかしかったとはいえ、プロポーズはプロポーズ。
私とジョルジュはそれぞれの両親に婚約することを話した。
結果、ウェルズリー家とギルモア家との間で、正式に私たちの婚約を結ぶため、両家の顔合わせを行うことになった。
場所は我が家。
今日はそんなは顔合わせの日────
「あんなにも常に斜め上を行く男だぞ? まさか、こんなにも早く射止めるとは……ガーネットはどんな手を使ったんだ……」
「は?」
お父様が私の横で頭を抱えている。
「考えたくはないが、変な薬でも盛りました! と言われても納得してしまう……」
「あのねぇ? …………さっきからどういう意味かしら? お父様」
私はジロリとお父様を睨みつける。
睨まれたお父様はビクッと身体を震わせて縮こまった。
「でも……そうね、確かにガーネットならそれくらいのことをやってのけた、と言われても納得しそう……」
「お母様!!」
なぜかお母様までお父様の言葉に同調している。
当然、私は抗議する。
「ちょっと二人共、私を何だと思っているわけ?」
お父様とお母様は気まずそうに顔を見合せる。
そしてお父様がふぅ、と深いため息を吐きながら言った。
「見てみろ、ガーネット。こちらのギルモア侯爵と夫人の顔を」
「え?」
「顔を合わせてから、ずっとこれは夢なんじゃないか? と言いたそうな顔をしているぞ?」
「……」
そう言われて私は目の前に座るジョルジュの両親──ギルモア侯爵夫妻の顔を見つめた。
確かに。
未だに信じられないのか、息子の婚約に対して半信半疑の様子が見て取れる。
「…………本当の本当に我が家のジョルジュで宜しいのでしょうか?」
ギルモア侯爵が横に座る息子───ジョルジュの顔を気にしながら口を開く。
「別の“ジョルジュさん”とお間違えなんてことは……ない?」
どれだけ信じられないのか、なんと人違いではないかとまで聞かれる始末。
私は首を横に振る。
「いいえ。私が結婚したい相手はそちらのジョルジュ・ギルモア侯爵令息で間違っていません」
「本当にうちのジョルジュ……なのね?」
「あのウェルズリー侯爵令嬢が我が家の嫁……? 我が家が栄える未来しか見えん。だからこそジョルジュが愛想をつかされないか、心配しかない!!」
ギルモア侯爵夫妻が、ぐあぁぁと頭を抱える。
(ジョルジュ……? あなたすごい色々と言われているのに……なんで無表情無反応なのよ)
二人が心配そうな表情で嘆いているすぐ横で当の本人、ジョルジュはケロリとした顔で静かに座っていた。
「その……うちのジョルジュが、出会ってからずっとずっとウェルズリー侯爵令嬢……ガーネット嬢に惚れ込んでいたことは知っていたんです」
(え?)
侯爵夫人の言葉に驚いた私は目を瞬かせる。
「ジョルジュは、パーティーの翌日から口を開けば、とにかくガーネット、ガーネット……我々は一日に何度その名を聞いたか」
続けて侯爵夫人も似たようなことを口にする。
「ジョルジュ本人にどこまで自覚があったのやら……ですが、ガーネット嬢。私たちはあなたの名前を聞かない日はありませんでした」
「そ、そんなにですか?」
侯爵夫妻は大きく頷く。
「我々に背中を踏みつけるよう要求しておきながらも、結局ガーネット嬢、あなたの踏み方とは違う、物足りないとダメだしまでされ……」
(ジョルジュ……)
「そんなにガーネットさんのこと好きなのね? と訊ねてみれば───ガーネットは友人時々恋人だ! と言い張り……」
(ジョルジュ……!)
私は口を押さえる。
まさかの両親に向かってあの迷発言を……
「友人時々恋人? 何それ……と。もう我が息子なのにいったい何を言っているのか……意味が分からなくて……」
(ジョルジューー!)
その時のことを思いだしたのか、夫人は顔を覆っておいおいと泣き出した。
そんな夫人を侯爵が慰めている。
そして、ジョルジュは母親が嘆き泣いていてもやっぱり無反応。
まるで他人事のような顔。
「それからもほぼ毎日のように、ガーネットのところに行ってくると言って家を出ていたな……」
「馬車を使わずに走り込みで行ったと聞いた時は目眩がしたわ」
「そして極めつけは先日───」
ギルモア侯爵夫妻は顔を見合せて頷く。
「その日、いきなり正装したかと思えば……これからガーネットにプロポーズして来る! とだけ言い残していきなり家を飛び出して……」
「ハラハラして帰宅を待っていたら承諾貰えた! 結婚する! と開口一番そう言ったけれど……もう、真実なのか妄想なのか分からず…………」
「……」
その後、我が家からから婚約に関する手紙が届くまで不安でいっぱいだった、と言われた。
(そ、想像以上だわ……)
二人の口振りからギルモア侯爵夫妻は、家でかなりジョルジュに振り回されていることが伺えた。
────
それから。
両親たちが話している間、私とジョルジュは庭に出て散歩することにした。
「ジョルジュ」
「なんだ?」
肩を並べて並んで歩きなが名前を呼んだあと、私はふふっとジョルジュに笑いかける。
「ジョルジュって、私が思っていたよりも、ずーっと私のこと好きでいてくれたのね?」
「?」
なぜかここで足を止めて不思議そうな表情になるジョルジュ。
「ちょっと! なんでそんな顔をするのかしら?」
「ガーネットこそ、何を言っている?」
「何をって……」
ジョルジュは私の手を取りギュッと握りしめる。
「ガーネット。俺は君以上に魅力的な人を知らない」
「!」
胸がドキッとした。
真っ直ぐな瞳がじっと私を見つめている。
「ホーホッホッホッ! 当然よ! だって私は昔からたくさんたくさん努力して来たもの!」
私は大きく胸を張る。
けれど……
(何だか照れてしまうわ。嬉し……)
「特に足! 足だ! その足なくしてガーネットのことは語れん!」
「…………結局、そこなのね?」
苦笑した私はじとっとした目でジョルジュを見る。
ジョルジュは本当にブレない。
でも、いいわ。
(だって、そんなジョルジュのことが私は好きなんだもの……!)
「───ジョルジュ!!」
「ガーネット? どうし……」
───チュッ!
私は背伸びをしてジョルジュの頬にそっとキスをする。
そして笑顔で告げる。届けこの気持ち!
「───あなたのことが大好きよ、ジョルジュ!」
「……!」
ジョルジュは目を大きく見開くと、瞬き一つすらせずにその場で固まってしまった。
「ジョルジュ?」
「……」
「ジョールージュー?」
「……」
ジョルジュはそのまま沈黙。
まさかとは思うけどキスが嫌だった……とかはないわよね?
ちょっとだけ不安に思った時だった。
「い! …………いま……チュッ……」
「え?」
ジョルジュが小さく何かを呟いた? と思ったその瞬間。
(…………うっ、嘘っ!?)
ポンッと音が聞こえそうなほどジョルジュの顔は、みるみるうちに真っ赤に染まっていった。
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